ALICE   作:オンドゥル大使

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第14話 裏切りと『暗躍』

 

 高層ビルの絶壁に足をかけ、綺咲は一点に視線を落とす。ここに至るまで転生者の接触はなかったものの、すぐにでも呪いの傷を癒さなければジャラコのパフォーマンスに影響する。ならば、ここは敢えて自らを分かりやすい戦闘に晒す事だ。綺咲はインカムへと声を飛ばす。

 

「イニシャライズの反応は?」

 

『北東五キロ以内に観測。イニシャライズポケモンではなく、ゲートだと予測されます』

 

「予測精度を、こうして私の動きを気にしている連中にリーク。ゲートで叩き潰す」

 

『構いませんが、お嬢様。もし、敵がそれでさえも予期していたのだとすれば……』

 

「ならばそれこそ変わらない。倒す順番が変わっただけよ」

 

 そう冷徹に告げてから綺咲はけばけばしいネオンと光が乱反射するビル街に身を躍らせる。手首からワイヤーを射出して柵に引っ掛け、その反動でビルの合間を抜けていく。

 

 イニシャライズポケモンの出現予測範囲は濃霧ですぐさま確認出来る。あとは奇襲で不意を突くだけだ。ダイマックスポケモンの場合、後手に回ればそれだけで後れを取る。綺咲はホルスターに手をかけ、濃霧に飛び込んだ、その瞬間であった。

 

「……トランプ兵団……!」

 

「……転生者か!」

 

 鎖帷子に鎧姿のトランプ兵団の下っ端が繰り出したのは茶褐色の表皮を持つ鈍足そうなポケモンであった。

 

『図鑑ナンバー980、ドオーですね。毒・地面タイプです』

 

 チェシャーからの助言を受け、綺咲は既に空中で解き放っておいたジャラコに命じる。直上で回転しながら「ドラゴンテール」の先制手の一撃を与えようとした瞬間、ドオーは逃げずに口腔部より放ったのは泥の放射だ。「マッドショット」と呼ばれる攻撃だが、避けるまでの威力ではない。

 

「ジャラコ! そのまま掻き消してドラゴンテール!」

 

 泥を浴びながらジャラコの一撃が食い込み、ドオーが喉の奥からダメージに呻く。すぐさま地上を駆け抜けドオーの真正面からの「いやなおと」の音響でその動きを阻害し、死角へと潜り込もうとしていた。

 

 しかし、ドオーはジャラコの動きに追従し、今しがた頭蓋に命中した一撃を意に介さずにその短い四肢で飛び掛かってくる。

 

「舐めてかかったな。ドオーは見た目以上に石頭なんだ。その頭蓋骨から繰り出される一撃は、虫タイプでも高威力を保証する……! 釣られたのはお前のほうなんだよ……転生者!」

 

 ドオーの頭突きにしか見えない一撃がジャラコに食い込む。まさか、と綺咲はアルセウスフォンを握り締めてその技を口走る。

 

「メガホーン……虫タイプの物理技……!」

 

 ドオーのようにどう見ても鈍足なポケモンがタイプ一致ではない技を使うのも想定外ならば、ジャラコの一撃が深くダメージになったかと思いきや想定よりも傷は浅いらしい。

 

「メガホーン」で吹き飛ばされたジャラコが持ち直そうとして、不意に前足を折る。

 

 一体何が起こったのかをトランプ兵団は自信満々に告げていた。

 

「ドオーの特性は毒の棘。接触技を使った相手に毒状態を付与出来る。それだけじゃない。ドオーの防御力は高いからな。いくらジャラコのドラゴンテールを打ってこようが無駄だ。毒を受けながらこの失態、どう取り返す?」

 

 綺咲は舌打ちを滲ませて、ジャラコの状態異常を認識する。呪いの傷を受けている上に、毒まで回復出来ないとなれば深刻な問題だ。

 

「……それが何だって言うの。私は勝つ。勝って……あなた達みたいなザコを一掃する。それだけの事よ」

 

 だがあくまでも余裕は崩さない。元々、鏡面界の現地民であるところのトランプ兵団のほうが優位なのだ。それを心が挫けてしまえば一瞬で敗北となるだろう。その最悪のシナリオだけは避けなければ、と綺咲は気丈に振る舞う。

 

「へ……っ、その物言いもいつまで持つかな……」

 

 ドオーは真正面から捉えれば回避の術はいくらでもある。まだ挽回の手段は残されているはずだと綺咲は己に言い聞かせる。恐れと惑いはジャラコにも伝わる、ゆえにこそ余裕を持っていなければいけない。

 

「……ジャラコ、至近距離まで駆け抜けて」

 

 ジャラコが命令を受けて地を蹴り、ドオーへと真正面から向かう。だが、それは相手の射程距離に踏み込む行為だ。当然、トランプ兵団の下っ端はその隙を逃すはずもない。

 

「……自棄にでもなったか……! ドオー、もう一度メガホーン――」

 

「させない。先ほどの攻撃でジャラコにはドオーの頭蓋骨のどの部位が堅いのかが理解出来ている。その構造的な脆さも。鉄壁で尻尾を固めて、そのままの勢いを殺さずにドラゴンテール!」

 

「甘いな! ドラゴンテールはさっきも受けた! どこで受ければダメージを減殺出来るのかは分かり切っている!」

 

 そう、ならばこそだ。

 

 ドオーが攻撃を中断してカウンターに出ようとするのを綺咲は待っていた。目論見通り青い色調を帯びた竜の一撃は食い込むが、ドオーの躯体を揺るがすほどのダメージには成らない。

 

 ドオーが反撃に出る前に、綺咲はその至近距離でこそ輝く技を紡ぎ出す。

 

「ジャラコ、瓦割り……!」

 

 ゼロ距離で振るわれたのは格闘技である「かわらわり」――しかし、通常ならば威力も低い技であったがここで重要であったのは「てっぺき」で肉体を硬質化し、なおかつ「ドラゴンテール」で相手の眉間を打ち据え、その上での攻撃であった事。

 

 ぴしっ、とドオーの表皮に亀裂が走る。

 

 それを嚆矢として再び振るわれた竜の一撃がドオーに付いた一ミリ程度の傷へとジャラコは皮膚を擦り合わせて共鳴音波を放つ。

 

「嫌な音で脳髄をシェイクなさい」

 

 放たれた音波攻撃はドオーの頭蓋骨に伝導し、直後には堪えかねてドオーの肉体が逆さまになって転がる。

 

「……まさか。ドオーが……」

 

「さて。聞かせてもらおうかしら。イニシャライズしたのは分かるけれど、明らかにドオーのような厄介な特性を持つポケモンを用意し、そして何よりも“釣られた”と言ったわね? その意味を」

 

「そ、それは……」

 

「――あーあ。予想通り、使えないわねぇ」

 

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