あなたは私の愛人   作:しがない学生

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第5話

「良樹さーん!おはようございまーす!」

 

看護師のとてつもなく心地の良い声に起こされた。まさしく天使だ。あの時の拓とは比べものにならないくらいに。

 

「おはようございます。確か今日で退院なんですよね」

 

どうやら検査をしたところ特に異常がなかったらしい。そのため、翌日には退院することになっていた。

 

「はい!退院おめでとうございます!もう来ないようにしてくだいね?」

 

天使は冗談交じりに微笑んでみせた。あぁ神よ。もし例のド変態がこんな人なら私は許してしまうかもしれません。こんな私をお許しください。

 

いやいや、何言ってんだ。たとえこんな天使だったとしてもストーカーには変わりない。正気を保たねば。

 

「看護師さん。1つ伺いたいことがあるんですが、大丈夫でしょうか?」

 

「はい!大丈夫ですよ!どうしました?」

 

心なしか天使は俺の事を全て知っているような目付きをしている気がした。冷や汗が背を伝う。

 

「クラスメイトが見舞いに来た時って何人俺のところへ来ました?」

 

「3人だったと思います!いや...違うかも...」

 

寒気がした。3人ということはあのフードを被った不審者は例のド変態で確定したと言っても過言ではない。しかも、病室には面会の許可がないと入れないはずだ。

 

他の人の面会にでも来てたのか?だとしたらなんでわざわざ俺のところに?

 

背を伝う液体が増えているのを感じた。

 

「分かりました。教えていただきありがとうございます」

 

天使はふふっと微笑み病室を後にした。昨日までとは大違いだ。二重人格とかなんだろうか。

 

いや失礼すぎるか。やめよう。天使の話を聞いて確信した。

 

ド変態野郎は俺の身近にいる。それも、俺の目に入る範囲にだ。クラスメイトからの恋愛感情という考えもあるにはあるが、学生がするには道具などが揃いすぎている。

 

救急に通報したのが誰かわからない以上、盗聴器等が仕掛けられていると言って間違いないだろう。

 

大人だとして一切目星がつかない。大人とは余り関わりを持っていないはずだ。

 

あるとしても...先生ぐらいか?でも俺はクラスでそこまで目立つ方じゃない。

 

あぁクソ!一切分からない!一体何が目的なんだ!

 

乱雑に水を汲み、喉へ流し込んだ。そういやご飯まだだな。腹減ったな。

 

「良樹さーん!最後の病院食ですよ〜!」

 

天使が再び病室を舞い戻ってきた。にしてもやけにテンションが高いな。本当に全てを見透かされてる気分だ。

 

「ありがとうございます。ちょうどお腹がすいたところでした」

 

今日の病院食は非常にバランスの良い和食だ。あぁ美味いな。すり減った心身にとても染みた。

 

 

 

「お世話になりました」

 

親と俺はそう言い残し、病院を後にした。

 

天使は少し悲しそうにしていた。俺と話せなくなるのが悲しいのか。可愛いやつめ。

 

天使の裏の表情が見えた気がした。目が笑っていたのだ。いつでもそばにいるよと訴えかけるような目だ。

 

え。本当にこの人なのか?俺は天使から目が離せなかった。今目を離すと飲み込まれてしまいそうな気がしたからだ。俺は天使を視界の端で捉えたままそそくさと帰路に着いた。

 

明日から学校か。そろそろ拓も忙しくなくなると言っていたな。やっと心の拠り所ができる。

 

さてさて、拓に退院したことを報告しよう。

 

良樹︰退院かんりょー

 

拓︰おせぇよバカ!!

 

良樹︰は?めっちゃ早いだろ

 

拓︰もう知らん

 

なんだこいつ。将来彼女のこと監禁とかしてそうだな。

 

いや、いくらなんでも拓に失礼か。まぁ否定はしないでおこう。しても違和感ないし。待てよ?なら拓がストーカーという可能性もあるのか?俺に異常なまでに執着してる気がするしな。

 

それに...前に■■■について調べてたし。

 

あれ?何について調べてたんだっけ?きっと忘れちゃいけない。大事なものだったんだ。

 

思い出せ。俺の犯人を突き止める手がかりになるはずだ。

 

そういや、入院してからずっと違和感を感じていた。俺の中から何かがすとんと抜け落ちているような。そんな曖昧でなんとも言えない感覚があった。

 

記憶喪失...とかでは無いと思う。拓が調べてたことはどうでも良すぎて忘れてるだけだろう。

 

ふと腕に目をやった。何故か鳥肌がたっている。最近肌寒くなってきたからそのせいだろう。

 

そういや、今日のご飯何かな。

 

「母さん。今日の晩御飯なに」

 

「今日は退院祝いで良樹が好きな鍋よ!」

 

あれ。俺好きな食べ物とかあったっけ。まぁいいや。鍋は嫌いじゃない。楽しみだ。

 

俺は車の中で眠りについた。

 

 

 

鍋のアツアツの具材と出汁が俺の凍りついた身体を溶かしていく。美味い。美味すぎる。なんだこれ。

 

「母さん今日の鍋いつもより美味しいね」

 

「あらそう?」

 

親と食べたのは久しぶりだ。父さんは海外に仕事へ行くと言ってしばらく帰ってこない。父さんとも食べたかったな。

 

この時だけはストーカーの事など忘れてただ食事を楽しんでいた。

 

あぁ。このままストーカーなど消えればいいのに。

 

ピコン

 

通知だ。

 

「良樹さん鍋好きなんですね。私も今鍋食べてます」

 

また見知らぬアカウントからだ。

 

「ごめん母さんトイレ」

 

俺はトイレへ駆け込み、先程の鍋や朝の和食など全てを出し尽くした気がした。

 

家族との食事も楽しませてくれないのか。いずれ殺してやる。

 

和食などと一緒に何か大事な記憶も抜け落ちた気がした。

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