ミレニアム・ピンクアーカイブ   作:オサシミの化身

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お、お気に入りが900件超えてる……。評価も星10つけてくれてる人いる……。

かんしゃ〜。


早瀬ユウカの微かな期待

 

 

 

ネライの案内したカフェは大当たりだった。彼の言うようにショートケーキは美味しくて、程々に苦味と酸味のあるコーヒーはそのショートケーキと上手い具合にマッチしていて、都市部の一角だと言うのに、窓の外には緑に彩られたささやかな庭がある。

 

正直、それとなくレビューを見た時は若干疑っていた自分がいたことに恥ずかしくなる。たしかに高評価は多いが多くがコメントが無いものばかりでパッとせず、近隣に最近できたカフェの方が高評価レビューが多かった。

 

「レビューって、案外あてにならない物ね。こんなにいいお店が埋もれているなんて」

「高評価が多いからと行ってみれば、ものに釣られて高評価を書いているだけだったりしますから」

「もの?」

「ほら、あれですよ。レビュー書いてくれたらケーキオマケとか、SNSのフォローでサービスとか」

「あー」

 

必ずどこかで見た事のあるその謳い文句に、思わず声が漏れる。

 

「ああいうのって店員に見せなきゃいけなかったりで、どうしても高評価にしちゃいそうじゃないですか」

「どうしても、そういう心理が働くわね」

 

もしその場面なら、恐らく私もそうしているだろう。珍しく熱くなっているネライはこちらの様子を見て眉をピクリと動かしたあと、カップを口に運ぶ。

 

「……すみません。余計な話を」

「い、いいわよ別に。気にしないで」

「ならいいんですが……。マスター。コーヒーおかわりで」

「はぁい」

 

間延びした声のフクロウのマスターがゆっくりと音を立てずにエスプレッソマシンを操作し始める。

 

「私がこうであるように、このお店にはゆっくりとした時間が流れて欲しいのです」

「マスター……?」

 

マスターがそう語り出す。ふとネライを見ると物珍しそうにマスターの姿を見ていた。

 

「ですが、若い子たちには、賑やかな方がいいのかもしれませんがね」

「そんなことないぞマスター。俺はこの店が好きだ。落ち着くからな」

「えぇ、私も好きですよ。この空間も、コーヒーも」

「そう言って貰えると嬉しいね」

 

ほっほと笑うマスターがコーヒーを持って歩いてくる。ことりとネライの前にコーヒーを置き、飲み終えたカップを回収する。

 

「なら、このコーヒーはサービスしようかな。そちらのお嬢さんも、もう1杯如何かな?」

「いいのか?」

「そんな、悪いですよ」

「私の生きがいを褒めてくれる君たちへの感謝だよ。貰っておいてくれ。あとは、ネライくんがここをデートコースに選んだことも嬉しくてねぇ」

「ん」

「で……っ!」

 

マスターの言葉にぼっと顔が熱くなった。慌てて微笑ましそうにこちらを見ているマスターに訂正する。

 

「で、デートとか、そういうんじゃなくてですね!?」

「なんだい、違うのかい?」

「先輩と遊びに来てるだけだ」

「……む」

 

─────それはそれで納得がいかないじゃない……っ!

 

「ゆ、ユウカ先輩……?」

「どうしたの。ネライ」

「おやおや、これは……」

 

サラリと言ってのけたネライにムッとする。それはそれで面白いとこれまた笑うマスターは、再びカウンターへとゆったり戻って行った。

 

「ここのマスターには、世話になってて」

「世話?」

 

誤魔化すようにコーヒーを啜り、今度は不思議そうにマスターの姿を見ていた。

 

「キヴォトスに来た時なんですけど、寝て起きて、気がついたらここの近隣公園に立っていたんです」

「……そうだったの!?」

「はい」

 

呆気らかんにとんでもないことを言うネライに驚く。

 

「いやはいじゃなくてね?」

「それから行くあてもなければお金もなかったので三日三晩放浪してたんですけど……」

「続けるのね……」

「その時に彼を保護したのが私というわけさ」

 

ことり、と私の前にカップを置いたマスターが彼の言葉に続ける。

 

「あの時はびっくりしたよ。一応警察(ヴァルキューレ)には連れてったんだけど、身寄りがないってんだからね」

「あの頃に寄る辺があるとすれば、アビドスか」

「ほら、そう言ってアビドスに行こうとする無一文のバカを引きとって、少しだけ世話を焼いてやったのさ」

「尾刃さんがカツ丼とおでん食わせてくれたから元気になってた」

「だからって無理だよ。なんの備えもなしに砂漠はね」

 

いつもよりブスっとした能面に、またまた面白いと笑うマスター。

 

「さて、おじゃま虫はそろそろ退散かな」

「そうだ。あっち行けマスター」

「そ、そんな事言わないの」

 

相変わらずよく笑うマスターは、空のカップを手に今度は奥へと姿を消した。

 

「……ふぅ。相変わらずあの人は話が込むと止まらないな」

「そ、そうらしいわね」

「とりあえず、もう1杯ゆっくりしていきますか」

 

コーヒーだけはほんと美味い。そうこぼしたネライに、思い切って声をかけてみた。

 

「ねぇ、ネライ」

「ん」

「そのさ」

 

カップを置いて、不思議そうにこちらを見ている。脳裏にマスターの姿が過ぎる。裏へ入る前、こちらを後押しするようにグッと親指を立てていた彼の姿を。

 

「ネライってさ、まぁ同級生はともかくとして、マスターさんとかその……ノアとかにさ、敬語使わないじゃない?」

「まぁ……」

「わ、私にもそういうのなしでいいというか、なんというか」

 

思わず下を向いてしまう。きっと私の顔は真っ赤だろう。告白した訳でもないのに、なんてざまだろうか。

 

「あー、その、いいのか?」

「っ!」

「いや、これでいいなら俺もありがたい。敬語は、少しやりづらいからな」

 

 

 

 

─────そこから先のコーヒーとケーキの味は、もう覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユウカ先輩、そろそろ帰ろう」

「え、えぇ。あんまり遅くなってもあれだものね!」

 

─────ユウカ先輩の様子がおかしい。

 

2杯目のコーヒーを飲み始めた辺りからずっと、彼女の様子はどこかおかしかった。頬は上気して戻らず、返事は曖昧でずっとどこか上の空。

 

俺が敬語を辞めたのが気に食わなかった?いや、彼女から言ってきたことだしそれはないだろう。

 

マスターが余計なことを言った?あの人はそんなことをする人ではないし、それもないだろう。

 

だったらなんだろうか。そう考えているとひとつ、閃いたことがあった。

 

「ユウカ先輩」

「うぇ、な、なに?」

 

少し前を歩いていた彼女を呼び止め、上に着ていたミリタリージャケットを脱ぎ、彼女の方にそっとかけた。

 

「─────っ!」

「体調、悪いのか?」

 

そっとかがみ、彼女と目線を合わせる。

 

そう、俺は閃いたのだ。彼女の頬が上気していて、返事が曖昧で、ずっとうわの空。そう。

 

─────きっと風邪だったのだ。

 

だが彼女はせっかくの今日という日を台無しにしないために、それを隠していた。だが何かの拍子に限界を迎えてしまったのだろう。

 

「うぇ!?え、えぇっと、ネライ……?」

「大丈夫。わかっている」

 

5月に入ったとはいえ、まだまだ寒い。不調のユウカ先輩(勘違い)には堪えるだろう。

 

かけられたジャケットの襟元を左右それぞれの手でちょびっと掴むと、状況を飲み込めていないユウカ先輩はさらに顔を赤くした。

 

幸いなことにハイランダーの車両に揺られ、既にここは既にミレニアムの自治区。そして、ユウカ先輩の住んでいるところはこの近くだとノア先輩から聞いたことがある。

 

「ユウカ先輩、家まで送っていこう」

「へぇ?」

「流石に一人で帰らせたりしない」

「─────っ」

 

目をぱちくりと大きく揺らしたあと、ユウカ先輩は少しずつ先導するように前歩き始めた。その歩みはこれまで以上に不安定だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、彼女の心臓は張り裂けそうな程にとてつもない勢いでビートを刻んでいた。かつてないほどに、だ。恐らくエンジニア部が軽音部に依頼されて作ったBluetooth付き爆速メトロノームにも劣らない爆速であった。

 

─────これって、そういうことよね!?

 

早瀬ユウカは乙女である。2人っきりのカフェデートの後を二人で歩く夜道というシチュエーションはとても刺さっていた。

 

早瀬ユウカは初心である。夜道の中、そっと上着を被せられ、耳元で部屋まで送ると言われれば、何かあるのではと期待してしまうのだ。

 

早瀬ユウカは年頃である。知識がある以上、年相応にそういった事に敏感で、興味はあるのだ。今この瞬間の脳の八割がそこに割かれる程度には。

 

だが、彼女の足は止まらない。自身の契約するマンションの一室へ向けてたしかに歩んでおり、その後ろにはネライが着いてきている。

 

「も、もうすぐ着くわ」

「この辺なのか」

 

部屋は綺麗だったか。シンク周りは片付けていただろうか。ゴミは今朝全部捨てたはず。ベッドは乱れていないはずだ。家具周りだって普通のもの。お風呂だって綺麗にしていて。

 

……そういえば下着はどうだっただろうか。今身につけているものは彼から見てかわいいとか、それともそういう気分にさせうるものなのだろうか。

 

初めては痛い。そういう話も耳にする。ネライの愛銃は戦車砲クラスだとも聞いたことがある。果たして上手くいくのか……。

 

そんな取り留めのないことを考えているうちに、ついにマンションへとたどり着いてしまった。前閉じにしたネライのジャケットをまた強く引き寄せる。

 

「こ、ここまででいいわよ?」

「いや、せっかくなら部屋まで見送らせてくれ」

 

ジャケットを脱ごうとする動きを止められ、背中を押されるままにマンションへと入る。

 

背中に触れる彼の手はとても大きくて、力強い。恐らく組み伏せられたら、きっとそのまま─────。

 

エレベーターに乗り込み、ボタンを押す。これまたミレニアムのエンジニア部謹製、独特の浮遊感のないエレベーター(Bluetooth・緊急射出機能付)であることを示すロゴと流れるように変わる階数で視線を往復させる。

 

そしてついに目的の階、私の部屋がある階にたどり着いた。少し歩けば私の部屋だ。

 

「その、ここが私の部屋だから……」

「ここか」

「そうよ。それでその、ありがと、ね」

「気にしないでくれ。俺が勝手にやってる事だ」

 

そう言って微笑む彼だが、その目には何らかの熱が込められていて、どこか体が強ばっていて。

 

─────なになになになになにっ!?

 

突如、彼が動いた。驚いて思わず自分身体を抱きしめる。

 

「せ、せめて部屋に入ってから─────」

「これっ。……うけとって、欲しい……っ!」

「……へ?……これ?」

「よし、ではさようなら」

 

反射的に瞑った目をそっと開けると、そこには綺麗な包装に包まれた小箱が突き出されていて。

 

呆然とそれを私が受け取るやいなや、彼は挨拶をしてスタコラサッサと帰って行くではないか。

 

またコーヒーを飲みに行こうと言う声と共にエレベーターへと駆け込んで、そのまま行ってしまった。

 

「─────なによ、それ」

 

体の熱が変に冷めていくのがわかった。部屋へと入り、鍵を閉め、電気をつけ、着の身着のままベッドへと倒れ込む。

 

「あっ、しまった」

 

がさり、という独特の音で、彼のジャケットを羽織ったままだということに気がついた。

 

それをそっと、鼻へと押し当て、大きく深呼吸してみる。

 

「柔軟剤と……汗の匂い。ネライの、体臭?」

 

─────もう今夜は、これでいいかな。

 

その夜、疲れきった私はネライに抱きしめられる夢を見て、そして寝坊で遅刻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、ユウカちゃん、その電卓……」

「うぇっ?あー、これね」

 

ユウカちゃんの机の上にある変わった電卓に目を惹かれる。丸いキーをしたレトロな質感のそれは、確かにあの日、彼が買ったものだった。

 

「使わずに、飾っているんですか」

「スペックは申し分ないと思うんだけどね。でもほら、やっぱり使い心地は慣れてる方がね」

「なるほど」

 

そう言って電卓を手に微笑むユウカちゃんの顔は、いつかドラマで見た恋する乙女の顔のそれだった。

 

そう考えると、なんだか。

 

「─────妬けてしまいますね」

「ごめんノア。何か言った?」

「なんでもないですよ。ユウカちゃん」

 

 

つぎにみたいのをさんこうまでに

  • ○○○TS編
  • ゲヘナ編(ゲヘナピンク無関係)
  • しないと出られない部屋再来編
  • シャーレ当番編
  • NLP編
  • なんかとりあえずイチャイチャピンク
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