冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった   作:こなひー

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第3話 同僚を振り切ろう

 玲が健斗の部屋を使用し始めてから四日、木曜日の作業が終了した。今日も健斗は家で玲を待たせないように真っすぐ帰宅……しようとしたのだが、同僚の聡一と小里に行く手を塞がれてしまった。

 

「なんだ。邪魔なんだが……」

「あやしい」

「あやしいです」

「何がだよ……」

 

 二人して仁王立ちしながら半目で睨みつけるその姿は、さながら難癖をつけては通さないという嫌がらせをしてくるタイプの門番の様だ。通せんぼする姿勢を崩さずに健斗への尋問を始める。

 

「この一週間、俺たちをスルーして速攻で帰っているじゃないか!」

「社会人としては普通だろ」

「いいえ! 最近何か艶々してる気がします! スーツもよれよれじゃないですし!」

「艶々って何だよ」

「艶々は艶々です!」

 

 健斗は既に、玲に帰る時間を伝えてしまっている。そこから遅れを出すわけにはいかないという使命感を抱いているため、終業後の雑談をする暇も削っているのである。

 

「で、私達を振り切って早く帰っている理由は一体何なんですか?」

「……門限があるんだ」

「あまりにも嘘すぎて逆にツッコミづらい!」

「先輩一人暮らしでしょ! もっとマシな言い訳無かったんですか!?」

「う、嘘は言っていないぞ……?」

「嘘しか無かったと思うんですけど!?」

 

 家で玲が待っているため当たらずとも遠からずと言った所なのだが、当然これを説明してしまうわけにはいかない。これ以上健斗の口から言えることが無くなってしまったため、二人の間を強引に抜けようと試みる。

 

「……なんだっていいだろ。帰るからな」

「あっ、ちょっと!」

 

 二人は別に力づくで止めようとしていたわけじゃなかったため、案外するりと抜けた。健斗はそのまま脱兎の如くオフィスから逃げ去っていった。

 

「どーしちゃったんでしょうねー、先輩」

「いつも誘いには乗ってくれるだけど、取りつく島も無い感じだよなー」

「……なーんか隠してますよねー」

「だよなー」

 

 健斗は彼らにも話してはいけない理由がある。若干心苦しくもあったが、無理やり振り切る他なかった。聡一と小里もそれをわざわざ追いかけるほど無粋な事はしなかった。けれども健斗の事情に対しての邪推は止まらない。

 

「……本当に門限だったりしてなー」

「んなわけないじゃないですか……」

「だよなー……」

 

 但し、こんな調子の二人が正解にたどり着くことは無かった。

 

 

 健斗の家の前、やや早足で帰ってきた健斗は少し息を切らしていた。四日連続で十九時丁度に扉を開けた玲と会い、鍵の受け渡しをする。

 

「お疲れさまでした。明日は私も本社なので、鍵は必要ありませんね」

「そ、そうですね……」

「どうかしましたか?」

「それが……連日早く帰っていることを同僚に疑われてまして……」

 

 先程健斗が聡一と小里の疑念を振り切って帰ってきたという旨を説明した。玲は健斗がわざわざ同僚との時間を割いて早く帰ってきている事をここで初めて知った。そのため、少しだけ眉を八の字にしながら健斗に言う。

 

「……別に、帰宅する時間を多少緩めても構わないんですよ?」

「けど、泉さんをあまり待たせるのは……」

「これは私の都合で始めた事なのですから、あまり気負わないでください」

「わ、わかりました」

「但し、時間が分かり次第直ぐに教えてくださいね。……連絡無しに遅れられてしまうと、私個人としても心配になりますから」

「!」

(やっぱり、泉さんは優しい人だ。冷女なんて渾名を付けた奴は泉さんの事を何もわかってない)

 

 職場では表情があまり変わらずプライベートな話を全くしない彼女だが、決して冷たい人間という訳ではない。寧ろ人一倍気を使ってくれる人だという事を健斗は理解してた。

 

「話しついでに……音無君」

「は、はい?」

「貴方の部屋について相談があります。詳細は明日話しますので」

「あ、明日ですか?」

「ここで話すと少々長くなってしまいそうなので、明日です」

 

 一体何だろう、と健斗が考えている間に玲はサッと健斗の横を通り過ぎていく。首だけ振り向いて軽く会釈をしながら、玲が帰っていく。

 

「それでは、お疲れ様でした」

「あ、お疲れ様でした……」

 

 玲を見送った後、健斗はゆっくりと部屋に戻り考え込んでしまう。玲の言った相談とは一体何なのか、静かな空間で一人になった健斗は悪い予感が頭に過ってしまう。

 

(ま、まさか……俺の部屋よりいい場所が見つかったから契約解除、とかなのか!?)

 

 人間、一度不安に思ってしまった事は中々頭から離れてくれないものである。健斗はこの後一晩中、不安を抱え続けることになってしまうのだった。

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