その観光客、略奪者につき   作:あざ

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2周目でどくどくの優秀さに気付く


略奪/大都会の闇

 ミアレシティには二つの顔がある。

 

 昼。【人とポケモンが共存する街】という謳い文句に恥じない街作りが際立つ。増えた野生ポケモンはワイルドゾーンという区画で区切り、あるがままの姿を残そうとする。街中をポケモンと闊歩する人も、以前と比べれば多い。カフェやレストランに溢れ、人々はポケモンと共に楽しく生活している。

 

 夜。赤いホログラムに囲われたバトルゾーンでは、毎晩ZAロワイヤルが行われる。最強のポケモントレーナーを決めることが主目的だが、人によっては『Aランクに到達した際に願いを叶えてもらうこと』が主な参加理由の者もいる。というより、大半の狙いはこちらだろう。

 

 ホテルZにも、このZAロワイヤルの参加者がひとり。ロブは、夕暮れになってすぐは出掛けず、スマホロトムでバトルゾーン周囲の地形を確認していた。今朝デウロに怒られた折、彼女らにバレないよう出掛けたかったからだ。

 

「げっ、遮蔽物ねえとこだ……」

 

 バトルゾーンは毎回ランダムに選ばれる。今日のバトルゾーンは、彼からすればハズレだった。広いうえに遮蔽物がなく、見つかりやすいエリアだ。

 ロブは露骨に嫌そうな顔をするが、文句を言ってもバトルゾーンは変わらない。諦めて身支度を始める。

 

 着るのはMZ団のジャケットではなく、黒いトレンチコート。プラチナブロンドを短く後ろで纏め、ハットを被り、サングラスを掛ける。

 これで準備は完了。ロビーからではなく自室の窓を開き、そこから外に出る。

 

「ブラッキー、サイコキネシス」

 

 ボールから出した相棒に指示を出すと、彼はロブの身体を念力で浮かせ、一階までゆっくりと着地させる。

 毎晩こうしなければならないのは面倒だが、MZ団のメンバーにバレるよりよっぽどいい。裏手の梯子を使って屋根に上り、ロブは夜のミアレシティに繰り出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 赤々としたホログラムが建物を囲い、その中には野蛮人どもが潜む。バトルゾーン内は無法だ。血気盛んなトレーナーが、自らのランクを上げるためにバトルに挑む。

 そんなわけで、トレーナーに見つかってはすぐにバトルを挑まれる。ランクを上げるだけならそれでもいいが、ロブの目的は別にある。彼は建物を背に身を隠し、息を潜めていた。

 

「ん、おかえり。ご苦労さん」

 

 空中からふよふよと降り立つ手持ちポケモンに対して、ロブはそう労いの言葉を掛ける。ゲンガーは、その言葉を聞いて嬉しそうに「シシシ」と歯を見せた。

 

「トレーナーの数は……そう、七人か。そこそこいるな」

 

 ゲンガーには、このバトルゾーン内のトレーナーの数を確認してもらっていた。夜行性のポケモンである彼なら、単身でトレーナーに見つかっても不審に思われない。偵察にはうってつけだった。

 夜明けまでの時間、このエリアの地形。それらを踏まえて、今からの行動をロブは瞬時に逆算する。

 

「さて、トレーナー狩りといこうか」

 

 全ての準備を終え、ロブはようやく建物の陰から姿を表した。

 

 

 

 

 

 

 

「ゲンガー、ヘドロばくだん」

「モココ、でんきショック!」

 

 二つの技がぶつかり合う。だが、技威力はゲンガーのそれが上回った。ヘドロの塊が電撃を覆い尽くし、モココに襲いかかる。

 ゲンガーの吐き出したヘドロが、モココの顔に付着した。視界を塞がれ、粘膜から毒が染み込み、モココは慌てふためく。

 

「落ち着けモココ!ほうでんだ!」

 

 トレーナーの必死の掛け声も、パニックのモココには届かない。集中力が途切れているせいで出力は安定せず、四方八方に電撃が散らばる。

 そして、どれだけ電撃を飛ばしてもゲンガーはそこにはいない。闇に姿を消し、すでに敵の背後を取っていた。

 

「ゴーストダイブ」

「あぁ、モココ……!」

 

 一瞬何をされたのかも分からないまま、モココは目を回して倒れていた。もう控えのポケモンは残っておらず、そのトレーナーは力なく項垂れる。

 スマホロトムが表示する、ZAロワイヤルのアプリ。そこには今のバトルで得た賞金メダルとポイントが加算されていた。さらに本日倒したトレーナーの数も記されており、ロブは横目で確認する。

 

「これで四人目。残りの三人は―――」

 

 折り返し地点。一息つこうとしたその時、ロブは微かな気配を察知した。

 腰に下げたボールをすぐ掴み、後ろ向きに放る。

 

「そこだピジョン、つばさでうつッ!」

「ブラッキー、リフレクター」

 

 ロブは振り返ることなく指示を出し、ピジョンの奇襲を防ぎ切る。

 ゲンガーだけでなく、あわよくばロブも狙った攻撃。他地方では有り得ないどころか一歩間違えば暴行沙汰だが、ZAロワイヤルではそれも正攻法となる。

 

 ブラッキーの張った堅牢な防壁が、ピジョンを押し返す。主人ごと狙う輩に容赦などしない。体の輪っか模様が光ると同時に、全身から噴き出した毒素をピジョンに浴びせる。

 

「どくどく」

「マズい……!引け、ピジョン!」

 

 反転、劣勢となりトレーナーは慌てて撤退を指示する。

 だが猛毒に侵されたピジョンは、動きが鈍っておりその声に応えられない。そして無情にも、その退路は既に塞がれていた。

 

「ゲンガー、ベノムショック」

 

 ピジョンが振り返るとそこには、既にゲンガーの姿があった。毒液を浴びせられたピジョンは、そのままダウン。ロブのZAロワイヤルアプリに、『5 WINS』の文字が刻まれた。

 

「なんだ、ピジョン一匹だけだったのか。……おい、お前」

「ひ、ひぃっ……」

 

 ロブは、そのトレーナーの襟元を掴む。奇襲も効かず、バトルで圧倒され、トレーナーは完全に怯んでいた。全身黒ずくめ、サングラスで素顔が分からないのも、ロブの不気味さと恐怖を加速させる。

 

「ご、ごめんなさい。賞金メダルはもう渡した分しかないので……!」

「はっ、何を勘違いしている?」

 

 彼の背後にいるゲンガーが、妖しく歯を見せた。

 

「さいみんじゅつ」

 

 ゲンガーに寝かされた男を路上に放置して、ロブは次を狙う。もう大体のエリアは探し終えた。だが、トレーナーは残り二人だ。

 ここまで五人のトレーナーと戦って、()()()はおらず。今日はボウズだろうかと、内心嘆いていたところ。深夜のミアレの街に、大きな衝突音が響いた。

 

「お」

 

 そう遠くない場所だ。

 ロブはすぐに駆け出し、ブラッキーとゲンガーも続く。様相を変えた主人を見て、彼らも事を察した。

 

 音の出所はすぐに分かった。普段は人目のつかない水路。少年トレーナーが、傷ついたポケモンを抱きかかえてうずくまっている。

 そこに立ちはだかるのは、一人の男とそのポケモン――クチート。

 

「おい、もう終わりかよ?まだ戦えるポケモンがいるんだろ?」

「うぅ……」

 

 少年は、倒れたホルビーを大事そうに抱える。だが、その腕の中でホルビーはピクリとも動かない。 

 少年の戦意は既に喪失している。そんな少年を見下し、男はさらに捲し立てる。

 

「聞こえないのか?全員倒さねえとバトルが終わらないだろ?ポイント稼げねえだろ!?そっちがやる気ねぇなら―――クチート!」

「……クチ」

 

 激情する男とは対照的に、クチートは表情を変えぬまま少年に襲いかかった。

 男の指示に一切迷わず、少年を襲おうとするクチートの表情は『無』。生き物であるはずなのに、血の通ってない戦闘マシンのよう。

 

 その異常といえる様子は、少年の恐怖心をさらに煽った。それでも自身のポケモンを守ろうと、ホルビーをしっかりと抱きかかえる。

 

「……ゴーストダイブ」

 

 だが、クチートの攻撃は少年には届かず、不意に現れたゲンガーによって阻まれた。

 

「なんっ……だ、お前は!?」

「くろいきり」

 

 続けて、ゲンガーは霧を張って周囲を覆い尽くす。夜の暗闇も手伝って、男とクチートは少年を見失った。

 

「あ、あ……」

「心配すんな。お前を襲いに来たんじゃない」

 

 すっかり怯え切った少年に対して、ロブは少し表情を崩して微笑みかけた。かいふくのくすりをポーチから取り出して、ホルビーに手当を施す。

 そんな彼の行いは、サングラスという出で立ちで台無しではあるのだが……。それでも少年はロブの親切を受け取り、コクコクと首肯した。

 

「ブラッキー、コイツをバトルゾーンの外へ」

 

 指示されたブラッキーは、ただちに主人の意図を汲み取った。

 

 ひとつ。少年の安全確保。

 ひとつ。これからの行いを見られるわけにはいかない。

 

 ブラッキーは、少年を連れて水路を去っていく。

 ゲンガーの撒いた霧が晴れたのは、ちょうど同じようなタイミングであった。

 

「キサマ……、俺の獲物を……!」

 

 バトルを邪魔され、当然男は憤慨する。

 だが、ロブは男に興味を示さない。その目的は、怪しげなクチートにあった。

 

「……オーラサーチャー、反応」

 

 彼のサングラスを通して見たクチートは、黒いオーラを纏っていた。通常では目に見えない、ドス黒いオーラを。

 心を失ったような表情。トレーナーに従順すぎる姿。異常な戦闘意欲。

 

 そのどれもが、彼の探し求めるポケモンの特徴に一致していた。かつてダークポケモンと呼ばれた、人工的に心を閉ざされたポケモンに。

 

「お前、そのポケモンをどこで?」

「あ?」

「誰かに貰ったんだろう?普通のポケモンじゃないのは見りゃ分かるはずだ」

 

 ロブの問いかけに、男はヘッと笑い飛ばす。

 

「知らねえし、知ってても教えねえ。普通だろうがなかろうが、強けりゃいいんだよ!ZAロワイヤルで勝てればなぁ!」

「……そうかよ」

 

 これ以上話し合う必要はない。

 互いにそう結論づけた。

 

「クチート、アイアンヘッド!」

「退きながらシャドーボール」

 

 真っ直ぐ突っ込んでくるクチートに対して、ゲンガーは後ろに下がって距離を置く。

 シャドーボールは牽制がわりだ。真正面から放たれる、遅い弾速の球体。これでは当たらない。

 

 それはロブも承知の上。あくまで、クチートをゲンガーに近づかせないための威嚇だった。

 だが、クチートの動きは彼の予想を上回る。

 

「思った以上に早い……!?」

「じゃれつけ!」

「チッ……、おにび!」

 

 ゲンガーに吸い付くように接近したクチートは、大顎を振り回して引っ叩く。

 フェアリータイプの技ゆえ、ゲンガーには効果いまひとつ。だが、狙いはそこではない。

 

「そんなもんが効くかぁ!そのままかみくだく!」

 

 あくタイプのこちらが本命。

 クチートは接近した状態で大顎を開き、ゲンガーを掴んだ。大顎の歯で握り潰すように、ゲンガーを締め付ける。

 

「潰せッ!そのまま擦り潰しちまえ!」

 

 おにびを当て、クチートを火傷にさせたはず。攻撃力は落ちているのに、それでもゲンガーがすり抜けられないほどに、クチートの挟む力は強い。

 ゲンガーが苦しむ様子を喜ぶ男に応えるでもなく、クチートはただただ無表情で力を込め続ける。

 

 これがダークポケモンのパワー。

 通常のポケモンよりも、ずっと戦闘能力が高い。

 

「ゲンガー、おにびを纏わせてクチートを殴れ!」

「ゲ、ゲン……」

 

 大顎に塞がれなかった方の拳に炎を纏わせ、ゲンガーは力なくクチートを殴りつける。

 締め付けられて力が入らない状態で、しかも元々パワーがないゲンガーのパンチ。それでもタイプ相性のおかげもあり、クチートはゲンガーを手放した。

 

「何をしているクチート!もう一度噛み砕け!」

「くろいきり!」

 

 突っ込むクチートに対して、ゲンガーは再び霧を張る。周囲一帯、視界が塞がれた。

 だが。

 

「同じ手が通用するか!ようせいのかぜ!」

 

 クチートが巻き起こした風が、周囲の霧を全て振り払う。

 男も対策していた。だが、ロブにとって黒い霧の役目は既に終えている。

 

 ゲンガーは、姿はもうそこにいなかった。

 

「小癪な……!クチート、よく探せ!」

「もう遅い。ゲンガー!」

「ガー!」

 

 闇夜に紛れ、影を自在に移動できるゲンガーにとって、夜の街は格好のバトルフィールド。水路脇の壁、クチートの死角から姿を現す。

 

「シャドーボール」

 

 黒い球体が、クチートの小さな体を弾き飛ばした。壁に叩きつけられ、クチートは崩れ落ちる。

 

「……間に合ったか。よくやった、ゲンガー」

 

 シャドーボールを放ったゲンガーも、その場に崩れ落ちた。火傷していたとはいえ、クチートの攻撃を喰らい続けたおかげで、身体が限界を迎えていたのだろう。戦闘不能とまでは行かずとも、仰向けになって倒れている。

 

 しかし、ダークポケモンは耐久にも優れる。

 普段ならとっくに倒れているはずのクチートは、フラフラになりつつもなんと立ち上がってきた。

 

「よ、よし……!まだ戦えるな。今度こそ奴らにトドメを――」

「いいや、終わりだ」

 

 ロブは、その言葉を遮る。

 もう決着はついていた。

 

「クチ……?」

 

 一度は立ち上がったクチートが、膝をついた。

 なぜこうなっているのか、自分でも分かっていない様子。だが、時間が経つに連れて身体は鉛のように重くなり、とうとう起き上がることすらできなくなった。

 

「な、なんでだ……!?おい、動け!動けよ!」

「無理だ。もうそのクチートは戦えない」

 

 ゲンガーは、あらかじめクチートに『のろい』をかけていた。自身の体力と引き換えに、相手の体力を削り続けるゴーストタイプの技。ゲンガーの体力消耗が激しかったのは、そのためだ。

 ダークポケモンに長期戦は不利。それを見据え、ロブはそんな仕掛けを施しいていた。

 

 とはいえ、男にそんな種明かしをするつもりはない。

 ロブは男の前に立ちはだかり、告げる。

 

「最終通告だ。そのポケモンをいつ、誰に貰ったのか教えろ」

「し、知らねえっつってんだろ!顔も見てねぇんだよ!」

「……なら、話は終わりだ。ゲンガー」

 

 もう、この男に用はない。

 いつの間にか起き上がっていたゲンガーは、吊り上がった目を妖しく光らせる。発動したさいみんじゅつによって、男は逆らう間もなく昏倒させられた。

 

 さて、残されたのはクチートのみ。

 

「ゲンガー。疲れてるところ悪いが、周り見といてくれ」

 

 これから起こることは、誰にも見られてはならない。ゲンガーに人払いに行かせ、それを確認してから、ロブは左腕に取り付けたマシンを起動させた。

 怪しげな起動音と共に、そのマシンはロブの左手にボールを召喚させる。そしてそのボールを、ロブはクチートに向かって投げつけた。

 

 スナッチ。

 人のポケモンを強引に奪う、本来は断じて許されない行為。そして、それを可能にするのが、彼の左腕にあるスナッチマシン。

 

 クチートの収まったボールは数回揺れた後に、あっさりと止まった。体力が限界だったために、捕まりやすくなっていたようだった。

 ロブは、そのクチートが入ったボールを拾い上げる。彼の表情には、笑みも哀れみもない。罪の意識はとうに薄れた。それでも、彼にはスナッチを続ける使命がある。

 

「……帰るか」

 

 ふと見上げると、空が白んできた。

 じきに催眠術が解け、眠らせたトレーナー達が勝手に起きるだろう。騒ぎになる前に、その場を離れなければならない。

 

 これが、ミアレの夜の真実。

 人を襲うポケモン、それを使役するトレーナー。

 そして、人のポケモンを奪う存在。

 

 どこかの世界線であったかもしれない、フレア団の禍根が生んだ物語。




ダークポケモン…人工的に心を閉ざされたとんでもねぇポケモン。普通に人を襲う。なんのこっちゃな人は『ポケモンコロシアム』で検索。

スナッチマシン…人のものを取ったら泥棒!を実現してしまうヤベーマシン。イメージはポケモンコロシアムの方。なんのこっちゃな人は『ポケモンコロシアム レオ』で検索。

そのうちGCのクラシックタイトルで追加されるので、みんなで首長くして待ちましょう
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