――放課後の教室。
机の上には、半分しか食べていないマッシュルーム味のラムネと、どこから拾ってきたのかもわからないステッキの玩具。
「ねぇ類、これ、押すと光るんだけど」
「押すなって書いてあるものを、押してみたくなる衝動ってあるよね」
「……今まさにそれを押そうとしてる人の台詞じゃないよね?」
瑞希はため息をつきながら、手にしていた星型のスティックをじっと見つめた。
ピカピカのプラスチック製。どう見ても子どものおもちゃ。
なのに――なぜか心臓がドクン、と脈打つ。
「ま、押すだけならただだし!」
ポチッ。
次の瞬間、教室の床が光りだした。
ピンクと紫の魔法陣がぐるぐると回転し、風が巻き起こる。
「え、ちょっ、なにこれ!?!?床バグってる!?!?」
「フッ……舞台が、始まるようだね」
「いや落ち着いてる場合!?!?!?!」
ドォン、と爆発音。
気づけば瑞希の服は、黒地に星を散りばめたドレスに変わっていた。
髪の毛はゆるく巻かれ、手には光り輝くハートのステッキ。
「……は?なにこれ!?!?!?」
「おお……!素晴らしい変身演出だ。照明、完璧だね」
「誰が照明つけてんの!?!?」
そして、類の足元にも光が集まる。
紫のチェックのスカート、肩を出した上品なコートドレス。
まるで舞台の主人公のように立つ類は、口元に微笑を浮かべた。
「ふむ……この衣装、悪くないね。ステージの主役って感じだ」
「いやあんた似合いすぎてムカつく!!」
「瑞希は...。ほとんど変わってないね。」
そんな二人の頭上に、ふわりと浮かぶ謎のウサギのぬいぐるみ(喋るタイプ)。
「おめでとうございます! あなたたちは今から正式に“魔法少女”です☆」
「いや説明下手すぎるでしょ!?!?!?」
「え、魔法少女って……僕ら、男……」
「いまは細かいこと気にしちゃダメです! 時代はジェンダーレス変身です!」
「「時代の流れ早すぎる!!!」」
こうして、瑞希と類の――いや、“美園アリス”と“神崎ルルナ”の魔法少女としての日々が、ドタバタ全開で幕を開けたのだった。
「ナ、ナニコレ!?!?!?」
校庭の真ん中に、もやもやと黒い影が集まり始めていた。
その形は……猫?いや、もうちょいぐにゃぐにゃしてる。
目がぎょろりと光り、口が裂けた。
「……夢を喰らう影。まさか――ナイトメアーズか!」
「知ってるの!?!?!?!?」
「うん、さっきうさぎのぬいぐるみが教えてくれた」
「説明雑すぎるうさぎ!!!」
黒い靄が叫ぶように鳴く。
「……ユメ……ヨコセェ……」
瑞希は思わず後ずさった。
「ちょっ、無理無理! これ、絶対ホラー映画のやつだよね!?!?」
「落ち着いて、瑞希。いや――アリス」
「誰がアリス!?!? ……って、あ、そういや名前つけろって言われたんだっけ!」
ぬいぐるみがふわりと浮き、ピコピコと鳴く。
「変身時は心の名を名乗ってください! “心のステージは、言葉から始まる”のです☆」
「そんな詩的なこと言われても!!」
「では! いきますよお二人とも!」
ウサギが杖を掲げた。光があふれ、二人の衣装が再び輝く。
「……詠唱を!」
瑞希と類、互いに顔を見合わせる。
「いや詠唱って何言えばいいの!?」
「演出は大事だよ。ここは自分の“世界観”を言葉にする場面だ」
「そんな冷静に言うなよ!!」
しかしナイトメアーズはすでに動き出していた。
瑞希は焦りながら杖を握りしめ――
「っ……き、きらめけ星屑の幻想! 闇夜に咲く、夢の花……! 美園アリス、ここに――参上っ!!」
言い切ったあと、沈黙。
「……………………」
「……………………」
顔、真っ赤。
「や、やめて!? そんな顔で見ないで!?!?」
「ふっ……悪くないよ、アリス。じゃあ、僕も」
類がくるりと回転。まるで舞台俳優のようにポーズを決める。
「静寂を切り裂くは月の光。すべての悲劇に幕を――神崎ルルナ、開演の合図を!」
背後でスポットライト(どこから来た)が当たった。
「類!?あんたノリノリじゃん!!!」
「いや、演出として完璧だろ?」
「完璧だけど羞恥心どこ行ったの!?!?」
ウサギが感涙して拍手する。
「お見事です! 二人とも“黒歴史ポイント”高めですね☆」
「やかましい!!!」
そんな漫才をしている間に、ナイトメアーズが迫ってきた。
「ユメ……ヨコセ……」
アリスが反射的にステッキを振る。
「えいっ!! ……って、なんか出た!?」
光のハートが飛び出して、敵の顔面に直撃。
「ぎゃんっ!?」
吹き飛ぶナイトメアーズ。
「おお……ちゃんと効いた」
「ほ、本当に魔法少女になっちゃったんだね……」
すると、ルルナが指を鳴らす。
「なら――舞台のフィナーレだ」
ステッキをくるりと回し、紫の星の光が宙に散る。
「《ルミナス・リライト》!」
その瞬間、敵が光に包まれ、ふっと消えていった。
静寂。
風に揺れる校庭の木々。
「……終わった?」
「うん。でもさ」
「ん?」
「今の、全部録画されてたら死ぬ」
「確実にSNSでバズるやつだね」
二人の魔法少女は顔を見合わせて、同時に叫んだ。
「「いやああああああああ!!!」」