ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:ウサギの化身

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と、言うわけで新章なり。


ミレニアムのピンクな日常
ファイル① デスカンチョー事件


 

 

─────カンチョー。それは伝家の宝刀なり。

─────禁じられた遊びから派生する最強最悪の一手。

─────耐えられるものは、誰もいない。

 

「─────おぉっ」

「ふっふっふっ。アリスも興味出てきちゃった?」

「はい。アリスは“A・F艦長”に興味津々です!」

 

読み上げられるテキストに痛む頭。思わず私は隣で呆れているネライと顔を見合せた。

 

ゲーム開発部のゲームミーティング。次に開発するゲームの打ち合わせや予算の使い道を始め、明後日のテストや怒ったユウカ先輩の話題で盛り上がる週に一回の定例会議の日。

 

鼻を高くする途方もないバカな姉と手を打ち鳴らして姉を称賛するアリスちゃん。ネライもまた困ったように眉をひそめていて。 だがやがて重くため息をつくといつもより低い真面目な声で。

 

「─────お前ら、カンチョーしたことあるのか」

 

─────いや、そこじゃなくないかな。

 

キリリとした顔で相変わらずズレた発言がかわいいネライに内心ほっこりしてしまう。

 

しかしそんなネライの一言は、ゲーム開発部のおバカふたりを駆り立ててしまう最後のひと押しとなってしまったようで 。

 

「確かに、めっちゃちっちゃい頃にしかやったことないかも」

「そもそもアリスはやったことも見たこともありません……」

「お姉ちゃん、やったことあるんだ」

「えっ、すっごい昔にミドリにやったのが最後じゃない?」

「知らないよ……」

「うっそだぁ、ミドリすっごい怒ってたじゃん。たしかミドリが動くからミスって前の穴に入りかけ─────」

「わかった。思い出したから二度とその話しないで」

「うーん……。あっ、ユズはした事ありますか?」

「……す、する相手、いたこと、ない…………」

「やっぱり、まぁユズだから仕方ないですね」

「─────アリスちゃん、流石に傷つくよ……っ!?」

 

唐突に発生した流れ弾に堕ちたユズちゃんは涙をこらえてロッカーの中へと飛び込んでしまった。憐れ、ユズちゃん。もう何度目かわからない心の中での合掌である。

 

「ユズ!」

「はぁ。アリス、後でしっかりユズに謝れよ」

「……はい。私たち以外に友達がいなさそうなユズに対してダメな聞き方をしてしまいましたね……」

「アリス、ストップストップ」

「急に鬼畜アリスが顔出すじゃんっ」

「なにもユズの交友関係についてとかじゃなくてだな……」

「……あっそうだ、ネライならどうですか!」

「切り替えエグ」

「でも確かに、こういうのって男の子の方がやってそー」

 

口元を覆っているがニヤニヤと笑っているのが丸わかりな姉については、私とユズちゃんのことで必ず後でシメてやる。

 

そしてしおらしくなったかと思えば途端に目を輝かせるアリスちゃん。だが、男の子のネライくんならやったことがあるのではないかというアリスちゃんの読みは正しかったようで。

 

「……まぁ、小学校の頃とかはな」

「へぇ、やっぱやってたんだ」

「坊やだったのさ。……俺らしくないだろ」

「いや?なんだかんだネライってガキっぽいし、みんなと一緒になってスカート捲りとか一緒にやってたんじゃない?」

「やるかそんなこと……っ」

「ふむ、ネライはカンチョーランク初段、といった所でしょうか」

「わけのわからんランクを持ち出すな」

 

─────ヤンチャなネライくん、かぁ。

 

子供の頃のネライくんは今ほど肌も焼けてなかったのだろうか、それともわんぱく少年で今よりもっと焼けていたのだろうか。腕も足も筋肉なんてなくて筋張ってなくてぷにぷにで、きっと細かったのだろう。それに時折見せるちょっと子供っぽいとこが素なら、きっとお姉ちゃんといい勝負するクソガキだ。

 

そんなネライくん(小)が友達にカンチョーとかスカート捲りとか、もしかしたら好きな子にちょっかいをかけちゃう純情ボーイだったりして。

 

そんな、そんなの─────。

 

『ミドリおはよ。えいっ』

『きゃ!』

『ミドリが緑のパンツ履いてるー!』

『も、もぅ!ダメなんだからね!』

『やーいミドリパンツが怒った!にげろ〜!』

「─────あぁ、だめだよぉ」

「……モモイ、ミドリはどうしたんだ」

「いつものトリップ。部屋だとしょっちゅうなんだから」

「……?」

「ネライのせいだよーだ」

「ますます意味がわからん」

「ミドリ、しっかりしてください!」

 

アリスちゃんの声にハッとする。どうやら深く考えこんでしまっていたみたいだ。

 

「あっ、ミドリが戻ってきました!」

「大丈夫か。体調でも悪いのか?」

「う、ううん。そういう訳じゃないの」

「そうそう。どーせちっちゃいネライのことでも想像して」

「ちょ、お姉ちゃん!」

「む……?まぁ、いいか」

 

すっと音もなくネライくんが席を立ち、ゆったりとユズちゃんの籠るロッカーへと向かってゆく。恐らくロッカーの中で死んだ目をしているであろうユズちゃんを慰めにいったんだ。

 

「それで、カンチョーとはどうやるのですか?」

「えっとね、こうやって両手の指を絡ませて、両手の人差し指だけ伸ばして……。そう、それを相手のケツにぶち込む!」

「おぉ!これならどれだけ堅牢な城門でもスムーズに刺し貫けそうです」

「あとは以下に上手く背後をとって位置を定めるかだよ!スカート相手だとパンツ見えないじゃん?それじゃしっかり()をねつらえないから、誰かズボンの相手で練習を……」

「ズボン……」

 

ロッカーに話しかけるネライくんの背中を見ていると、私に2人の視線が集まる。手をカンチョーのまま私の顔をみて、そしてどんどんとその視線を下へと落としていき。

 

「……ミドリはやめとこ。あー、へんなの(・・・・)に指当たると嫌だし」

「─────はぁ!?な、何言ってるのお姉ちゃん!?というか、なんで知って」

「ほら、見ちゃったもんは仕方ないというかなんというか」

「─────さいっあく……」

「……?」

「アリスちゃんは、気にしないで……」

 

思わずおしりを抑える私を他所に、ほかのターゲットについて狙いを定めるふたり。姉に知られていた、見られていたという事実だけでも首を吊りたくなる。

 

そしてふと思った。今のを、ネライも聞いていて─────。

 

「─────ミドリ」

「……ひゃい」

「─────俺は、何も聞いていない」

「………………」

 

終わった。小刻みに肩を震わせ、決してこちらを見ようともしないネライ。確定だ。ゲームの音のしない部室の中なんだ。聞いていたに決まっている。

 

羞恥なんて最早消え去った。ネライの中で私はとんだアブノーマル趣味になってしまうかもしれない。さーっと血の気が引いて、手足の感覚も無くなって、冷や汗かなにかがダラダラと滲み出してくる。

 

「あーあ、かわいそ」

「だ、だれのせいで……」

「呪うならあんなことしてた自分だよ。ってか、たまにうるさくて夜眠れないんだからね」

「なっ─────」

 

なんてことを言うんだ。そんな怒りより先にネライと目が合った。ロッカーに向いていたはずの彼の顔は目をまん丸にしぽかんと口を開けたまま呆けていて、やがて気まずそうに視線を逸らされる。

 

─────今度こそ、終わった。

 

だんだんと崩れていく世界の中で、私はだらりと机に伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────ミドリはどうしたんでしょう。

 

無表情のまま机に突っ伏すミドリを不思議におもいつつ、しかし両手で作ったそれ(・・)をそのままに振り回してみる。

 

手首の柔軟性を活かしたフレキシブルな可動。重ねた手のひらと指によって強化された人差し指は、ズボンやパンツという防御を無視して穴を穿つ必殺一撃。弱点であるケツ穴(・・・)を狙うという性質上、必然的にアンブッシュからのバックスタブ(致命の一撃)になります。

 

「弱点攻撃によるダメージ補正、奇襲による無条件クリティカル、致命の一撃によるダメージ倍増……」

 

まさに、これまで学んできたゲーム技術の集大成。ドクンと胸が高なった。

 

モモイを見る。こちらにグッと親指を突き立て笑っていました。そしてそのままネライを指さして、つられてアリスもそっちを向きます。

 

「ユズ、気を持ち直せ」

『…………』

「……返事がない。屍のようだ」

『………………死んでないし』

 

ロッカーへ籠るユズに話しかけるネライ。下半身はズボンで、腰の位置も高いため非常に狙いやすく、こちらに背を向ける様はまるでゲーム序盤に登場する動作確認のやられ役。

 

もう一度モモイをみる。敬礼だ。アリスの幸運を祈ってくれていた。

 

─────時は来た……っ!

 

足音を立てないよう、そろりそろりと歩きだす。呼吸は活動維持に必要ない最低限、それも浅く、静かに。

 

床に散らばる物を踏まないよう細心の注意をはらう。1週間ほどケイが顔を出していないがために散らばった物だが、もし踏んで音でも出そうものなら、このアンブッシュは失敗になってしまいます。

 

髪にも気をつける。普段なら意識しないが、身を低くしているが故にいつもより擦る範囲の増えた髪がものに引っかからないようにです。

 

距離50センチ。40センチ。30センチ。ネライのケツが目の前に来ました。非常に大きいケツです。ユウカよりもさらに大きく、リオ先輩よりもさらに大きい。目の前にすると凄まじい圧を感じます。

 

─────ユズといっしょでダイエットが必要でしょうか。

 

だが、いくらネライがよく食べるとはいえトレーニングをしていたはず。なら、ケツがここまでデカイのは筋肉なのだろうか。そうなると、アリスの指とネライの筋肉の勝負になるという言うわけですね。

 

手の形をもう一度意識する。両手をしっかり握り合わせ、人差し指を2本添わせて突き出し、()をねつらう。

 

アリスはアリスの指を信じます。ネライは確かに筋肉かもしれません。けど、パワーはアリスの方が強いのです。なにも恐れることはありません。

 

─────目標をセンターに入れて……スイッチ!

 

「─────光よ!」

「─────」

 

ズボン、貫通。パンツは、非貫通。しかし確実に指はネライの()へ─────。

 

─────そして指の付け根までがすっぽり埋まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────まったく、あの人たちときたら……」

 

脳裏に過ぎる3人の子達。ミレニアムに来てからできた、クラスメイトの友達。最近は天童(・・)鷹目(・・)どっちなんだい!だなんて騒ぎ立てるのがルーティンになりつつある彼女たち。

 

今日はそんな彼女たちと一緒に、校門前にきたキッチンカーのドリンクを飲みに行っていた。SNSで話題という謳い文句は彼女たちを引き寄せるのにクリティカルだったようで。

 

「まさか、授業が終わって直ぐに持ち運ばれる(・・・・・・)とは……」

 

終業のチャイムに片付け始めた机上の教材。そこに話しかけに来たネライを押しのけた3人は、言葉通り私のことをヒョイの担ぎ上げて連行し始めたのだ。

 

体格差とは恐ろしいものだ。ネライほどでは無いとはいえ、すでに成人女性に近い身体つきの彼女たちにとって、私を担いで運ぶという行為は簡単なことなのだろう。

 

こんなことならもっと大人の体に、と重くなる気をため息と共にこぼす。今日はゲーム開発部で定例ミーティングがあったはず。それに4日ほど部室に行っていないことを考えるとその散らかり用は想像に容易い。

 

モモイが食べ散らかしたお菓子のカス。アリスが出しっぱなしにするコントローラー。モモイが捨てなかったチョコの包装。モモイが脱ぎ捨てた靴下の片割れ。未だ着用者不明のストッキング。?ネライが出しっぱなしにしがちなマグカップ。ユズが何故か備蓄している空のペットボトル。

 

─────なぜゲーム開発部ではない私がこんなことを……。

 

意外と片付けをしないネライとミドリのふたり。片付けるということが頭にないモモイとアリス。そもそもロッカーにこもって出てこないユズ。

 

「ですが、まぁ、今日くらいは……」

 

右手に持った袋を見やる。6つのカップが入った袋。先程キッチンカーで買ったものだ。

 

はちみつ系のすこしとろみのあるドリンクだが、謳い文句にも納得がいく程度には美味しく、ミーティングをしているであろう5人への差し入れとして購入した。

 

余る1杯は自分へのご褒美ということで─────。

 

「……べ、べつに太ってないですし、大丈夫ですよね……」

 

きっとハイカロリーなドリンクに、最近少しキツくなった気がしたスカートを思う。きっと気のせいだ。そうに違いない。

 

微かに気まずい内心を誤魔化すように足を早める。そうすれば部室はもう目の前だ。

 

しっかりとミーティングをしているだろうか。部室は汚くないだろうか。ネライは差し入れに喜んでくれるだろうか。そんな思いで扉をノックしようとし。

 

『─────っ!』

 

あから始まり濁点のつく野太いネライの絶叫が、誰もいない廊下にこだました。

 

 

 

 

 

 





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