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騎士団の団長、ニカの姉であるネフカはゼリューを起床させることを断念し、犬の散歩という業務に移ったため、三人は|彼女(ゼリュー)が再起するまでの時間を潰すために早めの昼食を摂ることとした。
ニィティラが厨房で昼食をつくる間、円形のテーブルの前に二人は座っていた。王宮内の料理人は当番制らしく、今日は彼女の日らしい。
ニカが持ってきた麦茶をちびちびと口に含みながら、シュンは彼の話に耳を傾ける。
「ニィ姉さんはあんまり仕事をしないけど、料理はとても美味しいんですよ」
「そうなんですか、たのしみだなぁ」
彼はじっとニィティラの様子を見ながら、さわやかな笑顔を向けて言う。
ひとまず二人の間にはそれだけ、当たり障りのない空気。しかしじんわり広がる停滞に、そういえばと関心があることをシュンはこの機会にさらしてしまおうとおもった。
「騎士団はいつも、なにをしているんですか?」
「今みたいな行事にもよりますけど、普段は街中でなにか事件がないかの見回りとか、わんちゃんのお世話とか……他にも細かいことをしてますけど、このくらいですかね」
「えっと、どうしてここで犬が?」
「僕らの生まれるかなり前に、トペリに唯一あった犬舎がなくなったらしくて、王宮が野良犬などの保護活動を引き継いだんです。あれは騎士団が引き継いだというよりも、ニコルグさんがやっているのを騎士団が手伝っている形ですけれど。」
治安がいいとは聞いていたが、警察のような機関がそういったことをするというのはとんでもない余裕である。改めて普段のゆるみがうかがえる。
「その、ニコルグさんって?」
「生き物とか、植物とか、石とかに詳しい人です。基本は本の虫の変な人ですよ」
「博物系のひとだ」
そんななんの変哲もないような返しをして、シュンはすぐさま思考を巡らせる。──石に詳しいということは、あれの打開策についてなにかヒントになるかもしれない。
シュンは伏せていた目をちらと彼に送って、
「……そのひとは普段、どこにいるんですか?」
「どこかか……自由な人だから、決まった時間にっていうのはよくわからないですけど、今は実家に帰省しているみたいです」
「帰省中……それは、いつまで?」
「え? えーと、明後日か、早くて明日みたいです。ほんとうに曖昧なひとなので、わからないですけど」
「なるほど」
再度目を伏せる。そう簡単にはいかない。シュンは軽く落胆しながら返事をする。
ニカが少し困惑して微笑んでいるところに、丁度、二人の前に料理の乗った皿が置かれた。
「どーぞ、簡単なヤツ」
「あ、ニィ姉さん、ありがとう」
「ありがとうございます、いただきます」
「……。」
「……?」
ニィティラは礼を述べるシュンを何故だか数瞬じっと見て、何も言わず自身の食べるものを厨房に取りに行ってしまった。
料理は食パンのような四角いパンの上に、野菜炒めの山が乗ったようなもの。隣でニカがそれを掴んでそのまま食べている様子を見て、シュンも手を合わせ、同じ動作でそれを食べてみる。
しかし持ち上げると野菜炒めの重さでパンが凹んでしまうので、パンを折ってサンドイッチ状に掴んでみる。結局は昨日のリベンジである。
同じテーブルでニィティラは自身の分を持ってきて、座り、手を合わせ手指を組む。
「姉は昔から勇者さまが大好きなんですよ。伝記を自腹で買って、何周もするくらい」
「そんなに」
ニカが突然話を切り出す。シュンは咀嚼したものをのみこんで、素直な反応を表に出す。
「身体を動かすのがそれなり以上に上手かったのと、魔法の才能もあったので、勇者さまにあこがれてそのまま騎士団長になったんです。料理はてんでダメなんですけど」
「へぇ、すごいひとだ」
二人は雑談を続ける。その隣でニィティラは両手を握り合ったまま、俯いて動かない。
「あれ? にか、さんのお姉さんは、騎士団長さんで……、それは、何歳差で?」
想像と現実の差異、ずれを正したいという好奇心で、シュンは食事の手を止める。
「姉は二歳年上ですね。ちなみにニィ姉さんは僕の一個上です。」
「それで……、えっと、騎士団は何人くらいで構成されているんですか?」
シュンはがらんとした食堂を見回しながら訊いた。
「えっと、全員で七人くらいですかね。ゼリューさんが非戦闘員なので、実質六人かな」
「……少なくない……?」
いくら平和なまちとはいえ、騎士の数が少なすぎることにシュンは目を丸くした。ニカも苦笑いをして、
「いや、ほんとに。昔から少人数なのは変わらなくて、騎士団に入る際の決まりが厳しいのもそうなんですけど、先輩の方々が僕の姉の才能に全部丸投げしたんです。ですからゼリュー姉さんの上のひとたちはみんな、仕事をやめて自由に過ごしてます」
「うわぁ、闇だ……」
わりと騎士団の世代交代はそんな感じらしいです、なんて建前も混ぜて暗い表情を見せる。そんな彼をあまり見ないように、シュンはサンドイッチに口をつける。平和なことが彼らには救いなのだろうとおもいながら。
「で、その……姉の話に戻るんですけど、料理がダメな理由も、強い理由も、なんていうんだろう、とても力が強いんです。肉体的に」
「はぁ、それはその、例えばどういう……?」
「うーん……たとえば、たべものの瓶の蓋が固くて開けられないってときがあるじゃないですか。漬物とかの」
「はい」
「それをあの人に頼むと、」
「頼むと?」
「物によるんですが、大体の場合、瓶が割れて中身をぶちまけてしまうんです。」
「……。」
咀嚼も呼吸も一瞬だけ手を止めて、驚愕に徹している間のシュンにニカは続ける。
「ですから僕たちは、勇者さまがあの人の握手とかで腕をなくさないように見張らなくちゃいけないんです」
「た、頼もしい人なんすね」
こんなところで命の危機など感じる必要はないのだろうが、何故か彼の暗い眼にシュンは身震いしてしまう。
「キミら、なにをそんな辛気臭い顔をしてんだよ」
「わぁ! ぜ、ゼリュー姉さん!」
そんな二人の間を、竹を割るかの如くゼリューが顔と声を出した。ニカは思わず椅子から転げ落ちそうになる。
「ようやくおきたんすか」
「まぁな、身体の調子はどうだ。」
「いいかんじです。」
彼女はいつもの得意げな表情をシュンに向け、ニカの対面の席に座る。シュンは彼女の問いに、なんの気なしに答えた。
「ちゃんと勇者さまのこと見ておいてくださいよ」
「寝たほうがいいって言われたから寝た。」
「はぁ、初日から勇者さまに心配されないでください。この子がひとりでいる間になにかあったらどうするんですか」
「うるせえな姉弟そろって。ボクも忙しいんだよ、変なことはまちのほうの専売特許なんだからいいだろ」
「よくないですよ」
ニカとゼリューが言い合っているのを横目に、シュンはひとまず言葉を交わす必要性のないことを確信し、食事に目を向ける。
ちらりとニィティラを見やると、彼女はちょうど結んでいた指をほどいてシュンを見返した。
「……とりあえず、今度からは変なことしないでくださいね。ほんとに」
「はいはい。で、ニィ、飯は?」
意外にも時間はかからず落ち着き、ゼリューは彼女に問いかける。
ニィティラはようやく一口目にありついたところで、そのままの無表情と無遠慮を暴力的に彼女に向けては、
「え、ないけど」
そう、新たな戦いの火蓋を切った。
あとがき
作曲したいなァ。ゲームも作りたい。
こいつらとデートするノベルゲームが作りたい。好感度とかあってさ、一定の条件を達成した後に特別な台詞を吐いてほしい。デートがしたい、それ以上はない。でもってキャラそれぞれにテーマ曲的なBGMをつけてさ、テンション上がりたい。
ガチでどうでもいいことですが、そういう多大なる欲求を抱えた状態で、最近よく自身の幸福はなにかというようなことを中心にぐるぐると悩んでいる節があります。作曲もゲーム作りも小説も絵も表現の方法としては全て実行できるもの。どれかを極める的に集中するのではなくて、したいとして存在して、それが難しいからとんでもなく歯痒い思いをしています。
とりあえずアリストテレスの『ニコマコス倫理学』でも引っ張ってきて、一度そういうところから解消すべきかしら。