シン 鬼滅   作:ファイネス1

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花柱編 前編

 歴史とは、裏の顔を持つものだ。

 鬼への理解と慈しみを示した異色の柱、胡蝶カナエの死は、生存率が低い鬼殺隊の中でも残された家族や彼女を慕う隊士達に大きな悲しみと、鬼に対する一層の敵愾心を強める悲劇として記録されている。

 だが、その歴史を検証してみるに、いや、恐らく当時ですらも口に出すのが憚られるだけで幾人かの隊士に何かしらの違和感を覚えさせた。

 例え鬼狩りとしての実力や貢献は紛れもなかったとしても、人間の柱単体で悪鬼達の最高峰、上弦の弐に何故闘いを挑んだのか。

 確かに鬼殺隊、それも柱たるものが鬼相手に敵前逃亡や命乞いなどを選ぶような真似などするものではないが、一方で鬼を確実に仕留める為にも勝ち目のない闘いに無闇に挑んで犬死にするような真似もまた似つかわしくなきものであった。

 ましてや超人的な身体能力や特異体質などを持たない胡蝶カナエの鬼狩りとしての本質はむしろ力に頼りがちな鬼殺隊の中でも的確な判断力によるものだったという。

 彼女は何故何の勝算もない、無駄死にともなりかねない闘いに挑んだのか。

 そして。

 例え相手の鬼を理解しようとする姿勢や聡明な頭脳も以てしたとしても、たった一晩の闘いで、憐れむ程に童磨という存在の本質を悟れたものなのだろうか。

─────────────────

平成。

「何を読んでいるの?」

 図書館でカナエがその声に顔を上げると、小学生低学年の彼女より少し高学年くらいの、金髪の少年がいた。

「おばけのほんをよんでいるの。

 さんまいのおふだっていってね。

 やまんばからにげているんだよ。」

「へえ。面白そうだね。

 一緒に読んでもいい?」

「うん!」

 

 その後、金髪の少年はカナエのペースに合わせて共に本棚の物語を読み進め、時に明朗な口調で読み聞かせたり面白い感想を言ってくれたりしてとても楽しい時間を過ごした。

 その後も本が好きなカナエが図書館に行くとどこからともなく現れた少年が付き合ってくれた。

 非常に奇妙な少年だった。

 彼自身が本を選んで読んでいる場面も見かけたが

大人向けの本棚の哲学だの社会学だの歴史だの当時の彼女にしてみたら本どころか本の形をした背景にしか見えないものにまで何てことのない調子で梯子から手を伸ばして神妙な面持ちで読んでいる様を見て、彼が自分が読んでいた絵本や児童書に敢えて合わせてくれて付き合っていたことを、雑学や科学知識に詳しくて周囲より大人ぶった態度を取る同学年のませた子とは次元が違う存在であることを幼いながらに悟った。

 物心つくころからテレビで見ていた薬で子供にされた名探偵みたいなものじゃないかと本気で思い、遂には「ゆあねくん、すき」と告げた時、それまで慈しみ、見守るような眼差しだった彼の視線の温度が下がり、「潮時か。」と、呟いた。

 それ以来、彼は図書館に現れなくなった。

 思っていれば元からどこから来たのか、その行く所も去る所も見ておらず、家や家族のことなど知らされていないカナエには、図書館で見つけられない以上は彼を見つける術などなく、やがてその存在を「思い出」として消化しようとした時。

 盆に家族で墓参りに行き、そこで墓石の掃除をしていたカナエは足を滑らせて頭から転落した。

 朦朧とする意識の中、医療に従事する家庭の大人としてむしろ冷静に自分を介抱する親の声を打ち消すように姉としての自分に一心不乱に呼び掛ける涙混じりの妹の声に、不思議な懐かしさを覚えた直後。

 カナエの中に今の時代ではない記憶が流れ込んできた。

 もし、気力があれば、あまりの情報量のショックに大声を上げていたであろうカナエは、代わりに記憶の奔流に身を委ねて意識を失った。

 日常に戻ったカナエはそれから近所の施設を訪れた。

 生まれ育った辺りの地理なんかは把握しているカナエだったが自分にはそれまで全く縁を感じない為に注意を払わなかった、そしてあまりに自然にあったために例え通学路にあってもその異様さにも気を払うことがなかった新興宗教施設。

 万世極楽教と看板に記された施設の敷居を跨ぎ、職員の大人達が小学校の彼女の来訪に眼を丸くする中、カナエはそれこそ薬で子供の姿にされた高校生のようならしからぬ出で立ちと口調で言った。

 

「夕亞音さんに伝えてください。

 花柱が思い出しました。

 またお話しを···」

「その必要はないよ。」

「きょ、教祖様···」

 信者達が戸惑う中、和服を着たカナエより少し背が高いくらいの金髪の美少年が、彼よりやや背が低い、それこそカナエと同じくらいの年頃でこちらはスカートを履いた少女を引き連れてゆったりとした様子で歩いてきた。

 少女はカナエを見つけるとにぱっと笑い、非常に年よりじみた口調で言った。

「おお、カナエ!

 また会えるとは思わんかったぞ。」

「······」

「あーあ、せっかく思い出で済ませようと思ったのに···」

─────────────

 部屋を移し、密室には夕亞音、カナエ、年寄り口調の少女と彼女と同年代と思わしき見た目の鬼の少年、羅利阿。

 パタパタ♪

 テーブルの端からカナエを嬉しそうに見つめる羅利阿を除いた子供達は、しかしその醸し出す雰囲気はとても子供らしからぬ、並の大人すら萎縮させる重圧を放っていた。

 やがて険しい顔をしたカナエが口を開いた。

「貴方達···今、人間?」

 その言葉に、夕亞音は白い大きなエプロンをつけて部屋の隅に置いてあった箱から取り出したものは

人間の腕。血が一滴も出ていない為に作り物かとも思ったが血抜きをしているらしく生臭い匂いは間違いなくそれが生肉であることを物語り、やがて少年は口をぱっかりと開けて覗きだした牙でガブリとその指先に噛みついた。

「うん、やっぱり女性の指先のコリコリした食感はいいね。」

「·········」

「見ての通り、僕たちは無惨討伐後も現代まで生き延びた鬼だよ。」

─────────────

大正。

 カナエは遠出の任務を終えて帰路につく途中だった。

 宿を取ろうとしたその町は、どうもとある宗教による力が強いらしかった。

 日が暮れて、辺りが群青色に染められた中、その中でも映える金髪金眼の少女の見た目の少年が、自分と同年代の少女をあやしているのを見かけた。

 

「大丈夫、ここで待っていればお母さん迎えに来てくれるから。」

「うん···」

 

 傍目からはまるで妹の面倒を見る兄のようだが、髪と眼の色は純正の日本人の少女とは繋がりがなさそうだ。

 やがてお母さんらしき人が来てくれ、恭しく何度も少年に頭を下げた。

 その様は単なる親切な相手に対するお礼というより、もっと畏れ多いものに対する畏怖すら感じさせるものでちらりと「ユア様」と言う言葉が聞こえた。

 その後も少年は行く先々で荷物を持つおばあさんを助けたり前の人の落とし物を拾ってやったり食材を買う際に笑顔で丁寧に接していたりしていて、やがて銭湯か仕出し屋にでも行くような気軽さで葬儀屋に入り、そこから出て辺りがすっかり暗くなった中を、人通りが全くない裏通りの奥らへんに行った所で立ち止まり、後ろを振り返り、ごく自然に呼び掛けた。

 

「ここらへんでいいでしょ。

 こそこそついて来ていないで出てきてよ。」

 

 少年を尾行したカナエは神妙な顔立ちで少年に言った。

 

「あなた···あの葬儀屋で何を···」

「ああ、僕のご飯を。」

 

 そう言って彼は仕出し屋の食材が入っていた袋から更に小さい一袋の塊を取り出し、それを解くとやがて姿を表した人間の腕の指先をパクリとしゃぶり、そのままバキッと噛みちぎった。

 

「···鬼、ですのね。あなた。」

「君は鬼狩りみたいだけど···随分毛色が違うね。

 モグモグ。

 刀に手をかけてはいるものの、目の前で人を食べている鬼を見て未だ切りかかってこないなんて。

 ゴクン。」

「まだ人を殺して、傷つけている訳ではないから···

 ねえ、少し話さない?」

「いいよ、僕も君に興味持った。

 名前は?」

「鬼殺隊花柱、胡蝶カナエ。」

「万世極楽教教主、分かりやすくナンバーツーと言った方がいいね。

 万世夕亞音。」

 

 その翌日。

 万世極楽教に新たな女性信者が入信した。

────────────────

令和。

 胡蝶カナエが万世極楽教総本山の幹部になって数ヶ月後。

 当の彼女が若干気まずい様子で自身と色味が違うものの同じデザインの蝶の髪飾りを付けた少女を伴って夕亞音の元を訪れた。

 

「ええっと、ユア君。

 ちょっとしばらくこの子をここで面倒見て貰いたいんだけど···」

「···よりによって···思い出しちゃったの?」

「え、ええ。

 ほら、そんなむっつりしてないで、ちゃんと挨拶しなさい。」

「·········許さない。

 あんな達の存在を、認めない。

 必ず、今度こそ滅ぼし尽くしてやる···」

「···随分な挨拶だね。

 一応名前を確認したいんだけど。」

「·········」

「はあ···

 私達胡蝶家のご近所さん。

 栗花落カナヲ。

 ほら、仲良くね。」




次回から本格的に世界観の説明に入りたいです
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