「――転生者と言うのは、今説明した通り。特権を持つそういった存在だと思ってくれて構わないわ」
マオフェンは行きつけの中華料理屋で説明を終え、仲間に引き入れた妙子と幸子の顔を覗き込んでいた。
彼女らは二人とも、この信じ難い事象に戸惑っているようであったが、幸子はまだ理解が早いようでおずおずと挙手する。
「……アルセウスフォンを握った時から……思い出した事があるの。言っていい?」
「どうぞ。ああ、そういえば。あなたは前回の“シーズン”で篠崎有栖ちゃぁんと仲良しだったわよねぇ?」
中華まんを頬張り、マオフェンが促すと黒いアルセウスフォンを握り締めて幸子は悔恨を口にする。
「……私が弱かったから……だけじゃない。有栖は多分、あの人……私を殺した早谷兎真……! あいつに操られているんだよ! そうじゃないと……あんな連中と馴れ合うはずがない!」
「けれど、それでも……! ……それでも信じられないわよ。あの小心者の有栖が、欲望を懸けた“ゲーム”なんかに参加しているなんて……」
妙子は姉として、これまで有栖の事を見てきたがゆえに信じられないのだろう。頭を抱える彼女にマオフェンは言葉を送る。
「事実よ。受け入れなさい。私と有栖ちゃぁんの戦いを見たでしょ? あの子は戦いに……いいえ、殺し合いに慣れている。そういう素質があるのよ。それこそ……生まれ持った、とでも言うべきかしらねぇ?」
「……殺し合いに……。あの子が……? でも、ああ、そうか。だから……私とあの子は……違うのね」
妙子の中でも葛藤があるようだがすぐにそれは解消されるだろう。現にその瞳に宿らせた暗い衝動は疑いようもない。
妙子は有栖を憎み、幸子は有栖が操られているのだと義憤に駆られて兎真と綺咲を倒そうとする――その流れでいい。それでこそ、自分達の想定内のチームロワイヤルであろう。
「けれど……早谷兎真さんには気を付けたほうがいい。あれで実力者ですからね」
そう言づけた美月は先ほどからほとんど食事には手を付けていない。
恐らくは手痛いしっぺ返しにでも遭ったのだろう。それに関してで言えば、想定内であった。兎真は転生者の中でも指折りの実力者。綺咲と結託しているのであれば、美月一人で勝てるとは思えない。
「……けれど、そんなあの子達は瓦解する。三人だけならチームロワイヤルで私達が有利。こんな状況で下手に頭数だけ増やしたって勝てるはずがないわ」
甘美な味のジャスミンティーで喉を潤し、最早分かり切った戦いに喜悦の笑みを浮かべる。
『マオフェン、貴女達の勝利は揺るぎないでしょうけれど、気を付けるに越した事はないわ。チェシャーは勝つためならば何でもするからね。想定外は起こるべくして起こると思ったほうがいい』
「シュレディンガー。あなたがそんなに弱気じゃ勝てるものも勝てないわよ。そうねぇ……有栖ちゃぁんには、この局面を残酷に、それでいて絶望的に味わってもらわないと。如何にチェシャーがこれまでの“ゲーム”を回してきたとは言え、私達は盤石な駒を誇っている。そうよね? 篠崎妙子さんに高峰幸子さん?」
妙子が震える手でモンスターボールを握り締める。まだ恐怖が勝っているようだが、それもじきに上塗りされるだろう。ポケモンを扱い、敵を葬るあの感覚は他の何もかもに代え難い悦楽だ。
「シュレディンガー、だっけ。……今回はチームロワイヤルだって言うんなら、前みたいに鏡面界に行く必要はないって事よね?」
幸子の問いかけに黒いアルセウスフォンに浮かび上がったシュレディンガーはスカートを摘まんで礼儀正しく応じる。
『その心配は要らないわ。けれど、ある程度は育てたほうがいいのかもしれないわね。アタシ達の側には有利な条件が揃っているとは言え、未進化ポケモンで勝てるほど甘くはない』
「安心なさい。この世には戦ってレベルを上げるだけが勝利の方程式じゃないのよ」
マオフェンが取り出したアタッシュケースに詰められていたのはポケモンのレベルと能力を引き上げる道具であった。手のひらサイズほどの小型の機械を人数分揃えてある。
「……これは?」
「これは学習装置。チーム内で経験値は共有しましょう。そうすれば効率的にレベル上げが可能になる。妙子さん、あなたもきっと、有栖ちゃぁんに勝てる転生者になれるわ」
「……私が……有栖に……」
これで種は撒いたと思っていいだろう。
元々、この二人には有栖達を憎むしがらみめいたものがある。それを増長させ、そして育てればいいだけの話。
「……あとは、そうねぇ。チームロワイヤルなのだから、私達は弱点を共有すべきよね。それぞれの手持ちと、それと切り札について」
「切り札?」
幸子の問いかけにマオフェンはシュレディンガーへと一瞥を向けてから、その唇をゆがめる。
「――私達にはついているのよ。最強の転生者が」