ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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“ありがとう”

 

 

「─────アビドス高校自治区で希少鉱物の採取を……?」

「あぁ」

 

書類を手に眉を顰めたユウカに、ウタハは目を伏せ腕を組み。

 

「実は先日、アビドス自治区内でとある希少金属に関するタレコミがあってね」

「希少金属ですか」

「特定の条件下においてプラズマを発生させる性質を持つものでね。適切に処理することで様々な分野に用いられる精密部品の一部として必要不可欠なピースとなるんだ」

「なんか、あんまり聞き馴染みがないわね」

「最近だと光学迷彩下着にアリスのレールガン、もとい“光の剣:スーパーノヴァ”だったかな、それに使用されているんだが……」

「……それ、普通に仕入れるのじゃダメなの?」

「それは─────」

「─────ふふっ。私が説明しましょう!」

 

ピンと手を挙げたコトリがウタハを押しのけて前に出る。そのあまりの熱意に思わず後ずさるユウカを他所に、得意げに笑うコトリは語り出す。

 

「今回採取を試みる希少金属、実は意外と身近で使われていました。先程ウタハ先輩の説明があったように特定の条件下で強い衝撃を受けることによってプラズマを発生させます。日中の光には流石に負けますが、それでも淡くほのかに放たれる光をガラス缶に閉じ込めたそれはもう綺麗で。カイザートイズから発売された“ガラスの蛍”という商品として流通し、ちょっとしたブームとなりましたよね!かくいう私も持っていました!……ただ、非常に脆いため粉塵となりやすく、採取地の砂や空気中に散りやすいこと。さらに一定量が反応を起こすと連鎖的に一帯の希少金属が反応を起こしてしまうことから非常に採取が困難なことでも有名です。さらにいえばここ2年の間で相場が10倍以上にまで膨れ上がり、一時期は100g1300万円にまで価格が吊り上がりました。これはこれまで採取技術を独占していた企業の倒産から始まり属人化していた採取技術を有する技術者の高齢化、そして主な産出地であったゲヘナ郊外の砂漠において埋蔵量の減少と治安の悪化が原因とされています。そのため仕入れるとなると余りにも高価すぎて採算が取れなくなり、ある程度スペックの近い代替品もあるにはあるのですが、それもまた使用可能な本来のものと比べると余りに耐久性や性能が落ちてしまいまして……。あっ、この希少金属の特徴ですか?それはなんと言っても熱伝導率の高さでしょうね!本来はプラズマを発生させた後は急速に劣化してしまうという厄介な性質をもっているのですが、適切に処理を施すことによってプラズマを発生させることなくその状態のままにとどまらせることができるんです。バッテリはもちろん、特にアリスさんのレールガンでは放熱関係、空冷ラジエーターを構成する合金に微細な粒子が練り込まれているんです。これは既製品を流用した場合に比べて47%の出力増大、代替品を使用した場合と比べても出力の許容範囲に余裕が生まれたことで最大出力から7倍ほど余裕が生まれ、連射性能、冷却性能も既存品や代替品の比ではありません 。冷却効率と軽量であることを求められるラジエーターにおいて、微細な粒子を練り込むことで重量を極端に増やすことなく空冷効率を向上させられるという、その両方からなるジレンマをあっさりと解決してしまうのです。凄いですよね!そういえばユウカさんが机の上に飾っているその電卓。百鬼夜行の電機メーカーCASIBAの発売したものですよね。これ、件の希少金属が使用された最後のモデルとなってまして、現在CASIBAがその業界でもトップクラスとなっているのは競合他社にはなかったこの希少金属の専門家がいたからだ、なんて話もありますね。とはいえこのシリーズ以降の商品からは軒並み代替品が使用されるようになり、競合他社と明確なアドバンテージが取れなくなったことで売上も低迷しているんだとか。しかし流石はユウカ先輩、往年のCASIBAファンが探し求めるこの逸品を所持して見えるとは、流石です!あぁ、脱線してしまいましたね。恐らくユウカ先輩がいちばん疑問に思っているであろう“アビドス砂漠”である理由を─────」

「長いって……」

「コトリ、ストップ」

「何の何が何て?あと、電卓はネライからのプレゼントだからそんなこと知らなかったわ」

「す、すみません。つい張り切ってしまい……」

 

小さく肩を落とすコトリだが、ネライに頼られたために(・・・・・・・・・・・)張り切ってしまったのだろうと当たりを付けたウタハはそんな健気な後輩に思わず破顔する。一方でプレゼントだという電卓に優しい目を向けるユウカの姿に、なにか喉の奥につっかえるものを感じていた。

 

─────ふむ、なんだろうかな。

 

脳裏に彼の仏頂面を思い浮かべ、そんな自分に内心首を傾げつつ、すぐさま気を取り直してユウカへ向き合う。

 

「まぁ、今のコトリの説明で何となく要点は掴めたかな?」

「……なんとかね。採取の目的についてもハッキリしてるし、具体的なデータも含めて提出してくれたお陰で予算も下ろしやすいし、これなら……」

「おぉ!」

「珍しいね」

「普段からもっとしっかりしてれば問題ないのよ」

 

やったやったと先走って小躍りをするコトリとヒビキを他所に、なおもウタハは真剣な姿勢を崩さない。

 

後輩2人の姿に苦笑する彼女だが、彼女の立場ゆえに今回の採取に予算は降ろせても首を縦に振ることは容易くないのだ。

 

「─────でも、3つほど確認しておくわ」

「あぁ、いいとも」

 

来たか。心の中でニヤリと笑うウタハにユウカが書類に目を落としながら。

 

「まずひとつ。希少金属のタレコミは、誰が?」

「─────ネライくんだ」

 

ぴくりとユウカの眉がつり上がった。

 

「そういえばあの子、アビドス高校に行ってたわね。私はあんまり詳しくないけど、現地の方に聞いたのかしら。……で、そんな彼の持ってきたうわさ話、本当に信用できるの?」

 

思ってもないことを。しかし立場が故に彼のことを疑わなければならないユウカを憐れみつつ、スマホで1枚の写真を映し出す。

 

そっとユウカが覗き込むと、写っているのは握手を交わすネライと肩ほどまでの背にピンク色の髪をした眠たげな女子。ユウカには見覚えがあった。

 

「たしか、アビドス生徒会の代理組織の……」

「アビドス廃校対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノというらしい。今は先生(・・)の承認を受けて正式なアビドス高校の代表となっている」

「……それで、彼女が?」

「あぁ、彼女の話をネライが持って帰ってきたんだ」

「そうなのね……」

 

ミレニアムとアビドスにはほとんど交流がない。いつぞやの一大事を除けば、せいぜいアリスがアビドスの生徒と一緒に先生がプロデュースするアイドルグループのメンバーとして交流したくらいだろうか。

 

「……じゃあ、2つ目。このうわさ話は、本当に信用に足るものなの?」

「─────それは間違いないだろうっ」

 

思っていたよりも強い語気に、疑問符を浮かべていたユウカがビクリと肩をはね上げる。ウタハもそんな自分に驚きつつ、冷静さを取り戻そうと咳払いをひとつ。

 

「……ネライくんの()が小鳥遊ホシノの先輩に当たるらしくてね。今回彼がアビドスに向かったのもその関係なんだそうだ。そんな彼に対し、いち組織のトップがそんな話を持ちかけると思うかい」

「─────それは」

 

ユウカの瞳が露骨に振れる。ネライの姉という存在に心を激しく揺さぶられるのだ。

 

「……なら3つ目。これは、アビドスの借金と関係があるのかしら」

「………………」

「あっ」

「むぅ……」

 

黙りこくる3人の様子に、やっぱりとユウカは小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────あっ、ネライじゃない!」

 

いつぞやの砂漠の片隅、ガードレールに肘を着いて景色を眺めていた俺に声をかける人が1人。ここ数週間ですっかり聞きなれたその声にそっと振り返る。

 

「セリカか。おつかれ」

「おつかれ」

 

つややかな黒いツインテールを熱砂に揺らしつつ、ぴくりと三角の猫耳を許す彼女。袖と袖が触れ合いそうなくらいに近い距離感の彼女から少しだけ身を引いた。

 

喉乾いてるでしょと笑う彼女から手渡された黒い水筒を持て余しつつ、再び砂漠へと目をやった。

 

「あぁ、コレ見てたのね」

「この一週間で、随分と進んだと思ってな」

 

立ち並ぶ白いテント、次々と搬入される機材、大量の給水車、音を立てて移動するゴリアテの足元であっちへこっちへと忙しく走り回る人々の姿。

 

俺が協力を仰いだエンジニア部の働きにより、アビドス砂漠における希少金属の採取試験が始まったのだ。

 

「ほんと、すごい物量よね。テントも散水車も安くないでしょうに……」

「今回の採取で得られる利益に比べれば大したことのない投資なんだそうだ。それにあれだけなら第一建設部の半分にも満たないな」

「……それ、何個あるの?」

「自治区内で活動する5つと、それ以外で活動するのが6つだったか。人員はそれぞれ100人ほど」

「頭おかしいってミレニアム」

「そうか?」

「うん」

 

飲まないのならと取り上げられた水筒を仰ぎ、ブスっとした顔でゴリアテを指さし。

 

「あんなピッカピカに磨かれた建設用のゴリアテなんて見た事ないわよ」

「元の用途はこっちだ。汎用性の高い故に戦闘用としても流用されているだけで。ちなみにあいつら、カイザーインダストリー製の最高級グレードよりもさらに高価だからな」

「……なんで?」

「不安定な砂地でも安定するよう超高性能なオートバランサーを追加して、砂漠用に防塵処置が施されているからだ。関節部のシーリングから吸気系、冷却系に至るまでな。……大体、5000万から─────」

「─────やめて、ききたくないから!」

 

肘打ちをそれとなくガードすると、逆に肘を抑えてうずくまるセリカ。随分と慣れたこのやり取りに我慢できず笑っていると。

 

「2人とも、随分仲良くなったみたいだね」

「あっ、ホシノ先輩」

「ホシノさん」

 

ニマニマと笑うホシノさんがどこからか姿を表した。先程まで微塵も感じなかった彼女の気配に面を食らう。

 

彼女との距離は、なんとも言えないものだった。最初は錯乱して途端に不思議なことを口走ることも多かったものの、次第にそれも落ち着き、最近はユメさんのことも含めてしっかり飲み込めている様子。

 

なんだろうかと首を傾げていると、ゆらゆらと笑うだけの彼女は途端に真剣な顔になり。

 

「ネライくん。本当にありがとう」

「む」

「え……」

「君が来てくれなかったら、多分私、まだ心のどこかでユメ先輩のこと引きずっちゃってたかもしれないからさ」

 

セリカと顔を見合わせる俺を他所に、少しづつ歩いてくるホシノさん。俺の胸の下から見上げてくるホシノさんと向いあい、俺は彼女のオッドアイを見つめ返した。

 

「それに、アビドスの借金返済まで助けて貰っちゃってさ」

「……これに関してはみんなからの情報があってこそだ。俺は橋渡しに徹することしかできないからな」

「それでもだよ。そもそもネライくんが来てくれなかったら有り得なかったかもしれないお話なんだから」

「頑張ってくれたのはエンジニア部とユウカさん、セミナーの先輩だ。あの人たちが予算と徹底的な根回しをしてくれたからこそ成し得たことだからな」

「んふふっ。照れ屋さんなんだからぁ。いやぁ、来月の成果報告書が楽しみだねぇ」

「─────まだ、成功すると決まったわけでは」

「しなかったらしなかった。それだけの事だよ」

 

どう頑張ったって私の代で借金はなくならないしね。そう呟くホシノさんだが、心の内で俺は確信していた。今回のこれは、絶対に成功すると。

 

─────その根拠がいつも負けるから(・・・・・・・・)っていうのは、カッコつかないがな。

 

俺は酷く運が悪い。ジャンケンなんてしようものなら連敗記録をどんどんと更新してしまう。だからこそ、なにか成功しそうな時はビビッとくるものがあった。

 

「でも、ネライくんのお陰でできたミレニアムとのこの縁は、間違いなく次代にまで継ぐことができる。これからアビドスを背負っていくセリカちゃんとミレニアムの大物になりそうなネライくんがこれだけ仲良さげにしてるんだからさ─────」

「ホシノ先輩……」

「……ホシノさん」

 

目を細めてしおらしく笑うホシノさん。そんな彼女を見ているうちに、ひとつの約束を思い出した。

 

「─────セリカ、先にみんなとお店に向かっててくれないか?」

「え?なんで」

「少し、ホシノさんに用があってな」

 

お店、セリカのバイトするラーメン屋にみんなで行くという約束。俺とアビドスのみんなと、便利屋と先生と。今回の件に関わったみんなで最高の1杯を啜りにいくんだとか。

 

しばらくは困った様子でこちらを見上げていたセリカだったが、やがてひとつ頷くと。

 

「─────もう、最高の1杯を用意するから、伸びないうちに来てよね!」

「あぁ、楽しみにしてる」

「じゃあ、そういうことなんでお先に!」

 

変に粘らず、サバサバと行動する彼女のそういう所が好きだ。遠くなるセリカさんの背中を見送った俺は、再びホシノさんと見つめあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────あれ、なんで。

 

どんどんと遠くなるセリカちゃんの背中を見送って、私と彼は見つめあった。

 

相変わらずの仏頂面でわかりづらいが、どこかいつもより真剣な眼差しをしている気がする彼。ヒナちゃんみたいに鋭い視線に、今まで感じたことの無い高さからの視線、どうしてか身体が強ばった。

 

─────目、ユメ先輩にそっくりだな。

 

あっと声が漏れた。彼曰くユメ先輩はこちらで死んだあと、そのまま外の世界へそっくりそのまま生まれ変わったんだとか。そしてそんなユメ先輩を引き取ったのが彼の両親なんだとか。

 

血の繋がらない姉弟、ということになるのだろうか。性別から違うとはいえ似ても似つかない顔つき。だというのに彼の目から感じる熱は、柔らかさは、ユメ先輩のそれだった。

 

まるで異性のユメ先輩が─────。

 

「ホシノさん、顔が赤いが……」

「うへっ!?」

 

小首を傾げる彼の言葉に思わず後ずさる。気がつけば全力疾走のあととも違う激しい動悸に襲われていた。顔もひどく熱い。熱に浮かされたってこうはなったことがない。

 

思わずぎゅっと固く握った拳。思わず俯きそうになった私のそんな手を、彼の大きく硬い手が包み込んだ。

 

─────顔、すごっ、ちかっ。

 

「─────」

「ホシノさんに、伝えなきゃいけないことがある」

 

少し腰をかがめたのか、グッと近ずく彼の顔。そして、手から離れた温もりは、そっくりそのまま私の背中へと回りそして。

 

「─────あっ」

「その、不快だったら払い除けてくれ」

 

─────香水の匂い、ユメ先輩と同じ柑橘系の香水だ。

 

私の顔が、彼の胸元に埋まった。背中に大きくて力強い腕が巻きついていて、身体の全体を彼の体温が包み込んでいるみたいで。

 

─────これ、抱きしめられて。

 

温かい。心地いい。抵抗する気になんて微塵もなれやしなかった。そんな私の内情も知らず、優しく控えめに抱きしめるだけの彼は語り出す。

 

「ユメさんから、頼まれてたことだ。もし俺がキヴォトスに行って、アビドスでホシノさんに会えたら、こうして抱きしめて言伝を、と」

「こと、づて」

「あぁ─────」

 

彼の呼吸混じりの声が耳をくすぐる。あまりの擽ったさに身を捩った。きっとはたから見たらきっと、なんとも情けない姿なのだろう。

 

どんどんと崩れていく理性と思考。不思議な心地に意識を揺蕩わせる私を、彼はええいと強く抱き締めた。

 

「ホシノちゃん、私は元気だよ。ネライくんが会えたのなら、またきっと会えるよね」

「─────」

 

彼らしくない声色で、ユメ先輩のようでそうでない、ヘッタクソな声真似。

 

そんなものに、私はただ彼の胸に顔を埋めてその太い体を抱きかえし、黒いシャツにシミを広げることしかできなくなってしまった。

 

「うっ─────。あっ─────」

「……」

「ごめ、んねっ」

 

嗚咽混じりの声。なんとも情けのない声。それでも私は、彼にこの一言を伝えたかった。

 

 

 

 

 

「─────ありがとう、ネライくん……っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





アビドス編完。と、いうことで高評価と感想待ってます♡

次回からはミレニアムの日常に戻るかなと。

それと誤字報告、ほんと感謝しかありません。ありがとうございます。

これからもミレニアム・ピンクアーカイブをよろしくお願いします!

つぎにみたいのをさんこうまでに

  • ○○○TS編
  • ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
  • しないと出られない部屋再来編
  • シャーレ当番編
  • NLP編
  • なんかとりあえずイチャイチャピンク
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