─────目が覚める。なんとも言えない、奇妙な目覚めだ。
「実験は、どうなった……?」
「爆発、しちゃった」
「ネライ、ミドリ、無事ですか!?」
「ふたりとも倒れています!」
「ちょっ、2人とも目開けないじゃんか!」
ウタハ先輩の声が聞こえる。続いて、慌てたようなモモイの声。その他にも、アリスにユズ、ケイ。そして先生やヒビキ、コトリの声も聞こえてきて。
─────なぜ、パニックに……?
不思議に思い目を開ける。目を瞑る前は座っていたはずの身体がいつのまにか横たわっており、いつもより少しぼやける視界に違和感を感じた。
─────たしか、ウタハ先輩の実験で。
微かに宙を舞う煙から察するに、失敗して爆発でもしたのだろうか。そうなると、一緒に実験を受けていたミドリはどうなった。
「─────ミドリ!」
声を上げ、そしてはたと気がつく。確かに声を上げたのは自分なのに、感じたのは女の子のような声。今の声は、なんだろうか。
「─────これは……?」
立ち上がろうとして、また気がつく。少し重たい手足に違和感を覚えたのだ。感覚よりも遥かに短く、小さいそれは、明らかに自分のものではなく。
「まさか─────っ」
上体を起こし、体を確認する。目に入る物は見慣れたミドリの服に、細っこい女の子のような華奢な手足。随分と細くなったそれは、間違いなく女の体で。
「ミドリ、大丈夫!?」
声の方を見ると、冷や汗を額に駆け寄ってくるモモイの姿。少し離れたところにはウタハ先輩がなにかの近くにしゃがんでいた。
「─────大丈夫じゃないな。問題しかないぞ、モモイ」
「…………ん?」
彼女を見上げ、言葉を返す。しかし流石は双子の姉、この短い話口調から違和感を察したようで足を止めて首を傾げる。
そこに、野太い
「─────なにこれぇ!?」
「っ、気がついたかネライくん!」
「ウタハ先輩……。……え、ね、ネライくん?何を、言ってるんですか……?」
「……ふむ?」
「というか、何この声……それに、なんだか身体も……」
しゃがんでいたウタハ先輩の横。よく見慣れた俺が同じように上体を起こし、ワタワタと慌てているのが見える。恐らく、彼女もそうなんだろう。
ゆっくりこちらに向く視線。呆然とする全員をゆっくり一巡し、あぐらをかく俺を捉えそして。
「ど、どうなってるのぉ─────!?」
女の子のような口調で、俺の声が実験室へとこだました。
△
「俺たち」
「私たち」
「入れ替わってるぅ!」
「入れ替わってる!?」
「─────随分と余裕そうだねふたりとも!?」
驚く先生に向き直り、当たり前だと胸を張る。
「慌てたってどうにもならないだろ」
「私も、そう思ってまして……」
「それは、まぁ……」
見上げる先生の顔がふいとそっぽ向く。気まずそうな先生だが、正直俺は別のことで頭がいっぱいだ。
そうこうしていると、頭にたんこぶをこしらえたエンジニア部のメンツを引き連れたユウカさんが現れる。彼女のことを見上げというのも新鮮なもので。
「すまない。迷惑をかけるなユウカさん」
「別にいいわよ、ミド……。えぇと、ネライ……?」
「そうだ。俺がネライだ」
「……脳みそがバグりそうだわ」
「今は、私がミドリです」
「やめて、あなたはしばらく喋らないで。少なくとも、私の目の前では」
手で目を覆い、天井を仰いでため息をつくユウカさん。しかし頭を悩ませていると言うよりも、内股に女の子口調で話す
「それで、ウタハ先輩。俺とミドリが元に戻るにはどうすればいい。……まさか、戻らないとは言わんだろうな」
「……なんだか、ミドリの顔でその口調は……。くくっ」
「あと、動きもなんだか男っぽい」
「新鮮ですね……」
「主犯共がおもしろがるな……っ」
「そうですよ!」
「おっと、これは失礼」
気を取り直して。そう前置いたウタハ先輩がぽんと手を打ち、その後ろにコトリとヒビキが空間投影プロジェクターを用意する。
「本来実験していたのは、ふたりの感覚や思考をリンクさせる装置だった」
「つまるところ、戦術リンクだな」
「……それって、あのゲームのシステム?」
「うん。ネライから相談を受けてね」
「感覚と思考をリンクさせる。それは戦術において大きな意味をもつのです!どんな状況においてもお互いの行動を把握でき、つねに最大限の連携を熟せる精鋭部隊。もしC&Cにこの技術が導入できれば、ネライくん含めたたった6人の部隊でゲヘナ学園風紀委員会の全戦力と渡り合えるようになる可能性が─────」
「─────とにかく、今回はその前段階。ふたりをリンクさせる実験だったのだが……」
全員の視線が俺とミドリに集まる。雰囲気も表情も随分と暗い。
「─────こうなってしまったと」
「俺がお前で」
「貴方が私で」
「うぃーあー!」
「マイティーシスターズYYですね!」
しかしそんなことは何処吹く風。ふざけてみせれば乗っかるのがゲーム開発部。わいわいとはしゃぐモモイとアリスの姿に、みんなの顔が少し柔らかくなる。
「何をのんきな……」
「ふふっ。だが、その方が彼女たちらしい」
「だね」
呆れた様子のケイの肩を叩き、微笑むウタハ先輩が前に出る。
「明日までに、装置は私たちが何とかする。それまでふたりとも、どうか頑張って欲しい」
「あぁ」
「はい!」
「……やっぱり脳みそバグるなぁ」
─────そうして、オレとミドリはお互い不慣れな身体のまま、ひとまずゲーム開発部の部室へと向かうことにした。
△
「─────で、どうする?」
ゲーム開発部の部室。乱雑にゲーム機が広げられ。それぞれの私物がいくつも置かれた部屋。その中央で、俺とミドリは向かい合っていた。
正確には、俺の顔をしたミドリと、ミドリの顔をした俺が向かい合っているのだが。
「どうするって、言われても……」
ミドリが困ったように眉をひそめて俺を見る。毎朝見ている自分の顔。それなのに、どこか表情の作り方がいつもと違う。
眉を下げ、少し肩を縮めている。鏡でもなしに目の前にあるだけでも奇妙だと言うのに、見慣れた顔でそんな仕草をされると、どうにも落ち着かない。
「とりあえず、まずは身体を確認しよう」
「……えっちなのだ……っ!」
「違う。興奮するな。……お互いの体も手脚も長さが違うんだ。その把握についてだな」
「そっか」
そう言ってミドリは下を向き、自分の、もとい俺の身体を見下ろした。
しばらく眺めて、手を伸ばしては開いて閉じて。そしてその手で足の甲から太ももまでをなぞりあげる。今度は立ち上がってぴょんと跳ねるとバランスを崩してソファへと崩れこんだ。
「……すごい」
「何がだ?」
「まず、背が高い」
「そこか」
「だって、いつも見上げてるから……。というか、この視界高すぎてちょっと怖い……」
確かにミドリからすれば普段よりも30cmは高い視点から見下ろすことになる。
「それに、手も大きいし、なんだかすっごく力が入りやすい、かも」
「そういうものか」
「うん。なんだか変な感じ」
「俺も同じだな」
しみじみと呟くミドリにそう返して、俺もまたミドリの身体を見る。
細くて白い腕。ピストルのグリップさえ握れるのか不安になる小さな手のひら。意外と重たい見慣れた制服。そして、ペンだこのある、いつもゲームを操作している指。
「……」
「どうしたの?」
「いや」
自分の身体と比べるように手を動かしてみる。拳を握り、打ち合わせる。それだけでもう痛い。
そして何よりも。
「胸が、あるなと思ってな」
「私は、ちんちんが……」
「俺には、ちんちんがなくなってる……」
「─────何まさぐって確認しあってるの……!?」
「倫理観を一体どこにやったんですか、あなた達は」
胸と股間に手を伸ばす俺と、一心不乱に股間をまさぐるミドリ。その光景を見て、ずっと黙っていたユズとケイが吠えた。
「ずっと、お互いの身体を観察してると思ったら……」
「確認は必要だからな」
「必要なのは分かりますが、限度があります」
「そうか?」
「そうです。ミドリ、いい加減そこから手を離しなさい。離せ。……ベルトを緩めて覗き込むなぁ!」
ケイに叩かれる俺の体の頭。それに対してすら、ダメージが少ないとよろこぶミドリ。
そこにアリスが乗っかり、モモイも調子付き、にわかに騒がしくなる部室。
俺は1人、上着を脱いでスマホを見る。持ちづらく、操作しづらいその手に困惑しつつ、俺はただただ先生からの連絡を待つことにした。
実はアビドス・ピンクアーカイブとアリウス・ピンクアーカイブと“空崎ヒナは髪を切る”っていう作品を書き始めたんですよぉ。
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ゲヘナピンクと百鬼夜行ピンクについては、活動報告あげましたのでお待ちの方は確認していただけるもありがたいです。