冷女と呼ばれる先輩に部屋を貸すことになった   作:こなひー

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第5章 問題は思ったよりも大きく
第1話 玲の大きな問題


 突如玲に抱き着かれた健斗、しかし二人の表情は暗い。思考が追い付かない健斗だったが、彼女が苦しそうな表情と助けてという言葉を聞いて、健斗は彼女が何か危機に晒されているのだと理解した。一呼吸置いてから健斗は抱き着いたままの玲から聞いた言葉は、彼を再度驚かせるには充分すぎるものだった。

 

「す、ストーカーにつけられている!?」

「……ええ」

 

 玲の抱えていた問題、それは彼女が以前からストーカーにあっているという衝撃の内容だった。聞いてすぐに鍵を閉めた健斗は、玲を落ち着かせるために一度リビングへと連れていく。ソファに腰かけて一度呼吸を落ち着かせてから、健斗は状況を玲に確認する。

 

「ま、まさか今襲われかけていたってことですか!?」

「いえ、直接何かをされたわけでは無いわ」

「じゃあ、一体何が……?」

「……」

 

 玲は健斗にこれ以上話してしまうことを躊躇っている。これ以上話してしまえば彼を自分の問題に巻き込んでしまうことを恐れていた。しかし、最早玲は隠し切れない状態になっていて、健斗もそれに気づいた。玲の気持ちを知ってか知らずか、健斗はしっかりと目を合わせて事情を話すように促す。

 

「泉さん、話してください。俺じゃ頼りにならないかもしれないですけど……」

「そんなことない! ……わかったから、順を追って話すわね」

「お願いします。と、その前に……」

 

 

 健斗は話を聞く前に、窓の外や玄関扉の向こうに誰もいないことを確認してから、玲を座らせているリビングのソファに戻った。健斗が腰かけると、玲は健斗にぴったりと肩をくっつくように距離をつめた。玲の体がまだ震えている事に気づいた健斗は、彼女の手を両手で包み込む。すると少し安心したのか、震えが弱くなりゆっくりと話を始めた。

 

「私が今の会社に勤め始めて……およそ一年位経った辺りから、帰りに誰かに着けられていると感じたのがきっかけなの」

「え……そんなにずっと?」

「最初は気のせいだと思って無視してた。けれど……残業で遅くなっても、回り道をしても、私の後ろからずっと同じ足音が聞こえてきた」

「……気のせいってわけじゃないんですよね?」

「私も最初はそうだと思った。でも……」

 

 帰り道や時間帯が同じ人は、少なからずいる可能性はあるだろう。普通に歩けば足音だってする。最初はそう思っていた玲だったのだが、徐々にその違和感は増していき、決定的と思われる事態が発生したのである。

 

「一度違う地区に引っ越してすぐは聞こえなくなってたのに、たったの数日でまた同じ足音が聞こえるようになった」

「ひ、引っ越したのに!?」

「ええ……これはもう、絶対に偶然じゃないとわかって怖さが増していった」

 

 玲は対策として、会社に同じくらいの時間で通える程度の距離で一度引っ越しをしていたのである。これについては普段から彼女の事をよく見ていた健斗も知らなかった情報である。それにも関わらず、ストーカーはたった数日で彼女の引っ越し先を突き止めて彼女をつけていたのだ。明らかに異常であると、話を聞いていた健斗もはっきりとわかった。

 

「但し、相手はずっと何かしてくるわけじゃない。それが逆に不気味なのだけれど……」

「ただ泉さんをつけてきているだけ、って事ですか」

「何をしたいのか、いつ行動を起こしてくるかもわからなくて……っ!」

「泉さんっ!」

 

 玲は嫌な想像を巡らせてしまったせいで全身から血の気が引いてしまい、ふらついて健斗に思い切りもたれかかってしまう。健斗は肩を掴んで倒れこんだ彼女の体を自分に寄りかからせる。俯いている彼女の顔はよく見えない。健斗は歯がゆい思いでいっぱいになった。

 

「すみません。俺、泉さんがそんな大変な事を抱えていたのに、全然気づけなくてっ!」

「……いいの、私が気づかれないように隠していたんだから。それに……」

 

 顔を上げた玲の目には、涙が溜まっていた。今にもこぼれそうになっていた。

 

「君を、こんな事に巻き込みたく無かった……!」

 

 健斗の怒りが限界に達した。玲にこんな辛い思いをさせたストーカーを許すわけにはいかないと憤慨した。すっかり乱れてしまった彼女の銀髪をそっと撫でながら、健斗は全身を震わせながら宣言した。

 

「正体を突き止めましょう! 奴をこれ以上そのままにしてはおけませんよ!」

「でも、これ以上貴方に迷惑をかけるわけには……」

「迷惑とか、そういう問題じゃありませんよ!」

 

 すっかり縮こまってしまった玲の両肩を掴んで思いを吐き出す健斗の姿は、かつて健斗が病気の中無茶をした時に見せた玲の激昂に似ていた。そして健斗は、次の言葉を玲にぶつけたのだ。

 

「これは、泉さん一人で背負うべきじゃありません!」

「!」

 

 意図してか、或いは偶然か。かつて玲が健斗に言った言葉をそのまま返していた。目を見開いた玲は、健斗に更に寄りかかるように身を寄せる。両腕を健斗の背中に回して彼の胸に頭を埋めながら口を開く。お互いの体温を強く感じたおかげか、どちらも落ち着きを取り戻し始めていた。

 

「……ここに来てから私は君に助けてもらってばかりね」

「それは俺も同じです。どれだけ支えてもらってる事か……」

「私は、大した事をしていないわ」

「なら、俺も大した事をしていません」

 

 どちらも、妙な所で強情だった。こうして互いの意見がぶつかった時は、決まってどちらも完全に譲ることはないのである。それがわかっていた二人は、日常の空気がわずかに戻った影響か、少しだけ緊張がほぐれた。

 

「……ふっ」

 

 少しだけ、彼女に笑顔が戻った。彼女の手の震えが収まった。それを見た健斗は彼女を抱きとめていた腕から力を抜く。しかし玲は健斗から離れようとはしなかった。

 

「ごめんね、もう少しだけこうしていてもいいかしら?」

「……はい」

「ありがとう」

 

 二人の距離がゼロになっていた時間がどのくらいだったのかはどちらも全く気にしていなかった。健斗は彼女をこれ以上悲しませたくないと、玲はこの時間とこの場所を守りたいと、強く心に誓ったのである。

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