明朝早く、まだ学園都市が目覚める前の揺籃の段階で、コウジはこの時まで戦い抜いてくれた姫宮財閥の総員、そしてGIGの隊員達へと顔を合わせていた。
「……作戦は、既に理解の上であると思う」
有栖はその憔悴し切った面持ちを見やって、やはり女子会なんてするべきではなかったのではないかと考えていた。自分達が散々楽しんだと言うのに、代表であるコウジはこの時のための布石を打つ事を一番に置いていたはずなのだ。その想いが顔に出ていたのか、隣の兎真が肘で小突く。
「……この世の終わりみたいな顔をしない。綺咲パッパだって、それくらいは考えてるんだからさ」
読まれているな、と有栖は恥じ入る。分かった風になったとしても、コウジや綺咲の痛みに本当の意味で寄り添える事なんて出来やしないのだ。ならば、自分に出来る事は精一杯、作戦を滞りなく実行する事。有栖は決意し直し、コウジの言葉を聞く。
「手筈通り、わたしが発射台へと向かう。GIG構成員、及び転生者はノックス兵団長がイニシャライズしたその三十分以内に鏡面界へと潜入しなければならない。そのための、光体爆弾だ。浮上境界を破壊し、君達がイニシャライズする際のラグをほぼゼロにする」
「各員、イニシャライズの際にはダイマックスリアクターの助けを得なければならない。……キャロルや高峰幸子がここまで最大限での技術協力を惜しみなく出し切ってくれている。我々に出来る事は、その全てを無駄にはしない事だけだ」
GIG隊長の声に、構成員達は静かに唾を飲み下したのが伝わる。それもそのはず、この時のために彼らは日々研鑽し、半年間の地獄を戦い抜いてきたのだ。
「……できることはやったよ。けれど……イレギュラーがないわけじゃない」
キャロルが技術開発部を代表して声にする。その懸念も無理からぬ事。これまでイニシャライズするのに、アルセウスフォンと受付嬢を介さない方法論はなかった。自分達は、いわば無理やり世界の境界線を引き裂いてでも鏡面界に飛び込もうとしているのだ。どのような異常事態が上ってくるかどうかわからない。それでも、キャロルは幸子と共にこの場に集った総員に向けて言葉を送る。
「けれど、キャロルはこの半年間でよくやってくれたわ。だから、それをみんなには信じて欲しい。もちろん、不安はあるかと思う。でも、私達の目的はハートの女王の打倒。それさえ完遂されれば、全ては……」
言い淀んだのも無理はない。本当に、全てが解決するのかどうかはまだ誰にも分からないのだから。そもそもハートの女王を打倒するなど夢物語であったのが、この二日間余りで大きく前進した。
ノックスが歩み出る。トランプ兵団の鎧に身を固めているが、その決意の眼差しはGIG隊員、そして姫宮財閥のスタッフ達に据えられている。
「……我々が先遣隊を務める。現世と鏡面界の時間差がどれほどあるかは分からないが、少なくともわたし達はイニシャライズの干渉を限りなくゼロにして赴ける。わたし達の帰還に、ハートの女王は手を打てないはずだ」
「兵団長……。本当ならば我々も……」
「よい、言うな。……トランプ兵団の部下達はGIGと共に向かわせて欲しい。もしもの時の切り札になり得る」
ノックスが単身、まず鏡面界へと帰還し、その後にGIGの精鋭部隊と共にトランプ兵団の下っ端達は同行する予定であった。それは戦力の分散以上に、ノックス自らの訴えかけである。
――可能ならば部下達には生存率の高い作戦に同行して欲しい、と。
自分一人だけの犠牲で留めようとする精神性に、有栖はここまで争い合ってきた宿命も、ともすれば少しの話し合いの場さえあれば不幸にならずに済んだのではないかと感じる。もっと喋れれば、もっと対等に向かい合えれば――そんな益体のない“もしも”ばかりを考えてしまう。
「GIGの皆様にはわたくしが同行します」
そう言って歩み出たのはコハクであり、オペレーターと共に現世に留まる事を選んだチェシャーとの違いは服装だけで、彼女はGIG隊員の隊服に身を包んでいる。
「……作戦開始は、わたしがイニシャライズしてから、一時間後……。光体爆弾を発射台から鏡面界の浮上境界で起爆させ、イニシャライズの際に起こるハートの女王の優位性を奪う」
たった一時間。しかし、ノックスにしてみれば決断には適切な時間なのだろう。もし、ハートの女王が降伏した場合も考えられていたが、その線は薄いとノックス本人の証言は取れている。
なにせ、ハートの女王は未だ解析さえもされない未知なるポケモンを従えているのだ。真正面から向かっても勝率は限りなくゼロに近い。
だからこその搦め手。作戦を立案し、総員の力を結集させて鏡面界を破壊する。
「……最後に。私はここまで、この半年間、戦い抜いてきたみんなを誇りに思うわ。……本当なら、私が消えれば、もっと違ったのでしょうけれど。そんな後悔ももう終わり。ここで決着をつけるわよ」
「……綺咲ちゃん……」
全員の決意を代弁してみせる綺咲に思うところがないわけではない。そもそも、この戦いを始めたのは綺咲だけの覚悟ではないのだ。鏡面界と現世の因縁。全ての宿命の始まる場所へと、突きつけた刃を鋭くさせ、そしてその切っ先を研いできたのを無為だと思いたくはない。
「……では、一時間後に作戦配置を。ノックス兵団長、貴君は……」
「自力でイニシャライズして鏡面界へと向かう。手助けは無用だ。むしろ、わたし単体で飛ばなければハートの女王に勘付かれかねない。ここはわたしを信じてもらおう」
「そうであった……な」
GIG隊長とノックスの間に降り合った無言の了承も、ある意味では絆を結んだ証か。GIG隊長はコウジへと視線を振り向ける。
「では、代表……」
「わたしから言う事は少ない。……無事に、誰一人として欠けずに、この戦いを終わらせよう。この間違いの半年間に……終止符を打つために」
「敬礼!」
トリアが代表して声にする事でGIG隊員に染み付いた所作である敬礼が向けられる。コウジは返礼し、そして声を絞る。
「……皆の健闘を期待する」
その声音が震えていたのは、光体爆弾の発射装置に赴く覚悟のせいか。妨害を阻止するために、発射台にはコウジ本人の生体認証が必要となっている。
「じゃあ、最後を迎えるこの世界にせいぜい見送っておきますかぁ」
兎真の言葉は張り詰めていた緊張をほぐす。どこか楽観視とも呼べる声にGIG各員の面持ちが静かに緩んでいた。
「……でも、幸子はここに居る事を選んだって……」
「キャロルは同行するのにね。ま、サッチーも思うところがあるってところでしょ。あーしらが介入出来る領域もあるって言うね」
「有栖! ……ちょっと」
その当の幸子からの呼び出しに、有栖は作戦配置につく前に兎真へと視線を振り向ける。兎真が了承のウインクを返したので有栖は一言だけ言い添える。
「……すぐに戻りますんで」
「遅くなったっていいよん♪ 積もる話もあるってコトだろうしさ」
その言葉に救われた気になって幸子の目の前まで向かうと、彼女は少しだけ沈んだ声音で言いやる。
「……あんた、第一部隊……作戦の要なんでしょ」
「あ、うん……。ヘンかな……?」
「ヘン。だって有栖じゃないの。そんなに強いなんてさ」
何だかこの期に及んでまで強さを論じられるとは想定外で有栖は困ったように後頭部で結った髪を掻く。
「……そうかなぁ」
「そうよ。……髪型、姫宮と合わせたんだ?」
「あ、……別にそう言うわけじゃ――」
言い返す前にその頬を幸子につままれる。
「有栖のクセに、生意気よ」
「ふへぇ……っ?」
「……きちんと務めを果たしてきなさい。大丈夫、なんて楽観的な事は何一つ言えないけれどさ。――待っているから」
それが最後の言葉のように頬をつねっていた指先が離れる。お互いに名残惜しいが、それでも離れなければならない。ほんの束の間の別れなのだと思えればよかったが、今は幸子のつねった頬がひりりと痛むのも愛おしい。
「……うん。行くね」
身を翻し、兎真達に合流しようとして背後から大声が掛かる。
「有栖! ずっと……! ずっと待ってるから! あんたの帰りを! だから……!」
分かっている。もう振り返らない。涙ぐんだ顔を見せないように、有栖はその片手を上げる。サムズアップを寄越し、有栖も叫び返す。
「……うん。絶対に帰る!」
それだけで了承が取れていた。
もう、この最後の戦いが終わるまで、幸子と顔を合わせる事はないのだろう。その感慨が涙の粒となって溢れ出る。止め処ない。
「……有栖。顔、ヘンだよ」
「……いいんです……っ! ヘンで……いいんですってばぁ……っ!」
「……そーだね。ヘンでいいんだ。だからさ、あんまし水分を使わないほうがいいよ。作戦開始したら、戻れないんだから」
「……分かって……分かってます。兎真さん……あたし、これでよかった。こんな形でも……幸子とはきちんと、きちんと別れられて本当に……っ!」
一度は想定外の形で“ゲーム”によって引き裂かれた絆であったが、こうして確かめ合えたのは大きい。幸子本人は紛れもなく、自分の親友である事。そして、如何に運命の荒波が過酷であろうともこの絆だけは決して途切れない。
「……そっか。ちょっとだけうらやまかも」
「羨ましい……ですか?」
「うん。だってさ。ヒメは結局……あーしにそういうところ、見せてくれなかったじゃんね」
「……綺咲ちゃん……」
綺咲はGIGの中でも切り込み隊長だ。「緋色の魔女(HEX)」として、世界からの悪意をその細い双肩に背負いながら、また業を抱えようとしている。そんなに無理をする事はないと、分かった風な事を言うのは簡単だ。実際に半年間、そのすぐ傍で見守ってきた兎真でさえも近づき難い存在になってしまった。昨日の決起集会兼女子会の喧騒が嘘のように、綺咲の背中は誰一人として寄せ付けない。絶対の孤独を纏っている。
「……あーしに出来るコトがもうちょいあればねぇ。結局は無力ってワケ」
「……そんな事、ないと思います。綺咲ちゃんも、兎真さんが居たから、今日まで……」
「そうかなぁ。……うん、そうだねぇ、そうだといいなぁ」
きっと希望的観測。
自分達がそうであって欲しいと願っているだけ。そんな傲慢とも言える押し付けを、綺咲は痛みの一つとして携えている。その痛烈ささえも、彼女にとっては武器となる。自らの似姿である、ハートの女王を倒すための。
「……ハートの女王が結局何なのか……あたし達、何も分かりませんでしたね……」
「うん。でも分かんないほうがいいのかもね。だってさ、鏡面界を束ねて、それで他人の“感情”でさえも支配する存在だよ? 分かったってどうにもなんないって」
「分かったとしても……ですか」
ハートの女王の情報はその一つだけ。他者の“感情”を司る――恐るべき敵である事。だが、それ以上をあえてノックスは言わなかったのではないかと今ならば推測出来る。強大な敵の事を知り過ぎてしまえば、及び腰になってしまいかねない。
だからこそ、ハートの女王の手持ちに関しても追加の情報はほとんどない。まさに暗中模索――それでもいいと、自分達は決意した。
最後の戦い、現世を取り戻すための真の最終決戦は、きっとそんなものなのだろう。
最後だからと言って、ではここで人生が終わるとも思えない。きっと人生は続いていく、それこそこの戦いなんて後から考えてみれば大した事はなかったと笑えるような日を目指して。
「……兎真さん。あたし、もし……最後の作戦を実行しても……きちんと紡いだ絆は大事にしたいんです」
「うん? ヘンなコト言い出すね、有栖は」
「だからその……ハートの女王を倒した後でも、友達でいてくれますか?」
我ながらヘンテコな事にこだわっているものだ。ともすれば女々しいのかもしれないと思った有栖が面を上げると、兎真は目を丸くしていた。
「……あ、そっかぁ。あーし、有栖達ととっくにトモダチのつもりだったけれど。うん、まぁヘンだよね。サッチーを殺したコトもきちんと謝ってないし、割と状況で許されているだけって言うか……我ながら悪い癖だなぁ」
有栖にしてみればそれも許した上での今日までの戦いであったが、改めて兎真と友達になれればきっと楽しいはずなのだと感じたのだ。
もっと距離を近くして――カラオケだってたくさん行けたのかもしれない。あるいは別の娯楽だって。違う形で出会えていれば、兎真とは案外、気の置けない友人としての距離感もあったのだろう。
だが、そんな可能性を摘んだのは他ならぬ“ゲーム”でありながら、この“ゲーム”がなければ一生遭遇すらしなかった人種かもしれないのだ。
ある意味では愛憎入り混じる関係である兎真とのもどかしい距離に有栖は尋ねる。
「……兎真さんは、あたしと友達、嫌ですか?」
「いや、嫌とかじゃないんだけれど……。難しいなぁ。あーし、トモダチとか実は全然居ないんだよね」
それは想定外であったと言うべきか、あるいは兎真には似つかわしくない発現のような気がして有栖は瞠目する。
「……でも、学園都市でも有数の学校に通っていて……首席で」
「首席だからっていい身分見れるわけじゃないってば。嫉妬だとか、恨まれたりの連続。色々嫌がらせもされたなぁ」
兎真がいじめられている側であったのは完全にイメージになかった。そもそも、兎真の生活は自分のような一般家庭とは相当異なっている。そんな中でも首席を維持し、その上で“ゲーム”においても強者を保ってきたのは純粋な努力もあるのだろう。
「……あたし、聞いちゃダメでした?」
「いんや、いいのいいの。だって、いじめだとか下んないし、それにね。有栖がこうして聞いてくれなかったらあーし、もしかしたら心残りがあったのかも」
「心残り、ですか……」
「うん、そう。……思えばね、この“ゲーム”は全部、心残りだったんだと思うよ? 翡翠ツバサもそうなら、他の転生者達だってそう。自分ならば失敗なんてしないだろうと思いながら、何度も繰り返しチャレンジして……その度に己の無力さに嫌になりながら世界の終わりを見る。正直、真っ当な神経じゃやってけない。あーしはさ、転生者は多かれ少なかれ、心残りの上で成り立っているんだと思う。あーしにとっての心残りはさ、心の奥底からのトモダチが……結局出来ず仕舞いだったってコトかなぁ」
「……じゃあ、戦いが終わっても友達でいましょう。これでどうですか? 最悪、一人は確約ですし」
そんな楽観視に兎真は何だか毒気を抜かれたかのようにこちらの面持ちを覗き込んだ後で、ぷっと吹き出す。
「……アハハッ! やっぱ有栖は違うわ。……ねぇ、有栖。あーしはさ、理解者だとか交友関係だとか結構どうでもよかったんだ。ただ……うん、そうだね。ただ、何の変哲もない、トモダチの関係が欲しかったんだと思う。打算とかもなく、計算もない。裏表だとかを言い出す必要のない……トモダチを……」
兎真も一皮剥いてしまえばまだ十七歳。当然、戸惑う事もあるのだろう。その度に己を奮起させてきた彼女の原動力は、確固たる信念とそして裏打ちされた強さであった。しかし、最終決戦の直前ともなれば弱気にもなるはず。
「……あたしは、兎真さんと友達でいたい。多分、一生ものの」
「恥ずかしいコト言うんだにゃー。……うん、けれど悪くない。悪くは……ないのかもね」
そう返してくれた事が何よりも嬉しい。そう思って作戦配置につく前に、有栖は作戦を聞いていたこばとへと声を掛ける。
「……こばとちゃん……!」
「あっ、有栖さん……。あの、ぼく……」
「うん。先に言っていてくれたように、こばとちゃんはこっちの世界に待機でいいと思う。幸子が守ってくれると思うしさ」
「……すみません。本当なら……転生者の一人として戦線に……」
「もう、別にいいんだって有栖も言ってるじゃん。それに、戦うだけが転生者の生き方じゃないよん♪」
どこか上機嫌に映る兎真に、自分も心から答える事が出来たのだろうかと思っていると、こばとは不意打ち気味に口にしていた。
「あ、あの……っ! もし……姫宮綺咲さんが……間違えていたらどうするんですか。だって、あの人はハートの女王と同じ見た目で……今日まで世界の敵として、悪意を受け止めてきて……」
こばとの言わんとしている事は何となくだが分かる。綺咲を心の奥底から信用出来るのか、その決断に迷いがないのか。
「……うん。でもあたし、もう友達に対して、迷いだとかそういうの、浮かべないようにしたんだ。だって、躊躇っている間にも友情がはぐれかねないのなら、その分だけでも前に出て、そして信じてあげるのが一番いいんだって」
綺咲とは決起集会の際に、お互いに上手くもない歌を歌い合った仲だ。だからこそ、言える。最後の最後、自分の心にさえ決意の標を与えてやれればいい。それが身勝手な幻想であったとしても、それを寄る辺にして最後まで戦えるはずだ。
「……信じる、ですか……? けれど、けれどそれって……他の誰かを傷つけてしまう事だとすれば……? もし、その決断が全部間違っていて……何もかも手遅れなのだとしたら……!」
「うーん、こばとは難しく考え過ぎだねぇ。そんなの簡単じゃん。相手を信じる、自分を丸ごと信じてあげるんだよ。そうすれば、誰かのせいにするコトもないじゃん? あーしはそう思うなぁ」
兎真が助け舟を出してくれたのが今は素直に嬉しい。そうなのだ。友達であると言う事は、助け合う事でもある。
「こばとちゃん。確かに、綺咲ちゃんは大変な運命の中に居る。その片隅だけでも、少しでも背負ってあげられればとは思うけれど、それも傲慢なのかもね。けれど、あたしはもう、そこに疑問を挟むのはやめたの。だって、友達のためなら、あたしは何にだって成れる。それだけは間違いじゃないはずでしょ?」
「……友達のためなら、ですか……」
こばとの胸中にも迷いがあるのかもしれない。戦いに赴かず、こうして現世に留まる事への迷いであろうか。
「……ま、サッチーも居るし、姫宮財閥のみんなも居る。そう怖がるコトなんてないってば! 少なくともあーしは保証する! こばとも充分、頑張ってるんだってね!」
「ぼ、ぼくは全然……」
「そう? あーしはさ、お気楽な性質だけれど、それでもこばとは自分にしか出来ない決定をしているんだと思うなぁ」
「ぼくにしか出来ない……」
こばとと兎真の間に降り立った了承に踏み入る事はない。ただ、自分達の決断に誇りを持つだけだ。
「……こばとちゃん。あたし達は、もう行かなくっちゃ」
「あ、すみません……。忙しいのに足を止めさせてしまって……」
「いいの。それに、ね? あたしも今分かったのかも。友達って……うん、思ったよりもずっといいんだぁなってさ」
幸子との絆を確かめ合い、兎真とこうして友愛を育めた。それだけでも価値があったのだ。こばとは幾ばくかの迷いの後に、ぎゅっと右腕のガジェットを握り締めている。
「……ぼくにしか……出来ない事もあるんですよね」
「そりゃーそうでしょ。代わりなんて居ないんだから」
兎真のその言葉を潮にして、有栖は踏み出す。作戦時間まで、残り一時間足らず。その中で自分達の出来る事を模索して、そしてこの半年間の戦いに終止符を打つために。
「……あたしは、戦える」