「─────全員、注目」
ゲームがひと段落着いた頃合いを見て、ケイがソファから立ち上がった。パシンと手を打ち視線を集め、そして目を伏せたまま語り出すす。
「1度、部室をぐるりと見渡してみてください」
ソファに腰掛けてボーッと天井を眺めていたネライ。その横でネライの愛銃を弄るアリス。仲良くゲームをしていたモモイとミドリ。ひょっこりとロッカーから顔を出すユズ。なんだどうしたとザワつく全員が、ケイに促されるままそれぞれ部室を見渡した。
「何か気がついたことは?」
「うーん……。珍しく全員集合とか」
「違います」
肩を落とすモモイを尻目にネライは思う。相変わらずごちゃついてはいるがいつも通りな部室だと。だがケイの気にするもの。あげるとすれば今横に落ちているこれだろうか。ふいにソファの上、自身の隣に置かれたひとつの布切れを手に取ってみる。
「─────ここに落ちてる、モモイのパンツとか」
「─────何故、そんなものが落ちているんですか……!」
ハズレだったか。顔を真っ赤にしたケイにひったくられたモモイのパンツを見送ったネライは首をかしげた。どういうことかと問い詰めるケイに、ネライは知ったことはないと首を横に振る。
そこにアリスが手を挙げた。その手には薄ピンク色の布切れが握られている。
「わかりました」
「……期待していますよ、アリス」
「─────ここに落ちているモモイのブラです!」
「─────何故そんなものが落ちているのですか……っ!」
「ふむ……。ネライに、これを授けます」
「装備したぞ。モモイのスポブラか。……なんのステータスが上がるんだ」
「変態性じゃない?」
「ぱんぱかぱーん。ネライの変態性が10あがりました!」
「上げるな、そんなステータス!」
「まずそもそも、ブラで遊ぶな!」
アリスの手でネライの頭に装備されたブラを、これまたケイが勢いよくひったくる。何本か毛ごともっていかれたネライが頭を抱えてうずくまった。
ピンクのスポブラに白のパンツ。怒りと羞恥に震えるケイの手から、ぶらりとぶら下がるそれらを見たモモイがぽんと手を打って。
「あっ、てかそれなくしてたヤツじゃん。生地薄いのに乳首気になんないからおすすめだよ。結構お気になんだよねぇ」
「何をどうしたら部室でお気に入りのブラをなくすのですか……っ!」
「わかんない。……あっ、でもそのパンツ。前に優勝賞品でネライにあげたやつじゃんか!」
「………………そうだったな」
「ねぇ、持って帰ってよ、トロフィーだよっ!」
「…………なんか、黄ばみあるからやだ」
「それがいいんでしょ!?」
「いやだ。汚いだろ!」
「汚いって、ネライだってパンツにおしっこついてるでしょっ。だって拭かずに、びょーって出したあとびびびってちん○ん振るだけなんでしょ!?」
「だが、パンツは汚れてない」
「どーせ黒いのばっかだからわかんないだけだって!」
「それに、そういう問題じゃない」
「じゃあどういう問題なのさ!」
「折角なら新品が欲しい」
「きっしょ!」
「─────あなた達は本当に……っ!」
わなわなと拳を震わせるケイ。彼女を他所に、ミドリは冷静な顔で手を挙げる。
「私、わかっちゃった」
「……なんですか。ミドリ」
「─────ユズちゃんのロッカーから異臭がする」
「─────ふぇ!?」
矛先が向くとは思ってもみなかったユズは慌てに慌てる。がたりと大きく揺れたロッカーに、全員の視線が向いた。
「そ、そんなことないよっ」
「でも、この臭いの元はユズちゃんのロッカーだよ」
「……絶対ですか?」
「うん。私のサイドエフェクトがそう言ってる」
「そんなものないでしょうに」
だが、確かめる必要がある。ケイは必死に揺れるユズのロッカーへと近づいた。
─────これは。
ロッカーとの距離がミドリと変わらないかそれよりも近くなった時、すえたような刺激臭がケイの鼻を襲った。続くネライとアリスの鼻も、同じようにこの臭いを察知したようで。
「くっ─────さい」
「何か、経験のない臭いがします……」
「やっぱり、そうだよね」
「これ、ネライの足の匂いかと思ってた」
「殴るぞモモイ。……それで、ユズ。最後に風呂入ったのいつだ……?」
「─────みんな酷いよ……っ!」
「あ、泣いちゃった」
涙をこぼすユズの手によって音を立てて閉められるロッカー。続いて、底から生えてくる車輪。電動モーターによって部室から走り出ていくそれは、エンジニア部の改造によって仕上げられた逸品。
「─────昨日は、シャワー浴びたのにぃ……っ!」
「なんですかあれ」
「
「ミドリ、さてはワー○リ読んだな」
「うん。面白かった」
「バカなんですか」
「─────あっ」
キャラについて語り出すふたりを見て呆れるケイ。そして、ロッカーの通った軌跡を見ていたアリスが何かを見つけて上に掲げた。
「─────ユズのロッカーからネライの靴下がドロップしました!」
「ミミックですか、彼女は」
アリスの小さな手が中にすっぽり収まるそれは、黒い5本指ハイソックス。片足分しかないが、確かにネライのものだった。
「どれどれ〜。それが異臭の原因か〜?」
「臭くない」
「む、モモイが装備しますか?」
「装備はやだよ、臭そうだし」
「俺の足は臭くない……っ!」
「いえ、貴方の足は割と臭いですよ。任務の後とか蒸れた匂いがかなり」
「─────っ」
「泣くほどのことですか!?」
泣くほどなのである。ネライの尊厳は致命の一撃を受け、その巨体は膝から崩れ落ちた。
そのかたわら、アリスからモモイの手に装備変更したネライの靴下。ブカブカで肘まで収まりそうなそれに鼻を近ずけ、一気に息を吸い込むと。
「─────なんかいい匂いするんだけど」
「はぁ?」
「……なに?」
「そんなわけないと思うけど……」
「マジだって。なんかすっごい甘い匂いする……」
「なんでだ?」
「こっちが聞きたいよ。なんかきもちわる……」
「気持ち悪いとはなんだモモイ……っ」
ネライとモモイのどさくさに紛れて靴下を確保したミドリも同じく嗅いでみる。
─────確かに、これはおかしい。
ネライが好むホワイトムスク系の香りではなく、ミルク系の甘ったるい感じ。それも、この部室や彼の周りにいる誰かが使っていたような記憶のない匂い。そう、まるで以前会ったトリニティの人みたいな、お嬢様が使ってそうな柔軟剤の香りだ。
「そういえばさ、最近また動くダンボールが目撃されたって噂があったよね」
「あー、EXOPの時に噂になったやつ?」
「そそ」
「なんで今その話題?」
「ほら、それが忍び込んでネライの靴下を……」
「どんな目的でそんなことするのさ、その妖怪ダンボール。それに、それじゃいい匂いになってる理由には……」
「─────この話は、もう、やめよう……っ!」
「なんでネライはダメージ受けてんの!?」
FOX……。部室の床に転がるネライは力なくそうこぼす。
気がつけばアリスの手によって彼女の戦利品ボックスに収納されるネライの靴下。ゲームを再開していくモモイとミドリ。ロッカーごと姿を消したユズ。とても、先程のケイの言葉を覚えているようには見えなかった。
余りのまとまりのなさに、ケイは激怒する。この乱れきったゲーム開発部部室を、どうにかしなくてはと。
「─────あまりにも部室が汚すぎます……っ!」
△
「─────これは誰のですか」
「それミドリのヘアブラシ」
「ごめーん。持って帰るー」
「それで5個目ですよ!?」
「コラボ系で可愛いのはつい買っちゃって……。誰かいる?」
「俺はいらないな」
「あなたは梳かす髪がないですもんね」
「髪はある……!」
ケイ主導のもと始まった部室の大掃除。それは絡まるコードに出しっぱなしのハードウェアたちや落ちていたり置き去りになっている衣類や私物の数々。部室中に散乱するそれらの片付けから始まった。
「だから、このストッキングは誰のですか」
「ずっとわかんないまんまだね」
「ねぇミドリ、丁寧に畳んでネライの私物に混ぜとく?」
「やめときなよ」
「……もしかして、これノアさんのか」
「だとしたら、なぜ彼女のストッキングが部室に……」
「ネライが脱がせたんじゃなーい?」
「─────どういうことですか」
「知らん……っ!」
ケイに詰め寄られるネライ。ネライは必死に首を振るがそれが受け入れられることはなさそうで、ゴミを見る目で見捨てられていた。
続いてケイの視線が向いたのは、ネライの私物が集まる一角。シンプルなパイプハンガーラックのほうだった。
「前々から思っていたのですが、この大量の衣類はなんですか」
「俺の趣味で買ったやつだな」
「趣味と言うと、古着ですか」
「新品で買ったやつもあるがな。お気に入りのやつだ」
「あと私がデザインの参考にしてる。コユキが反省部屋に持っていくのもあるし」
「たまにパジャマに使うよね。あと新品のとかはミドリのおか─────」
「─────お姉ちゃん」
「たまにアリスも装備します!そのグリーンのTシャツはアリスのです!」
「……あなたの私物ですよね」
「そうだが」
「持っていかれすぎでは?」
そうだろうかと首を傾げるネライに、ケイはため息をついた。何故こうも身内判定には反応が鈍いのか。いくら気心知れた仲とはいえ、持っていかれているのはどうかとケイは心配になる。
「このポテチいるー?」
「うわっ、ひと月くらい前の期限限定じゃん。捨てちゃいなよ」
「くんくん……。まだ、行けそうな匂いが……」
「捨てろよそんなもの……」
「ゴミ袋をどうぞ!」
「ダメかー」
「ダメでしょ」
アリスの持ち出した2袋目のゴミ袋にぶちこまれる食べかけポテチの袋。これで5つ目だった。
「……あれ、この飲みかけのレモンティーは?」
「ゴゼティー?」
「だと、思うけど。なんかペットボトルの見た目違くない?」
「あー、確かに……」
「─────紅茶」
「ネライは何に怯えているんですか」
「いや、なんだかな……」
「いつのものかわからないので、それも捨てますね」
「……あとで、ユズ本人に洗わせましょう」
「………………?」
3分の2ほどまで中身の入った入ったペットボトルを手にするアリス。すぐさま手放させてユズのロッカーがあった場所へと置いておく。自分のものは自分で処理させるべきなのだ。決してケイの判断に他意はなかった。
「さぁ、この調子でどんどん片付けていきますよ!」
「おぉ!」
「おー」
「誰かのちぢれ毛を確保しました!」
「汚いです。早急に手放してください」
△
「た、ただいまぁ」
「おかえり、ユズ」
掃除に疲れて全員が帰っていた部室。すっかりスッキリした部屋に、のっそりユズが帰ってきた。
「わっ、すごく綺麗になってる」
「まだケイの満足はいってないようだがな」
「すごいね……」
「むしろ、これまでが汚すぎたのかもな」
「……かな」
彼女も思ってはいたようで、たははと苦笑いを見せた。ロッカーはどうしたと問うと、壊れたからエンジニア部に修理に出したんだと返し、俺の隣に腰掛ける。
「コードも、ディスクもカセットも、みんな綺麗に片付けてある……」
「トキたちが来てもこうはならんからな」
「……むしろ、皆さんが来ると荒れていくような……」
「それもそうだ」
メイドとは物騒なものだ。ミレニアムに来て学んだことのひとつ。そういうとユズはくすりと笑う。
「なんだか、部室も広く感じるね」
「だな」
そして、しばらくの無言。ぼーっとする時間が続く。モモイやミドリ、アリスやケイ。ユズ以外のその誰とも発生しないこの静かでゆったりとした時間は、結構好きな時間だった。
聞きなれた通知音にスマホを見る。ゲーム開発部のグループトークだった。
「あれ、これってネライの」
「ん、ああ。数が多いからってケイにいくつかやった」
「そうなんだ」
画面にはアリスの発言と、俺のあげたグリーンのTシャツを着て、鏡の前でポーズをキメるケイの写真。不思議そうにするユズにいくつか服の減ったハンガーラックを指さすと、なるほどと笑う。
「好きだもんね、ネライくん。古着とかそういうの」
「最初はこっちでも着られる服を探してただけだったが、いつの間にか楽しくなっていてな」
「前にモモイが服選んでもらったって喜んでたね」
「そのあと、ミドリとアリスにもせがまれた」
「……ちなみに、あの、猫ちゃんのやつって」
「あぁ、あれはユズが好きかと思ってな」
「……いい?」
「いいぞ」
「やった」
ぴょいとソファから立ち上がってハンガーラックへと向かい、虹の軌跡を描いて飛ぶデフォルメ猫のTシャツへと手を伸ばす。彼女の愛銃に描かれたモデルと同じそれを、大事そうに胸に抱きしめていていて。
─────買ってきた甲斐があるな。
嬉しそうに笑う彼女を横目に、ふと喉が乾いた俺は冷蔵庫へと向かった。
「ユズー、このゴゼティー知ってるか」
「私じゃないかも」
「……まぁ、いいか」
冷蔵庫にあるのは2Lペットボトルの黄色い液体。先程ユズのロッカーのあった傍らに置かれていて俺が冷蔵庫にしまったもの。てっきりユズのものかと思っていたが違ったようで。3分の2ほどが飲まれているそれを、俺はそっと口に運ぶ。
FOXや彼女の関係者の
─────そういえば、さっき掃除の時に紅茶が話題になっていたような─────。
「─────ぁ、待ってそれ……っ!」
「─────っ!」
「だめぇ─────っ!」
こちらを視認し、一瞬で顔を真っ赤にしたユズがこちらに駆け出すなか、俺は黄金の噴水を噴き上げた─────。
妄想エンジェルとかなのはとかゲヘナピンクとか百鬼夜行とか書きたいものが多すぎて手が回らないね♡
あっ、あと11人で評価人数200人ですね。高評価待ってます♡