万能孤高ヤンデレ姫は年下宮廷魔術師の父性に溺れる! 〜姫に懐かれすぎて王からクビ宣告。王の命令で結婚を退職理由にしたら姫の目から光が消えた〜   作:ダイヤモンド鈴木

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3話

 

 氷のように冷たく、けれど確かな不快感を込めて。スウさんは二人にそう吐き捨てた。

 

「な……し、師団長殿。なにか私たちが気に障ることを――」

 

「――さっきも言わなかったかい? キミたちのように大した実力もない者がアルくんを軽く見る。滑稽を通り越して不愉快だと、そう言ってる……ッ」

 

「ッ!?」

 

 うわっ、ものすごい威圧感。というよりこれ、「気」の放出じゃ……。

 

 近接戦闘職でも上澄みしか使えない、魔力とはまた異なる体系のエネルギー……。気って基本的に体や武器にまとわせるものと思ってたんだけど、魔力みたいに放出もできるんだ。

 

 ……じゃなくって。

 

「あの、スウさん」

 

「ん? どうかしたかな、アルくん?」

 

 急ににこやかに。さっきとのギャップが凄い。

 

「僕にすごく気を遣ってくれるのは嬉しいです。けど、さっきの二人、許してあげてくれないですか? たぶん、悪気があったわけじゃないと……」

 

「……むう。悪気がないのにあれならなおひどいと思うけど。アルくんは優しいから、ボクが代わりに教育してあげよう!」

 

「うーん。それよりその、気を出すのもやめてもらえると……。うちの部下たちが気を失いそうで」

 

「ええ! この程度で? 威勢のいいこと言ってたわりに情けない。……でもやっぱり、アルくんならこれくらい平気なんだね……! よかったぁ……」

 

 よかった? それはもちろん、友人であるスウさんを怖がったりなんかしないけれど。

 

 ……あ、気の放出が止まった。

 

 その途端、部下の三人は空気を取り戻したように深く呼吸する。

 

「ッは! はぁっ、はっ……! なんだ今の、化け物じみたプレッシャー……!」

 

「……うん。みんな、もう平気みたいだね。今のはまあ、僕は気にしてないですけど……周りで聞いてる人もそうとは限らないから、人前では言動にも気を遣ってくださいね」

 

 そう言った僕に向けられるのは、まるで得体の知れないなにかを見るみたいな目。

 

「……まさかいまの圧力に、なにも感じていないとでも言うのか? 私は醜く取り乱してしまったというのに。あの噂、もしや……」

 

「いや、それこそまさかだ……っ。偶然、だろ……」

 

 なんだかまた妙な目で見られてるけど。これに懲りて、少しは謙虚堅実に任務をこなしてくれれば。

 

「……よし。それじゃあ、申し訳ないですけど。スウさんの言う通り、僕以外は席を外してもらっていいですか? これから指揮官同士、二人で任務について話をします」

 

「もちろん、任務のことは詳しく話すよ。……でもボク、キミとはもっと深く語り合いたいなあ……なんて。てへへ……」

 

 ちょっと、ストップ。友人同士だからこうやってふざけるのは全然いいんだけど状況が悪い……ああほら。三人とも僕らをすごい顔で見ながら退室してくよ。

 

「……殿下だけでなく、騎士団の師団長もかよ。いったいどんな手で」

 

「……私の美しさでは、小隊長に敵わないと言うのか? くっ、そんな……」

 

「は、早くいきましょう……。ああ、せっかく置物のように静かにしていたのに。こんな恐ろしいところからは一刻も早く――」

 

 ほらあ、またすごい誤解されちゃって。……僕はいいんだけど、スウさんの方がこういう噂が出回ると困るでしょ。

 

「……あとでちょっと誤魔化しておかないと。無駄かもしれないけど」

 

「どうかしたかい、アルくん。それよりはやく、ご飯でも食べながらお喋りしよう。色々話したいことがあるんだ――」

 

「……」

 

「な、なんだい? そんな、じっとりした目で見て」

 

 ……今からの会話は最低限ですよ。ここ、明らかに大人数用の準備がされてるし。

 

「楽しいお喋りはあとでお願いしますね」

 

「ダメ? お喋り。……あ、ダメ、そう……。はあい……」

 

 

 

 ということで。

 

 さっさと任務関連の情報共有を終わらせた僕らはその後――

 

「――それで。ここにいるのがその、今日来てくれた増援の宮廷魔術師たち、コール小隊のみなさんだよ。対魔術師の切り札になる戦力なので、盛大に歓迎しよう!」

 

 大部屋に集まった、村の重役や騎士たち。代表としてスウさんが声を上げた直後、僕たちを迎えたのは盛大な拍手と歓声だった。

 

「賊の連中には本当に困っておるんです。魔術師さまがた、どうぞ我らが村をお救いください……!」

 

「作物を荒らし人を攫っていく、あの憎き賊どもを!」

 

「ぜひ、ともに力を合わせて頑張りましょう!」

 

 そんな期待のこもった反応には、うちの部下たちも一人を除いて満更ではなさそう。

 

「まあ、俺たちが来たからには在野の魔術師程度なんてことない。大船に乗ったつもりでいてくれよ。な、キーレンス」

 

「うむ。私たちは国内魔術師の頂点。それが四人も揃っていれば、賊の美しくない魔術など完封できるだろう」

 

「ほほぉ、これは頼もしい! さあさ、大したものではございませんが、ご用意した食事と酒を存分に……!」

 

 イグナーツさんもキーレンスさんも、けっこう普通に対応できてるみたい。差し出された料理やお酒も、渡される端から楽しんでるみたいだし。

 

「この料理など、荒削りではあるが中々に美味……。見た目にも手が込んでいて華やかだ。――そこの給仕……そう、君だ、マドモアゼル。この食事を供してくれた君たちとシェフにこれを」

 

 キーレンスさんが呼び寄せた給仕の子になにか渡してる。……うわ、あれ金貨だ。しかも複数枚。

 

 なるほど、彼らとはろくに話したこともないけど、案外上手くやってるみたい。もともと悪い人たちじゃないのか、さっきのスウさんの威圧が効いてるのか。

 

 そんなことを考えながら、すこし離れた席の部下たちを見ていたその時だった。

 

 真横から、掛けられる声。

 

「――やあアルくん。楽しんでるかい?」

 

「スウさん」

 

「さっきはほんとにちょこっと任務の話をしただけだったからさ。今度こそ楽しくお喋りしようじゃないか」

 

 みんなの前で挨拶して村長さんたちとも話した後、確保してた隣の席に戻ってきたみたいだ。

 

「うん、そうですね。明日のこととか、もっと詳しく話したいと思ってたんです」

 

「むむ。それってまたお仕事の話じゃないかい? …………せっかくプライベートなお喋りができるチャンスなのに。まあでも、アルくんとお話しできるならなんでもいっかぁ」

 

 どこか子どもっぽくこぼすスウさん。すらっとしてて大人っぽいのに、こうして口を尖らせたり、からっと笑顔を見せたり、なんだか不思議な人だよね。

 

 でも。確かに、これまで王宮では長時間の話をする機会もなかったし。真面目な話が終わったら、いろんなことをお喋りするのもいいかも。

 

 なんて、そんなことを考えていたんだけども。

 

 

 

「――――あえ? ちょっとおアルくん! なーんでぜんぜん吞んでなーいのぉ!?」

 

 

 

 ……べろべろに酔っぱらった「鬣の盾」師団長にだる絡みされるなんて。

 

 そんなの、誰も想像つかないでしょ。

 

 

 

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