ALICE   作:オンドゥル大使

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第80話 堕ちた『人界』

 

「変わっちゃったなぁ……」

 

 そう言った第一印象が漏れるのも無理からぬ事で、傍らに浮かび上がったのは最新式ドローン技術を詰め込んだ端末であった。

 

『現状、学園都市第七十六区画へと足を踏み入れています。これ以上の進行は都市規格二十七則に違反しており――』

 

「うるっさいなぁ……。学園都市の都市規格なんてもうほとんど意味はないって言うのに……」

 

 右腕に装着したガジェットを操作してドローン端末へと強制介入してきた学園都市のシステムを逆ハックし、その機構を刷新する。

 

『……現在、七十六区画の安全性レベルはB以下です。このまま“ポケモン”と遭遇する確率、八十パーセント以上と推察します』

 

「“ポケモン”かぁ……」

 

 ふとぼやいてしまったのは、この半年で様変わりしてしまった学園都市の空を仰いだ時の憂鬱さも加味されていたのだろう。

 

 空を覆う天蓋。巨大山脈を有する広大な大地が悪夢の光景のように逆さ吊りになっている。まるで不出来なサーカスか、あるいは特撮造形のミニチュアであった。

 

『pipipi……着信を確認。フレンド様からです。……“どう? この世界で唯一無二の要塞に足を踏み入れた感覚は”』

 

 端末から漏れ聞こえた少女の声音に、今まで使っていたゴーグルを持ち上げる。

 

「“レベッカ”? ああ、うん。そういう点で言えば、正直想像以上かも。まさかここまで外界を拒むように出来ているなんて……」

 

『“それもこれも、半年前に起こった出来事に端を発しているのだから驚きよね。まさか世界に誇る姫宮財閥の社長令嬢が……こう言っちゃなんだけれど悪の総大将だなんて。アニメでもなかなか見ないわ”』

 

 レベッカとは同じタイトルのゲームを遊ぶ仲で時折こうして音声チャットを送り合いながらプレイしていたのだが、まさかそのゲームこそが今、世界を激震に陥れているなんて半年前までは思いも寄らない。

 

「“ポケモン”……だっけ。本当に出るのかな……」

 

『“何度もニュースで見たでしょう? 米軍のステルス機を撃墜する黒いポケモンを”』

 

「それはそうなんだけれど……にしたって嘘っぽいって言うか……。某国の陰謀を囁いているのは何もそんじゃそこいらの配信者だけでもないし……」

 

『“あら、心外。私はあなたにとっては陰謀論と一緒なのかしら? それって失礼しちゃう”』

 

「怒らないでよ、レベッカ。そうだなぁ……ぼくにしてみればこの場所に……潜り込んできたと言うよりかは……胸に湧いた感傷は……」

 

 そこから先の言葉を紡ぎかけて不意に端末がジャミングを受けてドローンがプロペラを回転させて浮遊する。

 

『pipopopa……! 姫宮財閥からの最終通達が送信されました。現在地に鏡面界より、ポケモンがイニシャライズします! 付近の市民の皆さまは即座に退避をお願いします! 繰り返します! ポケモンが出現します!』

 

「うるっさいっ! そんなに警告出したら狙ってくれって言っているようなものじゃないか! このっ!」

 

 ぽかっ、と拳で浮かぶ端末を殴ってから、ドローン機能を停止させて小脇に抱えたところで不意に視線を感じていた。

 

 右腕のガジェットで走査すると、横倒しの状態の瓦礫と路面電車の影から現れたのは赤いセンサーユニットを装備した市民である。

 

「……まずい! 難民の暴動だ……!」

 

 何度も違法動画の配信で見知ったつもりであったが、いざ目にすると身が竦む。隠れられる場所を探るが、それよりも早く彼らは指示する。

 

「居たぞ! あいつ、金目のものを持ってるぞ!」

 

「狙え! スピアー!」

 

 その声に応じて浮遊したのは巨大な虫型のポケモンであった。羽音を散らし、冗談のような大きさの針の器官を両腕に有するものは、この世の生態系を無視している。

 

 それこそが――“ポケモン”。

 

「……逃げないと……!」

 

「待て! 逃がすな! スピアー! ダブルニードル!」

 

 スピアーがその力場を身体の中枢に溜め込み、両腕から矢継ぎ早に弾丸のような針を連射する。そのような連射性能だと言うのに地面が容易く抉れ、人間に命中すればひとたまりもないような威力を振るう彼らは、ただの難民ではなかった。

 

「……まさか……転生者に覚醒した市民……!」

 

 ぼろきれを纏っているが、一様に赤と白のツートンカラーのボールを握り締めている。その姿は、半年前までの自分にとっては完全なフィクションの代物であったが、今目にしているのは間違いようもなく現実だ。

 

「逃げるなァ! ゴラァッ!」

 

「……冗談! レベッカに会えないまま……このまま死ぬなんて御免だよ!」

 

 しかし、学園都市は酷い有様であった。瓦礫がそこいらかしこに転がっており、今も燻る戦火は収まる気配もなく、貧困に喘いだ避難民が身を寄せ合っている。

 

「おめぐみを……」

 

 不意に中年女性に手を差し出されて、それに蹴躓いて盛大に転んでしまう。

 

「痛ったた……!」

 

「ゴクリン! 囲め囲め!」

 

 立ち上がろうとして、緑色の小型ポケモンに完全に包囲されていた。小さいが、その特徴的な大口を開けて喉から毒素を放っている。臭気だけで胃液が上がってくるような溶解液を垂らしつつ、ゴクリンと呼ばれたポケモンを引き連れて難民の転生者がそれぞれ顎でしゃくっていた。

 

「粘液でこいつの身ぐるみ剥いじまえ! 観光客身分のストリーマーなんざ、金にはなるだろ」

 

 煤けた顔色の男達がじり、と歩み寄ってくる。息を詰め、咄嗟に右腕のガジェットを操って飛行するドローンで転生者達を翻弄しようとするが、相手のほうが上手だ。

 

「ゴクリン!」

 

 ゴクリンがぴょんと跳ねたかと思うと、ドローンのプロペラへと毒の唾を吐く。じゅぅと溶けていくドローンに思わず声を張り上げていた。

 

「や、やめろよ……! これがないと、ぼくは……!」

 

「構うな。まずは金目のものを全部差し出してもらうぜ。その後は……まぁ、解体だろうがなんだろうが、役には立ってもらおうか」

 

 ぞくりと総毛立つ。この市民達にとっては命なんていくらでも替えの利く概念なのだ。彼らに後ろ手に拘束され、今に身ぐるみを剥がされそうになった、その瞬間であった。

 

『イニシャライズ反応増大。ダイマックスポケモンが出現します。市民の皆様におかれましては、即時避難を。繰り返します、即時避難を』

 

 ドローンに搭載されていた端末からの伝令が響き切る前に、赤銅の色調を誇る巨大なる魔が鏡面界からまるで隕石のように降り注ぐ。

 

 それらは街並みを蹂躙し、瓦礫を吹き飛ばしながら丸まっていた肉体を開く。

 

「……ダイマックスポケモン……! 三体も、か……!」

 

 一体はドリルを想起させる角を有した二本足で立脚するポケモンであった。もう一体は巨大な翅を持つ事で天敵を威嚇するかのような眼の紋様を誇る虫ポケモン。そして最後には、特徴的な前歯を持つネズミ型のポケモンであった。

 

「……サイドンにアメモース、それにラッタ……なら、得点を稼ぐ事も出来そうか……? 各々、包囲陣を張るぞ」

 

 リーダー格が命令するなり、難民達が一斉にポケモンを繰り出し、四方八方から攻撃を見舞おうとするが、サイドンの尻尾で蹴散らされ、アメモースの放った水の散弾が貫いていき、ラッタはと言うとダイマックスポケモンであると言うのに敏捷性は高く、攻撃を掻い潜ってその前歯の頑強さで噛み砕く。

 

 ほんの一瞬の出来事であった。転生者であるはずの彼らであっても、鏡面界より現れた純正のポケモンには敵わない。撤退しようと転生者がボールを突き出すが、それらをアメモースの放つ水の砲弾が的確に撃ち落としていく。ラッタが即座に転生者へと突進を見舞い、もろに受けた一人は瓦礫に身体を叩き潰されて血潮を撒き散らす。

 

「……に、にげ……ッ!」

 

 転生者達が逃げおおせようとするが、三体のダイマックスポケモンに阻まれてしまえばそう容易く生き残る算段など思い浮かぶはずもなし。

 

 絶望的な状況下の中、ラッタが吼え立てた、その時――。

 

「――非武装の人も襲うのは、感心しないなぁ」

 

 その声に面を上げた刹那、不意に周囲の空間が凍て付く。その視界の中に映ったのは、赤い装甲服を着込んだ少女であった。しかし頑強さとは相反するかのように肩口を晒している。白磁のような肌が眩しい少女は、傍らの小型のポケモンへと命じていた。

 

「グレイシア、凍える風」

 

 グレイシアの生み出した凍結領域が瞬間的にダイマックスポケモンを凍らせ、それぞれの動きを封じていく。雪花を巻き上げたかと思えば、またたきの間にダイマックスポケモンは足を凍らされてつんのめる。それを目にして、少女が告げる。

 

「アリスさん、きっちり動きは封じたよ。問題の子達の処理は任せるね」

 

「――了解」

 

 ぎょっとしたのはいつの間に現れたのか、装甲服とゴーグルに身を固めた人影がまるで幽鬼のように自分の傍に佇んでいたからだ。まるで気配なんて感じられなかった相手は絹のような金髪を一本に結い上げている。

 

「……何だァ! GIGか! 姫宮財閥の狗が!」

 

「……どうとでも。あなたも、ここら辺は危ないって勧告があったはずだけれど?」

 

「あ、ぼくは……」

 

 振り向けられた言葉に応じる前にダイマックスしていたサイドンがその角を高速回転させ、自身の躯体を鳴動させて氷を振り解き、重戦車さながらのスピードでこちらへと飛び掛かってくる。

 

 それにはさしもの野良の転生者では太刀打ちも出来ないのだろう。

 

 ゴクリンが吹き飛ばされ、スピアーの連撃も虚しくその装甲を前に無効化される。

 

「ヤベェ……っ! 逃げろ!」

 

 だが、ダイマックスサイドンの咆哮が響き渡った途端、野良の転生者達は足を竦ませる。混じりっ気なしの戦闘本能を前にして、この区画だけで吼えているだけの弱者には出来る事もないのだろう。

 

「た、たすけ……」

 

 じり、と金髪ポニーテールの少女が歩み出る。しかし、その姿はどう見ても華奢だ。やめさせないと、と思うがどのような言葉をかければいいのか分からない。

 

「……危ないですよ……!」

 

 ここで転生者相手に追い剥ぎに遭い、その上ダイマックスポケモンに手も足も出ない自分のような旅行者が言うのは特上のジョークであったのだろうが、生憎笑ってくれるような観客は居ない。

 

 それどころか、舞台の上に立つ役者でさえも。

 

 しかし、少女だけはそれを受け止めてくれていた。

 

「……大丈夫。すぐに終わらせる。行って、セグレイブ」

 

 取り出されたツートンカラーのモンスターボールが投擲されそこから出現したのは氷の表皮を誇る怪獣型のポケモンであった。剣のような背びれに蒼い輝きを宿し、セグレイブと飛ばれたポケモンが吼えると、ダイマックスサイドンも負けていられないと判断したのか、胸元を叩いて威嚇する。

 

 途端、この場に召喚されたラッタとアメモースの身に纏っていた赤銅色の燐光を吸収していた。

 

「……まさか、さらに大きくなるって言うのか……」

 

 その予感を裏付けるように、ダイマックスサイドンは三倍近く巨大化する。最早、その足踏みだけでも野生の転生者とポケモンならば竦み上がるほど。

 

 だが、少女は臆した様子もない。それどころか、何かを掌握するかのように手を伸ばし、そして掴み取る。

 

「瞬間凍結、レベル4」

 

 紡がれたのはそれだけの言葉だったが、ダイマックスサイドンの首筋が凍て付く。まるで襟巻さながらの氷の輪が構築され、ダイマックスサイドンの喉元を締め付ける。

 

「ダイマックスは実際に巨大化しているわけじゃない。ムゲンダイエネルギーの発露で実際には、個体のポケモンの投射映像。なら、大きさを無視しても有効なのは、呼吸器」

 

 ダイマックスサイドンが凶暴化して吼え立てながらその尻尾でセグレイブを操る少女を薙ぎ払おうとするが、それを止めたのは先刻のグレイシアの少女であった。

 

「アリスさん……! ダイマックスの拡散現象が起きると厄介!」

 

「分かっています。……終わらせるよ、セグレイブ」

 

 セグレイブが身体を丸め、その口腔部から莫大な量の冷気を吐き出す。やがて、推進剤を想起させるかのように浮かび上がり、セグレイブはくるりと躯体を一回転させて大剣の背びれをダイマックスサイドンに向けていた。

 

 ダイマックスサイドンが足を踏み鳴らし、セグレイブと少女を威嚇するが彼女はそれにうろたえるわけでも、まして闘争心を消し去る様子もない。

 

「行って、セグレイブ」

 

 少女の声に呼応してセグレイブが雄叫びを上げ、背びれの剣をダイマックスサイドンの胸元へと突き刺す。ダイマックスサイドンにしてみれば、その一撃が完遂された事も意想外であったのならば、これほどの巨大感を醸し出しているのに恐れもしない少女も想定外であったに違いない。

 

「――巨剣、突撃」

 

 さらにセグレイブが冷気を吐き出して加速し、直後にはダイマックスサイドンを貫いていた。すると、まるで風船から空気が抜けていくように一瞬にして赤銅色の色調が消え去り、ダイマックスのエネルギーが霧散してただのサイドンがよろめいて倒れ伏す。

 

「終わったね。……さて、他の転生者だけれど……GIGの命令書もある。もし、姫宮財閥に協力するのなら……悪いようにはしないけれど?」

 

「冗談じゃねぇ! 誰が姫宮財閥になんざ降るかよ! 俺達は自由にやらせてもらうぜ……!」

 

 それが決定的な隔絶であるかのように、まるで潮が引くようにして転生者達は各々走り去っていく。

 

「……カイさん。野生ポケモンの被害も結構大きいです。事態の収束を」

 

「それは大丈夫だと思うよ? ほら」

 

 鏡面界より降りてきた三匹の野生ポケモンはその肉体を小型化させて空に吸い込まれていく。まるでその帰結が最初から設計されていたように。

 

 転生者達の使っていたポケモンも野生化したのか、瓦礫まみれの街角に隠れていく。それを追撃せず、二人の少女は各々のポケモンをボールに戻していた。

 

「……酷い有様になりましたね。この区画もそろそろ廃棄しないと」

 

「あっ、それなら……えっと……君は?」

 

 こちらへと目線を振り向けた薄着の装甲服の少女に、完全に虚を突かれた気分で自分は両手を上げる。

 

「そ、その……降参、です。姫宮財閥に仇なす気とかないですし……」

 

「それにしては……。ドローンを使っていたね? もしかして配信者?」

 

「あっ、みたいなもので……えっと、ぼくは……」

 

「ぼく? だって君……女の子だよね?」

 

 首を傾げる薄着の装甲服の少女に自分は――どこか観念したかのようにゴーグルを外して応じる。

 

「その……これは昔っからのクセって言うか……」

 

「カイさん、話を聞く必要がありそうですね。だって、今の学園都市は……」

 

 濁した先を金髪ポニーテールの少女が空を仰ぐ。この世界そのものの間違いのように、鏡写しに空に浮かぶ鏡面界。それらも全て、話で聞いていた通りであったからだ。

 

「……あの、ぼくの身柄とか、どうなるんですかね……。学園都市の一部に入ると、命はないって聞いていますけれど……」

 

「そこまでおっかないもんじゃないってば。けれど……一応は話を聞く必要がありそうだね」

 

「それだけじゃなさそうですしね。……あなた、ポケモンと遭遇してあまり恐怖に駆られた感じじゃなかったけれど」

 

「あっ……はい。その、ちょっとしたメカ弄りが得意って言うか……ちょっとしたバグ技って言うのかな」

 

 右腕に固定していたガジェットを解除する。そこに収容されていたのは灰色の端末であったが、ただの端末ではないのはこの二人の少女にも周知の事だろう。

 

「……それ……!」

 

「はい。改造したアルセウスフォンです。もちろん、権能はそのままなんですけれど、バステトに逆探知されないようにチューンしてあります」

 

「……バステト……と言う事は」

 

 ここまで来れば隠し立てしたってためにもならないだろう。腰に提げたホルスターから一個のモンスターボールを取り出す。

 

「はい。ぼくの名前は……如月こばと。かつてこの学園都市に住んでいた……今となってしまえば特に珍しくもない……転生者です」

 

 そう自分――こばとが名乗ると、少女らも顔を見せないのは不義理だと感じたのか、ゴーグルを外して装甲服の首元を緩める。

 

「……転生者……って事は、当事者って事だよね?」

 

「そうなりますね。あたし達も名乗らないと不義理になるでしょうし」

 

 そう言ってから金髪のポニーテールを解いた少女は青い瞳で自分を見返す。

 

「わたしはカイ。姫宮財閥、GIG隊員の転生者だよ」

 

「あたしは……あたしは有栖。篠崎有栖と言うのが、名前……」

 

 どうしてなのだろう。この時、有栖と名乗った少女はまるでその名前そのものに忌むべきものでもあるかのような響きを伴わせていた。

 

「……ぼくがここに来た理由とか、それは聞かないんですね」

 

「わたし達よりもよっぽどそう言うのに長けた人達が居るからね。だからこばと……さんには然るべき事情聴取がされると思う」

 

「……ですよね。ここ、一応警戒区域ですし……」

 

 その時、ドローンの端末が復旧したのかよろよろと浮かび上がったドローンから警告情報がもたらされる。

 

『警告。姫宮財閥よりこの区画は規約第七条により、市民の皆様の立ち入りを禁止いたします。ホロの封鎖線に立ち入らないようにご協力をお願いします』

 

 その通達が成されるなり、瓦礫だらけの街にホロの封鎖線が施される。しかし、それはほとんど有名無実化している。

 

「……この辺も終わりかな」

 

「カイさん。あたしは本社に報告を送ります。その間、こばとちゃんの安全の保障を」

 

「オーケーだよ。じゃあこばとさん、わたしに可能な限り、ここまでの仔細を話してくれるかな? 後々調書とか楽になるからね」

 

 カイに促されてこばとは手を下ろしてから、二人に向けて尋ねる。

 

「……その、お二人は……姫宮財閥の転生者……ですよね? けれど、転生者って、さっきみたいに追い剥ぎみたいな人達ばっかりじゃないって言うのは……ネットで聞きましたけれど」

 

「……もしかして転生者に関して、一般的な情報しか持ってない? 無理もないかぁ。だって世界にしてみれば……ねぇ?」

 

 カイが視線を送ったのは今も街頭ニュースを映し出す大通りの区画の巨大モニターであった。

 

『転生者は世界にとって有害なんですよ! 突然に我々の世界を侵略してきたのですから!』

 

 コメンテーターの強めの論調が黒々とした瓦礫と残骸の街に木霊する。それそのものが、転生者にとってはまるで罪科のように。

 

「……酷いよねぇ。転生者が世界の敵、か」

 

「間違っちゃいないんですから、あたし達には何も言い切れませんよ。こばとちゃん、あたし達は一旦、本社に戻る。……けれど、あなたをここで放置するのは危険だと思う。だから……一緒に来てもらえるかな?」

 

 有栖からの勧告には逆らうような気概もない。何よりも、転生者だと露呈したのならば姫宮財閥が事態の収拾に出るのは当然の帰結だ。

 

「……分かりました。けれど、その……友達の事は言わないでいいですかね」

 

「友達? 連れが居たの?」

 

「いえ、その……ネットで親しい友達が居て……。名前以外ほとんど知らないんですけれど……それに関して追及されるのは嫌だなぁ……って」

 

 我ながらどこまでも身勝手なのは承知の上だが、レベッカとの仲を彼女らに詮索されるのはあまりいい気分ではない。

 

 カイと有栖は顔を見合わせて少し考えた様子であったが、やがて頷き合う。

 

「分かった。こばとちゃんの過去とかには詮索しないように通達しておくけれど……バステトと契約した転生者って事は……あなたは半年前のあの時、転生者になったんだよね?」

 

 有栖の問いかけにこばとは気圧されながらもこくりと首肯するほかない。

 

「……はい。ぼくみたいな……何て言うのかな、ゲームくらいしか取り柄のない社会不適合者でも……“ポケモン”の世界に入れるってなるとその……憧れがあるって言うか。けれど、まさかこんな事になるなんて……」

 

 バステトと契約した事が全て悔いであるとは言わない。しかし、結果的には世界を危機に陥れている一派なのだ。

 

「……そうだね。バステトなる受付嬢との契約、それは半年前に全てを変えちゃった。まさか鏡面界が現実を侵食するなんて、誰も思わなかっただろうし」

 

 カイの言葉の穏やかさに今は救われていた。実際、バステトと契約した転生者は、一時期は強烈なバッシングの対象であったのだ。

 

「……話は長くなりそうだね。道すがら喋ろうか」

 

 有栖が前を行く。その背中に纏った寂しさとも違う物悲しさにこばとは相応しい言葉をかけそびれながらも、歩を進めていた。

 

 

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