GX世界の英霊デッキ使い   作:超融合は許さない

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万丈目サンダーの始まり

 

 

 俺は独り、沈んだフェリーの船頭で揺れる。小型のフェリーを乗り継ぎしばらくして、学園から離れた停泊所のフェリーに乗って他の乗客と一緒に別の場所を目指していたところ、その船でエンジントラブルが起きたらしい。

 それによって船は止まり、加えて船底に出来た小さい穴により水が入り込み、時間はかかるが沈む様子だった。救命ボートが備え付けられていたらしいのだが、若干1名ほど積載量オーバーで溢れると言われた。

 俺だって、誰かのために犠牲になるなんてのは性分じゃないし、何より俺にはやらねばならないことがあった。

 

 しかし、女子供を押し除けて生き残り、そしてのうのうと生きていくなんてことは、この万丈目準のプライドにかけて許容できなかったのだ。

 だから俺は救命ボートに押し込めるだけ他の乗客を押し込み、1人で船に残って食料や水などの備蓄を漁っていた。

 しかしそこまで多くの備蓄が積まれているはずもなく、俺は今、最後の水を開けて飲んでいる。

 

 

「くそっ...」

 

 

 救命ボートが発進する際に船長だった人が「遭難信号は出せたので、しばらくすれば救助艇が来れると思います」などと言ってきたが、この深い濃霧じゃこんな沈みかけの船を探せないだろう。

 あぁいや、ソナーがあるのか、いかん、食料不足で頭がボーッとしている。

 温い水を口に含む、怒りでも抱かなければ生きる活力が失われてしまいそうだが、怒りを振るっては体力が無駄に消耗する。

 

 

「何か...何かないか。俺に今やれることが...」

 

 

 俺の問いかけに対し、海からの応えはない。頭を抱え、頭の中には先の後悔、そして後の後悔が押し寄せてくる。

 あの時ああしておけば、この時こうしておけば、あれが起きたらそうしよう、これが起きたらああしよう。

 そんな取り留めのないことばかりが頭に浮かび、それを掻き乱すようにあの遊城十代の顔がチラつく。

 その瞬間、俺の乗っていた船が大きく揺れる。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 船が大きく揺れた。縦に突き上げられるような揺れかたであり、俺は船の上に立っていられなくなるほど激しく揺られる。

 しかし膝をガクガクとさせながらも船の縁を掴んで立ち上がれたため、ゆっくりと体を起こして下を確認し、揺れの正体を確かめる。

 甲板から身を乗り出して下を確認しようとしたところ、再び船が大きく揺れる。

 俺は水の入ったペットボトルを、船の揺れの衝撃で思わず手放してしまい、慌てて掴もうとして身を乗り出し、そのボトルを掴むと同時に俺は水面に落ちていく。

 

 

「う、うわああああ」

 

 

 船から投げ出され、俺は頭を下にして水面に落ちていく。走馬灯のようにゆっくり景色が見えて、恐らく船を揺らしていた犯人である存在の影をその目に捉えられた。

 その鯨のように大きい影の姿を見て目を閉じ、水面に落ちる衝撃と、そしてその後に鯨の泳ぎに巻き込まれて起きる悲惨な目を覚悟する。

 目を閉じて浮かんできたのは、遊城十代と小鳥遊優花の記憶だった。

 

 


 

 

 ぴちゃぴちゃという音に鼓膜が揺らされ、俺の眠りが妨げられる。

 閉じた瞼の先に、淡く黄色い光が揺らめいているように感じた。

 眠りが邪魔されたように気がして、 眠い俺はその光を手で払う。

 

 

「兄貴〜!ちょっと兄貴〜!起きてよ兄貴〜!」

 

 

 喧しい音を掻き消すように右手を振るい、俺は目を開けて起き上がった。

 生きている、その事実を確認するように俺は自分の身体を見回し、そして確認が終わり再び座る。

 ここはどこだ?最後に見た物はあの鯨の影...ならばここは、鯨の腹の中ということか?

 

 

「起きたか。随分と魘されていたようだが」

「誰だ貴様は。何者だ」

 

「私は君をここまで運び休ませていた。無事なようで何よりだよ」

 

 

 顔を鉄製の仮面で守り身体中に昆布を巻き付けた不審な男が現れる。

 そしてその全身に昆布を巻いた男...面倒だから昆布お化けでいいか、その昆布お化けは俺をここまで連れてきたと言う。

 良い迷惑だ、こんな薄暗い場所に連れ出されてどうなるというのだ。

 鯨の体内なら尚更だ。あぁいや、人がいるということは鯨の体内ではないのか?だがコイツは昆布お化けだし...あぁもう訳が分からん!

 

 

「ところで寝ている君が譫言のように吐いていた言葉についてなんだが、何やら強くなりたいだとか、遊城十代だとか、小鳥遊優花だとか呟いていたな」

「ちっそれがなんだ。昆布お化けに何の関係がある」

 

昆布お化け?……まぁ良い、それより、君はデュエリストなのか?」

「そうだが、何故そう思った」

「君を拾うのと一緒にカードも拾ってね、それがこれだ」

 

 

 昆布お化けの手元に40枚程のカードが現れる。

 そして横目でデュエルディスクのデッキを確認すれば、そこにはあるべき場所にカードが1枚も残っていなかった。

 あの昆布お化けに言われた言葉から推察するに、あいつが持っているカードは俺が自分のデッキとして持ち合わせていたカードのはずだ。

 

 

「それは俺のカードか、返せ」

「残念ながら無理だ。水に濡れて全部ダメになってしまっている」

「あっ、おい!」

 

 

 昆布お化けが手に持っていた俺のカードを、全て床の水たまりに落とした。

 いくら水に濡れてダメになった使えないカードだとしても、それは俺が集め、構築を練り、そして様々な思いを込めて使ってきたカードだ。中には人から借り受けたままのカードもある。

 それをそのように扱われてはいくら寛容な俺でもこの男に対して激しい憤りを覚える。

 

 

「貴様……!」

「ほう、カードを大事にしているのだな。それは済まなかった」

「虚仮にしやがって、とっとと要件を言え。ないならどこかへ消え去れ!」

 

「要件ならある。それとは別に、先の謝罪としてこのカードを渡しておこう」

『おジャマ・イエロー』だと?何だこの雑魚カードは。こんなもの、俺はいらん」

 

「そう言うな、持っていて損はない。それと要件についてだが、君が言っていた強くなりたいという願いについてだ」

 

 

 昆布お化けの顔付きが変わった。仮面の下で表情は見えず、声音にもほとんど変化はないが、確かにこいつの纏う空気が変わった。

 強くなりたい。それは俺にとっての切実な願いだ。

 カイザーの持つ、そして認めたくはないが恐らく遊城十代も持っている、俺にはない確かな強さ。俺はそれを求めていた。

 

 

「だったらなんだ」

「ならば、そのためには過酷な試練を乗り越える覚悟はあるかね?」

「ふんっ当然だ。初めから、楽な道のりだなどと思ってはいない。俺は砂埃を被ろうが、泥に塗れようが、必ず強くなってみせる」

 

「ふむ、良い覚悟だ。ならば、存分に試練を乗り越えると良い」

「なんだと?」

 

 

 その時、俺の身体は宙へと投げ出される。

 風圧か水圧か、または動く床のような何かか、急な衝撃すぎてどんな衝撃が加えられたのかもわからなかった。

 空へ向けて飛ばされた俺は宙を舞い、冷たい氷の塊の上に投げ出された。

 

 

「ぐはっ!」

 

 

 辺りを見回せば一面が氷の青白い世界だった。

 辺り一面が氷山だということは、ここは北極か南極か?もしくは、グリーンランド辺りの可能性もあるが。

 見晴らしの良い場所へ移動しながら周囲を見回すと、何やら建物のような人工物が見えてくる。

 

 

「行ってみるしかない、か」

 

 

 氷の冷気に身体の熱を奪われながら、凍える身体で前を見て歩き続ける。

 俺には自分に立てた誓いがある、あいつらと結んだ契りがある。それが残っている限り、俺はこんな極寒の寒さ程度で根を上げていられない。

 冷たい指先が僅かに震え、足の力が抜けそうになる中、その建造物の前へと到着する。

 

 

「おい!開けろ!誰かいないのか!おい!」

「無駄だ、その門は40枚のカードを持って前に立たなければ開かない」

 

「おいジジイ、貴様何か知っているのか?」

ジジイ……ああ、ここはデュエルアカデミアノース校。40枚のカードを持ってデッキを作ること。それがこのアカデミアの入学条件なのだ」

「ノース校だと?」

 

「ああ、この島には至るところにカードが隠されている。それらのカードを探し集め、そして40枚のデッキを作らなければ、私のように落ちぶれてしまうことになる」

「お前のように、だと?」

 

「ああ、私はカードを39枚まで集めることが出来たが、しかしその時点で気力、そして体力の両方を使い果たしてしまった。今はもう何もすることができず、ただここで蹲っているだけになってしまった」

 

 

 目の前のおっさんはそう語った後、火を眺めながら再び膝を抱え始めた。

 こいつ、いつからここにいるんだ?俺は水と食糧が不足した環境にここ数日いたから分かる、そんな極限状態で何年も過ごせるわけがない。ならばこのおっさんはこの数日の間にノース校に入ろうとして、そして断念したのか?この歳になってからアカデミアに?

 どうでもいい疑念が頭に浮かぶ中、それら全てを振り払うように頭を振り、懐から1枚のカードを出す。キャッシュカードだ。

 

 

「おっさん、ならばこれをやるからその39枚のカードを譲ってくれ」

「だ、ダメだ!これは私が命を賭けて集めたカードなんだ!いくら使えなくとも、それを手放すなんてできない!」

「そうか、分かった。ならば俺は自分の足でカードを探す」

 

 

 心底大事そうにカードを抱え込む男を見て俺はキャッシュカードを懐に仕舞い、歩いてその場を離れる。

 初めからあまり期待はしていなかったが、あのおっさんの態度を見れば、無理強いをしようとすら思わないレベルだ。

 俺は急ぎ足でおっさんから離れようとすると、後ろから伸びてきた腕に足を強く掴まれる。

 

 

「待ってくれ、1つ言っておくことがあるんだ。この島ではより過酷な環境にほど強いカードがある。強いデッキを作りたければ挑戦するしかないが、それにはそれ相応の危険が待ち受けているのだ」

「そうか、分かった」

 

「気をつけて行ってくれ……」

「ああ」

 

 

 悴んだ手をポケットに入れて温めながら、俺は早速氷山の一角へと足を踏み出す。

 あのおっさん、やけに多くのことを教えてきたな。根が善人なのか、それとも余程後悔したから俺に自分を重ねているのか。まぁ何でも良い、為になる情報だ、ありがたく心に留めるとしよう。

 氷山の周りを目を凝らして観察し、1枚のカードが頂上付近に置かれているのを発見する。

 

 俺は決意を込めて、重い一歩を踏み出した。

 

 


 

 

 氷山、洞窟、野生動物、俺は様々な試練を乗り越えた。

 正直根を上げそうになった場面もあった、しかし俺は固い決意を持ってそれを突破し、ここまで辿り着いたのだ。

 俺の手には40枚のカードが握られている。

 

 

「よう、おっさん。まだ生きてるか?」

「君は……!無事に帰ってきたんだな!」

「ああ、カードはキッチリ集めてきたぜ」

 

「40枚のカードを...!では君は進むのだな、この先に...!」

「ああ。だがその前に、貴様にカードを1枚恵んでやる」

「なっ、良いのか?」

 

「当然だ。貴様には色々と情報を貰ったからな、恩には恩で返さねばこの俺のプライドが許さない」

「おお!ありがとう……!君にはずっと詫びたかったんだ!君にカードを譲ってくれと言われたあの時、私は君にカードを譲るべきだったんだ……!」

「気にするな、やると言っても俺のデッキには不要なカードだ」

 

 

 デッキの中からいらないカード、『おジャマ・イエロー』を抜き、彼に渡そうと差し出すが、その途中で指と手がピタリ止まって動かなくなる。

 は?なんだこれは、カードが手から離れない。指がピッタリくっついたままだ。

 俺のカードを受け取ろうとするおっさんから腕を伸ばされるが、その度に俺の腕は別の方向へと勝手に動かされる。

 

 

「く、くれるんじゃないのか?」

「知らん!手が勝手に……」

「ちょっと兄貴〜!なんでおいらを他の人にあげようとすんのよ〜!」

「うわぁ!なんだ貴様は!」

 

 

 目の前には全身が黄色い肌で、目玉が奇妙に飛び出していて、ダサい赤いパンツを履いたクリーチャー染みた見た目のモンスター。

 『おジャマ・イエロー』がそこにいた。

 

 

「?どうしたんだ、君?」

「はぁ?あ、あんた、こいつが見えてないのか?」

「私には何も……」

 

「兄貴〜!おいらの姿が見えるのは兄貴だけなのよ〜!」

 

 

 大体の状況を把握する。極限環境が齎したものか、それとも血吸い蝙蝠に毒を媒介されたのか知らないが、どうやらこれは俺にしか見えていないものらしい。

 はっきり言ってこんな気色の悪い生物、俺だって見たくない。

 

 

「くっ!邪魔だっ!いいから消えろ!」

「そんなこと言わないでよ兄貴〜!おいらには本当の兄弟がいるんだよ、一緒に探しておくれよ〜!」

「いいから離れろ鬱陶しい!」

 

「あ〜ん!」

 

 

 幻に向けて右腕を振るい、掻き消すように振り回すと幻覚は消えた。

 ふと視線を戻すと、おっさんが変な物を見るような失礼な目で見てきている。

 

 

「ああ、ええと、いらないカードだったな。じゃあこれをやる」

「おお……!ありがとう!これで私も先へ進めるよ!」

「先に行け、俺は疲れた。少しここで休んでから行く」

「わ、分かった。行ってくる!」

 

 

 先程までおっさんが休んでいた場所に座る。

 おっさんが点けっぱなしで行った焚き火の熱にあたり、俺は自分の凍えた身体を温めていた。

 膝を抱えて蹲り、少しの後悔と先の不安を胸に目を閉じる。

 

 

「これで39枚になってしまった……」

 

 

 あのおっさんに渡したカード、あれは要らない41枚目なんかじゃなく、俺がこの島で生き残る為に必要となる40枚のうちの1枚だった。

 だがしかし、俺はその40枚を集めるのに体力の殆どを使ってしまった。俺にはもう新しいカードを手に入れる余裕はない。

 俺はこのままここで弱々しい態度で蹲り、先程までのおっさんのように、ここで項垂れて新しい入学生を待つのだろうか。

 

 

「ははっ、馬鹿馬鹿しい」

 

 

 ふと手の感触に違和感を感じて目を向けると、地面に置いた右手の下に1枚のカードが置かれていた。

 魔法カード『カオス・エンド』、自分のカードが7枚以上除外されている状態に限り、フィールドの全てのモンスターを破壊することができるカードだ。

 あのおっさんの忘れ物か?だがあのおっさんはデッキが39枚しかないと言い、俺が渡した1枚を加えてゲートを突破した。

 ならば、ここにあるカードはおっさんが知らなかったカードということになる。

 

 

「ハッ、こんな近くのカードを見落とすなんて、あのおっさんも抜けてるな。これはありがたく俺が使わせてもらおう」

 

 

 そのカードをデッキに加え、俺はデッキをデュエルディスクにセットする。

 やっとだ、俺はやっとこのゲートを通れるようになったんだ。

 デュエルディスクをゲートに向けて掲げる。

 

 

「よく見ろ!ちゃんと40枚あるぞ!」

 

 

 ゲートの方から赤い光が差し、デュエルディスクと繋がる。

 デュエルディスクの機能を使ってセットされているデッキの枚数を計測しているのだろう。少しの時間を置いてゲートが正しく開かれる。

 そしてデュエルディスクが起動し、デュエルをするための状態へと展開された。

 

 


 

 

 万丈目がゲートを開き、勇ましい足取りで步を進める中、遠くでそれを見つめる影がある。

 彼の視界の外でその美しい紫色の髪を風に靡かせ、腕の先からは金属同士が擦れる硬い音を響かせながら静かに見守っている。

 彼に肩入れすることなく、かといって突き放すこともなく、彼女はただ、彼本来の実力を見定めようとしていた。

 

 






万丈目準:サンダーになる人。優花から貰い、返す予定でもあるカードも失ったと思い、かなり気にしている。

メドゥーサ:見定める機会だと思って一旦離れた人。濡れてダメになったとかはない。

主人公の名前を今さら小鳥遊優花にするのはあり?

  • 名前の法則的にそっちの方があり
  • ここまできたら慣れたからなし
  • どっちでもいい
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