ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:ウサギの化身

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海だ!

 

 

「海、すごく広いです……」

「これが、海……」

「アリスとケイは見るの初めて?」

「はい……。映像や知識では知っていましたが……」

「わぁ……っ!」

 

さんさんと輝く太陽に照らされて、穏やかに凪ぐ海面がキラキラと光る。海だ。いつぶりかに見る海だった。

 

外の世界と何ら変わらないその景色、最後に行ったのは一体いつだっただろうか。

 

─────あぁそうだ。ユメさんと行ったときか。日光浴をしていたら上にユメさんが倒れてきて、危うく窒息するところだったんだ。

 

ユメさんを思いだし、そしてふと防波堤で横一列に並ぶみんなを順繰りに見渡してみた。まず、右にいるのはモモイとミドリ、アリスとケイ、ユズだ。

 

「あぁ……」

「ちょ、なに落胆してんのさ」

「……言いたいことがあるなら言ってほしいな」

「ん……?」

「この変態」

「うぅ……」

「Vanitas Vanitatum……」

 

なんということだ。このメンツではとても水着姿は期待できない。

 

だが今度は左を見てみよう。先生だ、先生がいる。

 

「おぉ……っ」

「えっと……?」

 

俺の視線に気がついた先生が頬を掻きながら恥ずかしそうにはにかむ。無地の白いTシャツからこれでもかと存在を主張するおっぱい。タイトなジーパンに包まれる大きなおしり。さらにキュッとくびれたお腹周りがまた─────。

 

「おぉ……っ!」

「どうしたの!?」

「……え、泣いてない?」

 

─────俺、鷹目ネライはケツとチチとタッパのでかい女が好きだ。

 

ロリしかいないゲーム開発部に所属していたり、クラスでいちばん仲のいい友達がロリなマキだったり、最近だと児童誘拐罪なんかで逮捕されたこともあったが、俺は決してロリコンではない。

 

だからこそ先生を見てポロリと涙がこぼれた。だが、まだ堪えろ俺。こんな所で果ててどうする。これから俺が拝むのは、先生の水着姿なんだぞ……っ!

 

拳を固く握りしめ、再び右を見る。ストーン、ストーン、ストーン、ストーン、ストーン。ちっちゃいストーンヘンジだ。

 

「……なんでもないさ。気にするな」

「こっちを見た途端泣きやみました!」

「そぉ?へんなネライ」

「変態なネライの間違いでは」

「ネライ……」

「うぅ……」

 

左を見る。デカイ。説明不要。俺の知る限り当番の日にシャーレで会ったトリニティの羽川先輩と揃ってキヴォトストップグラマラスなのではないだろうか。さらに2人とも年上なので高得点。

 

「─────さぁ、着替えようか……っ!」

「あ、あはは……」

「鼻血でてるって。1リッターくらい」

「……この変態、1度ぶっ飛ばした方がいいのでは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビキニだ。白いビキニ。それも、なかなか際どくて肩紐の細いトップに鼠径部とヒップの目立つやつだ。腰に巻かれた水色のパレオから覗く健康的なおしりが美しく、動く度に揺れ動くバストから目が離せない。

 

「そー、れっ」

「ナイストス!」

「おぉ……っ」

 

先生とオーバーハンドパスでバレーボールとおっぱいが跳ね上がる先生。それをモモイが相手コートに叩き込む。先生とモモイ、ミドリとユズのタッグ戦で行われる先生を殺さない範囲でのビーチボール、“手加減ビーチバレー”だ。

 

先生って、横乳にもホクロがあるんだな。

 

─────なんてこと、考えてるんでしょうね

 

「やっぱでっか……えっろ……」

 

─────間違いなく考えてますね、これ。

 

サングラスに前開きの青いアロハシャツ、黒いゆったりとした海パン。ビーチチェアに寝転んだままの彼はだらしなく鼻の下を伸ばして先生を見ている。

 

ただでさえ日焼けで黒いのにこれ以上日焼けしてどうするのかとか、そのサングラスはなんだとか、ツッコミどころは山ほどあった。

 

サングラス越しで分かりにくい視線だが、彼はそっとこちらを向く。

 

「……ケイか」

「なんですか。気持ちの悪い変態が、気安く話しかけないでもらっていいですか?」

「そこまで言うなよ……」

 

男なんだから仕方ない。そう言って再び先生へと視線を向けるネライに思わずケリを入れた。

 

「いって。何するの」

「腹が立ったので蹴りを入れました。それだけですが?」

「えぇ……」

 

サングラスをとってようやく先生から視線を外した彼を横目に、私も隣のチェアへと腰掛ける。

 

やっと一息つける。先程までアリスに捕まって浜辺で振り回されていたのだが、今はユズがアリスの相手をしていた。リクライニングから見渡す視界の端で、今もユズが遠くめがけて投げ飛ばされている。

 

「おぉ、ユズが派手に飛んだ」

「……」

「アリスも楽しそうだなぁ」

「……」

「……ケイ?」

 

ようやく彼がこちらを見る。不思議そうに眉をひそめていた。

 

「ケイ」

「……」

「おい」

「……」

「……」

「……」

 

それとなく、さりげなく。そっと腕を頭の上に組んで身体を伸ばす。足は組んでぐっと伸ばし、彼に私の全身がよく見えるように動きを作る。

 

顔が熱い。なんてはしたないことをしているのだろうかと羞恥に震えた。異性である彼の目の前で、下着姿も同然の格好で身を捩るなんて。

 

わかっている。これは水着(・・)なのだから、あくまでもこの格好が自然体であり恥じるべきものではないと。だが、脳が理解していてもやはり思考は別なのだ。

 

「あぁ」

 

ニヤリと彼が笑う。上体を起こしてまっすぐこちらを見ている。

 

一方私は彼を見ることはできなくなっていた。何も考えられない。今度は脳が沸騰しているみたいだ。今彼を見たら、きっと私はどうにかなってしまう。

 

─────なぜみんな、あんなに平然として……っ!

 

ミドリとユズは恥ずかしそうに、モモイとアリスはまったく恥ることなく堂々と見せつけた水着姿。

 

先生に至っては最初こそネライのあまりにも熱い視線にドギマギしていたものの、今となってはたぷんたぷんとこれでもかと揺らしていて。

 

─────教育者としてどうなんでしょうか、それは。

 

一瞬冷静になる。そういえば教育者として生徒の邪な視線を注意することなくそのままにするのはどうなのだろうか。むしろ若干嬉しそうにしていたような気が─────。

 

「ケイ」

「ひゃい!?」

 

驚き、逸らしていた顔をネライへ向ける。いつの間に脱いだのかアロハシャツを荷物の方目掛け放り投げると、彼はニヒルに笑った。

 

顕になった男らしい身体。くっきりとした筋肉の間を、一筋の汗がつーっと流れていく。首筋を、胸筋を、腹筋を、そして彼の水着へと、流れる汗が私の視線を奪って見ようとも思っていない情報を無理やりにでも取り込んでくる。

 

彼の鋭くもやさしい視線が、クールぶってカッコつけているだけの子供っぽいその表情が、異性(・・)を感じされる肉体が、真っ直ぐに私の名前を呼ぶその声が、その全てが私の心臓を痛いと思うほどに更に高鳴らせた。

 

「にゃ、なんでんすか」

 

噛んだ。が、気にしていられない。何とか捻りだした言葉なのだから。とにかく今は、どうにかして気を逸らして─────。

 

「その水着、かわいいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────なんで……」

 

浜辺に打ち捨てられたネライ。また何か変なことでも行ってしまったのか、ケイの手によって絞殺されかけた彼。だが這う這うの体で逃げおおせたあとは力なく仰向けに転がっていた。

 

いつの間にやらアリスとモモイの手によって彼の体は砂に覆われ、胸元と股間には大きな膨らみと足元に魚の尾びれができていた。

 

「ネーライ」

「む、先生」

 

大きな彼の身体を覆うために削られた周り、砂に覆われたままの彼は少し疲れたような顔で私を見上げていた。

 

そっとその隣に腰を下ろそうとすると、彼が待ったをかける。

 

「しゃがむならそこのアロハシャツを使ってくれ」

「……へぇ、紳士なんだね」

「そんなことないだろ」

「だってさ」

 

─────これまでの彼氏にそんな人いなかったよ。

 

そう言うと、ネライの目が見開かれて口がぽかんと開かれた。

 

「え、なん……。ん……?」

「どうしたの?」

「いや、今なんかしれっと、凄いことを……」

「元彼とかセフレのこと?」

「……うん。……せふ、うん?」

「ま、そんな話はともかくさ」

「─────それで流せる内容だったか……っ!?」

「流せるの。もう、過去の話なんだから」

 

キョトンとする彼に、私は自嘲気味に笑う。

 

「ネライはさ、周りにかわいい女の子が沢山いるんだよ」

「……それは、まぁ」

 

追求したいだろうに、そっとそらを見上げて押し黙る彼。

 

ゲーム開発部にC&C。セミナーにヴェリタスにエンジニア部。ミレニアムにだってそれいがいにだって、彼のことを好いてくれる女の子は沢山いるはず。

 

そうじゃなくたって、優しくてかっこよくて頼りになって、まだまだ若い彼が、|私なんかをそんな目で見るのは見過ごせなかった。

 

「ネライはさ、ぶっちゃけ私の事結構エロい目でみてるじゃん」

「─────ぶっちゃけ!?」

「そんくらいで慌てないの。わかるもんだからね」

 

彼はかなりのスケベだ。正直ネルを除いたC&Cの面々へ遠巻きに熱い視線を向けているのを見たことがあるし、以前シャーレでハスミと会った時なんかは胸から目が離せなくなっていた。

 

「ま、アスナとかカリンとか。あとはまぁ、ハスミみたいな子をそういう風に見るのは年相応でかわいいと思うよ」

「むぅ」

「でも、先生はダメ。もう27になるんだから、ネライより一回りは上なんだよ?」

「そんなことは」

「あるの」

 

いくら年上好きを公言している彼とはいえ、そんなのはダメだ。ダメなんだ。

 

「シャーレで水着を拵えてさ、今ネライの前で着てるわけじゃん。なんか思わないの?」

「いや、なんとも」

「……まぁ、あの子達なら仕方ないか」

「だろ?」

「開き直らないの。同級生でしょ」

 

ユズだけは年上だが、それ以外は……。アリスとケイも……。少なくとも、モモイとミドリは同級生なわけだ。これから急激に成長することだってあるはず。

 

今は幼げなピンクの水着が似合うモモイも。少し大人びたミスマッチな水着を着たミドリも。何故か旧スクを着たアリスも。黒のワンピースタイプの水着を着たケイも。以外にも露出の激しい水着を着たユズも。

 

みんな、ネライに見せることを念頭に選んでいのだから。

 

「ほんとうに、恋愛して好きになるのなら同世代じゃなきゃダメだよ」

「む」

「ネライ、わたし結構心配してるんだよ」

「何を」

「いつか、誰かから刺されないかって」

「……なに!?」

ビクリと大きく揺れたネライ。肩まで覆われた砂の山が崩れ始めた。

 

「今度、ネライのこともう一度当番に呼ぶからさ。その時、もう少しゆっくりと話せるといいね」

「……先生」

「とりあえず、これ以上先生の事をそういう目で見るのはやめてね!ネライの為にもならないからさ」

「……あぁ」

 

彼のアロハシャツを手に立ち上がり、砂を払って畳んでおく。本当に、優しい異性というのは何時ぶりなのだろうか。

 

見下ろすネライの顔は少ししょぼくれたようで、段ボールの中に捨てられた子犬のような─────。

 

「ほんと、気をつけてよね」

 

─────私が狂わされちゃいそうだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りの電車は、静かなものだった。

 

アリスもケイも、モモイもミドリも。ユズも先生も。みんな眠りこけていた。

 

それもそうだろ。まだ少し肌寒いとはいえ海に入ったものや投げ込まれたもの。水着姿でバレーボールや砂遊びを全力で行っていたのだ。さらに昨夜の夜更かしも合わせれば、疲れていて当然だ。

 

向かいあわせにした4つの席。通路を挟んで8つの席。荷物とともにその2席を占領している俺はそっと窓の外を眺めた。

 

「綺麗だな」

 

夕日を受けた海がらんらんと輝いている。あれがカモメだろうか、白い鳥が群れて飛んで、そして離れていく。

 

「そういう目、か」

 

先生に言われ考える。人のことを性的に見るその目が、先生にとって不快だったのだろうか。ふとそう考える。

 

だが違った。たしかにあの時、アスナ先輩やカリン先輩なんかに向けるべきものだと言うだけだった。

 

“ライク”だとか“ラブ”だとか、そんな感情はぶっちゃけいえば俺にはわからない。

 

元カノはいた。中学1年生の頃の恋愛ブーム。ハイスペックな彼氏がいることがステータスなあの時分、俺はとある女子によって彼氏というアクセサリーになっただけだった。

 

「好き、か」

 

みんなを見る。みんな、笑顔で眠っていた。アリスなんて大口開けてヨダレまで垂らして、なんともいい笑顔だ。

 

俺はゲーム開発部が好きだ。だが、それが“ラブ”なのか、転じるのかと問われると首を傾げる他ない。それは彼女たちではなく、身近な全員に対しても同じだ。

 

「─────あ」

 

そこでふと気がついた。先生の中ではなぜ、“エロ”から“ラブ”に飛んだんだ、と。

 

先生を見る。ユズの隣で静かに寝息を立てる先生だが、最後に俺を見下ろしたあの顔は、暗いあの瞳は。

 

─────先生にも、暗い部分(・・・・)がある訳か。

 

聞き出すならば、先生が取り付けた今度の当番だ。

 

「─────けど、今はまぁ」

 

そっとスマホを開く。何十枚と撮り、それぞれとモモトークのグループで共有したとんでもない数の写真たち。そこに最後の写真を追加した俺は、そっと静かに目を伏せた。

 

─────先生の暗い顔を、ユメさんの後悔する顔と重ねながら。

 

 

 

 





なんか重たくなってる(?)こんな終わり方だけどまたピンクな日常に戻るかも。

もしくはトリニティピンク書き始めるかも。

感想いつもありがとうございます♡高評価ももっと待ってます♡
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