ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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C&Cは勧誘したい
鷹目ネライとC&C


 

「おっはようネライ!」

「おはよう」

 

挨拶と駆け寄る足音、続いて背後から勢いよく抱きついてくる重量をしっかり受け止める。振り返ると背中に顔を埋めるホワイトブロンドの後頭部が。そして少し離れたところからこちらに手を振る黒髪の女子生徒が立っていた。

 

「おはようございます。アスナ先輩、カリン先輩」

 

一之瀬アスナと角楯カリン。授業日の構内にもかかわらずメイド服を着こなす3年と2年の先輩たちだが、その正体はセミナー直属の組織、Cleaning&Clearingに所属するエージェントだ。

 

「アスナ先輩、離れてください」

「えー、やだ!」

「アスナ先輩、ネライが嫌がってる」

「嫌がんないでよ〜。ほらほら〜」

「重たいので嫌です。体重かけないでください」

「あーぁ、女の子に重たいって言った!」

「いや実際……」

「そんなこと言う悪い後輩にはこうだ〜」

 

離れたかと思えば、今度は正面に回ってハグをしてくる彼女。冷静を装いながら彼女の背に手を回して抱き返していると、カリン先輩の方が申し訳なさげに小さく頭を下げてきた。なんだか、大型犬とその飼い主のようだ。

 

それにしても。

 

─────デっカイな。

 

「んっふふ〜」

「その、アスナ先輩がすまない、ネライ」

「いえ、気にしないでください。役得なので」

「……役得?」

「なんでもありません」

「それにしてもご機嫌だな、アスナ先輩」

「ん〜?新鮮だなぁって思って」

「新鮮」

 

なんのことかと問い返す前に、バッと離れたアスナ先輩が話し出す。

 

「ほら、私って身長高めじゃん?だからハグする時っていつも抱きしめてるーって感じだけどさ、ネライ相手だと抱きしめられてるーって感じがして、なんかいいなぁって」

 

だからもっと強く抱き返して!なんて言う彼女により力いっぱい抱きしめられつつ、言われてなるほどと思う。本来身長の高い傾向にある男子生徒が希少なキヴォトスという環境において、彼女の周りだとカリン先輩が少し高いくらいで、しっかり身長が高いとなると俺ぐらいしかいない。

 

それはそれとして、体に毒だから控えてもらいたいものだ。精神的にすごく良くない。本当に役得ではあるが。

 

「……あー、ネライ」

「どうしました」

「よかったら、私も、その……」

 

褐色肌を赤くしたカリン先輩がそう言って両手を伸ばす。

 

「へぇ〜」

「いやじゃなければ、で、いいんだが……」

「いや、ではないですが……」

「あ、アスナ先輩が前からいいものだと言っていたし、ハグにはリラックス効果があるとも聞いたし、それに─────。と、とにかくっ」

 

わたわたと言い訳を並べたかと思えば、今度は目を固く閉じたまま両手を伸ばし、ハグ待ちの体制で動かなくなったカリン先輩に、ニヤニヤと笑うアスナ先輩は俺の背中を押した。

 

「んっ─────」

「ほーら、早くしてあげなよ〜」

「…………」

「なら、失礼します……?」

 

数歩進んでカリン先輩の前に立ち、そっと彼女を抱き寄せる。少し上を向いていた彼女の顎が右肩に乗った。

 

「ん……」

「…………」

「……ん」

「…………」

「─────ふふっ」

 

顔は見えない。ただ彼女の呼吸と、時々聞こえる微笑みを含んだ笑い声が耳をくすぐる。

 

10秒、30秒、1分。腕の力を強めたり弱めたり、1度2度頭の場所を入れ替えてみたり。道すがらこちらを見物する周りの目がどんどんと増えていき、アスナ先輩が瞳を輝かせて飛びつかんとしている。

 

そろそろやめさせよう。そう思ったあたりで鋭い怒鳴り声が響き渡った。

 

「何やってんだお前ら─────っ」

「うわっ」

「ね、ネル先輩!?」

 

驚き飛び退いたカリン先輩に凄まじい勢いで詰め寄る小さな影。

 

オレンジベージュの髪にホワイトブリム。その背には満開の桜と黄金の龍。チェーンで繋がれた2丁のサブマシンガンを覗かせる彼女は、C&Cのリーダーである美甘ネルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日はたまたま、自地区の端の方をぶらついていた。

 

キヴォトスに来て、ミレニアムサイエンススクールに入学して。そこそこ生活になれた頃だった。

 

特に用や目的も無く、ぶらぶらと歩くだけ。温泉が見つかれば入っていくし、おいしそうなご飯屋があればそこに入ろう。そんなことを考えていた。

 

─────だが、それは間違いだったのかもしれない。

 

「おいチビ、金置いてどっか行けよ」

 

路地裏からそんな声が聞こえてきた。思わずそちらを覗き込むと、ヘルメットを被り、赤いジャージに身を包んだスケバン風の学生集団が小柄な女の子に絡んでいる場面だった。

 

集団は5人。それぞれ質素なナリのアサルトライフルやサブマシンガンで武装している。体格は普通で動きからして特に鍛えられているというわけではなさそうだが、小さな女の子を相手に随分と気が大きくなっているようだ。

 

対する女の子は、中等部、もしくは小等部高学年程の身長だろうか。ワイシャツにブルーのリボン、黒のスカート、自治区内ということを考えると同じミレニアムの生徒だろうか。

 

「あぁ?てめぇら、誰にもの言ってんだ」

 

イラついたように、少女は銃を手に取った。驚いたことに、少女はほんの少しもビビっていない。決して虚勢ではないのだろう、両手に構える2丁のサブマシンガンは、既にセーフティが解除されている。

 

「口悪ぃなガキんちょ。けーご使えよけーご」

「あたしら年上だぜ、舐めてんのか?」

「やろうっての?勝てるわけないのにさぁ」

「おっ、その銃。見る感じ金持ってそうじゃん」

「金色の龍?どっかで見た気が……」

「気にすんなって。エングレービングになんの戦略的優位性(タクティカルアドバンテージ)もないんだしな」

「身代金目的で誘拐しちゃう?なんならとっととしようよ」

「……ちっ」

 

ケタケタの笑う集団のうち、先頭の3人がアサルトライフルを少女に向ける。流石にこれ以上は見過ごせない。そう思い銃剣とサブアームのハンドガンを手に路地裏へと飛び込んだ。

 

「何をしている」

「あぁ?……たしか、うちの男子生徒だっけか。何やってんだこんなとこで」

「それはこちらのセリフだ。早く逃げろ。時間は俺が稼ぐ」

「─────」

 

動揺して動きを止める集団を他所に、少女へ逃げるように促す。この位の相手ならヴァルキューレに頼る必要も無い。そう判断した結果だが。

 

「─────お前、本気(マジ)で言ってんのか?」

「あぁ。マジだ。安心しろ。俺はこれ(・・)でもかなり強い」

 

手早くコッキングして薬室へと銃弾を送り込み、セーフティを解除する。

 

その銃口の先で狙うのはスケバンの1人、連中でも一番マシなアサルトライフルを持っているやつ。

 

「はっ、やろうってのか!」

「こいつ男だろ!カモが増えたなおい!」

「強がりだ。やっちまおうよ」

 

銃口に反応して、お返しとして5人分の銃口がこちらへと首をあげる。

 

しばらくの硬直、先程までとは打って変わっての静寂。

 

そして、それを突き破るけたたましい発砲音が連続した。

 

「─────な」

「─────は?」

 

後方からの(・・・・・)射撃を受け、左端にいたやつがフルスモークのバイザーを砕かれながら倒れるのを横目に、身を低くして前へ踏み出す。

 

「……なっ、お前」

「ひとつっ」

「あだだだだだっ」

 

咄嗟にアサルトライフルを構え直そうとするが既に遅い。腹にフルオート射撃を食らった不良が蹲り、その勢いで隣にいた不良の腕を掴み、捻りあげる。

 

「ふぁ、あっ」

「ふたつっ」

「う゛っ」

 

未だに状況を飲み込めていなかったのか、情けない声を上げながら体幹を崩した彼女の腹部に銃剣を叩き込む。

 

残った2人の対処を。そう思った矢先、視界の端でオレンジ色が走り出した。

 

「─────これで、全部だ」

 

圧倒的な優位から、一瞬で劣勢に陥った彼女たちは完全に取り乱していた。サブマシンガンを構えることもせず、腰を抜かしていたのだ。

 

そんな彼女たちに向かって、少女は凄まじい速さで接近し、その両手に金の龍が施されたサブマシンガンを発砲したのだ。

 

「おまえ、なかなかやるじゃねぇか。正直見くびってたぜ」

「……こっちだって驚いている」

「はっ。あたしが華奢で小柄な女の子だからってか。ふざけろ」

 

凶暴な笑みを浮かべた少女が、今度はこちらへと銃口を向ける。思わず、リロードし直していた拳銃を構えた。

 

「今回はまぁ、少しは楽できたから感謝の気持ちで撃たないでおいてやんよ。だが次は容赦しねぇ。わかったか」

「あぁ……」

 

不良たちがそれぞれ完全に気を失っているのを確認してから、笑いながら銃をバッグに納める彼女に、俺も拳銃と銃剣をホルスターに納める。

 

「ミレニアムサイエンススクール3年、C&Cの美甘ネル。お前の先輩だ」

「─────先輩」

「んだコラ。なんか言いたそうじゃねぇか」

「いえ、美甘先輩」

 

完全に小学生か中学生だと思っていた、とは口が裂けても言えなさそうだ。

 

それにしてもC&C。入学したばかりの俺でも知っている、ミレニアムの戦闘部隊。それならあの動きも頷ける。

 

「おっ、そうだ」

 

威圧するような笑みから、柔らかい笑みになった美甘先輩がカバンから1枚の書類を取り出した。

 

受け取って見てみると、C&Cの概要や活動内容などについて纏められたものだ。

 

「これは」

「まだ今年の1年の採用枠が余っててな。お前は使えそうだ。うち、こいよ」

「こいって言われても……」

「あー、まぁなんだ。ここは変な部活も多いから、マトモな部活に入るための参考程度にな。取り敢えず、きてくれるってんなら歓迎するぜ。盛大にな」

 

そう笑って括り、カバンを肩にかけ直した美甘先輩が表に向かって歩き出した。

 

「あたしのことはネルでいい。お前のことが気に入ったぜ。ネライ」

「名前……」

「ミレニアムでクソ珍しい男子生徒だぞ。私らの中じゃお前の噂で持ち切りだからな」

「そうですか」

「じゃあなネライ。また会おうぜ。今度は執事服姿のお前だと嬉しいがな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつはあたしのだからなっ。あたしの許可なくテメェらが抱きつくんじゃねぇ!」

「ふぅー!ネル先輩とネライ、あっつあつぅ」

「む……ぅ……ズルい……」

「ふふっ、相変わらずですね」

 

あんな出会いから数ヶ月。どうやら俺は随分とネル先輩に気にいられたようで、こうして独占欲のような何かを発揮してくる時がある。

 

恐らくヤンキーがかわいい舎弟を取られそうだからとか、そういった理由だろうと、俺は当たりをつけている。

 

「それで、ネライくん」

「はい」

「そろそろ例の件、答えは出ましたか?」

 

ネル先輩と一緒に来た室笠アカネ先輩がそう笑いかけてくる。以前からゲーム開発部を辞めてC&Cに移るよう打診されていたのだ。その件だろう。

 

現在は戦力が必要な時にだけ招集される予備戦力として兼部しているが、要はもっとうちに来て働けと言うわけだ。

 

「あっ、そうだぞネライ、いい加減あたしの下につけよ!」

「私もネライには来て欲しいなぁ。強いし、私に合わせてくれるし!」

「C&Cの戦力として、悔しいが私よりも上なんだ。ネライが来てくれるとすごく助かる」

「書類関係も、セミナー関係も、ネライくんがいるだけで一気に楽になりますから」

「そういうわけだ。だからウチにこいよ。なっ?」

 

こちらの方に伸ばした手をかけるネル先輩。アスナ先輩もカリン先輩も歓迎してくれているようだが、アカネ先輩からだけは何か黒い物が滲み出ている気がした。

 

「─────」

「ネライっ」

「ネライ?」

「……ネライ」

「ネライくん」

「─────」

 

全員の視線から逃れるように、それとなく一歩下がってネル先輩の手を下ろす。1歩、また1歩、下がって、そして。

 

「─────セミナーに呼ばれていたを思い出したので失礼しますっ」

「あっ、コラ待て!」

「ちょっとネライ〜」

「あらぁ」

「行って、しまったな」

 

周囲からの好奇の目に晒されながら、俺は校舎に向かって全力で走った。

 

 

 




たくさんのお気に入り、しおり、評価ありがとうございます。

まだの人よかったら是非。

つぎにみたいのをさんこうまでに

  • ○○○TS編
  • ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
  • しないと出られない部屋再来編
  • シャーレ当番編
  • NLP編
  • なんかとりあえずイチャイチャピンク
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