ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:ウサギの化身

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海へ

 

 

草木も眠るウシミツ・アワー。カチャリカチャリと音を小さく聞こえる金属音に気がつく。

 

─────ついに来たか。

 

ゲームをセーブしてコントローラーを置く。ソファから身を起こして軽く体を解し、立てかけてある愛銃の入ったライフルケースを左肩に。

 

あとは洗面所で軽く身だしなみを確認し、ガチャりと玄関を開けた。

 

「またせたな」

「おっそい!」

「うっさ」

 

微かに冷える外気温、モモイの声が無人の廊下に響き渡った。

 

「時間考えろバカ」

「なにおぅ、バカって言う方が─────」

「そういうのいいから。行こうぜ」

「ほーい」

 

大袈裟に怒ったふりをするモモイを他所にパタリとガチャり。戸締りを確認して歩き出した。

 

「あっそうだ」

「なんだ」

「この後ミドリに待ったか?って聞いてみようよ」

「デートの待ち合わせか。それに聞いてみてって、お前も一緒に来たんだろ」

「そうだけどさぁ、その方が面白いって。それと出来ればイケボとキメ顔でよろ!」

「また訳の分からんことを……。やらんぞ」

「ちぇー」

 

エレベーターに乗り、1階へと降りる。エンジニア部謹製のエレベーターはやはりあの独特な浮遊感を感じない。あの感覚が好きな俺としては少し残念だが、やはりこれも技術の進歩なのだろうか。

 

「そんで、まずどこ行く?」

「んー?シャーレのエンジェル24!」

「遠いな」

「まぁねぇ」

「ミドリたちは」

「ミドリは下で待ってるけど、アリスとケイはユズ拾って駅で待ってるって」

「そうか。なら急がないとな」

 

─────あれは21時を過ぎた頃だっただろうか。ゲーム開発部のグループチャットにアリスが発言した。

 

アリス、海に行きたいです!そんな言葉にケイが窘める発言を繰り返す中、俺とモモイが行こうと賛成した。

 

いつ行くか。明日は休みだ。なら今から行こう。ついでだしシャーレに寄って先生も捕まえよう。アリスの一言からそんな計画が始動したのだ。

 

「ぴんぽーん、3階です」

「……おい、止まらないところのアナウンスを入れるな」

「なら次2階押しとく?止まれるよ」

「止まらなくていい」

「じゃあ、上へ参りまーす」

「参るな。降りろ」

「降りろ?2階で?」

1階に降りろ(・・・・・・)だ、クソガキ」

「あーっ、クソガキっていう方がクソガキなんじゃい!」

「またそれか。あー、はいはい俺はクソガキだよ」

「うん」

「ちげぇよ。うんじゃない」

 

1階を知らせるアナウンス。同時に電磁スライド扉が微かな駆動音と共に開いた。するとぴょんと跳ねおりたモモイの後に続く。

 

「玄関です」

「もう外だよ」

「ん……」

「ミドリ、おっまた!」

「あっ、お姉ちゃん」

「よぉ、ミドリ」

「おつかれ、ネライ」

 

マンションの外の壁、ミドリがもたれかかって待っていた。

 

見慣れない服装だ。黄緑っぽいのオーバーサイズなカーディガンに白いTシャツ。黒のショートパンツとオーバーニーソックス。白いショルダーバックをそれとなくかけ直し、いつものネコミミヘッドデバイスとキャットテールを装着した彼女は少し恥ずかしそうにはにかむと。

 

「……その、どう?」

「………………?」

 

赤ら顔に上目遣いの彼女、俺はとりあえずモモイを見た。だがモモイもまたなんとも言えない顔でミドリを見ており。

 

「やだ、私の妹卑しすぎ……っ」

「い、卑しくないんだけど!?」

「めんどくさいから早く褒めたげてよネライ。かわいいとか似合ってるとかそんなんでいいからさ」

「……なんで俺が」

「だって慣れてるでしょ」

「慣れてるわけないだろ」

「慣れてるの!?」

「慣れてるわけがないだろ……っ」

 

人のことをなんだと思っているんだこのクソガキは。まるで俺が異性を褒めなれているタラシみたいじゃないか。

 

やがてまぁいいやと歩き出すモモイの後ろで、ミドリと横並びになって歩きだす。ずんずんと歩いていくモモイに続いてしばらく歩き、少し距離が離れたタイミングで俯いたまま歩くミドリを見る。

 

「ミドリ」

「なに?」

「……それ、かわいいぞ」

「……そっか」

「あぁ」

「……ありがと」

「─────ほぉら卑しいしタラシじゃぁぁぁぁん!」

「モモイ……っ!」

「お、お姉ちゃん!?」

 

そう声をあげると、使い込んでシワの目立つフリフリのついた黒いスカートの裾をパンツが見えるギリギリまで翻したモモイが走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────あっ、3人が来ました!」

 

振り向けハツラツと声をあげるアリス。彼女の指差す方を見ると、モモイを先頭にそれを追いかけて走るミドリとネライの姿が見えた。

 

時刻は既に22時半。いったいどこにそんな元気があるのだろうかと不思議に思う。

 

「……元気だね、3人とも」

「ユズ、あなたもそう思いますか」

「うん。もう走るのがきついから……」

「そっちですか」

 

走る3人に、それに向かって跳ねて手を振るアリスの姿を見て乾いた笑いをあげるユズ。それはそれでどうなのだろうかと心配になった。

 

「おまたせ3人とも!」

「遅いです」

「すまんな」

「ぱんぱかぱーん。ネライ、ミドリ、モモイがパーティに加わりました!」

「こんばんは……」

「ユズちゃん。こんばんは」

 

白い長袖のシャツをはだけさせてスポブラを覗かせるモモイと新品のようなシワひとつない私服を着る少し汗ばんだミドリ。ネライは半袖のTシャツに短パンとスニーカーというラフな格好だ。

 

「……っ、モモイ、ガッツリでてる……っ」

「んぇ?……ホントだ」

「お姉ちゃんってば、気をつけてよね」

 

赤面して注意するユズに対し、なんてこと無さそうにパジャマを直すモモイ。横ではミドリが手鏡で髪を整えているというのに、姉のほうときたら恥も色気もあったものではない。

 

人生短い私の方がよっぽど女の子(・・・)をしているのではないだろうか。ネライの足元でしゃがみこむアリスを見ながら心の中でそうごちる。

 

「……アリス、何をしているのですか」

「すごいですよケイ。なんと、ネライの足に毛が生えてます!」

「そんなこと報告しないでください」

「前一緒にお風呂に入った時は剃ってたから─────いたっ」

「てててーん。アリスは“ネライのスネ毛”をゲットしました!」

「痛い……」

「むしらないでください。汚いですよ」

「……アリスは“ネライのスネ毛”を捨てました」

 

指に挟んだ何本かのスネ毛、誇らしげにしていたと思えばなんとも言えない顔になって風に乗せて飛ばすアリス。それを見てネライがスネ毛と呟いて肩を落とす。

 

そろそろ電車の時間だが、このままでは埒が明かない。こうしてふざけ出すと止まらないのだ、ゲーム開発部は。

 

「へっくちゅ」

「─────そこまでにして、そろそろ電車に乗りましょう」

「あっ、そうだった」

「……目的を忘れるところだったな」

「…………財布忘れた!」

「お姉ちゃん!?」

「俺はカードがあるが……」

「アリスは財布を取り出しました!」

「……毛が鼻に……。うぅ……。私も、切符買ってくるね」

「ユズ、一緒に行きましょう!」

「うん」

「……ユズ?」

「……うん?」

「何故おでこに“ネライのすね毛”を装備しているのですか?」

「うぇ!?」

 

ユズの手を引いて歩いていってしまうアリス。その後ろで財布を探すモモイと呆れた顔で財布を取り出すミドリが続く。そもそも誘っておいて財布を忘れるとは何事だ。キャッシュレス思考にも程がある。やはり現金は持っていなくては。

 

私もまた切符を買うべくジーパンのポケットに手を入れ。

 

─────あ。

 

「…………」

「ケイ?」

 

じとりと変な汗が滲み出る。はたから見たら挙動不審であろう私を、横に来たネライが不思議そうにこちらを見ていた。

 

横のポケット、おしりのポケットにもない。胸ポケットはそもそもない。というかそんなところに財布は入らない。

 

ネライと目が合う。あっという顔をしている。変なところで察しのいい彼のことだ。恐らく気づいているはず。

 

「まさかだが」

「……その、まさかです」

「……そうか」

 

顔が熱い。なんという恥辱か。ミドリにお金をせびるモモイの声が鬱陶しいことこの上ない。理不尽かもしれないが、全て財布を忘れてもケロッとしているモモイが悪い。

 

だが、そんな私に光がさした。

 

「……ネライ?」

「使え」

 

目の前に彼の交通系ICカードが差し出された。思わず受け取ったカードを手に、そっぽを向いた彼を見る。

 

「アリスはともかく、モモイにこれ以上騒がれるのも面倒だからな」

「……」

 

そそくさと財布を取り出して歩き出す彼の横について行く。こういう所で優しい彼に、私は─────。

 

「あれ、ネライも切符買うの?なら奢って!」

「たかるな」

「お姉ちゃんの分は私がだすから。わざわざネライに迷惑かけないの」

「……ネライくん、カード持ってなかったっけ……?」

「あぁ、床屋のポイントカードと間違えてた」

「どんな間違い!?」

「やーい、ネライのおっちょこちょーい」

「今は何を言っても全部お前に帰って来るだけだからなモモイ」

「なにおう!」

「爆速ブーメランですね!」

 

とても奢ってもらう側の態度とは思えないモモイの言動にため息を着くミドリ。ユズとアリスも騒ぐ中、財布から取り出した床屋のカードを手にしたネライは私を見てニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────というわけだから」

「ごめんちょっと待って。理解できないかも」

 

ぶー垂れるモモイに私は頭を抱えた。

 

時刻は既に23時を回っており、ようやく今日の仕事の大半が片付いた所。シャワーを浴びた私を待っていたのはこんな時間にも関わらず目を爛々と輝かせるゲーム開発部だった。

 

「……うん。もっかいお願いできる?」

「明日は朝から海に行こ!」

「明日も仕事なんだけどなぁ!?」

 

何を考えているのだろうかこの子達は。大人をなんだ思っているんだ。

 

「でも、明日土曜だよ?おやすみじゃん」

「みんなはお休みでも、先生は土曜も仕事なの」

「……もっと休んだら?疲れない?」

「純粋な心配どうもありがとう!」

「……いや、社会一般で見ても土曜は休みなんじゃ」

「ネライ、しー」

 

─────そーですよ。どーせ私は社畜ですよぉ!

 

ユズに口止めされるネライを恨めしく睨みつけると、2人揃ってしれっと視線を背ける。

 

だが私の労働環境を取り締まる基準や部署が存在しているのかわからないとはいえ、有給が溜まっているのも確かなわけで。

 

「先生……」

「せんせぇ……」

 

寂しそうなアリスが、涙ぐんだモモイが上目遣いでこちらを覗き込んでくる。そのそれぞれの肩をミドリとケイがぽんと肩に手をおき。

 

「お姉ちゃん、先生も忙しいから仕方ないよ」

「でもぉ」

「ケイ……」

「……アリス、先生だって暇じゃないんです。私たち以外にも、大切な生徒が沢山いますから」

「うぐっ」

 

─────ミドリもケイもそっち側か……っ!

 

一抹の希望にかけてネライとユズを見る。だが2人はこちらに知らん顔でグミの食べさせ合いっこをしていた。パッケージを見るにエンジェル24で買ってきたのだろう。

 

……何気にゲーム開発部で1番イチャコラしているのはあのコンビなのではないだろうか。

 

「─────うぐっ」

「倒れた!?」

「え、ミドリ?」

「今度はなんですか」

「大変です!ミドリが息をしていません!」

「いつもの事ですね」

「ザ〇リク!ザ〇リク!」

「アリス、多分MPの無駄だからザ〇ラルでいいよ」

「姉としてその発言はどうなんですか」

 

途端になにかの電波を受診したミドリが血のような何かを吹き出して倒れ、それをアリスが必死に介抱し始める。

 

そんなことも露知らず、隅からコーヒーのいい匂いを部屋中に蔓延させるネライ。その横でカップを用意するユズの方へと移動した。

「ねぇ、ふたりとも」

「は、はいっ」

「む、コーヒーなら少し待ってくれ」

「コーヒーは貰うけど。……それよりさ、なんで突然海に行くなんて言い始めたの?」

 

その言葉にぽかんと顔を見合せるふたり。だがやがてネライが咳払いをすると。

 

「これには深い理由がある」

「え……」

「そうなの……?」

 

ユズも不思議そうに首をかしげている。てっきりゲーム開発部部長のユズは知っているものだと思っていたのだが、彼女も知らない何かがあるのだろうか。

 

珍しく履いている短パンのポケットからおもむろにスマホを取り出すと、いくつか操作してそれを私に見せてきた。

 

「─────アリスが海に行きたがったからな」

「─────え、ごめん。それだけ?」

 

崩れ落ちるユズのよこで、無表情のままこくりとネライが頷く。しかし、だがと一言付け加えると。

 

「確かにゲーム開発部が海に行くのはアリスの一言がきっかけだ。それに気分転換のレクリエーションという名目で、さらに新しいゲームのインスピレーションを駆り立てる何かがあるかもしれないとは思う」

「うん。すごくいい事だと思うよ。でも私はべつに」

「いや、先生。わざわざ先生を誘うのは、アイツらが先生と遊びたいからだと思うぞ」

「うん……っ」

「えっ……!?」

 

ニヒルに笑うネライの横でユズが小さく頷いた。振り返ると、先程までお芝居をしていた4人と目が合って。

 

「はい。やはりパーティにはマスコットが必要です。なので私は先生に着いてきて欲しいです!」

「……わ、私は別にそういう訳でも……」

「でもケイが最初に先生も呼ぼうと」

「アリスっ!」

「私も先生と一緒に行きたい!」

「私もです。先生」

「みんな─────」

 

─────そっか、みんな私と一緒に……っ!

 

よし、行こう。明日の仕事はきっと明後日の私が頑張ってくれる。そう決めた私はリンちゃんへとモモトークを送った。

 

「よぉし、明日はみんなで楽しむよ!」

「おぉ!」

「……これで先生の水着姿が」

「もう、ネライくん!」

「スケベなんだから……」

 

そうと決まれば早速、私は水着を生成するべくクラストチェンバーへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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