「─────いやぁ、結局庇われちゃったね」
ミレニアムサイエンススクールからの帰り際、モノレールステーションに到着したところでくるりとスカートを舞わせたムツキがつまらなさそうにそう言った。
「何がだ」
「もぅ、とぼけちゃってぇ」
「……ムツキ」
「わかってるって。ガソリンのことだよ、ネライくん」
ガソリンという言葉に、オロオロとするハルカと先頭を歩いていたアルの足が止まる。
少し離れたところから彼の顔を見ると、彼はムツキと目を合わせたあと、そっと目を伏せてた。
「……もともと、あのプロダクションが隣室に可燃性ガスを仕組んでいたのは事実だ。そこに変わりは無い」
「でも、ミレニアムの生徒会、セミナーって言ったっけ?あの人たちは
「…………」
クフフと笑うムツキに、なおも彼は無言のままムツキと見つめ合う。
─────そう、ガソリン。隣の建物の屋外から室内を監視していた社長と爆破後に気が動転していたハルカは知らないであろう事実。あの扉の爆破の後、ムツキはガソリンの入った携行缶を何本か屋内に投げ入れていた。
確かに想定以上の爆発のことを思えば、依頼してきた会社が予め隣室に可燃性ガスを仕込んでいた事は事実かもしれない。しかし、今もクロノスが次々と張り出すニュースに目を通すと、爆発は可燃性ガスのせいとだけなっている。
おそらく、彼は私たちのことをそれとなく庇おうとして、全ての罪をあの会社に着せたのだろう。
無言のままの彼に、何か後ろめたいことでも考えているのかと訝しむ。すると、すっと空を見あげた彼が一言。
「……え、そうなの……?」
「は?」
「……んー?」
思わず声が漏れる。流石のムツキも当てが外れたのかぽかんと口を開けていた。
「怖い声出さないで……。え、俺てっきりバレてないと思ってたんだが、もしかしてユウカさんたち、ガソリンのこと知って……」
「知ってるに決まってるじゃん」
「私たちの前で言わなかっただけで、そのくらい掴んでると思うよ」
「なん、だと」
「……ほんとにミレニアムの生徒なんだよね。そのくらい調査で簡単にわかるって思わなかったの?」
「うん」
「即答なんだ……」
声を上げて笑うムツキにどういうことかと詰め寄るアル。そんないつも通りのやり取りを眺めつつ、彼を観察する。だが、彼はそういうものかと首を傾げるばかりで。
─────意外と、悪い子じゃないのかな。
デカイ図体に私といい勝負しそうな強面、落ち着いた話口調でピンと来ないが、これでも彼はまだ1年生なんだとか。
「ま、とりあえずありがとね。鷹目くん」
「……なんのことかわからないな」
「またまたぁ、カッコつけちゃってぇ」
「むぅ……」
「ムツキ、やめたげて」
「はぁーい」
彼に身を寄せ、つんと伸ばした指でグリグリと頬を押し回すムツキに軽く注意してやる。クルクル回って距離をとるムツキだが、再びアルに詰め寄られても、その顔は何か新しいおもちゃを見つけた時のそれ。
「その、ほんっとうにごめんなさいっ。まさかムツキがガソリンまで……」
「いやいい、気にするな。ちょっとドアとぶつかって鼻血が出たりスマホと私服も制服が全部だめになったり、最終的に全裸で市街を走り回ることになった
「
「たまたまお気に入りのゲームはみんなに持っていかれていてな。ほとんど無事だった」
「持っていかれてたって、どういうことかしら……?」
「部員のクソガキととあるメイドに、ちょっとな」
「……それ、お友達なの……?」
「あぁ」
「本当に大丈夫なの!?ほら、お友達は選んだ方がいいわよ!?」
「ゲヘナのアウトローにそれを言われる日が来たか……」
「アウトローだって心配するのよ!」
─────なんか、仲良くなり始めてるし。
クフフと笑うムツキと合わせて面倒なことになりそうだなとため息を着いていると、そうだと彼が手を叩く。
歩き出したかと思うと、頭ひとつ低いアルにと目線を合わせてその手を取ると、ひとこと。
「もしよかったらなんだが、付き合って欲しい」
「……な、な、な」
「……は?」
「……んん?」
「えぇ!?」
「何ですってぇーーーーー!!!」
△
「─────今戻った」
ドアの開く音に振り返ると、相も変わらず裸エプロン姿の彼がそこに立っていた。
「おかえりー」
「あぁ、ただいま。……マルクトたちは、もう帰ったのか」
「さっきね」
「私たちと遊ぶより、お店の方が大事なんだってぇー」
ソファを陣取って携帯ゲームに没頭していたお姉ちゃんが不貞腐れたようにそう言うと、アリスちゃんとテレビゲームをしているケイちゃんが振り返る。
「彼女たちはお店を経営するという道を選んだんです。あなたのようにダラダラとゲームをしているだけと言う訳には行きませんよ」
「でも久しぶりに会ったんだし、少しくらい遊んでいってくれても……」
「そんなに余裕そうに見えましたか?」
「……うーん」
「今日だって無理して来てくれてたみたいだし、仕方ないよ」
「ユズまでそっち側なの?」
つまんなーい、とゲーム機ごと両腕を突き上げるお姉ちゃん。でもなんだかお姉ちゃんらしいやと微笑ましく思っていると、ネライもまたあぁと残念そうに声をあげる。
ネライもあの4人が帰ってしまったことを寂しく思ったのか。少し意外だなと思っていると、エプロンの胸元を掴んだままひとこと。
「─────エプロン、返し損ねたな」
「うん、返却されても困ると思うよ」
「せめて洗濯してからにしてください」
「多分だけど、ちょっと、汚いよね、それ……」
「やっぱネライだしだいぶ汚いんじゃない?」
「モモイ……っ」
誰が汚いだと、と少し怒った顔のネライにクッションを押し付けられるお姉ちゃん。
「……ネライは、汚いのですか?」
「えぇ、そうですアリス。彼は御手洗済ませたあと、あのエプロンで手を拭いましたから。間違いく見ましたよ」
「仕方がないだろう。ハンカチなんてひとつも残っていなかったんだし、ケイも貸してくれなかったし」
「それでもです。というか貸すわけないでしょう」
「……てっきり、ケイも持ってないのかと」
「持ってますが!?こちとら一端の乙女ですよ!?」
「モモイとアリスも持ってないだろ」
「アリスはケイが持たせてくれるのでココ最近忘れたことがありません!モモイはいつもスカートで拭いてます!」
「ちょ、なんで言うのさ!?」
「モモイ……」
「お姉ちゃん……?」
「ちょ、2人とも距離取らないでよぉっ!」
流石の私でもお姉ちゃんのハンカチ事情まで知らなかったが、スカートで拭いてるのはちょっと……。図らずもユズちゃんと同時に距離をとると、がばりと上体を起こした。
「あっ、てかそういう意味?私てっきり○ん○んがモロに当たってたからとかだと思ってたんだけどなぁ!」
「んなっ!?」
「モモイ……っ!?」
「お姉ちゃん……?」
お姉ちゃんの誤魔化すような一言に、ボっと顔を赤くしあわあわと手を動かすユズちゃん。素でやってそうなそういうところ、本当にあざといと思う。
だが、じっさい直に股間のついたエプロンを返却されては、流石のマルクトさんたちでも扱いに困るはず。密かに用意していたネライのお着替えセットを私のロッカーから取り出した。
「はいこれ、予備の着替え」
「助かる」
差し出されたそれを受け取り、部室棟の更衣室へ向かおうとするネライ。たが、そこにケイちゃんが待ったをかけた。
「─────誰も疑問に思わないんですか!?」
「……ん?」
「え、なに、どうしたの?」
「び、びっくりした……」
顔を真っ赤にしてズカズカとネライに詰め寄るケイちゃん。何事かと不思議に思いながら見守っていると、その疑問をアリスちゃんが問いかけた。
「ケイ、突然どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもありませんっ。なぜミドリのロッカーから彼の着替えが出てくるんですか!それもフルセットで!」
ネライのお着替えセットの1番上、引ったくったパンツを手にしたケイちゃん。それを片手に私を指さして、今度はこちらへ詰め寄り始める。
「彼のロッカーならわかります。ですが、なぜミドリのロッカーから出てくるんですか!まさかですけど、この部室でなにかやましい事でも─────」
「それは……」
「それは?」
あー、と言葉を濁しつつ、ユズちゃんとお姉ちゃんを見る。2人もまたなんとも言えない微妙そうな顔を見合わせあっていて。そしてしばらくして、お姉ちゃんが仕方ないと手を挙げる。
「実はね、ケイちゃん」
「なんですか」
「ネライの着替えをネライのロッカーにおいて置けないとある事情があってだねぇ……」
「はぁ?」
「うわ、露骨に信じて無さそうな顔するじゃん」
口に出さなくてもわかる、完全にお姉ちゃんのことを疑ってかかる姿勢だ。というか完全にバカを見る目である。
そこで当人であるネライがそそくさとズボンを履きながら。
「以前までは、そこのロッカーに着替えは置いていたんだが……」
「……だが?」
「ある日、全部盗まれていてな……」
盗まれた。そう聞いて顔の色を変えたケイちゃんはがばりと勢いよく私を見て、指を指し。
「─────犯人は、この中にいます。さぁ、白状しなさい、ミドリ」
「─────違うんだけど!?」
ピッチピチのアンダーシャツに上半身をねじ込むパンツ1丁のネライが、頭隠して腹筋丸出しの状態で待ったをかける。
「なんですか。待ったも何もありませんよ」
「いや、違うんだ」
「それがね、ケイ。意外なことに犯人はミドリじゃないんだよね」
「まって、意外なことにってなにお姉ちゃん。私ならやりかねないってこと!?」
「……ユウカに呼ばれて一緒にいなかったら、多分ずっと疑ってたかも」
「お姉ちゃん!?」
「……ユズ?」
「ちっ、違うよ!?そもそも、アリスちゃん来る前だと、まだネライくんともそこまで仲良くなかったし……」
逆に仲良くなっていたら盗っていたかもしれない、とでも含ませていそうなひとことじゃないか。ケイちゃんもまた信じられないものを見るような目でユズちゃんを見ていた。
「そ、それで、結局犯人は……」
「コユキが、オークションに出品していてな……」
「あぁ、彼女ですか」
「それでちょっとした盗難対策としてミドリのロッカーに入れてあったってわけ」
なら納得だと頷くケイちゃん。知らない間にシャツまで着たネライは、あの時のことを思い出してか遠い目をしていた。
それならまぁ。と納得しているが、私のロッカーに収まるまでにお姉ちゃんのロッカーに入れてグッシャグシャになってしまったことや、当時のユズちゃんが全力で拒否したことなどと紆余曲折を経たことは言わないでおく。
「─────それで、ケイは仲直り出来たのか」
律儀に畳んだエプロンを手にかけたネライが優しい顔でケイちゃんとアリスちゃんを交互に見る。すると1人テレビゲームに没頭していたアリスちゃんがコントローラーを置くなり。
「はい!アリスはケイにしっかりと“ごめんなさい”を伝え、許しを得て再び最高の友達に戻りました!」
「アリス……」
満面の笑みを浮かべて抱きつくアリスちゃんに、じわりとケイちゃんが涙ぐむ。ほっと胸を撫で下ろすネライ。
これでも、ネライが戻ってくる少し前までは号泣するアリスちゃんを宥めるので大変だったのだ。私はお姉ちゃんとユズちゃんと顔を見合せ、微笑み合う。
「─────じゃあ、これで“鷹目ケイ騒動”も解決だね!」
全てを締め括るように手を叩いたお姉ちゃん。なんだかんだ長かったなとか、心配かけてとか、色々と出てくる言葉を心の中に押さえ込み、そうだねと言い出すところ。
何故か、今度はケイちゃんが待ったをかけた。
「け、ケイちゃん?」
「……ケイ?」
「え、なに、どした感じ?」
「いえ、1つ勘違いされてはいけないので訂正しようかと」
「……勘違い?」
こほんと可愛らしく咳払いをし、それとなく抱きつくアリスちゃんを離した。そして、引ったくったっきり握りしめているネライのパンツを手に、少し煤けたままのシャツで胸を張って。
「─────私はまだ、“鷹目ケイ”ですから」
「─────は?」
─────何故か再び、戦争の引き金を引いた。
※ちょっと作者の自我が出るので苦手な人注意。
えー、この度ですね、本作ミレニアム・ピンクアーカイブ、先月開始したトリニティ・ピンクアーカイブ、そして今月開始したゲヘナ・ピンクアーカイブ、その3作全てが評価バー赤満になりました。
マジ感謝しかないです。はい。
ゲヘナピンクの最新話で言ってたみたいに、もう1作ピンクアーカイブを投稿して、暫くはこの4作をクルクル回そうかなと。
いつも感想、お気に入り、評価、誤字報告、本当にありがとうございます。これからも沢山貰えると嬉しいです。(強欲)
というわけで、これからもオサシミの化身、○○ピンクアーカイブシリーズをよろしくお願いします!
ではまた。
つぎにみたいのをさんこうまでに
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○○○TS編
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ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
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しないと出られない部屋再来編
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シャーレ当番編
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NLP編
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なんかとりあえずイチャイチャピンク