『皆様、お初にお目にかかります。わたくしの名前はバステト。“ゲーム”の受付嬢でございます。おめでとうございます。皆様は、“ゲーム”に参加する権利を得ました。アルセウスフォンはその証。それを通じて、ポケモンを操り、自由自在にこの世界をお遊びください。戦うのも結構、あるいは誰にも得られない快楽に溺れるのも結構でございます。皆様の力は鏡面界と繋がっており、鏡面界の安寧のために他の転生者を蹴落としてくだされば、どのような願いも叶えましょう。ええ、どのような願いであろうとも。何があろうと、それは保証いたします。代わりに、わたくしからも一つ。鏡面界を維持するために、皆様の力を貸していただきたいのです。無論、無償でとは言いません。皆様にはポケモンを操る力を、我々鏡面界には、その存在力そのものを。等価交換といたしましょう。ポケモンで世界を変えるもよし。あるいはこの世界を壊すもよし。今や、選択肢は皆様に投げられました。ポケットモンスターの世界にようこそ』
そう言ってモニター中枢部でスカートの裾を摘まんで恭しく頭を垂れたのはもう半年も前の映像資料だ。コウジはその姿を鋭く見据えている。
有栖もその姿かたちから目線を外せなくなっていた。
「……これが半年前。鏡面界の宣戦布告と前後して全ての情報源にオープンソースとなった映像資料です。バステトと名乗る受付嬢がこの世にあまねく全ての人間に対し、転生者の証であるアルセウスフォンを受け取らせ、その結果、力を得た人々はその力を試した……。時には革命として、時には暴動として、彼ら彼女らの暴力性の発露がこのたった半年で世界を覆した。もう二度と元には戻らないほどに」
コハクの説明を受け、幸子が問い返す。
「でも……このバステトがどこに居るのかは、依然として分からない……。こんなのってあるの? 今までも一方的ではあったけれど、受付嬢だって言うんなら……」
「残念ながら、この映像資料もどこから送信されたのかは未だに不明。バステトを視認した転生者の証言はあるものの、バステトがどこから現れたのかはまるで別。如月こばと様。貴女の場合はどうでしたか?」
唐突にコハクに尋ねられてこばとは少しだけ委縮したように後ずさる。
「えっとその……。初期にバステトが現れた人達って結構、共通していて……。みんなが言える事は、一個だけ。姫宮財閥がリリースしたばかりの『ポケモン』の新作をプレイしていた事、かな……」
やはりそうなっているのか、と有栖は奥歯を噛み締める。その事実が姫宮財閥を世界が糾弾する理由の一つであった。
「やっぱそうかぁ……。姫宮財閥の作っていたゲームであるところの『ポケモン』から出てきたって言うんだから、まるでファンタジーだよねぇ……けれどさ、こばとはそれがヘンだとは当時は思わなかったんだ?」
兎真の質問にこばとはうろたえつつも応じていた。
「……まぁ、一種の集団幻覚説も持ち上がっていたし……。それに、いきなり転生者だとか、アルセウスフォンだとか……『ポケモン』が実在するだなんて……信じられるわけ……」
「それは同意。あーしもこの“ゲーム”の仕組みは未だに半信半疑だし」
「……早谷はその辺、ドライだと思っていたけれど」
「なぁに、サッチーってばさ。あーしの事気にしてくれてんの?」
「……バカ。そう言うんじゃないってば」
半年の間に変化があったとすれば、あまり他者を引き寄せなかった幸子でも、兎真の存在を受け入れた事であろうか。元々、自分を殺した張本人であるところの相手を許せるかどうかは未だに分からないのだろうが、それでも二人の距離は縮まっているように映る。
「けれど、疑問なのはそれもある。わたし達が如何に策を巡らせようとも、諸悪の根源であるところのバステトの所在地、そしてハートの女王の玉座、か……」
バステトの位置情報は各国諜報部が探し回っているが見つからず。比して、ハートの女王は決して動かず揺るがなかった。
鏡面界、ヒスイ地方の神殿。そこにトランプ兵団と共に居る――それはどのような人間から見ても確定事項であり、なおかつ彼女はそこから動こうとはしなかったのだ。それは己の力に絶対的な自信があるからかもしれない。あるいは、動く必要性などこの世にはないのか。
「……ハートの女王に仕掛けても、現行兵器じゃやられるだけなのは半年前の攻撃を見れば明らか。だからこそ、バステトを探し出してこの“ゲーム”を終わらせるしかない。そう、これはまだ――“ゲーム”のルールの適応内なんだよね? コハクさん」
カイの詰めた声音にコハクは振り返って一つ頷く。
「はい。バステトが転生者のルールを使って鏡面界を維持し、そしてそれらの管理にアルセウスフォンを使っている以上、これは“ゲーム”……それも第二ゲームであるチームロワイヤルに該当するかと思われます」
「これが、まだ第二“ゲーム”の範疇だなんて……」
しかし、それは疑いようがない。現に転生者は今も刻一刻と生まれ続け、そして決着をつけるのには相手のアルセウスフォンを砕くか、あるいは戦闘不能にさせるほかない。
「だからこその、バステトが存在すると言う希望がございます。受付嬢が介在していると言う事は、“ゲーム”の適応範囲内。ならば、これら全ての事象を終わらせるのにはたった一つの希望が」
「最高得点者となり、バステト自らにこの“ゲーム”の敗退を認めさせる……。その上で、最高得点の転生者が“コール”を選べば……」
「この狂った“ゲーム”は全て、なかった事になり、破壊されたものや死んだ人々も元通りになるはず、か。……にわかには信じられないが、これまで何度もその事象に相当するものを見せられてきた。だからこそ、わたしは転生者の皆を信じよう。奇跡を起こせるのは君達だけだ」
コウジの言葉には力強さが宿っている。ここまで姫宮財閥が情報統制を行い、ポケモンの存在が白昼の下に晒される前に、世界の人々に向けての危険信号として『ポケモン』シリーズを発売し続けてきたのだ。それらは現実世界にとっての劇薬となり得たが、同時にこの事態の対処を早めた結果にもなった。世界中の誰もが『ポケモン』を知らなければ、怪物達に蹂躙されるのはもっと酷い結果をもたらしたかもしれない。それこそ、一部の転生者の独壇場であっただろう。または、それもハートの女王とトランプ兵団の望む結末か。いずれにせよ、姫宮財閥は今日に至るまで世界の求心力と共に、対ポケモン対策を練ってきたのは間違いないだろう。
「ヒメパッパさぁ、それはちょっとあーし達を過信し過ぎ! あーしらは結局、転生者として願いを叶えたいだけなんだからさ」
兎真が軽い論調で返すと、コウジはフッと笑みを浮かべる。
「……そう言ってもらえると気が楽にはなる。だが、わたし達は絶対に、この破滅に転がっていく世界を救わなければならない。知ってしまったからには責務があるんだ。この現世が、鏡面界にとっては侵略対象であろうとも、我々の世界を守る義務が」
「……勝利者の、責務……」
有栖はかつて赤沢霧子が遺していたビデオレターを思い返す。勝とうが負けようが恨みっこなし。その感情は次の戦場に持っていければいい。そうだ、まだ戦いの途上にある。自分達は、未だに一切、終わりに指先をかけてはいない。
「けれど、GIGだって野良の転生者にしてみれば反抗心をぶつける対象ではあるわ。私は引き続き、オペレーターとして有栖達をサポートするけれど、転生者は無尽蔵に増え続ける。それに対しての何か有効策があると……思っていいんですか? 代表」
幸子の問いかけはこの場に居る全員を代表してのものであったのだろう。実際、彼女は最前線を行くのではなくこうしてバックアップしてくれている事で助かっている。有栖やカイでは、ここまで器用に立ち回れなかった。
「無論だ。合衆国大統領との条約の締結が完了した。刻限は――四日。その間に鏡面界の侵略行為を全て排し、トランプ兵団を壊滅させる。これは決定事項だ」
まさか、残された時間がたった四日間など思いも寄らない。瞠目して絶句した自分達へと、兎真が声を上げる。
「待ってって。それってあーし達の意思とは無関係の、とは思っていい?」
ここまで半年間、戦い抜いてきたのだ。特に綺咲と兎真はGIGの精鋭部隊としてあらゆる戦場を経験している。この土壇場でコウジの身勝手な決定は反感を生みかねなかったが、彼は毅然として言い放つ。
「……世界はこの半年間で壊れ切った。最早、一刻の猶予もない。コハク、データ共有を」
「かしこまりました。現状、鏡面界と言う名の異世界を維持するのに必要なのは、エネルギーです」
「エネルギーって……ダイマックスエネルギーだとか、そういうもの……?」
幸子の問いかけにコハクは片手でキーをタイピングしながら地球の三次元モデルを回転させる。
地球儀に押し入る形で平面の大地が学園都市へと突き刺さっている形だ。
「鏡面界を維持するのは、貴女方、転生者の願いのエネルギー……人の総意とでも呼べる代物である事が明らかとなっております。わたくし自身、知っている情報の中にあるのは、受付嬢は常に、現世の人間に願いの成就を持ち掛けてトランプ兵団を悪として教唆する……。ですが、それは逆転現象なのです。転生者を増やせば増やすほどに、鏡面界の存在力とでも言うべきものは盤石となっていく。今や、バステトによって6000人を超えた転生者による願いのエネルギーこそが、今にも落ちてきそうな鏡面界を構築しています」
「聞いていた話とは逆だった、ってわけだ。……まったく、あーしらも騙されたもんだよ」
肩を竦める兎真にコハクは無感情に続ける。
「転生者は鏡面界の実体化……イニシャライズを手助けしている。わたくしはこのイニシャライズ現象を解析し、その結果として必須条件であるものを提唱しました。それこそが、皆様方が持っていらっしゃる、アルセウスフォン」
有栖はそれとなく、自身のアルセウスフォンを意識する。まさか掌に収まるサイズでしかないこれが、転生者にとっての生命線であると同時に、鏡面界の侵略行為に手を貸す器だとは思いも寄らない。
「……アルセウスフォンは転生者の命であるのと同時に、鏡面界と現世を繋ぐ橋渡しの意味合いを持つ……。今の状況を好転させるとすれば、誰かが最高得点を取って“コール”するか……」
「あるいは、転生者が全員自殺でもして、鏡面界との均衡を崩す。……これはあまり現実的なプランとは思えないけれどね。一人でも生き残れば、その人間が最高得点者になってしまうし」
震えるような帰結だが、別段突飛な話でもないのだ。有栖はアルセウスフォンを握り締め、それからコハクに問い返す。
「……やっぱり、あたし達の誰かが最高得点者となり、そして“コール”で全てを巻き戻す……それしかない」
「現状、最も現実的なのはその選択肢ですが、問題もございます。バステトが、我々の前に一度として現れない事」
それがやはりネックとなるのだろう。
一度に数千人と契約し、ハートの女王と結託した受付嬢、バステト。彼女の行方が分からない以上は、最高得点を取ったとしても別の手立てを使われる可能性が高い。
「そもそも……“コール”を絶対に選ぶとも限らないしねぇ。最高得点の場では、その転生者が最も望む選択肢が基本的に採用される。となると、“レイズ”を望む人間が居れば、この地獄は続いたまま。もちろん、“ゲームから降りる”と、第四の選択肢もね」
ツバサが選んだ、第四の選択肢――“全ての得点を使って願いを叶える”――これはイレギュラーだと思っていいのだろうか。
「いずれにせよ、わたしの意見で言えば現状、転生者の数々は己の力に溺れ、国家転覆を画策している者も少なくないとは思われる。時間はまるでないのだ。だからこそ、四日間に集中する事に決定した。これは合衆国大統領だけではない、各国首脳と意見を突き合わせた最終議決だ」
コウジがそう言うのならば、恐らくは今の姫宮財閥の取れる最大規模の譲歩なのだろう。実際、綺咲の容姿とハートの女王との酷似を巡って要らぬ争いが起きかねない。否、既に何度か遭遇戦が起きているのだとも伝え聞いている。
「……あたし達が、勝つしか、ないんですよね……」
「無論。だが、最終的な情勢を確定させるためにはあらゆる布石を打つ必要性がある。……聞いているな? チェシャー」
その呼びかけに浮かび上がったのはホロの立体映像だ。この場には居ないが会話は全て聞いていたと思われる相手――自分達の全ての始まりの女性である受付嬢、チェシャーが面を上げる。
『……はい。その策ならば、ハートの女王を出し抜く事も可能でしょう。問題があるとすれば、全ての転生者から抜きん出て、最高得点を取ると言う事。彼らの中には実際、殺戮を楽しみ、争いを望む者達も居ます。有栖達がよくご存じの通り、戦えば戦うほどにポケモンは強くなり、転生者は得点を得る。……極論を言えば、国家に対して宣戦し、ポケモンで国民を皆殺しにすれば、それだけで大量得点が加算される。もちろん、これは人道にもとる行為ですが、バステトの転生者にそのような理屈の意味はないでしょう』
「……チェシャー……」
どうしてなのだろう。どこか苦しげにも映る久しぶりのチェシャーの姿に有栖は胸を痛めていた。彼女自身、他の受付嬢とは違うのだとツバサとの決戦時に明らかとなったのだ。ともすればこうして事実だけを述べる事さえも辛いのかもしれない。
「転生者同士の戦いに、最早定石はない、か。だとしても、受付嬢と全く連絡を取らずに戦い続ける事は出来るのか?」
『わたくしどもは聞かれなければ応じません。だから、新たに生まれた転生者の皆さまは、恐らくはそのルールを知らないのでしょう』
「あの……ちょっといい……?」
おずおずと挙手したのはこの場の最奥で縮こまっていたこばとで、彼女の周囲をロトムが浮遊しながら暴言を吐く。
《ヘンロトよ! 転生者だからと言って、まるで姫宮財閥の管理下にない人間は価値がないみたいロト! これは横暴じゃないロト?》
「ろ、ロトムっ! ぼくの言いたい事を全部言わないでよ! ……って、違って! あ、いや違うわけでもないんだけれど……。……姫宮財閥所属の転生者以外は、生きていちゃダメなんですか……?」
こばとの懸念も無理からぬ事。自分達はまるで正義の使徒のように振る舞うが、それは結局は利己主義に過ぎない。これまで他の転生者や国家に比べて知っている事が多いだけなのに、驕りを感じさせたのだろう。
「もちろん、可能な限り転生者は保護したい。だが、ほとんどの転生者は自らの力の証明に陶酔し、あまつさえ合衆国大統領の暗殺さえも画策した。これを看過するわけにはいかない。既に国家転覆で留まる領域は超え、世界が荒れ果てても可笑しくはないんだ。それは半年前のハートの女王のポケモンの強さからしても明らかだろう」
メインモニターに映し出されたのは漆黒の荒々しい結晶体を思わせるポケモンであった。どこか歪にさえ映る手足と生物の様相をほとんど削ぎ落したかのような相貌。米軍のステルス戦闘機を粉々に叩き潰してみせたその膨大な出力を誇る光線兵装はこれまでのどの転生者の力よりも勝っている。
『ハートの女王のポケモン……ネクロズマ。あれがわたくしの存じている限りの性能を保持しているのだとすれば……真正面から打ち砕くのはほとんど不可能に等しいでしょう。叩くのならば、ハートの女王本人ではなく、その外堀が相応しいはず』
だが、たった四日間でハートの女王に比肩してみせる手段など存在するのだろうか。それとなく疑念の眼差しをコウジに向けたところで、不意打ち気味の警告音が劈く。
『警告! 南の二十地区においてイニシャライズ反応増大!』
「まさか、新しいダイマックスポケモン……?」
色めき立った総員に対しオペレーターは高速でタイピングしてその解析結果を割り出す。
『イニシャライズしてきたのは……驚きですね。トランプ兵団、その兵力を認証!』
「……トランプ兵団が? まさか、ここに来て降伏するだとか言い出すわけじゃないよねぇ……?」
兎真の疑問に対し、南の二十地区の監視カメラと望遠映像が映し出される。間違いなく、鎖帷子と鎧に身を固めたトランプ兵団であったが、何よりも有栖の眼を引いたのは最前線で佇む男性であった。
「……あの時の……確か、兵団長って……!」
幸子に重傷を負わせ、この“ゲーム”の真実を明らかにさせたトランプ兵団の兵団長がカメラを凝視し、それから即座に野良の転生者に取り囲まれていく。
『トランプ兵団……! 得点稼ぎには、ちょうどいいよなぁ!』
繰り出されたのは翅から超音波の羽音を散らす小型のポケモンであった。アルセウスフォンからの情報で、ビブラーバと呼称されるポケモン達がトランプ兵団を包囲する。
「危ない! やめさせないと!」
思わず、と言った様子でコンソールに取り付いたのは幸子で勧告をもたらそうとしてコウジに遮られる。
「待って欲しい。……何故、この段になってトランプ兵団がわざわざ少数精鋭で攻めてきた? 彼らにとっての何らかの意図があるはず」
「言っている場合ですか! 転生者にとって有益な得点源なんですよ!」
幸子は通達のマイクを握ろうとした、その刹那にはビブラーバが風圧を生み出し、巻き上がった旋風が四方八方から襲い掛かってトランプ兵団を一掃しようとする。さらに高音域の超音波を放っているせいで即座に通信が繋げない。戦場にはジャミングが施されており、姫宮財閥からの言葉は届かないのだろう。
「何とかならないの? もう少しやって見せれば……!」
「ビブラーバの生み出した物理的ジャミングである砂嵐と、超音波のジャミングが我々の干渉を拒んでいます! このままでは……!」
その言葉を最後まで聞き切る前に、有栖は身を翻す。進行先をカイが封じていた。
「……どこへ行くの」
「あたしが急行します。装甲車で飛ばせば、何とかなるはず……」
「けれど、アリスさん。トランプ兵団は敵なんだよ? ここまで来たのなら……少しくらい数を減らしてもらったって……」
カイの言い分はよく分かる。ここで潰し合いをしてもらったほうが能率的だ。それに、トランプ兵団を人間だと思っていないのならば、別に見過ごしたところで心も痛まないだろうに。
それでも、有栖には見過ごせなかった。これは正攻法の感情ではない。ただの――自己満足に等しい衝動だ。
「……けれどもし……ハートの女王に謁見出来れば、情勢は変わります」
「可能性に過ぎないじゃない。それに、トランプ兵団がこちらの条件を呑むかどうかは五分五分で……」
「カイさん。あたし……あたし、この半年間、色んな人と戦ってきました。時には、戦いたくなんてない相手とも。けれど、ですよ。もし……話し合いで済めば、それに越した事はないと思っているんです。あたしは……闘争だけが意味を持つとは思えない」
「話し合いで済めば……か。相変わらず有栖は甘ちゃんってところだけれど、あーしも戦わないのならそれに賛成。大統領救ってちょっとした世界の危機から帰って来たばっかだからねぇ」
「……兎真さんと綺咲ちゃんは出撃しないで大丈夫です。あたしだけでも……!」
「待ち。急くところ悪いけれど、それは承服し切れないわよ。帰投したGIG隊員に通達。篠崎有栖とカイ、両名に同行する事を厳命します」
幸子がこちらの意図を無視してでもGIG隊員との合同作戦にしようとしてくれているのは、自らが一度死んだ手痛い経験があるからか。トランプ兵団が少数精鋭とは言え、ポケモンを操る術で言えば転生者よりも優れているのは明白だ。
「……助かる。カイさん……!」
「うん、行こう」
エレベーターホールへと取って返そうとした自分達へと追い縋って来たのはこばとであった。
「待って! 待って……! ぼくも行っちゃ駄目ですか……?」
「こばとちゃん……? さっきまでよりも危ないんだよ? それに……もしもの時にトランプ兵団から守り切れる保証もないし……」
「それでも……いい……! だって、有栖さんやカイさん達は必死で戦っているって言うのが……今分かったから。ぼくだけ傍観者のポジションってのは……納得いかないし……」
《こばとは口ベタだからロト。このとーり連れて行って欲しいロト》
「うっさい! 手持ちポケモンに指図されるいわれはないよ!」
ロトムの入った端末を思いっきり殴りつけたこばとに有栖は若干の毒気を抜かれたのを実感しつつ、目線で頷く。
「……分かった。けれど、間違えないでね? ……転生者の役割は死ぬ事じゃない」
エレベーターに入るなり昇降ボタンに手をかける。
身に沁みついたその所作に、我ながら自嘲する。
――こんな風に成り下がるつもりでは、なかったと言うのに、と。