ALICE   作:オンドゥル大使

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第106話 訪れし『鏡面』

 

『代表……!』

 

 幸子の焼けつくような声が通信網を叩く。きっと全てが終わったのだと理解したその時には光体爆弾によってぼやけた境界に向けて紡錘形の制御装置が射出されていた。

 

『……時間だ』

 

 GIG隊長は全て分かっているのだろう。ヘッドアップディスプレイに表示される刻限とそして距離が概算され、今この時、有栖達は鏡面界へと飛び込む。

 

 紡錘形の射出装置が爆ぜ、格納されていた有栖達を強制イニシャライズさせていた。鏡面界の赤銅に染まった空を突き抜け、やがて現世とは別の理を誇る大地へと重力で引っ張られる。

 

「……これが、鏡面界の重力……」

 

『各員、散開軌道!』

 

 トリアによって突入の第二段階が号令され、有栖達は射出装置から抜け出し、各々の隊服の肩口に仕込まれたダイマックスリアクターを起動させる。

 

「……射出……完了。リアクターを展開……!」

 

 ダイマックスの赤銅のエネルギー磁場を纏い、鏡面界へと真っ逆さまに落ちていく。それぞれがどう動いているのか、どう挙動しているのかは着地するまでは分からない。その瞬間が無防備である事は理解していたが――それでもまさか襲って来る存在が居るなど思いも寄らない。

 

 直下よりの光芒に撃ち抜かれたGIG隊員に有栖は瞠目する。まさか、こちらの狙いが割れていたのかと思索が脳裏を掠めたのも一瞬、続けざまの高出力の輝きに射抜かれたGIG隊員にこれは張られていると確信していた。

 

『各員! うろたえるな! 散開軌道を取りつつ、ダイマックスリアクターをフル出力! 推力を上げて、障壁を張れれば……』

 

 GIG隊長の声が響き渡る前に、遥か下方に映る断崖より狙ってきているポケモンが視野に入る。

 

『あれは……まさか! 綾坂美月のブリジュラス! それに、その隣に居るのは……ウソ、でしょう……』

 

 兎真が息を詰まらせる。その言葉の証左のように断崖絶壁からこちらを狙い澄ますブリジュラスの放つ「はかいこうせん」が再び隊員達を死の淵へと連れて行く。

 

『させはしない……!』

 

 撃ち抜かれようとしたGIG隊員を庇ったのはトランプ兵団の下っ端達であった。自ら盾となり、GIG隊員を守る。

 

『……転生者……それにGIGの。我々はそれあれかしとノックス兵団長に願われた。だからこそ、こうしてそちらについている。我らの目的は……ただ一つ! ハートの女王の打倒にこそありィ……ッ!』

 

 トランプ兵団の下っ端達は自らのポケモンを繰り出し、飛行制御を行いつつブリジュラスの「はかいこうせん」を弾いていく。そうだ、ポケモンによる奇襲攻撃ならばポケモンで対処すればいい、と有栖がホルスターから抜きかけてトランプ兵団の下っ端が肩に触れる。

 

「転生者の皆さんは! ポケモンを繰り出さらぬよう……! ハートの女王に戦力が露呈します!」

 

「でも……でもこのままじゃ……みんな……!」

 

「……我々が降りますゆえ」

 

 そう言って微笑んだトランプ兵団の下っ端が巨大な鷲の威容を誇るポケモンを繰り出して中空を舞う。確かウォーグルと呼ばれたポケモンであったか。大音響の鳴き声を上げたウォーグルを繰り出した下っ端はブリジュラスの「はかいこうせん」の射線上に躍り出るなり、その翼を羽ばたかせて減殺させる。

 

「ふきとばし」による光条の歪曲を狙ってのであろうが、無慈悲にその光線はウォーグルの翼を焼く。

 

「もう……こんなの……」

 

 視線を逸らそうとしてトリアの声が響き渡る。

 

『生き残る! ……そうでしょう、皆さん。隊長、私達、GIGの精鋭部隊はハートの女王まで辿り着くためならば全てを費やす、と』

 

『……トリア……? ……ああ、そうだな。トリアの言う通りだ。GIG隊員はそのまま、鏡面界への着地シークエンスに! トランプ兵団の猛者達の……その勇気に、敬礼を!』

 

 GIG隊長がそう判断を下したのならば、自分に言える事など何もない。ウォーグルで飛翔するトランプ兵団の下っ端――否、一人の兵士に向けて有栖は敬礼する。

 

『……ご武運を』

 

 通信機器に焼き付く戦士達の勇猛果敢な雄叫び。ポケモンを繰り出してGIG隊員への攻撃を逸らしつつ、その矛先を定めさせない。

 

 最初に鏡面界の重力に適応したのは兎真で、降り立つなりすぐさま手持ちのポケモンを繰り出す。

 

『カミツオロチ! 気紛れ――レェーザァー!』

 

 カミツオロチが果実からそれぞれ龍の顎を出現させ、その口腔部より青白い焔を纏ったビームが乱射される。それは航空部隊を狙っていたブリジュラスの足場を狙ったものであったが、着弾の前に声に遮られる。

 

「――甘い。ドラゴンアロー」

 

 瞬間、無数の青い矢が降り注ぎ、カミツオロチの「きまぐれレーザー」を刺し貫いて縫い留めていく。まさか光学兵装であるビームが物理的に止められるとは思っていなかったのか、兎真は震撼したようであった。

 

『……ウソでしょう……? だって、あんた達は……』

 

「死んだはず、呵々。愚か」

 

 その声の主に有栖は着地シークエンスに入りながら、まさかと目を戦慄かせる。

 

「……生きて……生きていたって言うの……? ――リー・マオフェン……!」

 

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