やあ。僕、神様   作:ハンヴィー

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オーソドックスな手法で孕むTS娘・前編

「ようやく、ようやくここまで辿り着いた……」

 

 荒涼とした大地の果てに佇む禍々しい瘴気を放つ城を睨み、勇者様は万感の思いをこめて呟きました。

 

「ハルカ。私がここまで来れたのも全て君の尽力があってのことだ。ありがとう」

「……恐れ入ります」

 

 勇者様の感謝の言葉に、私は目を伏せながら、恭しく頭を垂れました。

 

「ですが、私は何もしていません。全て殿下ご自身の御力によるものです」

「謙遜だな、ハルカ。君の助けがあったからこそ、私はここまで来ることが出来たのだ。決して、私一人だけの力では無いよ」

 

 勇者様は、そう言って爽やかに微笑んで見せます。歯が綺麗です。勇者様の『王道』スキルが発動しているせいか、周りの空気がどこかピンク色になっています。

 耐性のない人は、老若男女の区別無く「勇者様! 抱いて!」となってしまうそれはそれは恐ろしい能力です。

 幸いなことに、そこそこ位の高い方士である私は、その影響を受けることはありません。

 

「ああ、そうか。君の祖国では、自分の能力をひけらかすことを美徳とはしないのだったな」

 

 確かに私の国にはそういう面はありますけれども、謙遜などでは無しに、本当に何もしていないのです。

 たった二人で、魔王の居城まで辿り着くことが出来たのは、全て勇者様の持つ「王道」スキルの賜物です。

 王道スキルとは、その名のとおり、いかにもありがちなお約束的状況になった時、無敵の力を発揮する勇者特有のスキルです。

 例えば、怪物やならず者に襲われている婦女子を助けるとか、魔物の群れに襲撃された村をたった一人で防衛するとか、そして今のように、異性を口説くときとか。

 そんなありがちな状況において、ほぼ100%の成功率を保証するとんでもないインチキスキルです。

 こんな破格のスキルを持っているからこそ、たった一人で魔王討伐なんて常軌を逸したキチガイじみたことが可能なのです。

 

 さて、そんな勇者様が私の国を訪れたのは、今から丁度一年ほど前の事です。

 魔王を倒すために協力して欲しいという要請と共に現れた勇者様は、西の大陸で勇者の末裔だかなんだかが代々統治をしているという大国の第三王子です。

 大陸に出現した魔王によるゴタゴタなんて、島国である我が国にとっては、わりとどうでも良い事なのですが、魔王が現れたときは一致団結して協力しましょうという条約があるので、無碍にすることも出来ません。

 かといって、直ちに我が国の安全保障に関わるわけではないので、御大層な支援をしてやる気にもなれません。

 そんなわけで、白羽の矢が立ったのは、いちおうは皇族の末席に連なる者で、継承権が無く、そこそこ実力のある方士である私というわけなのです。

 いちおう、我が皇国随一の方士と謳われる方の一番弟子でもあるので、勇者のお供には適当ではないかと判断されたみたいです。

 

「勇者には『王道』スキルがあるから、大丈夫だよ。お前に危害が及ぶことは無い。付いて行っておやり」

 

 そう言った後、師匠はニヤリと悪そうな笑みを浮かべました。

 

「むしろ、うまい事取り入れば、玉の輿に乗れるかもしれないよ? ひひっ」

 

 冗談ではありません。

 なぜなら私は、今でこそ女性ですが、前世では男性だったからです。

 男性だった頃、どのような人生を送っていたのかまでは、はっきりと覚えていません。

 ごくごく普通のサラリーマンだったような気がしますが、別にブラック企業の社畜だったわけでは無かったはずです。

 まったく、異世界転生なんて、ブラック企業の社畜とか、異世界転生しなきゃ本気出せないような無職童貞とか、歳の割には老成(笑)してるガキンチョとかの専売特許だと思っていたのですが、そうではなかったようです。

 オギャーと生まれた時から男としての意識があったわけでは無く、師匠に弟子入りしたあたりで、唐突に前世を思い出した形なので、いちおう、女性としての性自認はあります。

 あるのですが、やはり、自分が男性だったという意識も根強く残っているわけで、今後の人生設計から、結婚して家庭を築くという選択肢はなくなりました。

 そんなわけで、全力でお断り申し上げたかったのですが、帝からの勅命ということもあり、渋々勇者様の魔王討伐に同行することになってしまいました。

 旅立ったばかりの頃は、不安で一杯でしたが、結果としてそれは杞憂でした。

 私が勇者様にしてあげたことといえば、野営の時にご飯を作ってあげたりとか、汚れ物の洗濯をしてあげたりとか、お洋服の解れを直してあげたりとか、多少の旅の心得があれば、ある程度は自分ひとりででも出来るような、ちょっとした身の回りのお世話だけです。

 私自身に長旅の経験はありませんでしたが、方士としての修行の一環として、方術に使用する薬草の選別や採集を始めとした、基本的な野外活動の知識を師匠から一通り実践を通して叩き込まれていたので、そつなくこなすことが出来ました。

もちろん、道中では魔王の手先や盗賊なんかに襲撃されたこともありましたが、前述した勇者様の「王道」スキルのお陰で、瞬きする間もなく蹴散らされていきました。

 そんなわけで、方術の腕前にはそれなりに自信があった私ですが、それを発揮する機会はついぞありませんでした。

 あえて言えば、野宿するときに魔除けの結界を張ったりしたことぐらいでしょうか。

 今思うと、結界を張らなくても、何かあれば直ちに勇者様の『王道』スキルが発動するので、あまり意味は無かったかもしれません。

 

「ハルカ。聞いてくれ」

 

 勇者様は私の肩にそっと手を置き、じっと正面から私を熱っぽい眼差しで見つめてきます。

 

「魔王を倒して凱旋したら、私は君を妃にする」

 

 ああ、やっぱりそう来ますか。予想通り、勇者様は私に告白してきました。

 端からすると、どう見ても死亡フラグくさいのですが、勇者様の『王道』スキルにかかれば、そんな死亡フラグもお約束に変換してしまえるのです。なんでもありです。

 

「お戯れが過ぎますわ、殿下。私のような端女(はしため)など、殿下に相応しくはありません」

 

 心境的にはすっぱりきっぱりはっきりとお断り申し上げたかったのですが、相手は一国の王子様です。恥をかかせるわけには参りません。

 

「何を馬鹿な。君は祖国の皇族に連なる血筋なのだろう。私の后となれば、君の国とは縁戚ということになる。両国の繁栄にとっても、悪い事では無いだろう」

 

 確かにその通りではありますが、末席も末席で陛下に拝謁したこともないような遠い遠い血筋です。

 暮らしぶりも、一般の平民より少しマシな程度でしかありませんし。

 愛想笑いを浮かべたまま、どう断ろうかと思案に暮れていると、突然背後から肩を掴まれ、ぐいっと引っ張られました。

 あっと思う間もなく、私は空高く舞い上がっていました。

 視界のはるか下には、こちらを驚愕の表情で見つめている勇者様の姿が見えました。

 

「ウェーッハハハハハ!」

 

 私の耳元に神経を逆撫でするような笑い声が響きました。

 

「「私はぁー、魔王軍四天王がひとりぃー、空魔将サルーマ・ミ・レンダローですぅー」

 

 ええと、これはまさか。あれですか。

 ヒロイン枠の女性が敵に攫わて人質に取られるという、『王道』パターンが発動してしまったのでしょうか。

 私自身が『王道スキル』の影響を受けることが無くても、周囲が影響を受けて巻き込まれてしまうことが、これまでにも度々ありました。

 迂闊でした。これは非常に面倒なことになってしまいました。

 

「ハルカーっ!!」

 

 勇者様の悲痛な声が遠ざかっていきます。

 

「勇者よおぉー、あなたのぉー、伴侶はぁー、預かりましたぁー」

 

 無闇矢鱈と語尾を伸ばす頭の悪い喋り方がムカつきます。

 この四天王とかいう猿馬見れんだろ(?)さんを、得意の方術でクビチョンパしてぶっ殺すのは簡単ですが、安易にそんなことをすれば、私も真っ逆さまに墜落してぺしゃんこになってしまいます。

 いくら、優秀な方士である私でも、さすがに空を飛ぶことは出来ませんので。

 猿馬さんに捕獲された私が連れてこられたのは、さっきまで眺めていた魔王さんの居城でした。

 はてさて、どうしたものでしょうか。困ってしまいました。

 何度か逃げ出す機会を伺ってはみたものの、四天王とか嘯くだけあって、猿馬さんに隙はありませんでした。

 やがて私は、方術を封じるための首輪みたいなのを付けられ、完全に無力な小娘にされてしまいました。

 変な名前のクセに用意周到でクソ生意気な輩です。死ねばいいのに。

 

「あのー、私を攫って人質にでもするつもりなのでしょうか。残念ながら、そんなことしても無駄ですよ?」

 

 たとえ私を人質にしたところで、勇者様には『王道スキル』があります。

 あのふざけた能力の前に、人質なんて王道過ぎる手段が役に立つとは思えません。

 

「ウェーッハハハハハ! 浅はかぁー、実に浅はかですぅーねぇー」

 

 こんな頭悪そうな話し方するような輩に、小馬鹿にされて、心底ムカッ腹が立ちます。

 こいつを殺害するときは、チンポコ引っこ抜いて、臭い息を吐き出す口に押し込んで縫い付けた後、内臓をぶちまけてやることに決めました。

 

「あなたのぉー、役目はぁー、人質なんてぇー、ありきたりなものではぁー、あーりませんー」

 

 人質ではない?

 ではいったい、何の目的で、私をかどわかしたというのでしょうか。

 気になるところではありましたが、のんびり考えているような時間は与えてくれませんでした。

 猿馬さんに引っ立てられ、私は魔王さんの前に連れていかれたからです。

 魔王さんは、私が想像していた三倍くらい、ずっと魔王でした。

 立派な角が生えて、目が三個あって、腕が6本もあって、筋骨隆々で、身長が人間の十倍ぐらいはありそうです。

 魔王を名乗るだけあって、随分と人間離れした御方でした。

 

「よくやった、空魔将サルーマよ。大儀である」

「ははーっ」

 

 猿馬さんは、仰々しい仕草で魔王さんに平伏しています。

 

「貴様が、極東の賢者ハルカか」

 

 魔王さんの三つの瞳が、柱に縛り付けられた私をぎろりとねめつけます。

 賢者って、私の事なのでしょうか。初耳なのですけれど。

 

「聞くところによると、勇者の小僧とは将来を誓い合った仲らしいな」

「違います。超違います」

 

 いつの間にそんな話になっていたのでしょうか。

 共に旅をしている間、そんな雰囲気になったことは、一度としてありませんでした。

 もしかして、周囲にそういう誤解を与えることも、『王道スキル』の能力なのでしょうか。

 考えてみれば、私がこうして攫われたのだって、『王道スキル』が周囲に与えた結果なのかもしれません。

 心底ろくでもないチートスキルです。

 

「ククク……まあ、よい」

 

 魔王さんは、そう言って顎をしゃくりました。

 すると、闇の中で何かが蠢く音が聞こえました。

 ぬちゃっとかにちゃっとか、そんな生理的嫌悪感を煽るような気色の悪い音です。

 

「うっ……」

 

 物音の次には、思わず顔をしかめたくなるような、強烈な腐臭が漂って来ます。

 生ゴミが腐敗したような、形容しがたい吐き気をもよおす悪臭です。

 鼻を抑えたかったのですが、柱に磔にされているためそれも出来ません。

 

「な、なんですか、これ……」

 

 たっぷり数十秒かけて闇の中から全身像を現したソレは、生肉の塊でした。

ピンク色の肉の塊からは、男性器を思わせる触手が無数に生えています。

 まままままさか、まさか、これは……!! この展開は……!!

 私は、この旅が始まって以来、初めての恐怖を覚えました。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと、ちょっと、待ってください!」

 

 無数の触手の塊が、にちゃぁ……みたいな気色悪い音を立てながら、私の足元ににじり寄って来ます。

 

「貴様には、これから苗床として我が眷属を産み出し続けてもらう」

 

 ひいいっ。やっぱりでした!

 

「これまで殺してきた魔物達のぶんまでな。たっぷりとな。クククク……」

「ままま、待ってください! 私、魔物さんを殺したりなんてしてませんよ!?」

 

 魔物さん達を、虫みたいに屠殺して回ったのは、あくまで勇者様です。

 そもそも私は、勇者様が全部やっつけてしまうので、魔物さんを倒すどころか、戦ったことすら皆無なんですよ!?

 悪いのは全て勇者様なんです!

 

「ふん。韜晦しても無駄だ。貴様が勇者の小僧と共に、大陸のあちこちに張り巡らせた神聖結界のおかげで、我が眷属の多くが浄化されて死滅したのを、忘れたとは言わせんぞ!」

「神聖結界……?」

 

 なんでしょうか、それは。

 そんな御大層なものを張り巡らせた覚えはないのですが。

 あ、もしかして。

 

「野営の時に張っていた結界のことでしょうか……?」

「そうだ!」

 

 あれは、そんな大袈裟なものでは無く、あくまで魔除け程度の簡便な結界です。

 魔物さん達を大量殺戮できるようなものではありません。

 ドラクエのトヘロスみたいなものです。

 そう説明したかったのですが、魔王さんの剣幕があまりにも凄まじかったので、私は何も言えませんでした。

 さすがは、魔王さんと言うだけの威圧感があります。

 額に何本もの青筋を浮かべ、ギリギリと歯を食いしばり、六本の逞しい腕で切歯扼腕している姿はかなりの迫力です。

 

「貴様には、その償いを存分にしてもらうぞ! お前の身体でとっくりとなぁ!」

「ひ、ひいいっ!!」

 

 触手の一本が、私の足首に絡みつきました。素肌に触れる脈打つ生肉のような感触に、背筋が泡立ちます。生理的な嫌悪感に、私は身じろぎすら出来ません。

 は、早く助けて助けてください、勇者様! ヒロインのピンチに颯爽と駆けつけるのが、あなたのスキルでは無いのですか!?

 そこまで考えて、ふと、とても嫌な可能性が頭に浮かんでしまいました。

 攫われたヒロインを助けに来るが、間一髪間に合わず、ヒロインは無残な最期を遂げてしまう。それにブチ切れた勇者様が、なんかとんでも物凄い謎のパゥワーを発現させて魔王を倒してしまう。

 こういう展開も、ある意味王道展開と言えるのでは無いでしょうか。

 まずいです。非常にまずいです。

 ぬとぬとの触手は、既に太股のあたりまで這いずり上がってきています。

 思わぬ貞操の危機に、私は完全にパニックになっていました。

 しかも、元男としての前世を思い出している今となっては、その嫌悪感は想像を絶するものがあります。

 男性器に酷似した軟体質の触手の先っちょが、私の下履きに潜り込もうとしたその時でした。

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