ALICE   作:オンドゥル大使

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第45話 想いと『力量』

 

 セビエが「ゆきげしき」を発動させ屈折フィールドが「ラスターカノン」を着弾させない。僅かに逸れたとは言え、判断を一瞬でも間違えれば直撃であった。それに対して幸子が声を上げようとして、有栖の佇まいに息を呑んだようであった。

 

「……あれが、有栖……? けれど、違う……」

 

 何が、と言う主語を欠いたままの評価に兎真が絶句していると美月は手を叩いて哄笑を上げる。

 

「いやいや! ご立派! ちゃんとラスターカノンを逸らすくらいは出来るんだ? なら……今度はもっと難しい事をやってあげようか!」

 

 ジュラルドンが腕の中に光球を溜め込み、高速回転する自律兵装として展開する。前回苦戦した「ジャイロボール」であったが、その数は以前に戦った時よりも遥かに多い。

 

 ほぼ全方位を塞ぎ切った包囲網に有栖は悲観するわけでも、ましてやうろたえるわけでもない。

 

「なら。セビエ、私達も手数を増やす」

 

 凍結エネルギーが凝結し、セビエの両腕に棘のように突き立ったのは氷柱であった。それらを掴み取り、あるいは背びれに拡張させてセビエは果敢に吼える。

 

「……氷柱針、か。だが鋼タイプのジュラルドンに対し、氷技は通用しない! 無駄な足掻きだったね!」

 

 四方八方から「ジャイロボール」が放たれる。有栖は冷静なまま、「つららばり」を装備したセビエを駆け抜けさせる。高速回転の光弾が地面を抉り、セビエを撃ち抜こうとするが、迫った「ジャイロボール」をセビエが「つららばり」で相殺しようとしていた。

 

「愚かな! そのまま肉体を引き裂いてあげよう!」

 

 確かに攻撃は完遂されたかに思われた。

 

 ――その技が「つららばり」によって相殺されたのを目の当たりにするまで。

 

「ジャイロボール」が霧散しかと思うと、セビエは「つららばり」を連射する。ジュラルドンの躯体に突き刺さった氷の触媒は肉体を照り輝かせて体温を上げる事で溶解させたが、それでも氷は根を張りジュラルドンの重戦車のような躯体を少しずつ縛っていく。

 

「……やるね。けれど、ジュラルドンは鋼・ドラゴンの複合! 氷タイプじゃ効果は得られない!」

 

「いいえ、もう」

 

 ジュラルドンが呼吸しようとして、その体内から冷気が漏れる。異常を感じ取った美月が指示を出す前に、ジュラルドンがその体表から放出するはずの熱系統が全て冷却される。

 

「……ジュラルドン? まさか、ほんの一瞬未満だぞ……」

 

「ジュラルドンの体表はアルミ金属。その体重は四十キロしかない。軽い肉体を維持するためには、常にどこかに放熱部位が存在するはず。……アルセウスフォンで探らせながら凍らせてよかった。尻尾の放熱のための穴、そこから体内組織を凍て付かせた」

 

「……バカな事を……! それでもジュラルドンの特性はライトメタル! 図鑑説明を過信して重く見積もった事が災いしたね! まだジュラルドンは動く――」

 

「そうはさせない。アップリュー、草結び」

 

 兎真のアップリューが草木を芽吹かせ、ジュラルドンの機動性を奪う。それは一度でも体内にセビエの氷の触媒を入れられ、動きを鈍らせたジュラルドンにとっては致命的であったのだろう。

 

 たった一度の転倒でジュラルドンは地面に氷で縫い留められていた。

 

「……ジュラルドン……! くそっ! 篠崎有栖! キミは分かっているのか! 早谷兎真こそが元凶だろうに! 本来ならば討つべきは彼女だ! 高峰君と争い、そしてキミともいずれ殺し合うだろう!」

 

「そうはさせない」

 

「そうはさせない、だと……? 転生者の宿命からは逃れられない! ここでボクを倒すよりも、身内の膿を出し切ったほうが……!」

 

「兎真さんも、幸子も死なせはしない。……あたしは、もう決めた。戦うのなら……その罪も、禍根も……全部背負って、背負って背負って……許すんだって! だから、戦う事の罪は、あたしがここで全部背負っていく!」

 

「……本当に有栖なの……?」

 

 幸子の疑念も無理からぬ事だろう。これまでの有栖の姿とはまるで一線を画している。何があったのかは推し量るほかないが、これは好機でもあった。

 

「……アップリュー、Gの力でジュラルドンと相手を縛って」

 

 高重力が発生し、ジュラルドンと美月の動きを制限した瞬間、アップリューの鉤爪に掴まったまま、兎真は有栖へと手を伸ばす。

 

「有栖! 今は撤退したほうがいいよ! ……ここでの決着は、持ち越しだね。綾坂美月……」

 

 大地に這いつくばった美月はその眼差しに憎しみを宿らせて、こちらを睥睨する。

 

「……絶対に、君らを許しはしないぃ……ッ! その戦いの先に待っているのは悲劇だ! 断言してあげよう!」

 

「……行こう、有栖」

 

 兎真は有栖の手を引く。学園都市の宙を舞い、兎真は一気に中枢区画へと抜けていく。複雑怪奇に重なり合った学園都市の積層構造をゆっくりと浮遊し、やがて裏路地に降り立つ。

 

 ポケモンをボールに戻した瞬間、幸子が手を振り払っていた。

 

「……私に触らないで。汚らわしい……!」

 

「幸子っ! ……兎真さんは、幸子を助けて……」

 

「助けて? 笑わせないで! ……殺した相手を警戒するなってほうが無理な話よ」

 

「それは……」

 

 有栖も言葉を彷徨わせるほかないようであった。それも無理からぬ事。自分が幸子を一度殺したせいでややこしくなっているのだ。兎真は一拍だけ考えた後に、よし、と呼気を詰める。

 

「有栖っ! それに高峰幸子だっけ? 二人とも、こういう時には女子のやるコトは決まってるよね?」

 

「……女子のやる事……ですか?」

 

「決まってるって何の事よ……」

 

 二人分の胡乱な眼差しを受けながら兎真はウインクする。

 

「そりゃー、もち! 女子会に決まってんじゃん♪」

 

 

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