ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:ウサギの化身

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まさかのコラボ!?




白いカラスは平和な世界の夢を見る(コラボ)
コラボ:白い彼女は静かに笑う


 

 

 

「─────あら、鷹目くん」

「む……」

 

ミレニアムサイエンススクール、部室棟の廊下のその半ば、先日修復を終えたばかりの階段に差し掛かった辺り。教室からゲーム開発部の部室へと向かおうとする俺は、上階から降りてくる凛とした声に足を止めた。

 

ぼんやりとした思考をそのままに左を見る。照明とワックスによって輝く12段の階段。その踊り場、手すりに手をかけた彼女が立っていた。

 

まず目につくのは白く長い髪だ。ノアさんだとかケイだとか、ふたりとはどこかツヤ感の違うホワイトカラーにトレードマークの黒いリボン。制服らしからぬデザイン、どこか歳不相応な色めかしさを醸し出すグレーのドレス。肩から流すように掛けた黒いジャケットスーツ。

 

レイナ(・・・)さんか。お疲れ様です」

「えぇ、お疲れ様」

 

微笑むと共にすっと細められる赤い瞳が俺を見つめていた。

 

─────西条レイナ。シャーレに所属する先輩だった。

 

どうしてミレニアムにと問うと、野暮用でセミナーにと肩を落として気だるげに零す。先生が無理を押してミレニアムに来たのか、それとも先生がなにかやらかしたのか。

 

おそらくは後者だろうか。ならば今先生は。そう聞く前に、レイナさんが手を突き出してこちらを制止すると。

 

「セミナーに用事があって来たのだけれど……」

「セミナーか。一体何が」

「─────まぁ、聞かない方がいいわ」

「─────何があった……っ!?」

 

気になる。だが彼女が言うなら気にしない方がいいのだろう。軽やかに階段を降り始める彼女を見て、これ以上の詮索はしないことにした。

 

だが、それにしてもお淑やかな人だ。たしかに初めて会った時からそうだ。スカートの裾をそっと持ち上げるあの挨拶からしてその気品を感じさせており、今階段を降りる動作にしてもミレニアムでは感じられない何かを感じる。

 

「─────エレガントとは、こういうことか」

「……また、訳の分からないことを」

 

隣に立った彼女が残念なものを見るようにこちらを見上げる。落ち着いた態度と裏腹に、年相応に小柄でかわいらしい容姿をしていた。

 

段々と温かさを無くしていくレイナさんからの視線に何か新しい扉を開きそうになりつつ、そしてどうしても胸元に引き寄せられる視線を必死に逸らしつつ、彼女の赤い瞳に目を合わせる。

 

─────ほんと、綺麗な顔立ちだな。

「鷹目くんは、今から部活?」

「あぁ。特に予定もないからな」

「……部活って、予定がないから参加するものだったかしら」

「うちはそうだな」

「……まぁ、あなた達だものね。ちなみに何をするのか聞いても?」

「……なに、するんだろうなぁ」

「相変わらずのようね」

 

ゲームを作りなさいよ。口に出さずとも彼女から漏れる空気と圧ではっきりわかる。ドキリとしたその顔から、つい気まずくて。ついにじっとりとこちらを見上げる彼女から思わず目を逸らした。

 

「な、なにも作ってないという訳では無いぞ」

「……そうなの?」

「あ、あぁ」

 

決して出まかせでは無い。思いつくことを指折り数えて語り出す。

 

「まずは、ミドリとイラストの練習をしている」

「……あなた、そこそこ絵が……。いえ、画伯(・・)じゃなかったかしら?」

「ミレニアム的には、アヴァンギャルドだと言ってくれ」

「流石に無理があるわよ」

「それに、モモイと色んなゲームから情報収集をしたり」

「それ、ただ遊んでいるだけじゃない。結局いつもの賭けゲーム大会が始まるだけでしょ」

「ゆ、ユズとデバックを……」

「それこそ部室で一緒に寝てた日のこと?何もしなかったって言っていたのはあなたじゃない」

「……アリスと、あれだ、屋外で音源の収集に……」

「趣味の散歩でしょ。なんなら温泉に行っただけなんじゃないの」

「……む」

「図星みたいね。……今回は、水着は着たのかしら」

「─────それは置いておくとして。な、なら」

「なら、なんて前置きしてる時点で知れてるわよ」

「せめて内容は聞いてくれ」

「いやよ」

 

にべもなくそっぽ向いてしまうレイナさん。

 

……とはいえ、ゲーム開発をしない事が鉄板になりつつあるのがゲーム開発部。ユウカさんの怒る顔と先生の呆れたような顔が目に浮かぶようだ。

 

「ま、いいわ。あなたが暇だってことはよくわかったもの」

「そのうち泣くぞ」

「みっともないからやめて頂戴。とにかく、これからの予定はないのよね」

「……確かにやることは、決まってないが」

「都合が良くて助かるわ」

「言い方、どうにかならないか?」

「あなたにはこんな感じで充分じゃないの」

 

皆こんな感じではと言われれば、はいそうですとしか返す他なく。

 

印象の改善を図るべきか。そう頭を悩ませ始めた俺。そんな俺の横に立って上品に笑った彼女は、そっと左手の裾を摘んで引くと。

 

「今からデート(・・・)と洒落こみましょう」

 

そう、妖しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────ん、おいしい」

 

キヴォトス全土に展開するドーナツチェーン、“もっちりん”という期間限定スイーツを手に頬張る彼女を眺めながらコーヒーを口に運ぶ。少し苦味の強いコーヒーだ。これが甘いドーナツとよく合うのだろう。

 

「……なぁ」

「なにかしら」

「それ、ひとつ貰っても……」

「ダメ。これは私のモノよ」

 

再び小さなひとくちを頬張っては幸せそうにはにかむ彼女に、寂しい口をコーヒーで湿らせた。

 

おかわりと一緒に何かドーナツを買おう。そう決めた俺はもちもちとほっぺを膨らませる彼女を微笑ましく見守りつつ、しかしひとつ問いかけた。

 

「レイナさん」

「……むぐ?」

「なぜ、わざわざミレニアムでここに?」

 

言っては悪いがここはあくまでチェーン店。ミレニアムどころかシャーレ近辺のような都会になら何件だってあるようなお店だ。

 

彼女がまたひとつ食べ終えたそれが期間限定の人気商品だからといって、こうまでして食べなくてもいいのではないか。なんなら先生に頼めば買ってきてくれそうなものだが。

 

俺のこぼしたそんな疑問。口に含んだものを飲み飲んだ彼女はぽんと手を打つと、もっちりんを指さし。

 

「─────いえ、流石に目的はこれじゃないわよ」

 

─────違うのか。

 

当たり前じゃない。そう呟くとそっと目を閉じた彼女は、またひとつドーナツを手に取るとぱくりと頬張り。

 

「変なことを言うかもしれないけれど、少し、あなたのことを知りたくなったのよ」

「……俺のことをか」

「そうよ」

 

思ってもみなかったそれに耳を疑う。俺のことを知りたくなったとは、一体どう言う風の吹き回しなのだろうか。

 

だが、少しだけ腑に落ちるものもある。

 

「確かに、俺もレイナさんのことはそう詳しくはないが」

「─────詳しかったら、気持ち悪いわ」

「だから泣くぞっ」

 

なんでこんな物言いを受けなければならないのか。そういう役回りだと言われればそれまでなのだが。

 

しかし、俺とレイナさんの接点というのは必ず先生やゲーム開発部を介した状況であることが大半で。そもそも、こうして2人きりでというのもこれが初めてなのではないかと思うほどだった。

 

「才羽ミドリさんとと花岡さんがいると、どうしても誘うのに気が引けちゃうのよ」

「なんでだ」

「そこは察しなさい。とにかく、こうしてあなたと顔を付き合わせて話してみたかったのよ」

「そうか」

 

どうしてかと問うと、これだからと再び視線の温度が急低下する。だが、ここでミドリとユズが出てくる理由に、一向に心当たりはないのだ。

 

「……とりあえず、気になっていたことを聞くわね」

「スリーサイズ以外なら、」

「論外ね。……あなた、身長はどのくらいなの?」

 

意外なところから責めてくるな。そう思いつつカップを置いて。

 

「この間で186cmだな」

「凄まじいわね」

「ついで言うと、足のサイズは29.5だ」

「……キヴォトスじゃ、埒外の大きさね。つぎは手を出して」

「……ん」

 

すっと右手を机の上に出す。するとその横に彼女の細くて白い左腕が添えられて。

 

「……凄い太さね」

「鍛えているからな」

「それじゃあ……」

 

ツンと立てた指で俺の前腕を何度か押して。

 

「……意外と、柔らかい?でも、妙に筋張っているというか……」

「力を入れてないとな。力を入れれば……」

「わっ」

「こんな感じになる」

「……へぇ、私たちとは随分と違うのね」

「まぁ、鍛え方が違う」

「……それしかないの?」

 

一息の間に指の沈まなくなった前腕。不思議そうにそれを見ていたと思えば、その指をお手拭きで拭って。

 

「─────鷹じゃなくて、ゴリラじゃない」

「急に刺すな」

 

─────ゴリラ。言うに事欠いてゴリラとは。

 

確かに彼女のよく知る身体とは、割とかけ離れた部分の多い俺。しかしだからといって人を超えてゴリラだなんて言われれば心に来るものもあるわけで。

 

「……なら、レイナさんのことについても教えてもらおうか」

「変なこと聞いたら潰すわよ」

「……ふっ。負ける気はしな─────」

「─────社会的に、ね」

「勝てるわけがなかった、か」

 

もとより変なことを聞くつもりはなかったが。それでも頭を下げずにはいられない。スマホを片手に凄まれれば、俺には叶うすべなどないのだから。もう、警察は懲り懲りなのだ。

 

─────しかし、何を聞こう。

 

何も考えず口走った、なんのイメージもない質問。身長はユウカ先輩と同じほどだろう。所属に関しては、まぁ、聞きづらいし。スリーサイズなんて聞こうものなら本当に抹殺されかねない。

 

「……あー、すきな、ものは?」

「考えてなかったのなら質問なんて言い出さなくていいのに。……まぁ、甘いものよ」

「それもそうか」

 

またひとつ、ドーナツを食べ始める彼女を見て納得する。いくつかあったそれを食べきった彼女は、先程から俺のトレーから取っては食べているのだから。

 

「甘いもの、か」

「……なにかしら」

「なんでもない」

「そ」

 

ならば。ドーナツを頬張る度にかわいらしく膨らむ頬へと目を向ける。

 

もごもごり。咀嚼とともに動く頬は、つい手を伸ばして触れてみたくなる不思議な魅力があって。

 

「─────しばらく前から思ってはいたが、レイナさんの頬、なんでそんなにもちもちなんだ……?」

「─────はぁ?」

 

思わず口に出してしまう。咀嚼する口が止まり、飲み込み、そしてこれまでになく強く睨みを利かせる彼女に、ぞわぞわと寒気が背を襲う。

 

─────禁句だったか。

 

「なんでもないです」

「………………そう」

 

暫しの沈黙。そして、ぱくり、もぐり。目を伏せて再びドーナツを食べ始めた彼女に、許されたのかと肩を撫下ろす。

 

しかし、そんな俺の考えは甘かったようで。

 

「─────あとで、覚えておきなさい」

「……はい」

 

何をされるものか。空になったマグカップを手に、静かな圧を放つ彼女から離れる。怖くなったとか、逃げたんじゃない。コーヒーのおかわりを貰いに行くだけだ。

 

─────あとは、彼女の機嫌を取る為に少し多めのドーナツを取ってこようか。そんなことを考えるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「満足したわ。ごちそうさまでした」

「……そうか」

 

にまり、満足気に微笑む彼女の少し後ろで財布の中を広げる。

 

─────よく食べたな……。

 

思っていたよりも軽くなった財布。C&Cのこともあってお金に困っている訳では無いが、やはり気分的にはよろしくないもので。

 

─────でもまぁ。

 

「─────♪」

 

─────あんな顔見せられたら、な。

 

それに、むしろ口座の肥やしとなっていた貯金が削れていくのだ。何も悪い話じゃない。

 

空がどんどんと暗くなり、西の方から赤い夕陽が残り微かに照りつける。少し冷たい風にドレスとジャケットを靡かせて歩く彼女は、足元の影を伸ばして足速に歩いていた。

 

今にも鼻歌の飛び出しそうな彼女の背を追いかけ、そして歩幅ゆえにすぐ横に着く。あとは彼女に合わせて歩くだけ。体格差のあれこれも、もう随分と慣れたものだ。

 

「……妙に慣れてるわね」

ミレニアム(女子高)で生活していれば、自ずとこうもなるさ」

「仲、いいものね」

「ゲーム開発部もみんなも、大切な仲間だからな」

「……そう」

「あぁ。……だが、最初は俺もモモイたちも、みんな仲は良くなかったんだからな」

「それは意外ね」

「その辺はまた、今度話そうか」

「気になるし、お願いしようかしら」

 

ならまずは、俺が入学初日にマキから珍獣呼ばわりされたことだろうか。それとも追いかけ回され全裸にされかけた挙句、ミドリに撃たれたところからだろうか。レイナさんとのサシはこれが初めてだと思うが、中々どうして楽しいものだった。

 

次もまた、そう思って歩く。だがふと、視界の端で彼女の体が後ろに流れた。突然、足を止めたのだ。

 

「……ねぇ、鷹目くん」

「む」

 

立ち止まり、振り向く。レイナさんは俯き、前髪が顔を隠すためにその表情はうかがい知れない。

 

しかしその声色は真剣なそれで、思わず俺も身構える。

 

─────もしかして、今日のこれは……。

 

周りを見渡す。全くと言っていいほどに人気のない住宅地の坂道だ。

 

─────まさか。

 

先生に伴わず現れた彼女。2人っきりでの誘い。何故か向かったのはミレニアムのドーナツチェーン。そして、人気のない場所。よく見れば、風にはためくジャケットの裾を抑える彼女の手には、拳銃が握られているようにも見えて。

 

─────嘘だろ……っ!?

 

「……っ!」

 

思わず身構える。あくまで動きを悟られない程度に、ライフルの入ったケースに手をかけた。

 

「……ずっと、思っていたことがあるの」

 

レイナさんが俯いたまま語り出す。

 

「……なんですか」

「なにも身構えなくたっていいわ。ずっと言おうと思っていたことを伝えよう。そう思っただけだから」

「……」

 

ゆらり、白い髪を風に流す彼女が顔を上げた。夕焼けに照らさられるその白い顔は、今は首から耳に至るまでに赤らんで見えて。

 

「─────あなた、ずっと社会の窓(・・・・)が空きっぱなしなのよ」

 

─────。

 

─────。

 

─────。

 

じじじ。ジッパーを閉める音が、喧騒から離れ静謐に包まれていく夕方の住宅街においてよく響く。

 

「……」

「……校門を出た少しあとくらいに気がついたのだけど」

「……そんなに、前から」

「……これで、ほっぺの件は手打ちにしてあげるわ」

「……そうか」

「……それじゃあ、私はもう行くわね」

「……あぁ」

「またね、鷹目くん」

「……また」

 

ミレニアム自治区内をカバーするモノレールの駅までここから徒歩5分。頬をかき気まずげに笑う彼女は、足速に去っていき、その背中はどんどんと小さくにってゆく。

 

すっかり暗くなった空。夕陽が月とバトンタッチしていく空を見上げながら、俺はひとりごちた。

 

「─────もう、お嫁に行けない」

「あっ、何か落ち込んでいるネライを発見しました!」

「……そんなとこで突っ立って何言ってんの?厨二病?」

「お嫁に行けないってどういうこと!?なら、私がお嫁さんに─────」

「え、あ、ミドリ!?」

「なんと、ネライが“厨二病”にレベルアップしました」

「─────違うからな?」

「それか落ち込んでたんでしょ。レイナさん歩いてったし……。まさか、告ってフラれた!?」

「えぇ!?」

「フラれてねぇよ」

「……おち〇こでてた?」

「出てないし妙なボケをどこで覚えてきたんだアリス。……出てないからな。ただ、チャック空いてただけだ……っ!」

「─────レイナさんと2人きりで、しかもチャック空いてたって」

「─────い、いったい何してたの……っ」

 

─────めんどくさい……。

 

入れ替わるように現れたゲーム開発部の面々。1人去っていったレイナさんとは逆方向へ、俺たちは騒々しく歩き出した。

 

「─────こいつら“交尾(セックス)し─────」

「してない……っ!」

「ミドリ、多分それコラボ相手に言っちゃダメなやつだからね」

「……こらぼ?」

「メタいってモモイ……。アリスちゃんは、気にしなくてもいいよ」

 

─────本当に騒々しく、歩き出した。

 

 

 

 

 

 






ということで、ガガミラノさん作“ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』”とのコラボでした。上手く書けているといいのですが……。お誘いありがとうございました♡

ゲマトリア所属生徒『西条レイナ』はこちらから。
https://syosetu.org/novel/386119/

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