いかれた桃源郷   作:午睡御膳

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本作は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

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白黒のふたり

「よく来たね、シュン。」

「あー、はい」

 

 どこか、適当な席に座って。無機質な声音で言う白い男に、シュンは素直に従う。

 自身の目覚めた庭の見える、図書館の窓際には|長椅子(ソファ)などの座り心地のいいものや机などの家具を大量に含んだ空間がある。

 シュンは、彼らと長い机をひとつ隔たった席に腰を下ろした。

 

「あのー」

「なんだい。」

「野暮かもしれないけれど、おふたりは、どういったご関係で?」

 

 男の背後にいる青年が手を動かしながら、野暮だねぇと呟いた。

 

「簡単にいえば、犬と飼い主だよ。」

「どっちがどっち?」

「ぼくが飼い主、かれが犬だよ。」

「……。これでいいかい」

 

 青年──ニコルグは鋭く藤色の眼光をシュンに向けた後、諦めたように目を伏せて、主を見た。

 ジアの頭の上には、緻密な花冠が編まれている。

 

「助かるよ、きみも座って。話を始めよう。」

 

 彼は無言を返して、ジアから距離をうんと離した席へ、静かに腰を下ろす。二度寝をすると言っていたからか、どこか眠たげな雰囲気で腕を組んで、やはりうつむいた。

 

「シュンは、これからこの世界のことを学ばなくてはならないね。文字や地理、【契約】の知識なんかね」

「はぁ」

 

 ゆったりとした前置きに、シュンはぼんやりと返事をした。

 

「その教育係を、ニコルグに任せるよ。」

「──は?」

 

 ぴり、と空気にひびが入った。呆気ない本題と深く一定とした様子のジアを、ニコルグは見つめる。

 

「何を云っているの? 私を壊した彗星に、ものを教えろと?」

「そうだよ」

「断る。嫌悪を含めばまともな認識の教授などできないだろう。」

「あのとききみを倒したのはシュンじゃない。別の勇者だったでしょう」

 

 男は声に圧を含めて詰るように続ける。

 

「それに、きみが嫌悪しているのは勇者でなくて、ぼくだ。ぼくからの仕事を断るための、ひとつの言い訳に過ぎない。いつだってきみはぼくが嫌いなだけだろう」

「知っているさ。いま此処にいて、僕がこうなっているのはすべて貴方との契約が原因だ。貴方こそ其れを自覚するべきだろう。」

 

 立ち上がって、両目を縫っているとは思えないほど直線的に、ニコルグのもとへ向かう。

 その様子をシュンは、関わりを持ちたくないように耳だけ傾けながら、嵐が去るのを待つようにじっと外を見つめた。

 

「だけれど、どう足掻いたってきみは犬さ。ぼくの命令に、きみは拒否権がない。わかりきったことを何度も何度も繰り返すのはやめようか」

「貴方が飼っているのは、駄犬でなくて|狼(おおかめ)だよ。貴方が私を飼っている以上、それを免れることはできない。それに、飼い主は飼い犬の特性を尊く扱うも──」

「今、きみの反論は必要ない。きみがどんな生き物であるかはどうでもいいんだ。【契約】通りに、きみはただぼくの指示に従うだけでいい。そして、これ以上の反抗は肉体的苦痛で解決させてもらう」

 

 魔法の一種か、赤い光の輪が青年の首に現れ、それに繫がった紐状のものをジアは強引に引っ張って言う。ぐい、と微妙に上半身が動き、反抗的な視線が、白い顔に注がれた。

 その躾のような光景に、シュンは思わず固唾を呑む。

 

「……。」

 

 ニコルグは諦めたかのように目を瞑り、無言を返した。

 男は口角を微笑みの形のまま、炎のような光をさっと消すと、

 

「そんなわけで、シュンの教育と護衛を任せるよ。今からは、王宮の各施設を紹介してきて」

「早々に僕が諦めたからといって調子に乗るんじゃないよ泥人形。私が貴方の泥の共食いを見て体調を崩すと知っていながら、こうして追い打ちをかけるように不快にするのには一体どういう訳があるの?」

 

 シュンが瞬きをした次の世界には元の椅子へ戻って、珈琲を嗜んでいた。

 横には信じられないものを見るかのように憎悪に表情を歪めて口もとを抑えるニコルグがいて、すぐさま猛烈な勢いで嫌悪の言葉を浴びせる。

 

「ぼくの自由に対してきみが勝手に不快になっているだけだよ。一方的に不満を押しつけるのは傲慢だろう、ニコルグ。」

「はァ──、もう用件はないということでいいね。さっさと死にたまえよ。」

 

 顔色悪く立ち上がって、そそくさとその場を後にする青年を、シュンは困惑した表情で見つめる。他人が珈琲を飲む姿から逃げ出すさまに心配の仕方がわからないのだ。

 広い空間に、入り口の扉が閉まる音が響く。

 

「……あー、それで、なんでじぶんは呼ばれたの? あなたたちの喧嘩を傍観するため?」

「それもあるよ」

「あるんだ」

 

 結局また一人目の得体の知れない男とふたりきりになって、シュンはその恐怖にも似た感情を排泄するために軽い言葉をかけた。

 

「えっと、無関係のじぶんが言うのもなんだけど、もっと仲良くしたらいいんじゃないかなあーって……頻繁に話してるようだし、距離も近いんだしさ。」

 

 なにも、二人の間を良好にしようというのは願いの範疇のような気もするが、やはり心に引っかかってしまったために、するすると言葉を吐く。

 

「あれが勝手にぼくのことを毛嫌いしているだけだよ。指示は通るし、極端なことは矯正して理解してもらう。ぼくとかれの関係は平らなものではないし、そうであってはいけない。」

「……でも、なぁ……」

「言いたいことは、いくらでも聞くよ。」

 

 やはり、彼には温度がない。無機質で動かない機械のように、冷たさもなければ温かさもないのだ。

 シュンはしばらく唸って、諦めるようにジアを見た。

 

「……、本題は?」

「今のかれが、きみの先生となる。かれから教えられたことを週に一回ほどきみから聞くから、それを報告してほしい。お茶でも飲みながらね」

「うん……それだけ?」

「いや、」

 

 ぴりぴりとした感覚が、こわばった頬にある。ぐるぐるとここまで階段を登ってきて、得られるものが先の喧嘩という経緯を経ての結果だけというのは、なんとも報われない。しかし、はやく解放されたい気持ちもあって、それはその板挟みにあっている。

 当然だが、この世界に来てからというもの、ずっと心が妙に落ち着かないのだ。

 彼は、静かに空になったカップを下ろすと、

 

「歯の磨きかたを教えよう。」

「あぁ……はい」

 

 気づけば歯ブラシとコップを机上に用意して言い、シュンは渋々と返事をした。




あとがき

 こんばんは、奇数主義のみなさん。

 前話と打って変わってギスギスしすぎだなァ。だけれどこれを書きたかったのはある。ニコルグの「さっさと死にたまえよ。」は激レア台詞ですよ。怒りというのは当人が滑稽になりやすいからか、エンタメになりやすい気がするなァ。

 毎日投稿はここまで! 見てくれた方、ありがとう。しばらくまたゆっくり勉強して、書いていきます。気分が乗れば挿絵を追加するかもしれません。
 あとこんな作者のあとがきが気に入ってくれたら、新たな暇つぶしにXにでも来てください。

 それじゃあまた!
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