ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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ヴェリタスと極秘音声データ

 

“鷹目ネライの極秘音声データ”

 

コタマからハレの端末に送られてきたそれは、恐らくではあるがキヴォトスにおいてある種の起爆剤であり、鷹目ネライという個人を貶めかねない劇物である。

 

自室でひとりそれを視聴したハレは赤面し、ひとしきり楽しんだ挙句、意図してかこれを録音せしめてしまったコタマを呪った。そして密かにセミナーの最高機密と同等かそれ以上のファイアウォールを設け、その奥底へと封印した。

 

自身の持つ最大限の技術と知識を動員し、さらにはアテナ3号を用いた常人では突破不可能であろうほどに複雑なそれは、このまま誰にも破られることなく、忘れられるように時間だけがすぎていく。

 

─────はずだった。

 

そのデータはミレニアム内のアンダーグラウンドのところで密かに流出した。それに気がついたのは単なる偶然ではあったのだが、知った時はコタマとともに顔を見合せた。

 

お互いがお互いを疑う。どちらかの管理が不適切だったのではないか。技術に一家言ある自身のことは決して疑わず、それでいて冷静に原因の究明を急いだ。

 

もしこんなものが流出して広まろうものなら、2人は彼に一生を賭けても償いきれない傷を残しかねないのだ。ワンケースのエナジードリンクを消耗してでも、全力を尽くした。

 

だが、犯人の特定は簡単だった。─────そう、愛すべきバカ(黒崎コユキ)である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ2人にしか売ってませんよぉ〜」

「その時点でアウトだから」

「……かなり、マズイですねこれ」

 

黒崎コユキの捕獲は思っていたより簡単に進んだ。というのもネライの後ろをちょこちょこと歩いていたので連れてきた(ただの拉致)だけだが。

 

どうやらギャンブルをするにあたっての元手を作るために売ったらしい。

 

「それで、誰に売ったんです」

「ひ、ひとりはミドリ……。ネライの音声!って言ったら真っ先に食いついてきてそのまま……」

「何やってるのあの子は」

 

ミドリといえば彼と同じゲーム開発部の双子の片割れ。姉の方とは違ってやりかねないというのが正直な印象だった。

 

「それで、もうひとりは」

「わ、わかりませんっ」

「わからないなんてことはないでしょう。お金は受け取っているんですから」

「そんなこと言ったってぇ……」

 

密かに彼女の端末をハッキングしてSNSを確認する。彼女の個人アカウントには日常的なつぶやきばかりだが、直近に個人とDMのやり取りをしている。

 

そしてその中に金額のやり取りと音声データが残っていて。

 

「えーっと、『音声データと引き換えに50万の前払いを約束する』─────ご、50万!?」

「あー!ハッキングして見ないでくださいよぉ!」

「50万って、あの音声データをですか!?」

 

現実を疑い、目を凝らしてみるが、たしかに金額は50万。だが遡ってみてもこの音声データが彼の何の音声データなのかについて触れられてもいない、それにもかかわらず50万を一括で支払っている。

 

「これ、なんのデータかもわからずに買ってますね」

「余程の金持ちなバカか、変態か」

「それとも」

「どうにかして彼を陥れたい何者か」

 

正直なところ、彼は敵が多い。C&Cとしての彼に煮え湯を飲まされたことのある不良もそうだ。特に成果を上げていないはずのゲーム開発部は彼がセミナー会計と癒着しているので部費を受け取れているとかで廃部寸前の部活から睨まれていたり、セミナー会長の誘いを断ったという噂も拍車をかけている。

 

さらにいえば彼は女子生徒を食べる(意味深)ためにキヴォトスへきたのだとか、外の世界からミレニアムの技術を盗みに来たスパイだなんて話もある。

 

「けど、これ。相手のアカウントの発信源は……ここ、この座標。コタマ先輩」

「はい。これは……。トリニティ、ですね」

 

トリニティ、トリニティ総合学園。キヴォトスきってのお嬢様学校だ。

 

「お嬢様学校が、どうして来んなデータを」

「さぁ……。彼がトリニティの生徒と交流があるとは……」

「あっ、ありますよ」

 

先程までの泣き真似はどこへやら。私たちの視線を受けるもケロりとした顔をしたコユキが続ける。

 

「あの人、温泉とそこに到着するまでの一人旅が趣味で、よくあっちこっちしてるんですよ。だからトリニティにもゲヘナにも、レッドウィンターとか山海経、百鬼夜行にもお友達がいるんですよね」

「……顔、思っていたよりも広いんですね、彼」

「まさか自治区外にも交流があるとは」

「そーなんですよ。だからよくお土産貰えるんでいいんですけどねぇ」

 

正直、驚いた。どうやら想像していたよりも遥かに彼の交友関係は凄まじいもののようだ。

 

「それで、その音声データっては何なのかしら」

「それは─────」

 

コタマ先輩がいい掛け、固まる。部室の入口にはいつの間にか副部長、各務チヒロがそこにいて。

 

「ち、チヒロ先輩……!」

「私もいるよー!」

「マキ!」

 

その瞬間、逃げようとしたコタマ先輩がチヒロ先輩に制圧される。マキもまた私の腕をそっとホールドしていて。

 

「さて、話を聞かせてもらいましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん……ふぅ……ふぅ……ふっ……ん……ふっ』

「……」

「あー」

『くっ……ふぅ……ふっ……』

「これは……」

「こ、コタマ先輩……?」

『はぁ……はぁ……ふっ……』

「これは、その」

『ふっ……はぁ……はぁ……ふぅ』

「ちょっと1回止めるわね」

 

チヒロの手によって再生されていた音声データが停止する。約5分、全員にとってとにかく気まずい時間となった。

 

「一応聞くけど、これ、何」

「な、なんでしょう」

「私が聞いてるんだけど」

「盗聴してたらたまたま取れちゃったネライくんのおな……─────荒い息遣いボイスです」

 

早口にそう言うなり勢いよく顔を伏せてしまうコタマ。その隣に正座させられるハレもまた羞恥で死にそうになっていた。真っ赤な顔で口元を覆い、目をかっぴらいたマキが。

 

「え、オ○ニー……?」

「マキ」

「オ○ニーだよねこれ!?」

「マキ、ブレーキ」

「だってチヒロ先輩、これオ○ニー!」

「ブレーキ踏みなさい、マキ」

「コタマ先輩とハレ先輩、これネライのオ○ニー─────」

「マキ、ストップ!」

 

暴走するマキに消しゴムを投げつけて鎮圧したチヒロは痛む頭を押さえた。

 

「彼の名誉のために言っておくけど、これはお……自慰行為ではないわ」

「なんでそんなことを」

「盗聴データから時間を確認してトレーニング部に確認したわ。彼、トレーニング部にそういうデータ提出してメニュー作ってもらってるらしいからすぐわかったの」

「な、なるほど……」

「ならこれは、筋トレボイス?」

「びっくりしたぁ。な、ナニーかと思った」

「今更濁しても遅いですよマキ」

 

それはそれであり。コタマは未だ火照ったままの顔でそうニヤける。貴重な男子生徒の生活音、それも筋トレ中の音声だなんて値千金である。

 

だがそんな彼女の企みを見逃すチヒロではなかった。

 

「とりあえず、この音声データは全て削除、エンジニア部に頼んで彼のアパート全域に盗聴器の電波遮断措置をしてもらったわ」

「そんな殺生なっ」

「コタマが悪いのよ。問題になるようなことを起こさないでちょうだい」

「バレたコタマ先輩が悪いよね」

「マキ、あなたにはグラフィティの件で話があるの」

「ごめんなさい」

 

2人に並んで正座を始めるマキ。スマホをいくつか操作したチヒロは出入口に向かい直り、静かに目を閉じる。

 

「とりあえず2人は直接謝罪しなさい。入っていいわよ」

「─────え」

「─────うっ」

 

チヒロの声にドアが開き、長身の人影が入ってくる。いつものクールさはどこへやら、なんとも言えない表情を浮かべたネライだ。

 

彼の登場に2人は落ち着きつつあった顔を再び赤らめ、目を逸らす。

 

「その、話は聞いた。ハレ先輩も、共犯だったんだな……」

「うっ─────ご、ごめんなさい……」

「いえ、大丈夫ですけど。少し、悲しいです」

「ぐぅ─────っ!」

 

思い出すのは彼から盗聴器の相談をされた日のこと。対処すると言っておきながら、私は共犯者側にまわっていたのだ。そう考えたハレは痛む胸を押えて呻いた。

 

「その、ごめんなさいネライくん」

「コタマ先輩は……。うん、とりあえず、盗聴はちょっと」

「あっそれは厳しいですね。貴重な男子生徒の生活音なので」

「コタマ」

「以後、気をつけさせていただきます」

「やめるとは言ってくれないのか……」

 

尚を反省しているのかしていないのか、煮え切らない態度のコタマにはチヒロのゲンコツが落ちた。だが決して盗聴を辞めるとは言わないその姿勢に、逆にネライが感服させられる。

 

「それに、もう1人の購入者は誰か、ね」

「買ったやつがいるのか……。てか、2人のうちひとりはわかってるんですか」

 

まだその事を知らされていないネライは不思議そうにそう尋ねる。そもそもこんなものを購入するという頭がない彼にとって驚きの事実であった。

 

「ひとりは、私の方からは伏せさせてもらうわ」

「えぇ」

「安心して、本人にはきっちり話をするし、流出沙汰にならないようては尽くすから」

「なら、まぁ」

 

─────実は貴方の部員がその1人です。だなんてことはとてもチヒロにも、それ以外のメンバーにも言えそうになかった。

 

気まずさを咳払いで誤魔化し、ハッキングされたままのアカウントのDM画面に目を通す。

 

「それでもう1人、50万でこのデータを買ったトリニティの“リリィフィールド”」

「あっ」

「……ネライ?」

 

正体不明、トリニティの“リリィフィールド”。その名前を聞いた瞬間、彼はそれが誰かを悟ったようだ。

 

「いや、50万……。あの人、だよ、な」

「その、信じたくない、といった感じかしら」

「そりゃまぁ」

「でしょうね。事実よ」

「事実かー」

 

まじかー。そう彼は力なく嘆いた。そして。

 

「この人に関しては関わらない方がいいです」

「本当に?」

「むしろ下手に首を突っ込むと学園間の政治問題にも発展しかねないので」

「何者なのよ相手は……っ」

 

学園間の政治問題に発展する、50万もの大金をぽんと出せるトリニティの生徒。このふたつを並べればなるほど、確かにこれ以上の詮索は避けた方が懸命である。

 

「……なるほど、それで……。貴方、今年入学したばかりじゃないの、どこでそんな交流を?」

「いえ、たまたまトリニティ散歩してた時に迷い込んだ庭園で」

「……よく、わからないわね」

「俺もわかりません」

 

相手の目星がついたチヒロはひとり、なんて事ない顔でとてつもない交流について言ってのける1年生に呆れるばかり。

 

─────そういえば、まだマキのグラフィティの件もあるのか。

 

コタマとハレが必死になって音声データのファイアウォールを作成している間に溜まった依頼、そしてセミナー経由でヴァルキューレから連絡が来たマキのグラフィティの件のことを思い、さらには自身の大事だというのに「もう帰っていいですか」とほざき始めたネライに頭を抱える。

 

そうして、帰宅したネライ以外、三徹三人衆と全部終わるまで正座の地獄絵図が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




これ警告くらったりするのかな……?

つぎにみたいのをさんこうまでに

  • ○○○TS編
  • ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
  • しないと出られない部屋再来編
  • シャーレ当番編
  • NLP編
  • なんかとりあえずイチャイチャピンク
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