ウワァー!!!オンパロスだこれッ!?   作:ありがとうオンパロス

10 / 23
私(理性)「え、本当にこれでいくんですか?」
私(本能)「何か問題が?」
私(理性)「いやぁ、思ったよりヤバいのできちゃったなって」
私(本能)「構わん、ハーメルンの人達なら喜んでくれるから。行け」
私(理性)「(^q^)ワカリマシタ」


●ぬぅ!

 

 

「大丈夫ですよ。いーっぱい甘えていいんですからね」

 

 彼女は小柄な体格にも関わらず、その足は人の頭を受け止める柔軟さと包容力があった。こんな情けない姿を見せる訳にはいかない、俺は寄り添い支えるために生きていると思っていても、彼女の太ももから頭を離すことができない。これはきっと、まだどんな天才も解き明かせていない不思議な引力が生じているに違いない。

 

「■■たんは頑張っているんですから。今くらいは……こうしてゆっくりしていても罰は当たらないはずです」

 

 微光が射し込む庭の樹の下、細い指が俺の髪を優しく撫でる。仄かな眠気が俺を包み込み、俺は過去の痛みを忘れて目を閉じた。でも……少しは思う所がある。

 

 

 どうしてこうなったんだろう。

 

 


 

 

『あの……どうして泣いているんですか?』

 

 黄金裔たちと長きを共にしてきたけど、俺の涙を彼女はいつも逃さない。俺の精神が壊れそうになった時に流れる涙を拭うのは……いつも彼女だった。

 

『どこか痛いんですか?』

『……そばにいてくれ』

 

 彼女は何も聞かず、ただ黙って俺に抱き締められた。震える俺の体を抱き締め返してくれた。お日様の香りがする彼女の体は柔らかく、その温もりに包まれていると痛みが消えていくようだった。

 

 どれだけそうしていただろうか。体の震えが収まってようやく抱擁を解くと、彼女は俺の隣に座った。

 

『大丈夫ですよ』

 

 宝物を扱うように彼女の両手が俺の手を包む。このままじゃいけないと何かを言おうとして、翠色の上目遣いに息が詰まる。

 

『わたしは昏光の庭の医師、ヒアンシーです。あなたの名前を教えてくれますか?』

『私は……』

 

 彼女は《天空》の火種を継ぐ運命を背負う黄金裔。沈み込む俺を救い上げてくれるのは……いつもヒアンシーだった。

 

 

 157回目の永劫回帰。俺は神悟の樹庭の患者として歩き始めた。

 

 


 

 

「どうして? 何も異常はないのに……」

 

 俺を蝕み続ける苦痛は数日経っても消えることはなかった。これまでの永劫回帰であれば、目覚めた直後は痛みが残っていたことがあったが、時間と共に弱くなっていた。魂が『壊滅』の因子に耐えられなくなっているのを感じる。悔しいがライコスの言う通り、俺に残された永劫回帰はあと数回あるかどうかだろう。

 

「ありがとう、ヒアンシー。お陰で少し楽になったよ」

「……嘘はダメですよ■■たん。大丈夫、わたしがきっと治してみせますから!」

 

 彼女は医師なだけあって人の痛みに敏感だ。俺の稚拙な嘘など子供騙しにもならなかった。彼女はあれも違うこれも違うと頭を悩ませ、複雑な表情で口を開く。

 

「魂の病……。こうなったらアナイクス先生にも診てもらいましょう」

「……まあ、それがいいですよね」

「医師として■■たんの痛みを和らげることはできませんが、前みたいに苦しむ■■たんを抱き締めることはできます」

 

 そんなこともうしなくていい……そう言おうとした口を彼女の指が塞いだ。

 

「■■たんは嘘つきです。ここではもう、嘘をつく必要はないんですよ」

「……また……お願いしてもいいですか?」

「もちろん大丈夫ですよ。■■たんの痛みが癒えるまで、いつまでも抱き締めてあげます!」

 

 どうしてこう黄金裔の女性陣は皆末恐ろしいのだろうか。これはもう絶対に、魔性の女であることが黄金裔の必要条件になってたりしている。俺はもう堕ちきっているから大丈夫だが、他の男であれば脳でなんらかの爆発が起きているに違いない。

 

「必ず治してみせます。傷を癒すためにわたしたちがいるんですから!」

 

 彼女の笑顔は相変わらず、とても綺麗に輝いていた。

 

 


 

 

「っていうことなんです。どうですか、アナイクス先生?」

「第一に、私をアナイクスと呼ばないでください。第二に、私は医者じゃありません。いきなり来て何事かと思えば……しかし、彼の魂には興味が湧きました。もっとよく見せてください」

「……どうぞ」

 

 俺が連れてこられたのは、永劫回帰が始まる前、俺が再創世を越えられないと推測してくれたアナクサゴラス教授の研究室だった。研究の最中だった彼は突然の乱入に苛立ちを隠さなかったものの、毎度の如く俺の魂に興味を持つ。

 

「これで何か分かればいいんですが……」

「……そうですね」

 

 ヒアンシーはアナクサゴラス教授を結構雑に扱う節がある。お世話になる身ではあるが、正直もうちょっと怒っても許されると思う。

 

「……貴方、どうして生きているんですか?」

「どうしてでしょう?」

「貴方の魂は磨り減ったなんて甘いもんじゃありません。まるで……幼稚な子供がぶつけ回したかのように歪に傷付いている。今のままでは、あと少しでも負荷をかければ粉々に粉砕するでしょう。正直……今も意識を保っているので精一杯なのではありませんか?」

「そ……」

 

 咄嗟に誤魔化そうとして、横でヒアンシーが可愛らしく睨んでくる。何も言わずとも伝わってくる。『嘘は絶対に許しませんよ』、テレパシーかな?

 

「そうです」

「ちなみに戦闘経験は?」

「ある程度の戦力としては戦えます」

「では、今後一切の戦闘行為を禁止します。いいですね?」

「え、困り……」

「■■たん?」

「なんでもありません」

 

 駄目だ……か、勝てない。このままでは俺はただの重病患者としてヒアンシーにお世話されるだけの存在になってしまう。

 

「気休め程度ですが魂の補強はしておきます。代わりに、貴方には私の研究を手伝ってもらいます」

「願ってもないことです」

 

 彼にそんな意図はなくとも、一先ず助かった。これで俺はただの重病患者から、重病患者兼研究助手という肩書きを得た。

 

「では今日からよろしくお願いします。研究のためにも、不要な外出は控えるように」

 

 ……もしかして大して変わってないのでは? 俺は訝しんだ。

 

 


 

 

 神悟の樹庭での生活にも慣れてしまっていた頃、俺はアナクサゴラス教授の研究を手伝っていた。

 

「魂はやはり全貌が見えませんね。血の方は重要なサンプルとなりましたが、今の貴方に求めるのは酷。これからは魂の方を中心的に見ていきます」

 

 手伝いとは名ばかりの研究対象……モルモットなのだが。それでも俺は彼が楽しそうに研究しているのを眺めるだけで十分だった。

 

 一段落したアナクサゴラス教授は俺にあの日と同じようなことを聞いてきた。

 

「貴方は気付いているのでしょう? 自身に未来が無いことを。可能性があった再創世も恐らく貴方を救えない。それでも貴方は……進み続けようとするのですか?」

 

 彼は神を冒涜する大演者(ヒュポクリテス)だが、人に知恵を与える学者である。そもそも、人として優しさに富んでいるのが滲み出ている。だから俺は彼に身を委ねることになんの抵抗もない。

 

「私の意思は変わりませんよ、教授。人はいずれ消えゆく存在。なら私は最期まで心に従っていたい」

 

 こうして俺に聞いてくれるのも、彼が先生たる所以だろう。優しい先生の彼なら、俺の望みも叶えてくれる……

 

 

「だから俺を戦線へ」

「却下します。いい加減諦めなさい。そんなことを言っていると……」

 

 別にそんなことは無かった。今日も今日とて俺はただの案山子に甘んじていた。ここの黄金裔は俺を戦場に連れて行ってくれないから少し苦手だ。それに常に監視状態だから俺は満足に鍛錬出来ていない。だから……

 

「あっ、■■たんここにいたんですね」

「ひっ、助けて教授」

「……」

「教授!? 無視しないでくださいアナクサゴラス教授!」

 

 確かに俺は常に生死を彷徨っているのかもしれない。でも……それでも、超えちゃいけないラインってのは存在しているはずだ。

 

「どうして逃げるんですか? そろそろわたしは悲しくて涙しちゃいますよ?」

「や、やめ……ダメになる……ダメになるからあ……」

 

 ヒアンシーに片手で首根っこを掴まれて引きずられる。俺には彼女に対抗する術はなかった。ただされるがままの……まな板の上の鯉。虚しくピチピチはねるだけの存在。これが試練だと言うのなら、運命はとうとう俺を見捨てたらしい。

 

「今日もそよ風が気持ちいいですよ」

「ダメ人間になるぅ……」

「……うるさいですね」

 

 過保護なのはいけないと思います!!

 

 


 

 

「その前に、包帯を変えますね」

「……はい」

 

 彼が服を脱いで晒す素肌には夥しい量の包帯が巻かれていた。慎重に包帯を外すと無数の傷が姿を現し、今も尚黄金の血を流し続けている。その光景に唇を噛みつつ、焦らないよう新しい包帯を巻いていく。

 

 そして……何度目かの治療を施す。

 

(また……駄目)

 

 彼の傷は治る兆候すらなく未だに血を流している。己の力不足に辟易しながらも、彼に隠すよう笑顔を作る。

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

 

 

 彼が怪我をしたのは数ヶ月前のこと。偶然にも起きてしまった事故でわたしを庇って怪我を負った彼は、その黄金の血を衆前に晒しました。怪我は大事に至るものではなかったものの、彼の体は包帯を手放せなくなりました。

 

『ヒアンシーに怪我がなくてよかった。愛らしい君に傷が付くのを見なくて済んだのは幸運だ』

 

 当時、わたしは素直に彼に感謝を伝え、その傷を治す約束をしました。彼はもう既に傷だらけで、これ以上の傷を受け止められる状態ではありません。魂も心もボロボロの彼には体だけでも健康になってほしい。

 

 しかし、彼の傷は治ることはありませんでした。

 

『カイザー……ヘレクトラ……』

 

 歴史書を読んでいると涙を流し。

 

『がぁ……くっ……』

 

 部屋で1人になると苦痛に満ちた声を洩らしました。

 

 

 そして……彼の体の傷は一向に治る気配がない。止まることのない黄金の血は、彼がもう壊れていると言っているようでした。どんな治療法も彼には効果がなく、唯一彼を癒してあげられるのは……抱擁などの接触。

 

「ヒアン……シー……」

 

 こうしている時間だけ彼は安らかな顔をする。逆に……こうしていないと彼は苦しむ。わたしが医師としてできることは何もなかった。それでも、彼を癒す方法があることに喜びを感じる。

 

「俺……が……最期まで……」

「大丈夫……全部大丈夫ですからね」

 

 せめて、彼の最期を安らかなものにしたい。……その一心でわたしは彼と体温を共有する。

 

 


 

 

「……寝てしまってたか」

 

 俺が起き上がるとヒアンシーは静かに寝息を立てていた。俺は彼女と位置を入れ替え、彼女の頭を足に乗せる。彼女の足より貧弱で、硬いかもしれないがないよりマシだろう。

 

「いつもありがとう」

 

 彼女にはとても感謝している。俺を引き止めるのも心配からなのも分かっている。だが、それじゃあ俺は要らない。

 

 涙を止められないし、苦痛は無くならないし、貧弱なままの俺だが、彼女たちの悲劇に挑み続けなきゃ俺の意思は折れてしまう。残り僅かな永劫回帰……今回は魂の補強に費やしてしまったが、次回のことも常に見据えなければいけない。

 

 黄金裔に成れたからには()()に挑む必要がある。どんな()()でもいい。()()こそ、俺の現状と《運命を変える》ことができる唯一の手段だ。

 

 

 

「ん……」

「おはよう、ヒアンシー」

「あ、どうして……」

「どうやら2人とも寝てしまっていたらしい。休めましたか?」

「ありがとうございます」

 

 ……しかし不安になる。俺は今、彼女のために何かできているだろうか? 俺は起き上がろうとするヒアンシーの頭をもう一度足の上へ乗せる。困惑する彼女の頭を撫でながら、俺は日頃の感謝を言葉にする。

 

「いつもありがとう、ヒアンシー」

「……いえ、わたしがやりたくてしてることなので」

「それでも、ありがとう。誇張でもなんでもなく貴女は命の恩人なんだ。だから気負わないで。私が貴女に甘えてしまうみたいに、貴女に甘えて欲しい」

 

 想いは伝えてこそその意味を持つ。俺は途切れることなく溢れる想いを口にしていると、言葉が積まれるのと同じように彼女の顔が赤くなっていった。

 

「も、もう……■■たんはわたしのことが大好きなんですね?」

「ああ、大好きだよ」

「…………え?」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔で彼女は俺を見上げる。その反応が今まで見たことないものだったから、つい何かやらかしてしまったのかと思ったが。しかし、彼女は顔の前で指を合わせるだけだった。

 

「ヒアンシー?」

「え、あっ、はい……」

 

 やはり様子が変だ。こういう時こそ、俺が寄り添い支えてみせる。俺は彼女の手を握る。

 

「ヒアンシー」

「あ、あの……」

 

 顔がとても赤くなっている。熱があるのかもしれない。顔にかかっていた髪をわけて額を近付ける。

 

「あ、あ、あ……ダメぇ!」

 

 貧弱な俺は彼女に吹き飛ばされるのを耐えることなく虹になった。

 

 

「はぁ……はぁ……■■たんのバカ!」

 

 ヘレクトラやトリスビアスとかにも普通に同じことしてたのに……。こんなに怒られるなんて……やっぱり何かやらかしたらしい。

 

 


 

 

 戦場出禁になった神悟の樹庭での日々は平穏そのものだったが、この世界の平穏は必ず終わりが来る。

 

「暗黒の潮だ!」

「もうそこまで来ているぞ!」

 

 暗黒の潮の造物との戦闘……いくら今回の永劫回帰を魂の補強に費やしたとはいえ今の俺に耐えられるかは分からない。

 

「■■たん、早く逃げましょう」

「いや、アナクサゴラス教授がまだ残っている。私は戦うよ」

「そんなことダメです!」

 

 ヒアンシーは俺の袖を引き止めようとするが、俺はそれを振り払う。

 

「え……」

「戦う時が来た。俺はそのために生きている」

「違う……それは違います!」

 

 剣を手に取り感覚を確かめながら、俺は前線に身を投じようとする。

 

「お願い……お願いだから行かないでください。そんな体で行けば死んじゃいます」

 

 前の俺だったら迷っていただろう……だが今は違う。俺は強くなった。この強さは彼女たちを守り、安心させるために積み重ねたものだ。悲劇を壊すのが英雄にしか許されないのなら、俺は全ての迷いを捨て去り英雄となろう。

 

「ヒアンシー」

「絶対にダメですからね!」

「どうか……信じてほしい」

 

 彼女の震える小さな手を包んで、目線を合わせる。決して涙は見せないと言っていた彼女の瞳は潤んでいた。それは俺の罪であり、これから生きて帰るための覚悟でもあった。

 

「アナクサゴラス教授を連れて帰ってくるからさ。待っていてくれないか?」

 

 黙りこくってしまった彼女に背を向けて、俺は剣を抜いた。

 

 


 

 

「教授!」

「っ! 何故まだいるんです!」

「貴方がいるからに決まっているでしょう?」

 

 造物の化け物どもを斬り捨てながら、俺は久々の戦場を駆け回った。肉体的にはキレが足りないが、剣筋は衰えていない。伊達に万年単位の戦闘を経験しているだけはあった。

 

「……驚きました。かなり戦えるようですね」

「最初に言った通り、ある程度の戦力としてだけですが手伝いますよ。アナクサゴラス教授」

「ふっ、律儀にそう呼び続けるのは貴方くらいです」

 

 

 数時間の戦いの末、俺たちは数人の学者を庇いながらも暗黒の潮の撃退に成功した。学者たちの考案した防衛機構が上手く敵の侵攻を防いでくれていたのが大きな要因だろう。俺はヒアンシーに無事な姿を見せられることに安堵し、剣を鞘に納める。

 

 

 

「見つけた……」

 

 アナクサゴラス教授が学者たちをまとめているのを外から眺めている最中に彼は現れた。突然現れたその人物に驚きはしても、剣を抜くことはなかった。落ち着いて振り向いた先には、白髪の青年が俺を不思議そうに見つめている。

 

「ファイノンか。驚かせないでくれ」

「貴方は一体何者なんだ……店主?」

 

 願わずとも2度目の再会が叶ってしまった。しかも、今回は十分な対話ができる余力を残している。俺は極めて冷静に、彼の問いに答えた。

 

「私は自分が何者なのか自分でも分かっていない。でも、君が知っているように私は永劫回帰の記憶を持っている」

「……貴方はどうして剣を取ったんだ?」

「できることがしたかった……それだけだ」

「……どうして前に会った時、()()()()()を言ったんだ?」

「……恥ずかしいけど、あの時言った言葉の全てが本心だよ。私は君が足掻き続けていることを知っている、ファイノン」

 

 彼の瞳に光が射し込むのが見える。小さな力かもしれないけど、彼の背中を押せるのならば俺は恥を捨てる。俺は彼に近付こうとして、

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「え?」

 

 視界が突然暗くなって、恐怖の感情が俺を支配する。足がもつれて倒れても起き上がることができない。体が意識から切り離されたように、俺の体は機能を停止した。

 

「店主……?」

 

 


 

 

 彼が倒れた後、すぐにそこには黄金の血の池ができた。中心に倒れる彼の全身から漏れ出る血は止めどなく。ついさっきまで会話していた彼は死人のように微動だにしない。

 

「■■■■!」

 

 アナイクス先生が駆け寄って、彼の容体を確認している。あんなに必死な先生の姿は初めて見た。

 

「しっかりしなさい、■■■■!」

「先……生……」

「今はあなたに構っている暇はありません! クソっ、やはり魂だけの補強だけでは……」

 

「■■たん……?」

 

 いつの間にか来ていたヒアンシーは彼の血に汚れることも躊躇わず彼の傍で膝を着いた。そして酷く震える手で彼の衣服を剥ぎ取る。現れたのは亀裂が入り、崩壊寸前の肉体だった。

 

「大丈夫……大丈夫です」

 

 おまじないを唱えるようにヒアンシーは彼に治療を施すが、効果は見られない。

 

「全部……大丈夫……約束したんです……必ず……治すって……」

「ヒアシンシア、治療を胸部に集中させなさい! 心臓が砕けてしまえば終わりです」

「はい……先生」

 

 僕はただ見ているだけだった。見つけたはずの光はその輝きを失墜させ、周囲を暗く染める。まるで、彼の運命は彼を壊すためだけに存在しているようだった。

 

「あ……あぁ……ああああああああぁぁぁ!」

「せめて……!」

 

 最期に、彼は夢から醒めるような衝撃とともに、黄金に輝いて砕け散った。

 

 


 

 

「そろそろ寝ましょうか、イカルン」

「プルル……」

 

 わたしは箱から()を取り出して胸に抱いて横になる。

 

「今日も■■たんは暖かいですね」

 

 無機質で返事も返ってこないけど、()は確かにわたしの胸の中にいる。それがわたしに安心感を与えてくれる。

 

 

『最後に……彼の魂の1部を抜き取りました。あなたに預けておきます』

 

 アナイクス先生には感謝しないといけません。だって今の()は、涙を流すことも、苦痛に苦しむことも、血を流すこともないんですから。ただ、冷たくて固くて静かになっちゃいましたけど。これでずっと一緒です。危ないことは何もありません。

 

 

「大丈夫……全部……大丈夫なんですから……」

 

 

 もう()がいないことなんて、理解しているのに……わたしは()()を手離すことができない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。