ALICE   作:オンドゥル大使

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第128話 終わる『刻限』

 

 予感はあったのかもしれない。

 

 あるいは、予兆とも言えるべきものだろうか。

 

 しかし、信じられない。否、信じてはならないはずだ。

 

「……何故……うぬらが、蘇っている?」

 

 ネクロズマで今に兎真を攻撃し、全てを終わらせようとした、ほんのレイコンマ一秒以下の間に、殺したはずの、滅したはずの転生者達が蘇り、アルコスの白光を纏って立ち上がっている。

 

 それは彼女達でさえも分からないのか、自らの生存に疑問を感じているらしい。

 

「……私達、確か……」

 

「死んだはず、よね……? だって言うのに……」

 

「……まさか」

 

 カチン、と何かが砕ける音が連鎖する。それは他でもない、自分が今日まで築き上げてきた玉座の裏側からの音であった。

 

「……嘘であろう……?」

 

 振り返れない。だと言うのに、雄弁に理解出来る。

 

 一歩ずつ、こちらに踏み込んでくる気配。

 

 それが足元のモンスターボールを拾い上げ、何の感情もなく傍らを通り過ぎる。

 

 少女の色香、絹のような金髪。麗しき、永劫の乙女の具現。

 

 立ち上がった綺咲が、ようやく声にする。

 

「……“アリス”……」

 

「そのようなはずが……そのようなはずがない……! 赤い鎖で封じておったのだぞ! 神でさえも縛る、絶対遵守の楔を……どうやって……!」

 

「もう、あたしは神様なんかじゃない」

 

 そう言って、煤けた戦場の空気の中で、こちらへと向き直った影に、ハートの女王は絶句する。

 

「……戻ってきたと言うのか。神性を捨ててでも……! ただ一人の転生者として……! アーキタイプアリス!」

 

「違う」

 

 短く断じられ、ハートの女王は身じろぎする。

 

「何だと……!」

 

「あたしの名前は――“篠崎有栖”。永遠の少女、“アリス”としてではなく、ただ一人の転生者として。ハートの女王、あなたを倒す」

 

 それだけは看過してはならなかった。その宣言だけは――他の何もかもを犠牲にしてでも、その宣誓だけは、認めてはいけなかったのだ。

 

 何故ならば、それは“感情”を司る神であるハートの女王にとって、最も強い毒となる。

 

「……貴様……! もう神でさえもない、罪も罰も、棚上げにしたと言うのか……! そのような蛮行が許されるとでも……!」

 

「だーから! 言ったじゃん? 有栖もヒメも、そんな古めかしいルールとかで縛れるような人間じゃないってば。……おかえり、ヒメ。有栖も」

 

「……兎真さん。……はい、ただいま。それに、みんなも。もう一度だけでいい、あたし達に……力を貸して」

 

 有栖がモンスターボールを構え直す。その姿に、そして立ち振る舞いに、ハートの女王は目を戦慄かせて歯ぎしりする。

 

「……認めぬ。断じて……! 認めるわけには――いかぬ! “意思”の神である事を捨て、そしてただのニンゲンとして、妾の前に立つなど……! 不敬などでは済まされぬ! 死をもって償うが良い! ネクロズマ!」

 

 呼びかけたネクロズマの体内には既に光のエネルギーが円環で巡っており、ハートの女王は己の右腕に装着された脈動を感じ取る。

 

 それは秘められし、Zの鼓動――。

 

「最早、手加減などするつもりはない! 行け、ネクロズマ! その真の姿を晒し、不心得者どもを焼き尽くせ!」

 

 ネクロズマの結晶の躯体が分散し、それぞれ四つの翼を顕現させて一瞬で太陽光にも等しい光を纏う。世界を終わらせる絶対的な灼熱の眩さに、転生者達が戸惑うような余裕さえも与えない。

 

 轟、と吼えるウルトラネクロズマが全身から閃光を放出し、その最後の技の名前を紡ぎ上げる。

 

「喰らうが良い! これが、破滅の鉄槌、“天焦がす滅亡の光”!」

 

 莫大な熱エネルギーと光エネルギーを転化して放つ最大の技「てんこがすめつぼうのひかり」は、このヒスイ地方だけではない。現世でさえも巻き込むほどの威力を誇る、文字通りの必殺技。

 

 ここでその切り札を使うとはハートの女王も思っていなかったが、それでも眼前の煩わしい少女らを葬れるのならば安いものだ。

 

 全ては絶対的な熱量と、そしてビッグバンでさえも想起させる瞬間的な破滅の光に抱かれ、無に帰すかに思われた。

 

 その前に、有栖はポケモンを繰り出す。

 

「行って。セグレイブ」

 

「有栖! これ、ノックス兵団長から!」

 

 兎真は投げたのはただの石のように思われたが、それを手にするなり有栖は握り締めて中天に掲げる。

 

 途端、エネルギーが流転し、周囲の空間を巻き込んで紫色の甲殻を生み出す。一か所に集中した力場が唐突に弾け、生まれ出でたのは。

 

「――メガシンカ、メガセグレイブ」

 

 セグレイブであった頃の巨大な背びれをさらに大剣じみた巨大さに変異させ、青紫色に染まった冷却の氷柱が突き立っている。より凶暴に開かれた口から冷気を吐き出し、全身からプレッシャーを放出していた。

 

「……メガシンカなど! 紛い物共の策など付け焼刃に過ぎん! 消し去れ! ウルトラネクロズマ!」

 

 ウルトラネクロズマが全身に滾らせた黄金の熱核炉から放つ威力は、この場所を陥没させるだけにはとどまらないだろう。ヒスイ地方を完全に焼却する事すらあり得るが、ハートの女王は迷いなど浮かべなかった。

 

 何よりも――あの“アリス”に馬鹿にされたまま終われるものか。

 

 有栖はうろたえ気味な転生者達とは一線を画し、一つだけ、技の名前を紡ぐ。

 

「メガセグレイブ、瞬間凍結、レベル――インフィニット」

 

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