後藤ふたりの高校生活   作:青井するめ

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第三話 姉と一緒にお風呂

 

「ふ、ふたり。一緒にお風呂入ろうか」

「はあ?」

 思わず問い返してしまった。

 夕飯も終わって、部屋の片づけもひと段落し、そろそろお風呂入って寝ようかな、という時間だ。そしたらまた妙なことを言い出すのが姉という人間だ。

「む、む、昔みたいにさ」

「お姉ちゃん、私もう子供じゃないんだよ」

 冷たくそう言い返す。一緒に入ってたのは、私が小学生のときでしょうが。

 私の呆れた顔を見て、姉は沈んだ表情になり、すごすごと引き下がった。

 ……たぶん、あれで姉としての親愛の情を示したつもりなんだろうな。

 姉のそのへんのズレっぷりは今に始まったことではない。もう慣れた、と言いたいけど、たぶん一生慣れることはないんじゃないか。

 とっさに、虹夏ちゃんにロインしてしまった。

 

『姉が一緒に風呂入りたいとか言うんですけど』

『ずれてる。ぼっちちゃんズレてる』

『ですよね』

 

 これで引き下がると思った私は甘かった。

 

 姉のアパートのお風呂は、ごく普通のユニットバス。トイレは別だけど。こういう水回りを一体化したやつをユニットバスっていうんだっけ? うろ覚えの知識だから自信ないけど。

 あまり広くはない。ひとりで入っていても少し狭く感じるくらいだ。これは賃貸だからしょうがないだろう。

 だから、ここにふたりで入ろうってのは無理だって。お姉ちゃん。

 そんなことを思いながら、湯船に浸かっていると。

 脱衣所でごそごそ音がして、イヤな予感がしたのである。しばらくすると、風呂場のドアを開けて、姉が顔を出した。

「ふ、ふ、ふたり、背中流そうか〜」

「……」

 ちなみにもう脱いでいる。入る気まんまんじゃん……。

 私が何も言わず、冷たい視線で睨んでいると、姉はすぐに涙目になり、

「す、すいません帰りますふたりさん」

「あー、もう!」

 私はキレて、湯船から立ち上がった。

「さっさと入りなよ! 風邪引いちゃうでしょ!」

 

 先ほども言ったが、風呂場は狭い。湯船も狭い。ふたりで入るのは無茶だ。

 姉と私は湯船に詰め込まれた。ぎゅうぎゅうである。お湯がざばばと溢れていく。

「せ、せ、狭いね」

「当たり前でしょ……」

 ため息交じりに私は言う。

「前に、一緒に入ったときは、あんなに小さかったのに」

「だから子供じゃん、そのときって」

「えへ、えへへ」

 姉は湯から手を出して、私の頭を撫でる。鬱陶しいんだけど……。

「もう、こんなに大きくなっちゃって。月日が経つのは早いなあ」

「……」

 そうだね。お姉ちゃん。

 私にとっては久々だけど、姉は昔とぜんぜん変わってないみたいだ。相変わらず胸が大きい。この巨乳は誰の遺伝子を受け継いだんだ。やっぱりおばあちゃんなのかな。

 下の毛もぜんぜん処理してない。まあ、そこは口出しすべきじゃないだろう。いくら妹でも。

「昔は私の髪の毛ひっぱったり、胸をつかんだりしてきたよね。あと水をかけたりとか……」

「……」

「あと、油断してると浣腸してきたり」

「ちょ、ちょっと!?」

 流石に聞き捨てならなかった。

「うそでしょ!? そんなことしてないよ!」

「えーしてきたよ。でもふたりは小さかったし覚えてないのかなあ」

「うそうそ! してないって!」

 私は真っ赤になって姉の言葉を否定した。確かに幼いころは色々と姉にいたずらを仕掛けてはいたけれど、さすがにそこまではしてないはず!

 姉はにへらと笑って、

「昔はやんちゃな子だったよねえ、ふたりは」

「……も、もう! 知らない!」

 いたたまれなくなった私は、湯船から飛び出た。

「もう上がるよ!」

「あ、ちゃんと温まった? 湯冷めしないようにね?」

「こっちみんな!」

 姉に裸を見られるのが恥ずかしくて(理不尽である。自分はばっちり姉の裸身を見ているのに)私はシャワーノズルを掴み、姉に向かってお湯を浴びせた。

「わぷっ、ちょ、ちょっと、やめ、ぶふっ」

「へーんだ、お姉ちゃんのばーか!」

 子供みたいな、というより子供そのものの捨て台詞を残して、私は風呂場を飛び出ると、体を拭くのもそこそこに、大急ぎで着替えを身につけ、自分の部屋に逃げ込んだのだった。

 

 そこからさらに1時間後。

 髪も乾かしたし、スキンケアもした。部屋は片付いてないけど、とりあえず寝るスペースはある。よし。

「寝ようか」

 ベッドに腰を下ろす。

 なんだか、変な気分だ。見慣れた実家の部屋とは違う。どこか腰の落ち着かない不安感があり、浮き立つような高揚感もある。まあすぐ慣れるだろう。

 今日から、ここが私の家だ。

「ふ、ふたり〜」

 部屋の外から姉の声がする。……まさか。

 立ち上がって部屋の扉を細く開くと、姉がパジャマ姿で、枕を抱えて立っていた。

「い、い、一緒に寝ようか」

「……」

 無言で扉を閉めた。

「ふ、ふ、ふたり待って〜」

「あのねえ」

 いらいらを抑えながら、扉越しに言葉を返す。

「さっきも言ったでしょ。子供じゃないんだよ」

「で、でも、不安で眠れないでしょ? お姉ちゃんにはわかります」

「いや全然」

「そ、そ、そんな……」

 ガチのショックを受けたらしい姉の声。

 私は嘆息する。

 扉を細く開ける。姉の顔がぱっと明るくなった。ちょっとかわいくて若干むかつく。

「ねえ、お姉ちゃん」

「な、なに?」

「喜多ちゃんがいたころも、この部屋にきて、一緒に寝たの?」

「……へ???」

 目を丸くして、姉はそのまま固まった。

 私は、つばを飲み込んだ。……失敗したかも。そんなこと聞いてどうする。

 だいたい、私自身がそんな「答え」を聞きたくない。

 返答を待たず、扉をぴしゃりと閉める。

「じゃね。おやすみ、お姉ちゃん」

「あっ、えっ、お、おやすみ……?」

 姉の戸惑い声を背に、ベッドに飛び込み、布団を頭までかぶる。

 この部屋で、喜多ちゃんはずっと生活していた。

 そう考えると、眠れなくなりそうだった。

 

 あと数日。数日後に入学式がある。

 喜多ちゃんに会いに行ける。

 

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