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太陽がちょうど空を登りきった時間帯。
活気づいた街の中は色とりどりの花で飾られており、なんだか気分が回復してきた。シュンはきらきらとした赤い瞳で、周囲の様子を眺める。
「ラディアさんはお祭り、いかないの?」
「雑踏は苦手だ」
「あー、人が多いんだっけ」
この世界の祭りというのを少しだけ見ていきたい気分はあったが、今は他人に迷惑をかけたくない気持ちが強い。シュンは歩きながら伸びをして、善処に勤めることとする。
そう切り替えた途端、腹から気の抜けた音が自己主張を始め、シュンは咄嗟に両腕で腹部をおさえる。思わず二人とも足を止める。
「……あの──」
「何か奢ってやる。」
羞恥心で目をそらすシュンの姿を、ラディアはじっと見つめながら、特に表情を変えずに言った。
「おご……え?」
「近くにいい店がある。ついでに紹介しよう」
「いや、悪いよ……」
「訳あって多くの人に行きつけてほしい店だ。こちらのほうが悪い」
ひょんなことを言われて困惑するシュンに構わずラディアは歩き出す。
「ど、どういうわけ……?」
「話すと長くなりそうな訳だ」
斯くして、ラディアの行きつけの店とやらに向かうこととなった。
*
「ほら、しゅん。買ってきた」
ぼうっと通りを眺めていたところ、ラディアが紙袋を見せびらかしながら声をかける。
この世界の文字も読めず、食べ物も知らないので注文はラディアにすべて投げて、シュンは建物の壁に背を預けて座って待っていたところだった。
ラディアがシュンの隣に座って、紙袋の中のものをごそごそと取り出そうとする。
「どっちがいい」
「なにがあるの?」
「パンに野菜など挟んだものと、蜥蜴の丸焼き」
「ぱ、パンがいい」
シュンは後者の怪しさから逃れるように即答した。
「ほら」
「ありがとう」
ラディアからもらったそれは、茶色い薄い紙で食べやすいように挟まれており、一見するとサンドイッチに似ている。意外に厚く、重なったパンの隙間から緑がはみ出しているボリューミーな一品。
「では、いただきます。……いつかお返しするね」
「別にいい」
ちらりと横を向くと、ラディアは既にもごもごと口を動かし蜥蜴を食していた。腹のふっくらした大きな蜥蜴を、口から腹にかけて串で貫きまるまる焼いたと思われる、ボリューミーな一品──
「……」
シュンは初めて、異世界と自国の食文化の乖離を認識する。
「なんだ」
「いや? なんでもないよ?」
この感情の正体は軽い絶望に近いが、シュンはそれを特に認知せず自身のもっているそれに向き直る。
シュンはそのサンドイッチにかぶりつくと、
「ん、おいひぃ」
久しぶりの食物を口に含みながら感想を述べる。簡素な野菜のサンドイッチなのかと思えば、中に入っている調味料が味蕾を高揚させたことによる意外から出た言葉だ。
「ならよかった」
「知らない味がする。けっこうすき」
「であれば、そこの店の常連になってくれるとうれしい」
ラディアが蜥蜴の足を口で引きちぎった後に言う。
「なんか、さっきもだけど、どうしてそんなにオススメるの?」
「これがすきだからだ。しかし、店の経営困難などで食えなくなるのが困るので、色々な奴に隙があれば勧めるようにしている。」
「そういうワケね」
納得の返事をしつつ、シュンは再度かぶりつく。
「これを売っている場所があまりなくてだな……そこの店ではないが、一回、これを含めた様々な生物の肉を売っている商社が不祥事を起こした際に、様々あってこれが食えなくなった時がこわかった」
「それは原因が経営不振というより、企業側のやらかしなんじゃ……?」
「それでも物は買わなくては売ってくれない。こちらのそちらに対する欲をもっと深く言えば、たとえ提供側が軽いやらかしをしても反省を信じて買ってほしいという思考だ。無論、その失敗がそちらの精神、価値観にそぐわないことであれば無理にとは言わない。」
「確かに好物が食べられないのは、楽しみが減っちゃうね」
「んむ」
シュンはラディアの話にすっきり納得しつつ、美味を頬張る。美味しい食事を摂るというのに、安心感と楽しさがあることをぼんやりと認識した。
少年は少年で、蜥蜴の四肢を丁寧に引きちぎる惨い食し方をしている。シュンはあまり見ないようにする。
「ちなみに……それは、どういう味なの?」
しかし視線では見ないようにしながらも、好奇心はそれをじっとそれを見つめていた。
「今度食ってみるといい」
「おお、ドストレートな宣伝……」
「味というのを伝えるのなら、食わせるのが最も手っ取り早い。」
蜥蜴の前足を咥えながら、にやりと口角を上げて言うラディアに、シュンは「ごもっともです」とサンドイッチに噛みつきながら返す。
すっかり昼食を食べ終えて、再出発をしようとするとき、シュンはなんとなく思いついた好奇心を軽い気持ちでラディアに向けると、
「ちなみに、そこは何をやらかしたの?」
「人倫のはずれに抵触した。」
「あっ……」
淡々と放たれた回答に、なんとなくピンと内容の予想がついて、これ以上は触れないこととした。
半ズボンについた目に見えないほこりを手で払い、シュンは少年のもとへと向かう。ふと、ラディアがシュンの元いた場所に目を落とした。
「しゅん、なにか落としたぞ」
「あれ」
ラディアがそれのもとへ歩き、手を伸ばして拾い上げ、シュンに差し出す。
「ほら」
「うわぁ! なんか腰が軽いなと思ったら……マジでありがとうラディアさん」
「そんなに大切なものなのか?」
少年に深く感謝し、スマートフォンの土ぼこりを執拗に払い、息を吹きかけたシュンはそれを懐に戻す。どう答えるかの思考の時間でもあった。
「命と同等、もしくはそれ以上だね」
「ただの連絡機器に見えたが」
「確かに電話も言葉のやりとりもできるし、ネットに繫げば辞書や事典にもなるし、買い物もできるしカメラもあるし、なにより娯楽がある」
「なんでそんなもの持っているんだ。便利なようだが、別に命とはまた別のものではないか……?」
「ちがうよ」
困惑するラディアに、シュンは言葉を重ねに重ねる。
「人生においての強い希望や目標を見いだせなかったうすっぺらいじぶんが、それを介して雑な目で世間を見てソシャゲの推しで必死に豊かさを得るための道具だよ。もうこれがないと、生きていけないんだ。」
「何を言っているのか理解できないが、むなしくなりそうなことを言うな。」
シュンは自分で言っておきながら卑屈な客観性を感じていたので、返ってきた言葉通りになんとなくな納得をしておいた。
「でも実際じぶんにはなんにもないからさ、それを埋めてくれるって意味で依存かもなぁ」
「道具も人に使われるので依存する」
「じゃあ共依存だ」
二人は歩き出しながら、くだらない会話を続ける。
「しかし、理想や尊い将来のためになにか目標を掲げる必要はないと思うが」
「享楽思想ってこと?」
「ん……、あぁ、こちらが言いたいのは、よりよい人生というのは大きい目標などで成り立っているわけではないだろう、ということ。」
話がなんだか入り組んできた。揃って立ち止まり、難しい顔を見合わせる。
「確かにそれだけで成り立っているわけじゃないだろうけど」
「意外と世の中はなんとなくで回っているものだ。未来について深く考える必要は、あんまりない。」
「未来について、というよりかはなぁ……」
「なんだ」
シュンのその
腕を組んでどう答えるか唸りながら、シュンは歩き出す。ラディアは神妙な顔つきでそれについていく。
「……お風呂に入りながら、じぶんってなんだろうって考えだしたときに、つい長湯してしまうのをやめたいって感じ」
「随分具体的だが、たとえ話でないのなら何も考えずに出ればいいだろう」
「意外とこれがじぶんのなかでは深刻な気がしてならないの。将来の夢とか、じぶんの才能に直結するじゃない?」
「はぁ……」
ラディアは興味がなさそうに息をつく。この感覚の違いは生きている時間の量と質の差だろうと二人は直感で思いながら、次に吐く言葉を思考する。
「であれば尚更、深く考える必要はないだろう。」
「そうかな」
「深く考えたいのであればそうすればいい。」
「どっちだよ」
「こちらには共感のできない話だ。しゅんがこの先、何を選択し、どう流れたとしても、こちらはなんとも思わないし、思う必要もない。」
「────」
理解のしたい、しかし難しい言葉を垂れるラディアに、シュンはつい歩を止めた。少年はその二藍を一心に覗かれて、静止を指示されたような感覚になりながら立ち止まり、その赤い瞳をじっと待つ。
「──意外と、てきとうに生きてていいもんなんだなぁ」
「いきなりどうした」
呟くように言うシュンは、ラディアに向かってふっと笑みを浮かべると、
「じぶんが欲しかった言葉は、それかもしれない」
てきとうな言葉を口にした。
ラディアは目をぱちぱちとさせてそれから視線をゆっくりとそらし、「そうか」とだけ呟きながら歩き出した。
あとがき
ラディアさんの言うやらかした企業とはモズ商社といいます。そのまんまっすね、はは!
シュンたんたまに鋭いこと言うよな……わたし作者なのに、この子の全貌掴めてない。