その観光客、略奪者につき   作:あざ

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夢/持つ者と持ち得ぬ者

「本当にこんなとこにいんのか……?」

 

 ホテルZとは程離れていない人気のない路地裏を通りながら、ロブはそう溢す。彼は、頼まれごとでとある人物を訪ねた。

 まだ早朝、ということを差し引いても人の気配がない。そんな路地裏を抜けたベール5番地の、誰も使っていない広場。そこに探し人はいた。

 

 キレのあるステップに、軽快な足取り。指先まで揃ったしなやかな動きは、思わずロブの目を引いた。

 デウロは、そんな彼に気づかずにダンスの練習をこなしていた。流れる課題曲に合わせ、既定の動きを身体に染み込ませる。相棒のヒトデマンも同じく、彼女の動きに合わせてステップを踏む。

 まだ肌寒さを感じる時間帯にも関わらず、彼女は息を切らし汗を散らす。普段は緩そうな雰囲気の彼女だが、ダンスをしている時の表情は真剣そのもの。そんな彼女の姿を見てロブは足を止め、物陰に身を隠した。

 

 終わるまで待つか、とロブは手にしたポーチに目を落とす。ぶっきらぼう、無神経な彼でも、流石に彼女の邪魔をするのには躊躇した。

 用件は、ホテルZに置き忘れたデウロのポーチを届けに来たことだ。今朝に限ってピュールもタウニーもラウンジにおらず、AZに頼まれて今に至る。

 

 活発なデウロに対して、ロブは朝に弱い。欠伸をひとつし、肌寒さに体をキュッと固くする。ぼうっと彼女らを眺めていると、彼のモンスターボールが一人でに開いた。

 

 ワニノコの進化系、アリゲイツ。ミアレシティに到着したその日に、なんやかんやあってタウニーから譲り受けたポケモンだ。

 同じ手持ちのブラッキーやゲンガーと比べて、彼はまだ幼い。やんちゃな性格も相まって、ついデウロのダンスに感化されたのだろう。

 

「……おい、邪魔したら―――って行っちまった」

 

 まだ寝ぼけ眼で頭が働いてないのもあり、ロブの反応は遅れた。彼の制止は時すでに遅く、アリゲイツはデウロの方に走っていく。

 

「――と、どうしたのヒトデマン。急に止まっちゃって……って」

 

 その存在にいち早く気づいたのはヒトデマンだった。彼の動きが止まったことにデウロは異変を感じ、背後を振り返る。

 そこにいたのは、楽しそうなアリゲイツとバツの悪そうな顔をしているそのトレーナー。

 

「悪い。邪魔するつもりはなかったんだが」

「ロブじゃん。どうしたの?」

「忘れ物持ってきたんだよ。それだけ」

「わっとと―――あ、ありがとうねえ」

 

 ポーチをデウロに投げ渡す。

 受け取ったデウロは、中身を確認すると大事そうにパーカーのポケットにしまった。

 

 さて、用は済ませたのだが。

 

「アリゲイツ、俺は帰りたいんだが」

 

 手持ちがそうはさせてくれそうになかった。アリゲイツは、デウロのヒトデマンと戯れあっている。リズムのようなものを刻んだり、ステップもどきを踏んでみたり。よほどダンスが気に入ったらしい。全てテンポが違う気はするが、指摘するのはお門違いなのだろう。

 モンスターボールに強制的に戻せはするのだが、彼の楽しそうな様子を見てると、それは可哀想な気もするので辞めておく。

 

「せっかくだし、もうちょっといたらいいのに」

「いや、練習の邪魔だろ」

「ちょうど辞め時だったから大丈夫っ」

 

 タオルで汗を拭き取りながら、デウロは近くのベンチに腰を下ろす。

 気を使ってた自分がアホらしい、とロブ。彼は並んだ別のベンチに座り、差し入れに持ってきた『おいしいみず』をデウロに放り投げる。

 

「わっ、買ってきてくれたの?」

「いや、AZが持っていけと」

「助かるよお」

 

 キャップを開け、デウロは勢いよく中身を流し込む。ただの水でも、彼女が飲むと不思議と美味しそうに見えた。三分の一ほど飲み終え、飲み口から唇を離す。

 

「ね、見てたんでしょ?私、どうだった?」

「どう、とは」

「む……、盗み見して何もナシ?」

 

 わざとらしく不満そうな目つきのデウロに、ロブはやや気圧された。彼は、こういったものの言語化は苦手である。ボキャブラリーに乏しく、かといって素直に褒めるような人間性は持ち合わせていない。

 言葉を詰まらせている間に、デウロの視線が段々と痛くなる。心なしか、物理的に距離も近付いている気すらする。

 

「……ダンス素人の意見なんか参考にならんだろ」

「ダンス知らない人だからこそ聞きたいの!」

 

 最もらしいことを言ったものの、逃げ場はないらしい。ロブは観念した。

 

「まぁ、良かったんじゃね」

「本当!?」

「ポーチ渡してさっさと帰りたかったとこ、最後まで見てたせいでこうなってる」

「ちょっと、言い方!」

 

 とはいえ、デウロのダンスが良かったのは事実だ。彼の言葉に嘘はなく、本当にさっさと帰るつもりだった。言い方に棘があるのは、生来の天邪鬼な性格ゆえ。

 表情が急転直下するデウロがおかしくて、ロブは微かに表情を緩める。このままでは、ただの嫌な奴である。事実そうなのだが、ロブは『でも……』と言葉を続けた。

 

「まぁ、見てて楽しかったよ。そこのアリゲイツも……俺も」

「えへへ、ありがと!」

 

 後半は消え入りそうな声だったが、それでもデウロにはロブの言わんとすることが分かったようで。パァッと表情を明るくすると、今度は満面の笑みで歯を見せた。

 ここまで喜ばれるとは思ってなかったのか、ロブはふいっとデウロから視線を逸らす。慣れないことはするもんじゃないな、と妙な気恥ずかしさを抱えながら。

 

 そんな若干様子のおかしい主人はさておき、アリゲイツはまだ踊っていた。付き合わされるヒトデマンは、そろそろ疲れてきてるようだが。

 収拾がつかなくなりそうなので、アリゲイツをボールに収めてやる。

 

「毎朝やってんのか?」

「そうだねえ。やっぱり、いっぱい練習しないとプロにはなれないし」

 

 そう言葉を落とすと、デウロは自身のこれまでを話し始めた。

 彼女は、兄に憧れてダンサー志望だった。当初は友人とルームシェアをしていたが、その友人がオーディションに合格したために退去。二人分の家賃を払うのは難しく悩んでいたところ、タウニーに出会い、ホテルZに身を置くことになったそう。

 

「次のオーディションに向けて、頑張らないとって」

「……ずいぶん軽く話すんだな」

「過ぎたことだしねえ」

 

 お気楽そうな彼女の口からは似つかぬほど、話そのものは重かった。夢という先行きの見えないものを追っており、それなりに挫折したであろう割に、その口振りは軽い。

 明るく振る舞っているのか、明るい方に考えているのか。どうも彼女は後者らしかった。強いな、とロブは心から感心する。

 

「ロブには、夢とかないの?」

「ない」

「わぁ……すごい即答」

 

 嘘ではないからこその即答である。

 『全てのダークポケモンを捕獲する』という目標こそあるものの、ロブ自身の夢というものは持っていなかった。

 

 夢とは未来を視ている者にのみ望むことができ、叶える権利がある。それこそ、真っ直ぐ前を進むデウロのような者にこそ相応しい。

 それに比べると、ロブは常に後ろ向きである。彼に、将来こうありたいというビジョンはない。いくらそれが非人道的に造られたポケモンとはいえ、人から奪いとる行為をするような自分に、将来があるとも思っていなかった。

 

「じゃあ、なんでZAロワイヤルに――っていうのは、聞いても意味ないよねえ」

「そうだな。理解が早くて助かる」

 

 ランクAに昇格した者には、望める範囲で願いが叶うという。だが、ロブは当然そんなものに興味はない。ZAロワイヤルの参加は、ダークポケモン捜索を手伝うための手段に過ぎないのだから。

 

「にしても、ロブとこんなに話すの初めてだねえ」

「そうか?」

「基本いないじゃん。ホテルに」

 

 否定しきれず、ロブは頬をかく。これでも、最近は帰るようになった方だ。もっとも、メンバーに疑われては面倒という自分本位な理由だが。

 

 特殊な出自ということを差し引いても、ロブは独りを好んだ。その方が気楽であった。

 対して、デウロは人といるのが好きだ。他人に強い興味を持ち、その領域に土足で踏み込んでくる。

 ロブとデウロ。陰と陽。まるで二人は真反対であった。

 

「ね。せっかくだし、今からバトルしない?」

「なんだ急に」

「せっかく同じMZ団なんだし、もっとロブのこと知りたいなって。それに、バトルの動きでダンスのキレが増すかもしれないし」

 

 そう言いながら、デウロは既に身体全体でリズムに乗ってステップを踏み始めている。常に前向きな彼女らしい理由だった。

 ロブもベンチから腰を上げ、一度伸びをする。

 

「いいよ。うちのアリゲイツを楽しませた礼だ」

 

 自分でもよく分からない理由付けだが、彼女に協力するのはまぁいいかと思えた。

 ロブ自身には夢がない。それはおそらく、この先も変わらない……かもしれない。だが、他人の夢を応援することはできる。それぐらいなら別にいいか、と珍しく少しばかり前向きに考えて見るのであった。

 

 

 しかし、そんな微かな変化を現実に引き戻す通知が、人知れずロブのスマホロトムに届く。

 ロブのZAロワイヤル。ランクVへの昇格戦が決まったのだ。

 

 




もはや今更感ですが、デウロをタグに入れてるので……ね?

お気に入りがドカッと増えた気がします。ありがとうございます。
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