ウワァー!!!オンパロスだこれッ!?   作:ありがとうオンパロス

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ウワァー!転生じゃねえか!

 

 

 確かに、俺は布団に入り泥のように眠ったはずである。ならば目が覚めた時に目に入るのは自室の天井であるべきであり、決して古代ローマのような都市風景ではない。

 

 夢とは、自身の記憶を元に構築されているという話を見た。様々な記憶を不規則に繋ぎ合わせ、例え行ったことのない場所もそれらしく補完していると。仮にそうだとしたらこのリアリティも納得できる。この風景が夢であると仮定したらだが。

 

「ちょっとあんた! そんなとこに突っ立ってないでこっちに来な!」

「え? は、はい」

 

 知らない空気が肺を満たす感覚に違和感を覚えていると、溌溂な女性に来るよう手招きされる。彼女の声があまりにもよく響くものだから、つい反射的に返事をしてしまう。よく見れば、周囲はどこか落ち着きに欠け、何かを今か今かと待ちわびているようだ。

 

「すみません。これから何があるんですか?」

「ん? 知らずに来たのかい?」

「お恥ずかしながら、こういったことには疎くて」

「この聖都にいて知らないとなると、あんた遠方のお人かい?」

「そのようなものです」

 

 女性の服装は古代ローマ風……実物を見たことがないからそれらしいとしか推測できないが、まさにローマらしい格好をしている。伝統的な祭りでもあるのか、不思議な夢を見るもんだな、とこの時はやけにこれが夢だと自分を納得させようとしていた。

 

「そうかい。だったらしっかり目に焼き付けな。このオンパロスで最も偉大な御方の姿を」

 

 次の瞬間、鼓膜を突き破るかのような歓声と共に、薄めの寒色で巨大な四足歩行生物の列が道を行進してくるのが見えた。

 

「彼女こそ、この聖都を治める女皇! カイザー様さ!」

 

 大地獣の背に本を積み、更にその上に座る水色の人影。王冠を持つその小さな人物を俺は知っていた。そして彼女が()()であると見た瞬間に感じ取った。故に、理解を拒んだ。

 

「……は?」

 

 最悪の事態を予感して頬を力の限り引っ張る。痛い。

 

 構わず爪も立てる。もっと痛い。

 

 痛い。

 

「ちょっとあんた何してるの?!」

「え」

「どうして頬をちぎろうしているんだい。ああ、血が出ているじゃないか」

「血……赤い血だ」

 

 痛みはずっと残り続けている。心配してくれた女性の手から体温を感じる。俺は叫びたくなるのを必死に、必死に堪えた。

 

 

 俺を取り囲むこの状況は、転生と呼んで差し支えない事象であった。

 

 


 

 

 オンパロス──その世界は12柱の(タイタン)によって創られたとされる。神託を受けた神々の黄金の血を宿した黄金裔は、その12柱のタイタンが持つ権能《火種》を集めて滅びゆく世界を再創世させる火を追う旅に挑む。

 

 しかし、オンパロスはある巨大な演算機のデータに過ぎず、全てが仕組まれたことだった。それを主人公たちが仲間と共に黒幕となる強大な敵を倒す。崩壊:スターレイルにおけるオンパロスのストーリーはこのようなものだった。

 

 俺は絶望した。なぜならオンパロスのストーリーは他のストーリーより遥かに血が流れるからだ。オンパロスの魅力的なキャラクターの殆どが何度も凄惨な死を迎え、プレイヤーの情緒と心をぐちゃぐちゃにする。しかもそれが一度の死ではない。永劫回帰、何度も世界を繰り返すことで実に3000万回もの悲惨な末路を迎えている。

 

 つまり、この世界の住民である限り世界の滅亡に巻き込まれる。半神となった黄金裔たちでさえ簡単に命を落とす悲劇が待っているということ。

 

 

 そして、最も重大な問題は、俺が崩壊:スターレイルを遊んでいたということ。

 

 知識は不可逆だ。この世界はコンピュータのデータに過ぎず、神は元人間で神託は偽りだと知っている。たった一度の奇跡を除いて、世界は必ず終焉を迎えてしまうことを知ってしまっている。

 

「今が何度目なのかも分からない。だが、再創世の神託が下されている時点で滅びることが確定している」

 

 世界そのものが徒労であることを知っている。無駄なことを前にして命を燃やせるほど俺はできた人間じゃない。だから転生に喜びなど見い出せない。

 

「そもそも俺は今……生きているのか?」

 

 どうしようもない不安の中、俺はなんとか眠りにつくことができた。

 

 


 

 

「おはよう。よく眠れたかい?」

「ええ、お陰さまで」

 

 精一杯繕って答えると、女性は昨日と同じように溌溂に笑った。

 

「まさか一文無しだったとは、相当大変な旅路だったんだね」

「本当に助かりました。ありがとうございます」

 

 着の身着のままだった俺は当然のように素寒貧だったが、あの時の女性が運良く宿屋の女主人だったことで一先ず腰を落ち着けることができた。

 

「で、これからどうするんだい?」

「一にも二にも収入を得ようと考えています。この辺りに仕事はありますか?」

「うーん。この辺りで言うと、向かいの質屋かその隣の服屋らへんが人手を欲しがってたよ。他には……」

 

 彼女は手を顎に当て少し悩んだ後、その名を口にした。

 

「カイザー様の軍は常に志願者を求めているよ。文官でも兵でもあんたが見初められれば待遇は安定するさ」

 

 その名前を聞いた途端、指先が震えた。自分が一瞬でもその選択肢に迷ったことにまた震えた。

 

「……まずは質屋さんに行こうと思います。ありがとうございました」

「頑張りなよ!」

 

 最後まで明るく接してくれたことに心から感謝して、俺は宿屋を出たその足で質屋に向かった。

 

 

 大通りは人で溢れ、客寄せる声が飛び交い、活気で満ちていた。すれ違う人々は皆穏やかな顔で今日を生きている。

 

(……)

 

 何を思ってこの光景の中に居なければいけないのか分からない。息を吸うただそれだけが恐ろしくてたまらない。これだけの人を、俺は見殺しにするのだ。

 

 

 やがて件の質屋に着いた。気前の良い店主に話をすると、彼は鋭い視線で俺を下から上まで見つめた。質屋を回すくらい目利きの利く人の目付きにドキドキしながら彼の口が開くのをジッと待っていると、店主は口角を上げてこちらの肩を叩いた。

 

「お前さん、若いのになかなか先を見ている。俺も後継を探していた所だ。どうだ、俺の下で働くか?」

 

 少し心臓に悪い言い方だったものの、色良い返事が貰えた。店主の言葉に裏がないと実感して張り詰めていた緊張が少し解れた気がする。

 

「にしても、この時期に聖都に来るなんて。大変だっただろう?」

「ええ……まあ……」

「やっと女皇様があの戦争を終わらせてくれたんだ。しばらくは戦争は起きないと思いたいがな」

 

 軍役以外ならなんでもよかった俺はその場で気前良い店主の下で働くことになった。……妙な胸騒ぎには目を伏せて。

 

 

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