万能孤高ヤンデレ姫は年下宮廷魔術師の父性に溺れる! 〜姫に懐かれすぎて王からクビ宣告。王の命令で結婚を退職理由にしたら姫の目から光が消えた〜   作:ダイヤモンド鈴木

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19話

 

 紫電を散らす無数の槍。まるで武器庫の壁のようにずらりと並び、そしてその一角を。

 

 ――一斉射出。

 

 バチバチと放電の音を響かせながら、雷速で飛ぶ槍が光の残像を残す。

 

「まずは、味方の援護から――」

 

 未だ僕らへ攻撃が届かないのは、ひとえにマグワイアさんの鬼神の如き戦いぶりのおかげだ。

 

 でも、そんな彼も団長の黒炎には苦しめられてるみたいだから。

 

 ……あれ、どうも普通の炎と違うし。威力が高いのもそうだけど、ただの炎に焼かれるより遥かに大きな苦痛がある。

 

 僕の狙いは、団長が安全圏から撃つ、その悪趣味な魔術だった。

 

「全員俺のそばへ! あれは……まずいッ!」

 

 叫ぶマグワイアさんを飲み込まんとするのは、ぐつぐつと悪意が煮凝ったような、極太の黒い火柱。

 

 いつまでも倒れないマグワイアさんに痺れを切らしたのか、高位魔術師の奥義でもおかしくないようなそれ。

 

 そんな団長の魔術に、目にも止まらぬ速度で――十の閃光が突き立つ。

 

「――――十束(とつか)の雷針」

 

「ッな! ……なんだ!?」

 

 バリバリバリ、と。凄まじい轟音と共に、周囲へ撒き散らされる大量の炎と稲妻。

 

 でも、全部敵の方に行くよう調整してぶつけたからね。後ろで安穏としてた魔術師たちが、火と雷に体を焼かれて転げ回ってる。

 

 そしてその直後、みんなが闖入者の姿を探して辺りを見渡し。

 

 敵も、味方の騎士たちも。

 

 ――――全員が、僕を見て絶句する。

 

 

 

「…………な……なんだ、そのバカげた魔術はぁ……ッッッ!?」

 

 

 

 そう叫んだのは、得意げに黒炎を振るっていた団長だった。

 

 目を見開き、大口開けて、僕を……その周囲に展開された魔術を呆然と見つめてる。

 

「あ、ありえん……! なんだこれは!? なんだその数は!? なぜ、固有魔術も使えんくせに希少属性など! ――いったい、なんなのだッ!?」

 

「こ、これは、大丈夫なんだろうな? お前たちで、防ぎきれる……――」

 

「――ッ陛下……! 総員、すべての魔力を振り絞れ! 己が最強の魔術で、陛下の身を守るのだ!」 

 

 すごい慌てようだ。泡を食うってまさにこのことだね。

 

 ……と、姫?

 

「こんなの、伝説か御伽話でしか聞いたことない――。それに、固有魔術が四大魔術の組み合わせで再現できるなんて、わたし初めて見たわ……! ッやっぱりわたしのパパは、こんなに、こんなに――!」

 

「ふふ。そうでしょう。姫の師匠は、実はすごいんです」

 

 冗談めかして言ったけど、姫は周囲で稲光を発する槍を見てごくりと唾を呑んでる。

 

「じゃあ。かわいい弟子は、そんなすごい師匠に任せてくれるね? ――大切な弟子を傷つける悪者を、成敗すること」

 

「……っ! ぅん、わかった……っ」

 

「いい子」

 

 顔を赤くして、陶酔した表情で頷く姫。

 

 それじゃあ姫のお許しも出たところで。魔力炉から全身に魔力を回し、極めて高い倍率の身体強化を発動する。

 

 まとった魔力が、さっきまでより激しく白いスパークを放つ。

 

「遠距離魔術だけじゃ加減がむずかしいから。行くよ――」

 

 槍の一つを手に、ぐっと踏み込むと。周囲の景色は矢のように流れ、陛下陣営との距離は一瞬でゼロに。

 

 敵の騎士複数と切り結ぶマグワイアさんの隣に立って、ついでに敵を斬り飛ばす。

 

「……ッぐぁああ!」

 

「!? ――お前さんは! ……できるだろうとは思ってたが、少年、まさかここまでとはな!」

 

「マグワイアさんだって、相手の騎士をまったく寄せ付けてなかったです。数の不利さえ無ければ」

 

「ああ、こんなひよっこどもならな。だがさすがに――――その魔術には、負けるかもな……!」

 

 マグワイアさんの視線の先には、空中に並ぶいくつもの雷槍。でも、騎士団の師団長ともなったら対魔術の切り札をいろいろ持ってそうだけど……いまは追及しない。

 

 それよりも。

 

「――アレらは、僕に。任せてもらいたいんです」

 

「……」

 

 どうかしたかな。マグワイアさん、口を閉じておもむろに姫の方へ視線を。

 

 すっと僕に視線を戻して、なんとも言えない顔でにやりと笑った……。

 

「いいね、青春ってやつは。ああ、分かる、分かるさ。いいとこ見せたい……というより、もっと純粋か。いいぜ、見せてくれ。――あの腐った連中が、これまでの行いを後悔するとこを」

 

 なんか勘違いされてる気がするけど……でも、今はいい。それより、姫陣営トップの実力者に了承をもらえたことだから――。

 

「じゃあ、他の方も下がらせてもらえると。ここから先は――――僕が、引継ぎます」

 

 そう言って。腰が引けてる陛下陣営の騎士と、必死に魔力を練っている魔術師たちを見据える。

 

「お前ら、いったん引け! ()()()()の怒りに巻き込まれるぞ!」

 

 マグワイアさんの声に応じて、数少ないこっちの陣営も引いてくれる。

 

 ……にしても、王子サマって僕のこと? 姫とセットでのあだ名なんだろうけど、僕はただの田舎者だよ。

 

 ただ少しだけ――魔術が得意なだけの。

 

「――何をしてる! 敵の騎士が下がった今が好機だ!」

 

 今の怒声は陛下……。戦いの才能はなにもないんだから、攻めの判断も本職に任せておけばいいのに。

 

 まあ、それができないからコール村は滅んだんだろうけど――。

 

「……っひ! お、おい、いま私が睨まれた! 警戒を怠るな! あの槍が飛んで来てはたまらない……!」

 

「いまは狙いませんよ……。あなたは最後です」

 

 聞いてもないんだろうけど。まあ、あんなののことはひとまず置いておいて。

 

 まずは、戦力を削ろう。

 

「来るぞ、構えろ! 相手は魔術師、俺たち騎士が後れを取ることはない!」

 

 槍を構えて歩みを進めれば、数十の騎士が隊列を組んで陛下や魔術師たちとの間に壁を作る。

 

 その後ろからも声が。

 

「刃を交えるのは騎士に任せ、我らは魔術で援護――否、あの逆賊を打倒するのだ! 撃てッ」

 

 団長か。号令の直後、高まった魔力をいくつも感じた。そして見えたのは、僕に向かういくつもの魔術。

 

 そして同時に、剣を構えた騎士たちがとうとう突撃してくる。

 

「やれ! ッあんな魔術、どうせハッタリだ。同時に動かせる数には制限があるに決まっておる!」

 

 確かに、団長の言う通り。同時に独立して動かせる数には限界があって、二千本すべてを別々にってのはちょっとだけ厳しい。

 

 でも。

 

 僕に迫る百を超える魔術と、それに近しい数の騎士を見て呟く。

 

「――槍操、二十重(はたえ)

 

 まず、最初に僕へ着弾するルートにあった魔術――巨大な氷柱を一本の雷槍が迎え撃つ。

 

 僕の槍は人間が持って振るえるサイズだけど、その氷柱は人間を何人も重ねたより大きかった。だけど、内包するエネルギーには雲泥の差があった。

 

 だから、結果は見るまでもなく――――僕の槍が、氷柱を完全に砕いて終わりだ。

 

 これが魔力を圧縮するメリット。見た目同じような魔術でも、圧縮した魔力を用いるとはるかに強くなる。魔術って単に魔力を注げば威力が高くなるというものでもないから、こういう工夫が大事なんだよ。

 

 やってる人、僕の師匠以外では見たことないけど――。

 

 そうして、後続の魔術も次々に宙を飛ぶ槍で撃ち抜いていく。頑丈な鋼の杭は融かして貫き、酸の飛沫は蒸発させ、なにやら良く分からないエネルギー体も雷を解放して消し飛ばした。

 

 唯一団長のだけは、十の槍を束ねないと相殺できなかったけど。

 

 ……そして、飛んでくる魔術の対処は途中から、騎士たちの迎撃と並行で行って。

 

「ッぐぁ……!」

 

「ダメだ速すぎる! なんで、こいつ、魔術師なのに――ッ!?」

 

「あの槍、打ち合うことすら……うわあああ!」

 

 身体強化も、圧縮した魔力を使うとさらに強力になる。

 

 強化倍率は姫の不可思議魔力より低いだろうけど、さすがに素の身体能力で姫に勝ってるし。それに、敵にはマグワイアさん級の騎士がいないみたいだから、僕みたいな近接素人でもこれで十分。

 

「あああああぁぁあ――!」

 

「ぎゃああぁああ――!」

 

「囲め、囲んで袋叩きに……ふぎゃあっ!」

 

 力にものを言わせて槍を振り回せば、入れ食い状態の騎士たちが吹っ飛んでいく。ちょっと楽しくなってきたかも。

 

 そうして、そんなことをしばらく繰り返していると、やがて。

 

 

 

「――――あれだけいた騎士が、全滅……だと……ッ!? バカな!!」

 

 

 

 辺りはまさに死屍累々。いや、もちろん殺してはないんだけどね。

 

 ……さて。それじゃあ次は、残った魔術師たちを。

 

 団長の流儀に合わせて、純粋な魔術で相手してあげようか。

 

「収束、融合」

 

 まだまだストックがある槍を、百ほど集めて束ねて一つにする。巨大な雷の塊のになったそれを矢に見立てるのだ。

 

 左手を前に突き出し、魔術師たちに照準を合わせ。右手は番えた弓を引くように、ゆっくりと後ろへ。

 

 そして、唱えた――。

 

 

 

「――――明けの明星」

 

 

 

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