ウワァー!!!オンパロスだこれッ!?   作:ありがとうオンパロス

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終わりやね

 

『私の見解では、貴方は再創世された新世界で再構築されることはありません。つまり、再創世が成された時、貴方はようやく死ぬということです』

 

 火を追う旅は順調に進み、黄金裔たちは次々と火種を返還していった。《理性》の半神となり、世界の真理を解き明かしたアナクサゴラス教授は最期に俺に忠告してくれた。

 

『本当にいいのですか? 火を追う旅を支持することは、自分の首を絞めることと同じことです。それでも貴方は……』

『私の答えは変わりません、アナクサゴラス教授。貴方たち英雄にはただ前を向いてもらいたい。その道の先に死が待っていても、私は貴方たちの味方で在り続ける』

 

 この頃から暗黒の潮の勢いは増すばかりで、終焉は刻一刻と迫っていることを人々に突きつけた。オクヘイマは間もなく訪れる最後の暗黒の潮に対抗する防衛線に全力を注ぎ、全ての黄金裔たちがようやく同じ視座に立った。そして俺の覚悟も……ようやく定まろうとしていた。

 

『─以上、これにて終了。言葉はもう不要です。……後は任せましたよ』

『その言葉は必ず金織様に伝えておきますね』

『貴方のそういう所が……はぁ、もう行きなさい』

『今までありがとうございました。教授』

 

 神悟の樹庭が暗黒の潮に呑まれた時、アナイクスと俺は神悟の樹庭の放棄の伝達役として訪れていた。彼はまだ生きている学者の避難を俺に任せて、暗黒の造物に立ち向かった。

 

 《理性》で真理を見出した大演者(ヒュポクリテス)は最期まで偉大な賢人で在り続けた。

 

 

 

『書物は冥界に持ち込めるでしょうか?』

『あの……』

『貴方に読んでもらいたい書物がまだ山になっているんです。私がそちらに行く時、できる限り持っていくので楽しみにしてください』

 

 《死》の火種を返還し、冥界に残ることになった彼女を前に俺は思いつく限りの激励を送った。彼女は華やかに笑い、この別れが決して寂しいものではないと確かめ合った。

 

『だからと言って、すぐにこちらに来ないでくださいね』

『穏やかな西風の果てで貴女と再会するのを楽しみにしています』

 

 せめてもの贈り物として彼女は手紙を受け取った。長い間続けてきた文通の最後の一通に俺は今までの感謝とささやかな祝福の言葉を包んだ。

 

 《死》を与える侍女は再会を誓い、一足先に冥界の花海に一陣の風を吹き込んだ。これから訪れる魂を彼女は暖かな抱擁で祝福するだろう。

 

 

 

『……こんな所にいたんですか?』

『ん? あれー、なんでアンタがここに?』

『ずっと探してたんです。サフェルさんが居ないって、みんな騒いでますよ』

 

 聖都の防衛に必要な最後の要石、《大地》の半神が最期に遺したとされる貴石を手に、《詭術》の半神は聖都の隅で倒れていた。

 

『あはは、みんなそんなにあたしのこと気にしてるんだ。……でもごめん。あたしはもう……みんなのとこには行けない』

『……アグライアさんだって来てるんですよ。ほら、見えますか?』

『…………うわ、裁縫女にこんな姿見られるなんて。あんたも一緒に……謝ってくれるよね?』

『……ええ、一緒に叱られてあげますよ。……いつもみたいに』

 

 この時、俺は彼女に()()()()()()()()

 

 誰にも捕まらない駿足の英雄は、優しい嘘を抱え、最期に希望を遺して安らかに眠った。

 

 


 

 

『……俺のせいなのか?』

 

 彼らを見送る度、自身の無力さを呪う。なぜ、いつも自分が英雄たちの最期の立会人になるのか。どれも俺が意図したものではない。俺にも運命というものがあるのなら、これは愚かにも彼らと関わった俺への罰なのではないか。次々と襲い来る別れに俺の情緒は不安定になった。

 

 

 


 

 

『大丈夫ですよ。悲しむことはありません』

 

 黎明のミハニが輝きを失い、暗黒の潮が押し寄せる中、ヒアンシーは人々を守るため《天空》に昇ることを決めた。虹の桟で彼女を見送る時、俺は耐えられず膝を着いた。この世界に来て初めて心が挫けてしまった。

 

『泣かないで、■■■■。あなたがいたからわたしはここまで来れたんですよ』

『わかってる……わかってるんだ……だけどっ!』

『あなたにそんな顔はさせられません。ほら、笑ってください』

 

 俺の顔を包む医師の手には小さな傷がたくさんあった。それらは彼女がどれだけ強い意志を持つのかを表しており、だからこそ彼女は笑うのだ。

 

『あなたが泣いていると、わたしまで泣いてしまいそうになるんです。だから……』

『……ああ、そうだな。君を泣かせる訳にはいかない。だって君は……ヒアンシーなのだから』

『ふふ、ありがとうございます』

 

 最期の抱擁はとても暖かなものだった。俺は彼女の小さな身体が壊れてしまうんじゃないかと思うほど強く抱き締めた。

 

 見上げていた虹は黎明の代わりに空を灯し、昏光の医師は人々のために《天空》を繕った。

 

 

『ああ、クソっ!』

 

 叩きつけた拳には赤い血が滲んでいた。心が叫びたくなるほど痛むが、立ち止まることは許されない。それは英雄たちを見送った俺の責務であり、この世界に残せる俺の最期の存在証明だ。暗黒の潮が最後の都市を呑み込む中、俺の最後の悪あがきが終わろうとしていた。

 

 

 


 

 

「西のクレムノス軍は半壊、《紛争》のモーディス様も倒れました!」

「北と東の法陣も破壊され、暗黒の潮が押し寄せています!」

「っ! 全隊撤退、最終防衛ラインまで下がれ! 盾を重ねて初撃を耐え、最期まで持ち堪えろ!」

 

 《紛争》の半神は栄誉の死を遂げ、《門と道》の半神は最後の門で《世負い》の半神と《歳月》の火種を送り出した。再創世……または永劫回帰が始まるまであと一刻もないだろう。

 

「……くっ! しっかりして下さい、アグライア様」

「申し訳ありません。どうやら……ここまでのようです」

 

 肩から流れる赤い血が腕の中で黄金と混ざる。燃える街の中、人々が目の前で暗黒の潮に呑まれていく。俺にはもう、彼女を持ち上げる力すら残っていなかった。

 

「金織様!」

「全員、彼の指揮通り撤退しなさい。貴方も……早く逃げてください」

「……脚をやられました。私もここに居ます」

 

 兵たちが撤退していくのを眺め。血の色が異なる2人だけが残った。赤と黄金はまるで水と油のように混ざらず模様を織り成し、大地を染めていく。2人を結ぶ金糸だけがこの地獄で輝きを放っていた。

 

「初めて出会った時のことを……覚えていますか?」

「忘れるわけありません。あの時、私は怪しい者で、貴女は新たな統治者だった。謝罪ならいりませんよ」

「……貴方のそういう所が、皆に好かれる要因なのでしょうね」

 

 暗黒の造物が迫り来る音が大きくなっても、段々と小さくなる彼女の美しい声が聴こえる。再創世か永劫回帰か、どちらにせよ俺はアナイクスの推論通り今回だけの命だ。だから最期まで、彼女たちの傍に居たかった。

 

「最期に……聞いてもいいですか?」

「なんでも聞いてください」

「貴方は……私たちに何を隠していたんですか?」

 

 頬に黄金に塗れた手が添えられる。今にも消えそうな黄金の輝きを前に、俺は震える手で金糸を握り、最期の言葉を紡いだ。

 

「俺はずっと前から貴女たちを知っていて、ずっと前から貴女たちのことが大好きだっただけです」

「……知っていますよ。貴方が……私たちのことを想っていること……は……」

「ゆっくり休んでください……アグライア」

 

 頬から離れた手を取り、彼女の頭を膝に乗せて綺麗な金髪を優しく撫でる。《浪漫》の金糸は輝きを失った。《天空》の庇護も届かなくなった。《死》の奔流も力尽きた。ようやく……この長かった人生に終幕が下りる時が来た。

 

「どうか……英雄たちが幸せになりますように」

 

 遠い未来の幸せを願って、俺は世界に別れを告げた。

 

「さようなら、みんな……」

 

 

 

 

 その時、世界が終焉を迎えた。

 

 俺の肉体は内側から破裂し、頭の中を膨大な情報が侵食する。撒き散らした血はデータの隙間へと流れていき。言葉では到底言い表せない、言語の限界を感じるほどの痛みの中、俺は死がどのようなものか理解させられた。

 

 

(これが罰なら、ちゃんと受け入れるさ)

 

 

 俺は世界と共に引き裂かれながら、意識を手放した。

 

 


 

 

 こうしてオンパロスは永劫回帰に入り、天外の英雄(主人公)が現れるのを待ち続けることになる。無限にも思えるループの中で、また英雄たちは最期を迎え、運命に抗い続ける。だが、全てが徒労ではない。英雄たちの願いは明日を作り、希望の光が銀河中を照らすのだから。

 

 

 

 

「おい、起きろ」

 

 誰かが俺の体を揺すっている。ゆっくり瞳を開くと至近距離に人の顔があった。少し動けば簡単に唇同士が触れてしまいそうな距離に驚いて仰け反る。少し距離を置いてその人を見てみると、彼女は覚えのある顔だった。

 

「か、カイザー?」

「ほう……、開口一番に僕をカイザーと(そう)呼ぶか」

 

 彼女こそ《法》の半神にして、黄金戦争を終結させ火を追う旅の第一人者、《女皇》ケリュドラ、すでに死んだはずのその人だった。

 

「ここは……」

()帝国の国境だ。おい貴様、なぜ僕をカイザーと呼んだ?」

 

 支配者の迫力とでも言うのだろうか。彼女の毅然たる姿形には一切の虚言も通じないという確信があった。

 

「カイザーはカイザーです。それ以外の何者でもありません」

 

 ハナから嘘をつく気がない俺はただの本音をそのまま言葉にすると、彼女は何がお気に召したのか、上機嫌で俺に手を差し伸べた。

 

「いいだろう。そこまで言うのであればお前を臣下にしてやる」

「……え?」

「喜べ、これから始まる征途の栄光を最も近くで見せてやる」

 

 俺はこれがまだ夢の途中なのだと思った。だが、目の前のケリュドラは()()()見た現実の彼女そのものだった。嫌な予感が背筋を凍らせ、最悪の末路が頭を過ぎる。

 

 

()()()が成された時、貴方はようやく死ぬということです』

 

 

 新世界の始まりこそが、俺の最期だとアナイクスは言った。新たな世界を構築する上で、俺の魂はこの世界から完全に取り除かれてしまう。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? もし……もしこの仮説が真であってしまうのなら、俺は……

 

「……どうした? あまりの喜びに声も出ないのか?」

 

 

 

 きっと……人としての全てを失ってしまうだろう。

 

 




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