ALICE   作:オンドゥル大使

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第52話 氷の『技能』

 

「まずは基本的な事を教えるね。アリスさん、あなたの凍結範囲をセビエで示してくれる?」

 

 カイからのレクチャーは優しく、グレイシアと呼ばれる小型のポケモンを使ってまずは手始めにセビエの凍結の精度を試したいとの事だ。

 

「……いい、ですけれど……。あたし、意識してセビエの凍結領域を操った事なんて……」

 

「そう? あなたなら、それくらいは出来そうだけれど?」

 

 カイは微笑んで首を傾げる。どうにも――この世界の人間とは思えない。それに関してで言えば綺咲も兎真も言葉少なで、こうして姫宮財閥の疑似戦闘訓練アリーナで対面するのは緊張するばかりだ。

 

「……その、じゃあセビエ。氷のキバを……」

 

 セビエが鋭く鳴いて「こおりのキバ」を構築する。それを目にしてカイは満足げに頷いていた。

 

「うん! 凍結完了までの速度は三秒ってところだね。もっと扱いのいい技はたくさんあるだろうけれど、氷のキバでそれくらいなら普通、ちょい上かな? 思ったよりも精度は高そうだけれど、もっと上を目指せるね!」

 

「もっと上を……? けれど、進化しないと……」

 

「そう? グレイシアだって一進化ポケモンだし、元々はイーブイがある特定条件下で進化する特殊なポケモン。セビエが進化出来るのなら、その先があると思う!」

 

 カイはどこまでも前向きだ。有栖は後ろで見守る綺咲達へと一瞥を投げるが、完全にアドバイスはカイに一任しているらしい。

 

「あーし達は他に勝てる方策を練る。有栖は唯一、カイと同じタイプのポケモンの使い手だから、タメになると思ったんだけれどなぁ」

 

「その期待には応えるよ! アリスさん! もっと凍結領域を伸ばしたくない? たとえば……」

 

 グレイシアの表皮が毛羽立ち、瞬間的な冷気を生み出す。それはセビエの構築した「こおりのキバ」を上書きし、荷重してセビエの頭部が地面につく。それだけに留まらず、セビエの四肢はアリーナに拘束されていた。ささくれ立ったような氷の鎖がセビエを封殺する。

 

「……こんな速度の凍結……」

 

「あなたにも出来るはずだよ! だって、アリスさんのセビエ、特別に見えるもの! 大丈夫! 瞬間凍結に関してで言えば、何度も試行回数があれば習得出来る。ためしに……わたしのグレイシアに氷技を撃ってみて!」

 

「そ、そう言われても……」

 

 氷タイプの高精度の技を撃ってくるグレイシア相手に、セビエの氷技が通用するとは一切思えない。それどころか、手痛い反撃を受けそうで有栖は躊躇する。

 

 それを見切ったように、カイは指を鳴らす。

 

「はい、そこ!」

 

 セビエが膝をついていた。

 

 その骨格を震わせるカイのグレイシアの凍結領域と速力は目を瞠るほどだ。ただ表層だけを凍て付かせるのではない。内部骨格を構造分析し、その中で最も脆い箇所を見出した上で、肉体の反射と反応を理解して凍り付かせている。

 

「……こんなの、出来っこない……」

 

「アリスさん。瞬間凍結のコツは、大きく分けて三つ! 一つは、ポケモンの構造解析だけれど、これは案外簡単だよね? アルセウスフォンを握れば相手のポケモンの弱点というか急所は分かるようになっているし。なら、レッスン2だよ! 相手のポケモンがどこを凍らせられれば困るのか、どこに向かって冷気を撃てば有効打になるのか、って事!」

 

「……そんなの、一瞬で分かるわけ……」

 

 戸惑う有栖にカイは頭を振る。

 

「一瞬で分かる必要性はないよ? 凍らせながら効率的に、そして氷の神経を伸ばして弱点を探っていけばいい。触診、って分かる? 触りながら、ああここが痛いのかなとかここが悪いのかな、って言うの。医者だとかが出来る技能だけれど、わたしにはそれが身についている」

 

「……けれど、カイさんの過去って……」

 

「うん、分かんないけれど、わたしは身についた技能を活かして、自分の事を思い出したい! それってヘンかな?」

 

「い、いえ……! ヘンどころか……」

 

 むしろどこまで前向きなのだと怖くなるほどだ。有栖にしてみれば、記憶がないと言うのに転生者同士の戦いに巻き込まれて恐怖はないのかと問いただしたくなる。そんな疑念でさえも察知したように、カイは軽く笑みを浮かべる。

 

「……記憶がないのに、偉そうにしてゴメンね? けれど、わたしはアリスさん達を勝たせるためにチェシャーに呼ばれたらしいから。その仕事は全うしたいの。キサキさんや、トーマさんは見れば分かるくらいの実力者だけれど、アリスさんだけはちょっと違うように映ってね? その真の力、引き出してみたいと思うんだ」

 

「し、真の力……?」

 

「うん! セビエはまだまだ出来るよ! それはもちろん、アリスさんも!」

 

 こうして勇気づけられるのは何だか物珍しい経験であった。マンツーマンで氷技の鍛錬をしてくれるのだから渡りに船ではあるのだが、それにしても、と有栖は考える。このチームロワイヤル、勝った末に待っているのは何なのか。果たして――勝利する事が正しいのかと。チェシャーが自分達を勝たせるために用意したと言う、目の前の少女一つを信じる事も飲み込んでいいのかは分からないのだ。

 

「けれど……セビエの凍結範囲を操れたとして……あたし、そんなに実戦で上手くは戦えますかね……」

 

 こちらの懸念にカイは何でもないように応じる。

 

「大丈夫! セビエの凍結術を自分の手足のように感じられれば、そこまで難しくはないはずだよ! それに……アリスさんには素質があると思うの。これから教えるのは、生き延びるための、そういうやり方。誰かを傷つけると言うよりかは、誰かに傷つけられないようにする、心得みたいなものかな」

 

「心得……」

 

 ここまでカイが苦心してくれているのだ。ならば、応じないのも嘘ではないか、と有栖は頬を張って気合いを入れ直す。

 

「……分かりました。あたし……やります……!」

 

「そうこなくっちゃね! わたしが教えられるのは、瞬間凍結のコツだけ。そこから先は、アリスさん自身が学ぶ事になると思う」

 

 それを聞き入れて有栖は決意を新たにする。

 

 幸子や妙子、それに母親を取り戻すためにはもっと力が必要。それこそ、シンプルな力だけではない。先にある己の真の実力を示さなければ。

 

「……よろしくお願いします……!」

 

 セビエが構えを取り直す。カイとグレイシアに向けて、一心同体になったような気持ちで駆け出していた。

 

 

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