ぼくたち、魔法少女になりました   作:七瀬ぴの

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第一話 魔法少女になったあの日

 ――放課後の教室。

 机の上には、半分しか食べていないマッシュルーム味のラムネと、どこから拾ってきたのかもわからないステッキの玩具。

「ねぇ類、これ、押すと光るんだけど」

「押すなって書いてあるものを、押してみたくなる衝動ってあるよね」

「……今まさにそれを押そうとしてる人の台詞じゃないよね?」

 瑞希はため息をつきながら、手にしていた星型のスティックをじっと見つめた。

 ピカピカのプラスチック製。どう見ても子どものおもちゃ。

 なのに――なぜか心臓がドクン、と脈打つ。

「ま、押すだけならただだし!」

 ポチッ。

 次の瞬間、教室の床が光りだした。

 ピンクと紫の魔法陣がぐるぐると回転し、風が巻き起こる。

「え、ちょっ、なにこれ!?!?床バグってる!?!?」

「フッ……舞台が、始まるようだね」

「いや落ち着いてる場合!?!?!?!」

 ドォン、と爆発音。

 気づけば瑞希の服は、黒地に星を散りばめたドレスに変わっていた。

 髪の毛はゆるく巻かれ、手には光り輝くハートのステッキ。

「……は?なにこれ!?!?!?」

「おお……!素晴らしい変身演出だ。照明、完璧だね」

「誰が照明つけてんの!?!?」

 そして、類の足元にも光が集まる。

 紫のチェックのスカート、肩を出した上品なコートドレス。

 まるで舞台の主人公のように立つ類は、口元に微笑を浮かべた。

「ふむ……この衣装、悪くないね。ステージの主役って感じだ」

「いやあんた似合いすぎてムカつく!!」

「瑞希は...。ほとんど変わってないね。」

 そんな二人の頭上に、ふわりと浮かぶ謎のウサギのぬいぐるみ(喋るタイプ)。

「おめでとうございます! あなたたちは今から正式に“魔法少女”です☆」

「いや説明下手すぎるでしょ!?!?!?」

「え、魔法少女って……僕ら、男……」

「いまは細かいこと気にしちゃダメです! 時代はジェンダーレス変身です!」

「「時代の流れ早すぎる!!!」」

 こうして、瑞希と類の――いや、“美園アリス”と“神崎ルルナ”の魔法少女としての日々が、ドタバタ全開で幕を開けたのだった。

 

「ナ、ナニコレ!?!?!?」

 校庭の真ん中に、もやもやと黒い影が集まり始めていた。

 その形は……猫?いや、もうちょいぐにゃぐにゃしてる。

 目がぎょろりと光り、口が裂けた。

「……夢を喰らう影。まさか――ナイトメアーズか!」

「知ってるの!?!?!?!?」

「うん、さっきうさぎのぬいぐるみが教えてくれた」

「説明雑すぎるうさぎ!!!」

 黒い靄が叫ぶように鳴く。

「……ユメ……ヨコセェ……」

 瑞希は思わず後ずさった。

「ちょっ、無理無理! これ、絶対ホラー映画のやつだよね!?!?」

「落ち着いて、瑞希。いや――アリス」

「誰がアリス!?!? ……って、あ、そういや名前つけろって言われたんだっけ!」

 ぬいぐるみがふわりと浮き、ピコピコと鳴く。

「変身時は心の名を名乗ってください! “心のステージは、言葉から始まる”のです☆」

「そんな詩的なこと言われても!!」

「では! いきますよお二人とも!」

 ウサギが杖を掲げた。光があふれ、二人の衣装が再び輝く。

「……詠唱を!」

 瑞希と類、互いに顔を見合わせる。

「いや詠唱って何言えばいいの!?」

「演出は大事だよ。ここは自分の“世界観”を言葉にする場面だ」

「そんな冷静に言うなよ!!」

 しかしナイトメアーズはすでに動き出していた。

 瑞希は焦りながら杖を握りしめ――

「っ……き、きらめけ星屑の幻想! 闇夜に咲く、夢の花……! 美園アリス、ここに――参上っ!!」

 言い切ったあと、沈黙。

「……………………」

「……………………」

 顔、真っ赤。

「や、やめて!? そんな顔で見ないで!?!?」

「ふっ……悪くないよ、アリス。じゃあ、僕も」

 類がくるりと回転。まるで舞台俳優のようにポーズを決める。

「静寂を切り裂くは月の光。すべての悲劇に幕を――神崎ルルナ、開演の合図を!」

 背後でスポットライト(どこから来た)が当たった。

「類!?あんたノリノリじゃん!!!」

「いや、演出として完璧だろ?」

「完璧だけど羞恥心どこ行ったの!?!?」

 ウサギが感涙して拍手する。

「お見事です! 二人とも“黒歴史ポイント”高めですね☆」

「やかましい!!!」

 そんな漫才をしている間に、ナイトメアーズが迫ってきた。

「ユメ……ヨコセ……」

 アリスが反射的にステッキを振る。

「えいっ!! ……って、なんか出た!?」

 光のハートが飛び出して、敵の顔面に直撃。

「ぎゃんっ!?」

 吹き飛ぶナイトメアーズ。

「おお……ちゃんと効いた」

「ほ、本当に魔法少女になっちゃったんだね……」

 すると、ルルナが指を鳴らす。

「なら――舞台のフィナーレだ」

 ステッキをくるりと回し、紫の星の光が宙に散る。

「《ルミナス・リライト》!」

 その瞬間、敵が光に包まれ、ふっと消えていった。

 静寂。

 風に揺れる校庭の木々。

「……終わった?」

「うん。でもさ」

「ん?」

「今の、全部録画されてたら死ぬ」

「確実にSNSでバズるやつだね」

 二人の魔法少女は顔を見合わせて、同時に叫んだ。

「「いやああああああああ!!!」」

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