ALICE   作:オンドゥル大使

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第29話 不都合な『真実』

 

 自分の怒りも、悲しみも、喪失感も、何もかもがある意味では定められたもののようで、有栖は言葉に詰まる。

 

「……まぁ、恨まれるコトには慣れてるからねー。けれど、他の生徒の目もあるし、ちょっとカフェまで行こっか?」

 

 まるで何でもない話の延長線上のように兎真は誘う。綺咲へと有栖は目線を振り向けるが、反対するわけでもない。

 

「……話しやすい場がいいはずよ」

 

「だったら、とっておきの場所を知ってるよ! ヒメも来なよ!」

 

 兎真は自由に振る舞いながら路面電車で一駅ほどの立地にある木造の喫茶店に導いていた。入るなり、コーヒーの厳かな香りが鼻孔を抜ける。

 

 どうやら一見さんお断りの雰囲気のようで、兎真が常連だからなのか、カウンターでコップを磨いているマスターは怪訝そうにする。

 

「……兎真ちゃん。困るよ。うちは小規模でやってるんだからさ。今どきの女子高生の情報の速さは、ちょっと……」

 

「心配しなくっても。この喫茶店のお茶の美味しさを知っているのはあーしだけだし。何飲むー? あーしはいつものロイヤルブレンドねー。ヒメは?」

 

 振られて綺咲は少しだけもじもじとしている。理由が分からずにいると、ははーん、と兎真がすぐさま悟る。

 

「さてはヒメ、コーヒー飲めないの? 可愛いなぁ、もう」

 

「……うるさいわね。私は紅茶でいいわ」

 

「んじゃ、君……何て呼べばいいんだっけ? 転生者?」

 

 その眼差しを真正面から見返して、有栖は名乗る。

 

「……篠崎有栖です。篠崎でも有栖でも、どっちでも……」

 

「じゃあ、有栖はさ。ひとまず飲み物頼もっか。すいませーん!」

 

 マスターにそれぞれの飲み物とスイーツを注文し終えてから、兎真が口火を切る。

 

「んで。有栖は何を知りたいの? ある程度、“一巡”したんだから分かるはずでしょ?」

 

「“一巡”……? いや、それよりも……。何で、壊されたはずの街が元に戻っているの? 幸子も……あなたが殺したはず。だって言うのに、生きているのは何故……?」

 

「質問がいっぺんに多いってばぁ。……そうだなぁ。まぁ、あの時点で死んじゃうよりかは、幸子とかいうお友達を殺したのには理由があって。もうすぐ“カタストロフィ”が始まるからってんでギリギリだったんだよね。だから死んでもらった、かな?」

 

 兎真の論調に悪びれたような様子はない。それどころか、最善策を取ったかのような言い草であった。

 

「早谷兎真。説明責任、と言うものがある。私はちゃんと……篠崎さんに言うべきだと思うけれど」

 

「ヒメは手厳しいなぁ。……それもそうと言えるんだけれど、あーし、別に運営側の人間でもないし。その点で言えば、チェシャーが適任だけれど」

 

「そうだ、チェシャー……。チェシャーに……最高得点者だって言われて……」

 

「訳も分からずに“コール”したってわけか。けれど、あの空間では最も望んでいる選択肢が優先されるから、有栖の側に非はないよ。問題があるとすれば、あの段階になっても説明しないチェシャーのほうだよねぇ」

 

 運ばれてきたスイーツを頬張り、兎真は頬を緩めさせる。

 

「……チェシャーは……」

 

「今は“シーズン”の合間。チェシャーは応じないわ」

 

 アルセウスフォンを取り出しかけて綺咲に制される。何だかそれも理解の範疇の外で、有栖は困惑するばかりであった。

 

「……アルセウスフォンを握った瞬間、記憶が戻ってきて……あれは何だったの?」

 

「そういう風に、転生者はなっている。たとえこの“ゲーム”がどれだけ長引いて、五年くらいブランクがあったとしても、アルセウスフォンにさえ触れば記憶は戻ると……そう言われてるねぇ」

 

「……五年? 待って。……この“ゲーム”は何年ほど続いているの……?」

 

 綺咲と兎真は顔を見合わせ、それぞれの回答を返す。

 

「……少なくとも、私はこの一年間で10回以上。それ以上は言えない」

 

「あーしはこの二年くらいかなぁ。その甲斐もあってヒメと打ち解けたんだもんねぇ!」

 

「……別に打ち解けてない」

 

 イチゴパフェが運ばれてくる。有栖と兎真が視線を交わしていると、どこか不承げに綺咲はスプーンを持ち上げていた。

 

 紅茶も運ばれてきて、有栖の前にはカフェオレとモンブランが置かれる。

 

「……で、まぁ長い期間を費やしてる人も居るってわけ。ヒメが実際のところ、何年間この“ゲーム”に参加しているのかは教えてもらってないけれど、少なくともこの学園都市ではそういう人間は大勢居る。それは有栖も見たんでしょ?」

 

 ダイマックスしたバンギラス相手に勇猛果敢に立ち向かう転生者を目の当たりにしたが、あれはどう見ても蛮勇であった。そもそも何故、あの段階になるまで出てこなかったのだろうか。

 

 その疑問が顔に出ていたのか、綺咲は補足する。

 

「……転生者は私達のように積極的に戦う事を選ぶ人間達ばかりじゃないわ。転生者に選ばれても、全く得点を稼がない人間も大勢。いえ、それが大多数ね」

 

「そりゃーね。殺し合いをするくらいなら、静かに生きていたいのは分かるけれど、“カタストロフィ”が来ちゃえばそこまで。得点の少ない転生者は足切りに遭う」

 

 先刻から当たり前のように含まれる“カタストロフィ”と言う言葉に、有栖は疑問を抱く。

 

「……分からない。転生者って、ポケモンを扱える特別な存在なだけじゃないの?」

 

「それがこの“ゲーム”の落とし穴……なんだけれど、チェシャーは言ってくれないんだよねぇ」

 

 チョコレートケーキが運ばれてきて、兎真は切り分けながら応じる。そもそも、チェシャーから教えられた範囲では、転生者同士の戦いは推奨されていなかったはずだ。

 

「……確か、トランプ兵団を倒してヒスイ地方を解放してくれって……」

 

「ウソじゃないんでしょうけれど、本質は別でしょうね。それに関してで言えば、私も調査不足ではあるんだけれど」

 

 イチゴパフェをいつの間にか真ん中あたりまで食べている綺咲に、思ったよりも大食漢なのだ、と有栖は認識を新たにする。

 

「……あーしにしてみれば、チェシャーの言う詭弁をどう受け取るか次第なんだろうけれど、有栖は今回がはじめて?」

 

「……分からない。はじめて……だと思う」

 

 綺咲は無言だ。黙々とパフェを食べ進め、紅茶を雅に口に運ぶ。

 

「じゃあ、あーしらの協定に関しても言っておこうかな。って、どっちにしたってこれから先、転生者として戦うかどうか、もかかっているんだけれどね」

 

 そうだ、そもそも転生者を続けるのかどうかも岐路に立たされている。兎真の言い分では、幸子が死んだのも織り込み済みであるかのような印象を受けた。それがどれほどに辛くとも、一体何がどうなっているのかが分からないのだ。

 

「……転生者として戦う事が……正しいのかどうかはあたしにはまだ分からない。けれど、兎真さんと綺咲ちゃんは……まだやるんだよね?」

 

「次の“シーズン”が巡ってくるのはそう遠くはないわ。その度に死んだはずの転生者は記憶を失って復元され、街が無茶苦茶になっても誰も分からないうちに修復されている」

 

「何でそこまでの事が……この“ゲーム”だと当たり前なの? 一体、この“ゲーム”って……!」

 

「っと。怒るのはそこまでねー。時間が来ちゃったみたいだし」

 

「時間……?」

 

 兎真は最新機器とギャルファッションで固めたのとは相反するような懐中時計を取り出して眺める。

 

「そうね。呼ばれるわよ」

 

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