規律式足 思いつき短編集   作:規律式足

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 成田良悟先生作。
 電撃文庫出版の、越佐大橋シリーズ。
 現代日本ですが、混沌具合がオラリオみたいなので書いて見ました。
 
 書いてるシリーズで詰まってる、のでストレス発散もあります。



オラリオ最恐の殺人鬼。

 

 空が青いと思った。

 

 だから俺は、殺した。

 

 そんな理由で充分なんだ。この都市では。

 本当は理由だっていらないんだけど、俺は理由もなく人を殺せるほど強くない。

 理由はその都度、殺人を犯す度に違う筈だったけど、一々自分に言い聞かせるのが面倒になってしまったんだ。

 時が、殺人数が、屍が、経験値が、名声が、偉業が、レベルが積み重なるにつれて、自然と人を、モンスターを殺す度にこう考えるようになった。

 空が青いから。雨が降っていたから。夜だったから。ダンジョンに潜ったから。

 この都市に居るから。

 だから、俺は殺した。

 殺した。殺した。殺した。

 ああ、そう何度も俺が本当に言い聞かせたいのは、理由なんかじゃない。

 俺が殺したという事実を俺自身に確認させたいだけだ。

 自分のしでかしたことから目を背けさせないために。自分の罪と向き合うために。

 向き合う度に、吐き気を伴う事実と直面する。けれどそれはいつの間にか、心地よい快楽へと変化していた。

 自分を見つめ直す度に、それができる自分はまだマトモだと安心できる。

 自分はマトモで狂ってないと、ホッとする。

 だから俺は、今日も人かモンスターを殺すのだろう。

 

 

 

 空はどこまでも青く高く、周囲の景色を柔らかく包みこんでいた。

 都市全てをぐるりと包む外壁、中央の天をつく程に高い塔、整えられた区画と、雑多な区画、あらゆる国や文明や文化が入り交じる建築物の数々。

 そんな混沌とした都市でも少し首を上に傾ければそこには空が見える。

 吸い込まれそうな果てしない空が。

 いつ見ても空だけは平和だ。

 主神様の命令でいつだがナイト・オブなんちゃらと共に討伐した伝説の黒竜の眷属である強大な竜種でも現れない限り、地上の空は平和だ。

 そう、平和じゃないのは地上。

 あるいはもっと下のダンジョン。

 主神様の命令でいつだか団長であるアス・・・・・・?、そうアスフィ・アンドロメダ達と一緒にゼウス・ヘラ・ファミリアが残した記録の階層まで潜ったことがあるけど、あそこは正に平和とは程遠い危険地帯だった。

 途中から俺一人で言ったから大した記録は取れなかったけど、色々あった、なんかこう色々、色々ありすぎて印象に残らなかったんだ。

 でも印象に残らなくても頑張れば覚えてられるかもしれない。ヘスティア様の眷属であるベル君のようにあらゆる英雄譚を記憶して語れるようになるかもしれない。彼の知識と語りぶりと熱意はすごくて、俺は密かに尊敬している。

 そうだ、俺もやってみればできるかもしれない。

 色々ある、で終わった印象を意識的に改変して、もっとはっきりくっきりと語れるくらい覚えて語れるようになれるかもしれない。

 いや、待て。

 考えてみれば、俺はダンジョンに潜ることが好きではない。階層主である図体のデカくて仕留めるのが面倒なモンスターども殺して、そこにある景色を眺めることに関心はない。主神様の命令でとりあえず行けるトコまで潜っただけだ。危ない危ない、好きでもないことを真剣になるのは、どう考えてもマトモじゃない。

 ああ、良かった。

 俺はまだ、マトモだ。

 そう認識したら、安心して、なんだか眠くなってきた。俺はまた空を見上げながら、気持ちの良い風に吹かれて心を落ち着かせることにした。

 だが、その安らぎは緊迫した少女の声で無惨に霧散してしまうことになる。

 

「・・・・・・そこまでです、雨霧さん。ベルを、開放して」

 

 俺の名を呼ぶのは誰だ?

 青空を見上げながら半分寝ぼけていた意識を強引に声の主に向ける。そこには長い金髪の人間らしからぬ美貌の、多分半分くらい風の精霊の、動きを阻害しないようななぜか背中が露出したデザインの軽鎧を纏った、暗黒期半ばから付き合いのある少女がいた。

 名前は、アイズ。アイズ・ヴァレンシュタインだ。思い出した。 

 世界の中心にして、ダンジョンの蓋である迷宮都市オラリオ。その現在の二大派閥の片割れであるロキ・ファミリアの幹部で、長剣に風を纏って斬りかかる危ない剣姫だ。

 初めて出会った時から大分成長してすっかり女らしくなったと思う。

 あの頃は尖ったナイフそのもので、俺にも何回も襲いかかってきたけど、主神様に殺さないでお願いされたし少女を殺しのは気分が悪いし、加減できる程度の実力だったから殺さずにすんでいた。

 よし、昔馴染みとの過去を思い出せる。大丈夫、まだ他人の事を考えられる。

 俺は、俺は、マトモだ。

 

「雨霧・・・・・・八雲さん・・・・・・。ベルを、ベルを放してくれませんか」

 

 ああ、アイズも俺のフルネームを覚えてくれたみたいだ。昔馴染みとはいえ、可愛い女の子に名前を覚えられているのは嬉しいなあ。

 そして、彼女に言われてーーー、俺は左腕に白髪の少年を抱えていることを思い出した。

 どうりで左腕が疲れると思った。でも、ベル君は男子にしては小人族でもないのにかなり軽い方だ。小柄で身軽だけど、じゃが丸君ばかり食べているのに痩せてることに驚くよ。

 驚くといえば、ベル君を人質にして逃げるのは三度目だったような気がする。

 ・・・・・・いや四度目か?五度目かも。

 俺は気絶している白髪の少年を見ながらゆっくり考える。

 最初にヘスティア様の屋台で紹介されて、最初に人質にしたときのことから、今に至るまでの長い長いここ二月ばかりの思い出を。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・そうだ四度目だ、はっきり思い出した。

 良かった、俺の記憶力はまだ正しく機能しているようだ。

 とりあえず俺は自分に安心しながら、今度は目の前の女の子を安心させる為に言葉を紡ぐ。

 

「ああ・・・・・・安心していいよ。もう何度もこんなやり取りをした記憶があるけど・・・・・・この子を傷つけるつもりはないから、俺が君達ロキ・ファミリアとガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアから逃げ切れたら無事に開放するつもりだ」

 

 眼前に広がる大部隊。

 顔見知りだらけの冒険者達。

 これだけいるなら世界だって救えそうな綺羅星のような英傑揃いだけど・・・・・・多分、黒竜に辿り着く前に全滅してしまうだろう。

 

「信用できません」

 

 いつだかの尖ったナイフのような鋭い気配で俺を睨みつけるアイズ・ヴァレンシュタイン。それだけ小脇に抱えているベル君が大事なんだと思うと、彼女の情緒の成長ぶりを祝って得意のダンスを披露したくなる。

 そんな俺の喜びを余所に、彼女は続ける。

 

「貴方は・・・・・・殺人鬼ですから」

 

 一瞬の間。

 空気がびしりと張り詰めたように感じた。

 ロキ・ファミリアの、幹部以外は怯えて禄に付き合いの連中は必死に立ち向かおうと気を強め、幹部の何人かは獰猛に笑う。

 アストレア・ファミリアの団長は悲しげに目を細め、団員達は迷いを振り払うように気丈に立つ。

 そして都市の憲兵たるガネーシャ・ファミリアは今日こそは捕らえると意気軒昂だ。ただ昔自爆兵から助けた少女は必死に手を伸ばそうとして、団長である姉に止められていた。

 

「俺は殺人鬼だ。それは認めるよ」

 

 自分は殺人鬼であり英雄ではないと肯定はするが、俺は決してイカれていない。

 この都市に、この狂った都市に居る限り、俺はマトモだと言っていい。

 ここならば、故郷とは違い、実家とは違い、殺人鬼という理由が、俺がキチガイという証明にならない。

 

 ここはオラリオ。

 世界の中心にして、ダンジョンの蓋。

 

 俺は今、その蓋の上に立っているのだから。

 ニヤリと笑っている自分に気づき、そんな自分に呆れながら目の前の少女に、オラリオの主力が集結した軍勢に歩を進めた。

 彼ら彼女らを生かすか殺すかは、俺次第だ。

 そして彼ら彼女ら次第だ。

 だから、まず殺すかどうか決める為に、判断する為に、俺はベル君を抱えたまま眼前の剣姫へと向かって足を踏み出した。

 ヒュッと後方のロキ・ファミリア幹部候補のエルフの少女が怯えたように喉を鳴らす中、剣姫は構えた剣と身体に風を纏う。

 吹き荒れる風が髪を揺らす中、俺はどうやってベル君を劇的にアイズに助け出させるか悩みだす。知り合いの眷属の恋心を応援できる。

 俺は、俺はまだ・・・・・・マトモだ。

 そんな事を考えてる間に、アイズは風で加速し剣を振りかざし、周りの冒険者達も襲いかかってくる。

 まったく、随分と嫌われたものだ。

 

 

 ーーー今日はまだ、五人しか殺してないのに。

 

 

 

 自分がマトモだと信じている少年は、特別な存在だった。

 その生まれ持った能力により故郷、実家から、孤立していった彼は情報屋気取りの主達とギルドの主神の使い走りの旅神に手を引かれ、オラリオへと辿り着いた。

 暗黒期半ば。

 未だ光明見えぬその時期にとあるきっかけで才能とスキルを開花させ、彼は殺人鬼へと堕ちた。

 今やこの曲者揃いの都市で、特に色濃い凶器として、ただ、殺す。

 殺人など珍しくもないことだが、ギルドの敷く秩序に逆らい、あらゆるファミリアに逆らって、全てを敵に回してまで我を通す存在。

 かつて暗黒期末期に現れた英雄の残り火達すら退けた、一匹の狂った狼。自らが伝説となり、もはや都市の住民に実在すら信じられなくとも、彼は、彼の感覚の中と、ヘルメスの胃痛と共に静かに生き続ける。

 

「ベル君をアイズに投げて、さらにロキの部屋から拾ったソーマをぶっかける」

 

 その殺人が正当防衛によるものだとオラリオ上層部、ファミリア幹部達は知ろうとも、彼の実力と被害者数の多さから、今日もまた不毛な逃亡劇は続く。

 

 オラリオ最恐の殺人鬼にして、オラリオ最強の冒険者。

 そしてオラリオ一の自由人。

 雨霧八雲は今日も自身をマトモだと思う為に都市を彷徨う

 

 





 補足・説明。
 
 雨霧八雲。
 成田良悟先生作、越佐大橋シリーズの殺人鬼。
 を元にしたオリキャラ。
 その生まれ持った能力は、自身の意識感覚を常人の数倍速度に加速させること。
 ブリーチの涅マユリが十刃のアレに打ち込んだ超人薬の効果を自分でできる感じ。
 対人戦では最強であり、暗黒期にジャイアントキリングしまくったせいで、レベル九に至った怪物。
 主神であるヘルメスの命令で黒竜の封印地に潜り間引きやダンジョン下層に単独で潜ったりもする。
 自由人であるが、一応三回に一回はヘルメスに従う。
 そしてヘルメスの胃痛の種。
 英雄を作りたいのに、殺人鬼を作り出してしまった。
 なお、現在の周囲からの襲撃は暗黒期にフィンが闇派閥と共倒れを目論見流した噂のせい。
 ヘスティアなどの善神は様付けするが、ヘルメスは名前すら呼ばないくらい嫌いで、ロキやフレイヤもうっとおしいと認識している。
 アストレア・ファミリアの恩人だが、雨霧八雲が殺人鬼である為、彼女らを苦しめている。

 ベル・クラネル。
 幸運が仕事しない白兎。
 なんとなく雨霧は彼を人質にしがち。

 アイズ・ヴァレンシュタイン。
 かつては雨霧が英雄かと期待したが殺人鬼だったので一時期凹んでいた。


 好きなキャラの物語ですが、多分続かない。

 
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