ALICE   作:オンドゥル大使

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第25話 導かれる『厄災』

 

 中央市街はほとんど壊滅状態であった。

 

 路面電車を粉砕する巨大なポケモンの影に人々は怯え、逃げ惑うのみ。その尻尾が市民を容易く吹き飛ばし、その丸太のような腕がビルを吹き飛ばす。

 

 アルセウスフォンを握れば、そのポケモンの正体がバンギラスと言う名の、岩・悪タイプポケモンである事だけは理解出来たが、それだけだ。

 

 チェシャーが助言を授けてくれる気配はない。

 

 それどころか市街地から飛び出してきたのは意想外の人々であった。

 

「……ウソ……ポケモン……?」

 

 自分達以外のポケモンの使い手――転生者達がポケモンを繰り出し、必死に応戦する。

 

 どういう事なのか、まるで分からない。

 

 転生者は特別な存在ではなかったのか? そのような疑念が鎌首をもたげる前に、現れた転生者らしき人々は手持ちポケモンごとバンギラスに蹂躙される。

 

 バンギラスが人間を踏みしだき、その有り余る凶暴性を発揮して雄叫びだけでビルのガラスが粉砕されていく。

 

 転生者のポケモンが恐れに震え、バンギラスの魔の手が迫るのを有栖は看過出来なかった。

 

「セゴール! 雪景色でバンギラスの動きを制して!」

 

 セゴールが吼え、放たれた「ゆきげしき」の屈折フィールドがバンギラスの一撃を逸らすが、転生者の女性は足が折れてしまったらしくその場から動けないようであった。

 

「大丈夫ですか! ……これは、どういう事なんです? 現実世界で、バンギラスが……!」

 

「何って……? 何も知らないの? “カタストロフィ”よ……。私達は得点が足りない、ただの転生者だから、ポケモンも育成不足だし……」

 

「ただの転生者って……だってポケモンを扱える転生者は選ばれたはずで……」

 

 その言葉振りに、女性は困惑を浮かべている。

 

「……本当に、何も知らずに転生者に? だって、あなたも転生者だって言うのなら……」

 

 その時、セゴールが突進し、女性のポケモンからの攻撃を退ける。完全に意識の外からの攻撃に目を見開いていると、女性は笑みを浮かべる。

 

「……残念。こういう土壇場になったら……私みたいなのでも勝てるのかなって思ったんだけれど……」

 

「しっかりしてください! ……何で、攻撃なんて……!」

 

 バンギラスが吼え立て、全方位に向けて膨大な波導攻撃を拡散させる。サナギラスの時とは規模が違う。暗雲と赤い燐光に塞がれた学園都市全域を吹き飛ばす衝撃波と音叉で市民が倒れ、眼と耳から血を流す。

 

 目の前の女性も防げなかったのだろう。いや、防ぐ気がなかったのか。虚しく事切れた女性の命に有栖は震撼する。

 

「……なんで……? なんで、こんな簡単に……人が死ぬの……?」

 

 女性の骸を抱えながら、有栖は立ち上がる。

 

 バンギラスの天を衝く威容は衰える事はない。むしろ、じわじわと巨大になっているようですらある。

 

「……セゴール。行けるよね?」

 

 セゴールが応じ、氷結エネルギーを宿した背びれを蒼く輝かせる。その体格差は、最早判じるのも馬鹿馬鹿しいほどの規模だ。

 

 だが、それでも――もう、どうなったっていい。

 

 ここで死のうが、勝ち抜こうが、どうでもいいのだ。幸子を死なせてしまった、腕の中にあるこの人も、ここで死ぬはずではなかったのだろう。

 

 だと言うのに、何もかもを失った。こんな自分に出来る事は、たった一つ。

 

 目の前の邪悪な存在を、許さないだけ。

 

「待ちなさい。篠崎さん」

 

 セゴールが駆け出す前に回り込んできたのは綺咲とその手持ちのジャランゴだ。

 

「……どいて、綺咲ちゃん」

 

「退けないわ。あなた、分かっているの? ここでキョダイマックスポケモンに立ち向かう事と、その意味を」

 

「わかんない……」

 

「なら……!」

 

「わかんない、わかんない、わかんないぃ……ッ! わかんないよぉ……っ! あたしがバカだから? 弱いからいけないの? だったらそんな当たり前の理……壊しちゃえばいい……っ!」

 

「……それは違う。私達は……転生者になった時点で……もう」

 

「……綺咲ちゃん。幸子が死んだの」

 

 絞り出すようにして語って聞かせた言葉に綺咲は何でもないように応じてみせるだけであった。

 

「……そう。それは……仕方ないわね」

 

「仕方ない? 仕方ないのかな? ……大切な人が……その尊厳を奪われて死んでいくのって……仕方ないのかなぁ……っ!」

 

 頬を大粒の涙が伝う。

 

 もう、この感情も止め処ない。

 

 どうしようもない怒りと悲しみだけが、胸の中で激しく渦巻いて止まらない。

 

「……私がバンギラスを止めるわ。あなたは下がって――」

 

「出来ないよぉ……っ! こんな風になってまで……何でもないように、振る舞うのは……嫌……ッ!」

 

 その瞬間、天地を揺るがす赤い稲光が降り注ぐ。空を縫い留めるエネルギーが流転し、セゴールの肉体に赤い燐光を帯びさせていた。

 

「……まさか……ダメっ!」

 

「――セゴール。ダイマックス」

 

 駆け出しかけた綺咲を制するかのように、有栖は口にする。

 

 真紅に染まった眼光はセゴールと同期し、まるで肉体から意識が遊離したかのように世界を俯瞰する。崩れていくビル街も。これまで使ってきた路面電車も。何もかもが小さく、そして弱々しい。

 

 これが――世界を壊す衝動ならば、それでも構わないと思えるほどの全能感。

 

「……行くよ、セゴール」

 

 セゴールが吼え立て、バンギラスへと突き抜けていく。

 

「ダメよ! アリス……っ!」

 

 

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