私の身体から、まばゆい黄金の光が溢れ出しました。
余りの神々しさに、目を開くことが出来ないくらいです。
「ぬおおおおっ!? ば、馬鹿な! この、この光は……!!」
「勇者のぉー、護りの光ぃー?」
魔王さんと猿馬さんの驚愕する声に、私は恐る恐る、閉じていた目を開きました。
私の太股から秘所に到達しようとしていた触手の化け物は、跡形もなく消えていました。
僅かに大理石の床に染みのような痕跡が残るのみです。
とりあえず、貞操の危機は脱したようではありますが、自分の身に起きたことが理解できず、魔王さんや猿馬さん同様に、ぽかんとしてしまいました。
「無駄だ。魔王。お前にハルカを傷つけることは出来ない」
良く通る声と共に、勇者様が颯爽と姿を現しました。
「済まない、ハルカ。遅くなった!」
「で、殿下ぁ……!!」
ゆ、勇者様! お待ちしておりました! 今回ばかりは、本当に本当に、心の底から感謝しています!
「き、貴様……!! なぜ、ここに!!」
「ば、ばかーなー? 私以外の他の四天王の三人はぁー、どうしたのですかーぁ?」
魔王さんと猿馬さんが狼狽しています。
「私がここにいるという事は、つまり、そういうことだ」
魔王さんをキッと睨みつけると、抜き身の聖剣の切っ先を魔王さん達に向けます。
さすがは、インチキチート勇者様です。
四天王の三人とやらも勇者様が華麗に屠殺したようです。
さすがです、勇者様。
さあ、さっさと魔王さんと猿馬さんを退治してくださいな。
「はああああっ!!」
「ぐーわー、やーらーれーたー!」
瞬きする間もなく、猿馬さんがクビチョンパされてしまいました。
すぽーんと飛んで床を転がる猿馬さんの生首は、驚愕の表情に彩られていました。
「さすがは四天王筆頭。手こずらせてくれた」
剣を一振りして血糊を払い、勇者様が呟きます。
少しも手こずっているようには見えませんでしたが、私の目の錯覚なのでしょうか。
「次はお前だ。魔王!」
「ほざけえ! こわっぱがあああ!!」
勇者様と魔王の闘いが始まりました。
「ぐーわー、やーらーれーたー!」
そして、一瞬で決着がつきました。
当然、勇者様の圧勝です。
猿馬さんと同じように、クビチョンパされてしまいました。
滅茶苦茶強そうだったのですが、勇者様の『王道』スキルの前には無力だったみたいです。
「ば、馬鹿な……この儂が……」
ころころと床を転がった魔王さんの首は、忌々しげに勇者様を睨みつけます。
「だ、だが、忘れるな、勇者よ。光あるところには、必ず影がある。いずれ新たな魔王が闇から現れ、再び世界を恐怖に陥れるであろう……」
魔王さん、どうやら、おくたばり遊ばされるようです。
第二形態に変形したりとかは、無いみたいです。意外と地味な最期です。
「衷心よりの忠告痛み入る、魔王よ。だが、その心配は無用だ。たとえ新たな脅威が産まれようとも、私とハルカの子供達が、その末裔が、貴様らの野望を打ち砕く!」
「へあ?」
思わず、変な声が漏れてしまいました。
今、勇者様は何と言ったのでしょうか?
勇者様と私の子供達、と言ったような気がしたのですが。
私の聞き間違いでしょうか。
「ぐっ、やはり、か……。その娘は、お前の子を……! 先ほどの護りの光は……!」
「そうだ、魔王。彼女は、その身に私の子を宿している!」
聞き間違いでは無かったようです。
勇者様とズコバコした記憶なんて、私にはありませんが、どういう事なんでしょうか。
「おのれ、口惜しや……」
その言葉を最後に、魔王さんは風に吹かれて飛び散る灰のように、跡形もなく消えていきました。
「怪我は無いかい、ハルカ」
「あ、ありがとうございます、殿下……」
微笑みながら手を差し伸べる勇者様の手を、おずおずと握ります。
「あの、殿下」
「何かな、ハルカ」
勇者様は、いつもと変わらない爽やかな笑顔で私を見つめます。
その笑顔が、今ほど、底知れない程に恐ろしいと感じた事はありませんでした。
「さ、さっき、魔王が言っていた事なんですけど……。わ、私が、殿下のお子を……」
「ああ、その通り。君は私の子を宿している」
怒りや驚愕よりも、困惑してしまいました。
いったい、いつの間にそんな事になっていたのでしょう。
もしや、『王道スキル』には、行為無しに女性を孕ませる力でもあるのでしょうか。
いやいやいや、もしそんな力があったとしても、私は『王道スキル』の影響をうけません。
「いつの間に、と思っているみたいだね?」
いつもと変わらない笑顔を浮かべる勇者様に、私はコクコクと頷きました。
「簡単な事さ。眠っている君を手籠めにして孕ませたのさ」
天気の話でもするかのような気軽さで、とんでもないことを宣いました。
しかし、疑問が残ります。
どれだけ熟睡していても、そんな事をされれば、普通は目が覚めるはずです。
「あ……」
そこで私は、ある事に気が付きました。
「も、もしかして……!」
「気が付いたみたいだね」
実は私、前世でも今生でも、酒類というものを、全く嗜んでいませんでした。
今回の旅の途中、ある村が魔物に襲われ、勇者様の『王道スキル』で村を救ったことがありました。
その時、村の方々から酒を振舞われ、断る事も出来ずに、私は頂きました。
甘い果実酒で、中々美味しかったのですが、ほんの少量を口にしただけで、酔い潰れてしまい、気が付いたのは翌日の朝でした。今生の私は、酒にめっぽう弱い体質だったのです。
きっと勇者様は、私の食事などにこっそりアルコールを混入させて、泥酔状態にしたうえで、事に及んだのでしょう。いわゆる、酔姦というやつです。
「君に私のスキルが効かないことは知っていた。だから、シンプルな手段に出たというわけだ」
「こ、こ、こ、こ、こ! この、変態いいいっ!」
私は狂ったように、両手で何度も勇者様を殴りつけますが、勇者様は気にも留めず、「感情を露わにする君も美しいな」なんて楽しそうに笑っていやがります。凄くムカつきます。
「私と共に来るんだ、ハルカ」
「い、嫌です! 絶対に、お断りですっ!」
「では、どうする? この異国の地で、未婚の母として生きるつもりかい?」
そう言われて、私は言葉に詰まってしまいます。
海の向こうの祖国に帰るにしても、船旅となるため、数か月はかかります。
その間にも胎内の子供は生長するわけで、妊婦の一人旅はかなり困難なものとなるでしょう。
「君は優しい娘だ。たとえ望まぬ子供だとはいえ、堕胎するような事はしないだろう」
確かに、その考えはありませんでした。
いくら、強姦の末に出来た子供とはいえ、あまりにも憐れすぎます。
そして、この変態勇者様が、それを見越したうえで、このような行為に及んだであろうことに、恐怖と怒りを覚えました。
私の逃げ場をなくすために、何の罪もない命を利用したのです。
あまりの腹立たしさと周到さに、過呼吸気味になってしまいます。
「そういうわけで、ハルカ」
必死に呼吸を落ちつけようとする私を、勇者様はぐいっと抱き寄せました。
勇者様の顔が間近に迫ります。
「君には、私の后になる以外、道は残されていないのだよ」
「そ、そんな事……んむっ!」
キスされました。男にキスをされてしまいました。しかも、かなりディープなほうを。
それなのに、不快感や嫌悪感は全く感じられません。
それどころか、むしろ、下腹部に、熱くうずくような感覚を覚えてしまいます。
初めての感覚のはずなのに、どこか身に覚えがあります。
「ふあぁ」
勇者様の唇が離れると、私の口から、今までに発したことのない声が漏れました。
明らかに、躾けられたメスのような、甘く切ない声でした。
「私はね、ハルカ。今まで自分の思い通りにならなかったことは無いんだ」
勇者様は、唐突に自分語りを始めやがりました。
私は、ぼうっとした頭でそれを聞いています。
「この能力のおかげで、誰もが私に傅き褒め称え、女は簡単に股を開く。実に詰まらない人生だったよ」
人生イージーモードとか、羨ましすぎです。死んでしまえばいいのに。
「君は、全くの例外だった。だから、何としても征服したかったんだ」
欲しがりすぎでしょ、この変態クソ勇者様は。
そんな理由で、睡姦されて孕まされたのだと考えると、殺意を覚えてしまいます。
「君は私の能力は警戒していたようだけど、私自身には、全く警戒していなかったからね。付け入るのは簡単だったよ」
確かに、私は勇者様の能力は警戒していましたが、勇者様自身には全く警戒していませんでした。
まさか、一国の王子である勇者様が、無理やり女子を手籠めにするなんて、欠片も考えていませんでしたし。
「理解出来たところで、凱旋と行こうか」
そういって、勇者様は、私を軽々と抱き上げました。いわゆる、お姫様抱っこというやつです。
「お、降ろしてくださいっ!」
「暴れちゃダメだよ、ハルカ。大切な身体なんだからね」
「~っ!」
耳元で囁かれ、またしても、私の下腹部が疼いてしまいます。
きっと私は、眠っている間に散々弄ばれ、勇者様の都合の良いように開発されてしまったのでしょう。
状況は、完全に詰んでいました。
そして私は、祖国に戻ることなく、勇者様の国へ向かうことになってしまいました。
隠す必要もなくなったからなのか、その道中は、「ゆうべはおたのしみでしたね」状態でした。
知らぬ間に開発されつくされ、妊娠までさせられた私に抗う術はなく、考えることを放棄して、与えらえる快楽を享受してしまいました。
勇者様の国に到着した後、それはもう、色々ありました。
勇者様の兄君である第一王子と第二王子が相次いで事故死したり、それにショックを受けた王様や王妃様が発狂して幽閉されたり。そのおかげで、庶子であり、本来継承権が無いはずの勇者様が、急遽国王として即位することになったり。
もしかしたら、勇者様が何かしたのかもしれませんが、今となってはどうでも良い事です。
まもなく臨月を迎える私に出来ることは何もありません。
国内は今、お祭りムードです。
無理もありません。
魔王を討伐した勇者が国王として即位し、勇者の子を身籠った王妃が出産を控えているのですから当然と言えば当然です。
勇者様と私がバルコニーに姿を現すと、国民達から歓呼の声が上がります。
にこやかに微笑みながら、それに応えるように手を振る勇者様が、腹が立つほど様になっています。
「さあ、ハルカ。君も国民の声に応えてやってくれ」
勇者様に促され、私がぎこちなく手を振ると、さらに大きな歓声が上がりました。
そこかしこから、「国王陛下万歳」「王妃陛下万歳」の声が聞こえます。
中には、「王子殿下万歳」「王女殿下万歳」なんて声も聞こえてきます。まだ性別もわからないというのに、気の早い事です。
「これからも、私を支えてくれ、ハルカ」
今では王様になった勇者様が。そう言って私に微笑みかけます。
「……仰せのままに、陛下」
そう言って恭しく首を垂れ私を、勇者様は愛おしそうに抱き寄せました。
はぁ、はぁ、はぁ……うっ!
……ふう~。
ちょいとばかり、TS要素は薄めだったけど、十分楽しめたね。まあ、今回は軽いジャブってところかな。
自分の与り知らぬところで、手籠めにされてボテ腹にされてしまうなんて、実に善きだね。
この調子で、次のTS娘の様子も見ていこうかなっと。