「……おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます!」
駅前。ミレニアムサイエンススクール構内にいくつか存在するモノレールステーションの中でも、他区へと向かうハイランダー鉄道学園管轄の駅が併設された一際大きい駅のことを指して呼ばれる場所。
その駅前の午前10時。今しがた現れたコユキの登場で、今日のメンバーが揃ったことになる。
「えっと、今日はどこに行くの?」
「シラトリ区に出てウィンドウショッピングと洒落こみましょう」
「あそこね。ならついでに新しい電卓も探そうかしら」
「ラミニの通りに気になるカフェがある。できれば行きたい」
「ほほぅ、いいですねぇ」
話しながら駅内へと入り、前を行くユウカとコユキに続き、凄みのある笑みを浮かべるノアと、その視線の先にいる肩をすぼめたネライが歩く。
「コユキ、そのワンピースかわいいわね」
「にははっ。これお気に入りなんですよ!そういうユウカ先輩も、ポニテ似合ってますねぇ」
「そ、そう?なんかちょっと恥ずかしいわね」
楽しそうだなぁ。そんなことを考えていたネライは、ゆっくりと横を見る。その事に気がついたノアは和やかに微笑みながら、不思議そうに小首を傾げていた。
「ふふっ、どうしましたかネライくん」
「えっと、いや」
「服、褒めてくれるんですか?」
「その、似合っていると、思う」
「うふふっ」
「……やっぱり、なんでもない」
いつも通りといったふうで薄く笑うノアだが、ネライは自身とコユキを見るノアの目が笑っていないことに気が付き、思わず背筋を凍らせた。
4人の中でも一際大きな身体を縮こまらせるネライに、調子に乗ったコユキの頭を押さえつけたままのユウカが浅く振り向く。
「ネライは……。どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「そうですよユウカちゃん」
「そ、そう……?」
「変なふたりですねぇ。もしかしてぇ、私たちデートのおじゃまでした?」
「でっ─────」
首を傾げていたユウカが、コユキの言葉を聞いて絶句する。
勢いよく振り向いて2人の顔を視線で反復横跳びさせるユウカに、ノアが笑いかける。
「そんなことはありませんよ。ねっ、ネライくん」
「あ、あぁ。みんなでいた方が、楽しい」
「そ、そう……?」
「なんか硬いなぁ。どーしたんですかネライ?やっぱりおかしいですよ?」
「ん、いや」
気遣うコユキにたじろぐネライ。それを援護するようにノアが手を叩いた。
「ネライくん、私たちにドキドキして緊張しちゃってたりしてるんですね」
「何をっ」
「私はまぁ、いつも通りですけど、コユキちゃんもユウカちゃんも、いつもよりおめかししてますから」
「ちょ、ちょっとノア〜」
「なぁーんだ、ネライがウブなだけでしたか!」
ワイワイキャッキャと姦しく歩いていく3人とは裏腹に、1人後ろを歩く形になったネライは頭を抱えていた。
△
電車に揺られて数十分。シラトリ区にあるそこそこ大きなショッピングモールに到着した俺たちは、ファッションショップを中心にウィンドウショッピングを楽しんでいた。
しかしながらここはキヴォトス。売っている服はほぼほぼ女性向けのお店であり、時たまオートマタや獣人用のお店もあるにはあるが、それでも男向けの服というのがてんで売っていないのだ。
─────だからこそ、この瞬間俺が空気になるのも当然のことだ。
「この服、かわいいですね」
「これとか、ノアに似合うんじゃないかしら」
「あら、いいですね」
「ふーむ。このオーバーオール、なかなかいいじゃないですか!」
「へぇ、スカートになってるのね」
「コユキちゃんによく似合いますね」
「…………」
3人が楽しそうにしている中、俺は1人ショップの外でベンチに腰掛けていた。
だがこういうのにも慣れたものだ。ゲーム開発部、C&C、クラスメイト。遊びに誘われる度にこうして買い物で待たされるのだから。
それから10分と少しして、暇つぶしに特に意味もなくスマホでクロノスのニュースを眺めている俺のところにコユキが駆け寄ってきた。
「ネライ〜、ちょっと来てください!」
「なんだ」
「いいからいいから」
ニヤニヤと怪しい笑みを浮かべるコユキを訝しみつつ、小さな手に手を引っ張られてついて行く。
いつの間にか舞台は2つ隣のお店に移動していたらしく、コユキはその店の前に来るやいなや、絶対に俺を逃がすまいと固く手を結んで強引に引き始めた。
何事かと周りを見渡せば、白色、水色、ピンク色、黄色。淡い色にフリルのついた可愛らしいブラジャーとパンツがマネキンに着せられ、ハンガーにかけられ、ショップの一面に並んでいて─────。
─────ここは、ランジェリーショップ……っ!
「こ、コユキ」
さすがにこれは参った。慌ててコユキを呼び止ると、立ち止まり、こちらを見あげて口元を抑える。その目はらんらんと輝き、抑えられた口元はこれでもかとたるんでいる。
あからかさまに此方をバカにしている顔だ。
「どうしたんですかネライ。やけに焦ってますねぇ」
「焦るというか、お前……」
「ぷぷっ。こんなことで照れてるんですかぁ?いやぁ、普段はクールぶってるのにウブですねぇ」
「おい……」
「せっかくなら私の下着選んでくださいよ〜。あっ、恥ずかしくて直視できないのか、にははっ」
そう言ってにはにはと笑うコユキに、流石に堪忍袋の緒が切れた。
「─────コユキ」
「にははっ、なんですか、なんですか?恥ずかしがってるネラ……ィ……」
「これ、似合うんじゃないか」
そう言って、傍らにあったハンガーを差し出す。そこには紐のように細い、下着のような何かがかかっている。これをデザインして製造しているところは何を考えているのか、はっきりいって正気を疑うシロモノだ。
「そこに試着室がある。着て、見せてくれないか」
「な、何を言って」
「俺はコユキに似合うと思って選んだ。着てみてくれ」
「─────っ!」
先程までの表情とは一転、今度は顔を真っ赤にしてワタワタと慌て出すコユキ。
それを見て好機と捉えた俺は1歩、また1歩とコユキとの距離を縮め、しゃがみこみ見下ろしていた視線を同じ高さに合わせ、もう一度ズイと手にもつ下着を推した。
「な、な、な……」
「どうした。選べと言ったのはお前だ」
「そ、それはそうですけど」
「コユキ、見せてくれ」
「なんでぇー!?なんでこうなるんですかぁ!」
ギャンギャンと泣き出すコユキに少しだけやりすぎたか、と考えていると、不意に背後からの気配に気がつく。
「ネライ」
「ネライくん?」
「ん……」
振り返るとそこには
「ネライ」
「はい」
「ちょっと時間いただくわね」
「……はい」
△
「全く、あのふたりはほんとに……っ!」
「まぁまぁユウカちゃん。2人ともじゃれ合っていただけですよ」
「だからってあんな……」
「兄妹みたいなものですよきっと」
「そういうものかしら」
そう言って私の横で微笑むノア。その後ろでは、額にいくつかの赤い跡を付けたネライとたんこぶのできた頭をさするコユキがとぼとぼと歩いている。
「前が見えねぇ……」
「なんで私までぇ」
「ちょっと2人とも遅いわよ。バスの時間に間に合わないじゃない。ほら、キリキリ動く!」
「はい」
「はぁい」
3人分の荷物を持つネライと身軽なコユキが足を早めるなか、ノアがこちらの耳元に顔を近ずける。
「ユウカちゃん、ネライくんが来る前にちょっと失礼しますね」
「な、なによノア」
「この後、私はコユキちゃんを連れて戻りますので、あとはネライくんとゆっくりしてきてください」
「─────っ!?」
何を言ってるの。そう叫びかけた私の口に、ノアがそっと人差し指で蓋をした。そしてぱちりとウィンクを決めたかと思えば、すぐ近くまで来ていた2人の方へと駆け寄っていって。
「ネライくん、ごめんなさいっ。セミナーの急用で、私はコユキちゃんを連れて帰りますね」
「えぇっ!?なんでですかぁ!?」
「急用……。大丈夫ですか」
「えぇ、幸い私とコユキちゃんでなんとかなる内容です。あとはユウカちゃんとおふたりで……ね?」
「─────っ!はい」
コユキの腕を引くノア。ネライはノアの言葉に強く頷き、労いの言葉をかけてから、こちらへと歩いてきた。
「ちょっとまってくださいノア先輩!私には“NLP”のためにネライをユーワクしなきゃ……」
「はいはい、私たちは行きましょうね〜」
「うわーんっ、なんでぇー!」
「あとその“NLP”が何か、詳しく聞かせて─────」
「それは─────」
「……どうしたんですかね」
「さ、さぁ……?」
段々と遠ざかっていくノアとコユキの後ろ姿を見送り、隣にたったネライの顔を見上げる。
「まぁ、取り敢えずどこかにでも行きましょうか」
「そうですね」
2人きりだという事実に思わず高鳴るものを抑え、あくまで平静を保ってネライに接するのだ。そう自分に言い聞かせつつ、彼の差し出したスマホの画面を見るためにと、それとなく肩が触れるほどに近ずいた。
「ここのカフェのショートケーキが最近話題で」
「へぇ」
「とくにコーヒーとの組み合わせも考えられていて」
「うんうん」
「景観もいいのでゆっくりするには丁度いいんですよ」
「そうなのね」
─────しまった、思ったよりも近すぎちゃった!
彼の体温を感じるような距離。香水等のケはなくて、ほのかに香るのは柔軟剤だろうか。逆に私はどうだろうか。今この瞬間も、見上げたらすぐそこにネライの顔がある距離だ。私がネライの匂いがわかるように、ネライもまたこちらの香りを吸っている可能性が非常に高いわけで。─────
「……聞いてます?」
「き、聞いてるわよ!?ショートケーキがコーヒーでゆっくりなのよね!?」
「聞い……てる……?」
ネライ、疑惑の判定。当然、ただのでまかせである。何となく耳に残った言葉を口にしただけなのである。
「えっと、ここでいいってことで」
「え、えぇ、ここにしましょう」
スマホをしまうネライから1歩身を引いて、隣にたって歩き出す。いつもの人ひとりは入りそうな距離ではなく、袖と袖がぶつかるような距離。
「それじゃ、行きましょうか」
ナビアプリを開いたスマホを片手に、こちらを見ながら薄く笑うネライ。いつもよりどこか目が輝いていた。ゲーム開発部や同級生の子と遊んでいる時の、なんとも言えない子供っぽい顔だ。
どうにもその顔が私の中の何かをくすぐっていて。またひとつ、胸の鼓動が早まった。
お気に入り、高評価あざます。感想とかくると飛んで喜びます"(∩>ω<∩)"
つぎにみたいのをさんこうまでに
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