万能孤高ヤンデレ姫は年下宮廷魔術師の父性に溺れる! 〜姫に懐かれすぎて王からクビ宣告。王の命令で結婚を退職理由にしたら姫の目から光が消えた〜   作:ダイヤモンド鈴木

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13話

 

「――なあおい。あいつはいったいなんなんだ? いま確かに首から血を噴いて――……治癒魔術師か? 王国でも数人しか使い手がいないと聞くが」

 

「いいや。私はあの小僧を知っている。アレは最年少の宮廷魔術師だが、固有魔術も使えぬ凡夫のはず。治癒魔術など使えるはずがない……!」

 

 やっぱりみんな混乱してる。僕のこと知ってる宮廷魔術師(同僚)もいるから余計に。

 

 ふふふ。この治癒魔術みたいなのを習得したのはつい最近、陛下にクビ宣告されていろいろ試し始めてからなんだ。

 

 もちろん姫も知ってるはずないし、だからこそさっきの行動が効果的だった。

 

 ……さて。じゃあそろそろ、と。魔力をゆっくり練り上げようとしたその時。

 

 くしくしと涙を拭いた姫が、必死に平静を取り繕って叫んだ。

 

「全員、構えて……! でも、ぜったいに彼を傷つけないで! 無傷で捕えるの!」

 

「殿下、しかしっ。子どもとはいえ、やる気の宮廷魔術師相手で無傷ってのはさすがに無茶な……!」

 

「いいや大丈夫だ! 先ほども言った通り、アレは固有魔術すら持たない半端者。私たち魔術師が守り、貴殿ら騎士が攻めれば……気を失わせる程度は容易い!」

 

 よしよし。やっぱり姫の号令で、こっちに有利な状況になった。数で差があっても本気で戦えないなら大丈夫。

 

 それじゃ、さっそく魔術を。

 

 そう思って魔力を練った瞬間。反応したのは一人の騎士――。

 

「ッ! 全員警戒しろ! なにか、妙な魔力を感じるぞ……! 魔術師殿、防御は頼んでいいんだな!?」

 

「大丈夫だ、騎士殿。アレから感じる魔力はごく僅か! あの程度、基礎魔術で簡単に防げる……!」

 

「そう、なのか? いや、宮廷魔術師のあんたが言うならそうなのか……」

 

 ふふふ、ほんとにそうかな? 魔力を外に漏らさないよう注意はしてるんだけど……何かに気づいた騎士さんの言葉、無視しちゃって大丈夫?

 

 じゃあ、試してみてもらおうか。

 

 僕は腹の底から湧き上がる魔力を、通常の五倍程度までぎゅっと圧縮。次から次へとこれを繰り返して魔力を精錬する。

 

 これを中空に組み上げた魔術回路、つまり魔術陣に流し込むだけで、魔術は発動するんだけど。

 

 そんな状況だと言うのに。いまだ呑気に声を上げる二人組。

 

「――……そもそも、私はなぜ殿下がこれほどアレに執着されているかが気になる。先ほどの取り乱しようを見るに、まさか弱みでも握られておられる……?」

 

「いや。弱みって感じじゃないだろ。……さっきのも今のも、あいつのことを好きだからじゃないか? 普通に」

 

「ッ馬鹿な! 高貴なるアトラス王の後継であられる殿下だぞ! あんな……宮廷に上がった年が若いだけで指南役を勝ち取った小僧などに……!」

 

「それだろ理由。殿下と年近いし、宮廷魔術師になれる才能だってあるんだから。……殿下だってこの環境じゃ、何かに縋りたくもなる」

 

 うーん。そういえば、そもそもどうして姫にここまで執着されるのか心当たりがない。

 

 この場の大半から胡散臭そうに見られてるけど、あの騎士さんは何か思うとこがあるみたいだし、今度詳しく話を聞いてみたいな。

 

 でもそれも、まずはこの場を乗り切った後の話。

 

 この僅かな間に、幾人もの魔術師と騎士、そして影たちが動き出してるし。

 

 姫だって、涙の跡を隠すことすらやめて、一人必死の表情で障壁魔術を編んでる。うん、教えをちゃんと実践できててえらい……。

 

 ……その強度なら、姫は十分一人で身を守れそうだし。じゃあ。

 

 挨拶がわりの一発を。

 

 練り上げた魔力を、すでにある程度臨界してた魔術陣に流し込む。

 

 そして。

 

「――【風】、落降風(ダウンフォース)

 

 唱えた直後。

 

 白い光を放ち、編み込んだ魔術が発動する。その効力は極めて単純。

 

 ――ただ、上から下に風を落とすだけ。

 

「ハハハ、なにを使うかと思いきや! 固有魔術でないどころか、風を吹かすだけの魔術とは! この程度なら私が防御するまでもないが、まあ容易く打ち払って――」

 

 ただし、その勢いは次第に増していくよ。

 

 そして最終的には……。

 

「ぁ、な? いづっ……」

 

 ――鎧くらいなら、簡単に凹ませる。

 

 

 

「……ッハ、カ……ッ!」

 

「ぐぅあああああ! い、だいッ!」

 

「ふうぅううう、ぐぅ……! も、無理……っ」

 

 

 

 ふふふ。みんな甘く見てたね。宮廷魔術師の彼なんて、いの一番にペシャンコだ。

 

 もちろん命を奪うほどにはしてないけど、骨の数本は折れてるかも。

 

「――油断大敵。ちゃんと僕、みんなに教えてたんだよ。魔力を隠蔽すれば不意をつけるって」

 

 地に臥す者の数はどんどん増えていく。やがては、この広間に展開した数十人、その九割方まで。

 

「……おいおい、嘘だろ! 俺たち騎士は抗魔力鋼の鎧を着てるんだぞ? これだけの規模、これだけの力をッ……あんな小さな魔術陣でだと!?」

 

「――でも、騎士のお兄さんは潰れてないですね。鎧と、気による強化もあるけど……純粋に、素の身体能力が高いんだ。騎士ってすごい」

 

「ッ現在進行形で俺たちを押し潰そうとしてるやつの言葉か!? ちょ、やばいやばい足折れそう……!」

 

「気を失ったら安全地帯に退避させますからご心配なく。ね」

 

「ね、じゃねええ! おいこれ、だれかどうにかできないのか!? ッというか、殿下はご無事なのかッ」

 

 騎士のお兄さんはハッとすると、さっきまでのちょっと軽い感じを投げ捨てて、真剣に姫の身を案じ始めた。

 

 実力があって、姫のことをしっかり考えてる。こういう人にはずっと姫のそばについてて欲しいな。それなら、もし僕がいなくなっても安心。

 

 ……と、そんなこと考えてるとまた姫に叱られちゃうか。それより、今はとにかく姫にクーデターをやめさせることが先決だから。

 

 じゃあ、姫。

 

 余計な外野は動けなくなったところで。

 

 

 

「さあ、姫。僕のエスコートはいかがでしたか?」

 

「ある、べるとぉ……!」

 

 

 

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