ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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そこまでヴェリタス詳しくないから怪しいかも……?


ヴェリタスの極秘音声データ
小鈎ハレは正したい


 

「ね、今日一緒に帰らない?」

「ん」

 

教材をカバンにしまい、足速に帰ろうとする俺に声をかけるのは小塗マキ、俺の隣の席で入学式の時から仲良くなった、ミレニアムで最初の友達だ。

 

「いいが、どこかによるのか?」

「うんっ」

「……壁に絵を描くやつは勘弁だぞ」

「グラフィティ!いい加減覚えてってばぁ」

「グラフィティな。グラフィティ」

 

グラフィティ。スプレーやマーカーを使用して街中の壁やシャッター、車両などに独自にアレンジした文字や記号を描くアート。それが彼女の十八番である。

 

「─────じゃなくて!普通にお話したいだけだよぉ」

「さすがに懲りたか」

「うん、このあいだなんかガチギレしてるユウカに反省部屋にぶち込まれちゃったから……。そういえばなんかたんこぶ作ったモモも連れてこられてたっけ。なんか知ってる?」

「……あぁ、あの時か。知らない方がいい」

「なら聞かないでおこ。あっ、別にグラフィティはまだやるよ?」

「やるな」

 

グラフィティは俺も好きだ。何も無かった殺風景な壁に見事なアートが描かれていくのは見ていてワクワクする。だが問題はこれが公共の物に無許可で行われているということだ。

 

そのため彼女はミレニアム自治区外においても問題行動をとる問題児としてよく反省部屋に連行されている。

 

「まぁいい。どこか寄るか?」

「ん〜、特に寄るとこはないかな」

「なら普通に帰るか」

「あっ、でも一応部室いける?前にハレ先輩が会いたがってたから」

「俺にか?」

 

ハレ先輩といえば彼女の所属する非公認部活の先輩だ。モコモコとした白い髪と若干青白い不健康そうな顔色が特徴的だったのを覚えている。

 

だが前にあった時は少し会話しただけで顔を真っ赤にして逃げられてしまったのだが……。

 

「小鈎先輩が俺に……」

「特に思い当たらないよね〜。あたしも不思議でさぁ」

「……まぁ、いいか」

 

考えるよりは会ってみた方がいいだろう。席を立ちカバンを持ってライフルケースを背負う。マキも準備はできているようだ。

 

「じゃあいこう、ヴェリタスへっ」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────小鈎ハレは挽回しなければならない。

 

時は数週間前に遡る。あの日の私はエンジニア部から依頼されたドローンのAIの点検中、とある弱点を見つけてその修正作業にハマっていた。

 

大体3日程だっただろうか。カロリーバー(黄色いやつ)エナジードリンク(妖怪MAX)のみの食事とときたまのラジオ体操、多少の仮眠で私は作業を乗り切った。

 

そんな安心感と達成感の心地良さに揺らいでいた私の元に、彼はやってきたのだ。

 

『ハレ先輩、友達連れてきちゃった!』

『鷹目ネライです……』

 

後輩、マキが連れてきたのは私とは真逆の位置(圧倒的運動部感)にいそうな男の子。

 

『えー、と。男の子……?』

『もー、疲れてる?流石にこれで女は無理だって』

『だよね。うん』

 

身長は高く、肩幅は広く、胸はない。オートマタ以外では始めてみるそれに、思わず私は手を伸ばした。

 

『あー……』

『……ほんとだ、硬い』

『せ、先輩……?』

 

肩、胸、腹筋。私とは全く違う硬くて熱いそれをゆっくりと触ってしまった辺りで、三徹明けのぼーっとした脳みそは覚醒を果たした。

 

『せ、先輩ストーップ!』

『あぇ、……え?』

『……』

『わた、わたし─────』

 

見上げれば少し高いところに困惑した彼の顔。その距離感でありながら、私はここ3日シャワーも浴びていないわけで。さらにいえば髪も整えていなければ服も着替えた覚えがないわけで。

 

ボッと顔が熱くなり、そのあと2人を追い出したあとのことをまったく覚えていない。

 

だからこそ、今度はしっかりと挨拶をして、勝手に触ってしまったことを謝って、普段は清潔だということをアピールして。私がしっかりした先輩だってことをアピールしなきゃ。

 

「ハレ先輩いるー?入ってもいいー?」

 

─────来た!

 

ガチャリという音とともにマキが入ってくる。空になったエナジードリンクの缶を机に置き、そちらを見ると、見慣れたマキの姿、その後ろに微妙に気まずそうな顔をした彼の姿があった。

 

「─────ようこそ鷹目ネライくん。ヴェリタスへ」

「なんでかしこまってんの?」

「黙ってて」

「えぇー」

 

新しいエナジードリンクのプルタブをあけ、回転椅子で足を組む。

 

「改めて、私は小鈎ハレ。この間は悪い事をしたわね」

「いえ、特に気にしてません。……こっちに来てから、体ネタはよくあることですから」

 

私でも聞いたことがある。噂では男の体という人体データを求めたエンジニア部が裸にひん剥いたとか、その身体見たさにトレーニング部が裸にひん剥いたとか、メイド部が執事服を着せようときて公衆の面前で裸にひん剥いたとか、アリスが彼にコスプレをさせようとして裸にひん剥いたとか。

 

─────苦労、してるのかな。

 

「それで、なんの用ですか」

「えぇ、この間の謝罪と、その、普段はあそこまでだらしなくないってことを認識しておいてもらおうと思って」

 

そういうと彼はあぁと納得の声を漏らす。クールで無表情だと思っていたが、意外と顔に出るらしい。

 

「ヒビキ達から聞いてます。確か3日は寝ずに作業していたんですよね。なら疲れて頭が働かなくて、ってのも納得ですし、身嗜みも仕方ないかなとは」

「そ、そうなの?」

「はい、あのふたりも、あとうちの部長も、正直よく似た状態になっているというかなんというか……。なのでそこまで気にしてません」

 

そういえば、彼はエンジニア部のヒビキとコトリとも仲が良かったのか。確かにあのふたり、ウタハ先輩、彼の部長のユズ……はあまり知らないが、あの辺は時々凄まじい匂いを発している時がある。

 

「ま、まぁ。とりあえずこれからよろしくねネライくん」

「はい」

「おっ、仲直りできた?」

「……別に喧嘩していた訳じゃないわ」

 

一体何をしていたのか奥からひょっこり顔を出すマキ。

 

「知ってる。なーんかしょーもないこと気にしてただけだよね」

「しょうもなくなんてない。先輩だし、女の子として身だしなみを……」

「あたしは気にならないけどなぁ」

「お前は気にしろ。体育の後くらい体を拭け」

「えー、めんどくさいじゃーん」

 

そういえばあの時、彼から制汗剤のいい匂いがしたような─────。

 

変な思考を頭から払い、傍らに浮かせていたアテネ3号を見る。

 

「ヒビキとコトリと交流があるのなら私の事も知ってたりするの?」

「はい、ドローンとかAIに強いとは」

「なら、なにかその関係で困ったことがあったら相談してね。力になるから」

「助かります 」

 

C&Cとしても活動しているという彼なら、いずれその関係で頼られることもあるだろうか。そう思いながら席を立ち、エナジードリンクを1本手渡した。

 

「これ、よかったら」

「あ、ありがとうございます」

 

遠慮がちに受け取る彼。私はもうひとつ手に取ったエナジードリンクのプルタブを開けた。

 

「あー、ハレ先輩あたしもー!」

「勝手に持ってきなさい。どうせ1本も2本も変わらない……」

「あーっと」

「ん、どうかしたの?」

 

冷蔵庫から取り出してぐびぐびと喉を鳴らすマキ。そんな私たちをネライは恐ろしいものを見るような目で見ていた。

 

「え、いや、飲みすぎじゃ」

「……そう?」

 

机の上を見る。4本の空き缶(放課後30分で)が置いてある。今日は作業より会話が多いからいつもより少なめだ。

 

「これ、健康に悪いんじゃ」

「ハレさんはそれでも、いつもより少なめですね」

「うおっ」

 

ネライが驚いて飛び退く。その後ろにはいつの間に来たのかヴェリタスの3年、音瀬コタマ先輩が立っていた。

 

「お疲れ様です、ハレさん、マキ。そして初めまして。ヴェリタスの3年生、音瀬コタマです」

「初めまして、鷹目ネライです…… 」

 

音もなく背後に立っていた彼女に若干引き気味な様子で、そそくさと自身の席につくコタマ先輩を見送っていた。

 

「そういえばネライくん。たしかゲーム開発部所属でしたよね」

「あぁ、はい」

「なら、4人で一緒にあれ、やりますか」

「おっ、いいねぇ!ネライやってかない!?」

「何をだ」

「オンラインゲームっ。これ、知ってるでしょ!前にフレンド交換したやつ!」

「あの時の、たしかにやってるが」

 

やっぱり。そう笑うマキが予備のパソコンを操作する。以前私が組み上げたものだが、性能は悪くないはず。それならばと私もキーボードを叩いた。

 

「だがアカウントが……」

「─────よしっ、ちょっとハッキングしてアカウントもってきたから、これでできる」

「何してくれてんだ」

 

以前興味本位で彼のパソコンを下見しておいてよかった。相変わらずパスワードは“pasward”のまま、そのほかの殆ども名前と生年月日を組み合わせたそれ。

 

─────今度、その辺を教えてあげようかな。

 

「うん、ログインできたよー!」

「どうしましたネライくん。そこの席は使ってもらって大丈夫ですよ」

「喉乾いたらエナジードリンク飲んでいいからね」

「─────なら、やっていくか」

 

プルタブを開けてエナジードリンクを一気に飲むと、彼はドカりと椅子に腰を下ろす。意外と手馴れた様子でパソコンとマウスの確認をする彼を横目に、私もゲームを立ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハレ先輩」

 

ヴェリタスの部室。モモトークでの連絡を受けたハレはネライとふたりで落ち合った。

 

「どうしたの?相談ならモモトークでも……」

「いや、こんなものが見つかって」

 

ネライがズボンのポケットから取り出したのは小さく薄い、丸い何か。彼には悪いが、ハレにはそれが一目見てわかった。

 

「これ、この間ここでゲームした時から上着についてて。調べたら盗聴、されてるっぽいんですよね」

「……そう」

 

ハレは知っている。それがコタマが持っていた小型盗聴器であることを。

 

ハレは見ている。あの日、彼の背後に立っていたコタマが、しれっと彼の裾にそれを滑り込ませていたことを。

 

そして、ハレは聞いていた。部室で作業をしていた深夜、コタマが顔を真っ赤にしてヘッドホンに夢中になっていたことを。

 

「その、なにか不都合でもあったの?」

「そりゃまぁ、一応、聞かれたくないこともありますし」

 

ネライは気まずそうに目を逸らし、ハレは何気なく聞いてしまったそれに頬を赤らめた。

 

「その、持ち主には私から言っておくわ」

「いや、俺から直接」

「私が言っておくから」

 

ハレはエナジードリンク片手にモモトークをひらく。表示される上の方にいたコタマのアカウントを選び、言葉を送った。

 

『今、部室にネライくん来てる』

『盗聴されてること気づいてる』

 

『誤魔化しておいてください』

 

─────無理でしょ。

 

画面から顔をあげると、怪訝そうなネライがハレを見ている。

 

『なら聞いたんじゃないですか』

 

『なにを』

『まだ詳しくは聞いてない』

 

『“あのデータ”ハレさんにも共有します』

『誤魔化しておいてください』

 

そこからハレの行動は早かった。ネライから盗聴器を取り上げ、対処しておくと部室から追い出し、鍵を閉める。

 

そして、最後に一言送った。

 

『対処完了』、と。

 

 

 

 

 





誤字報告あったので、ネライくんのパスワード“pasword”はpasswordの誤字ではなくそういうやつですので悪しからず。

つぎにみたいのをさんこうまでに

  • ○○○TS編
  • ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
  • しないと出られない部屋再来編
  • シャーレ当番編
  • NLP編
  • なんかとりあえずイチャイチャピンク
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