聖園ミカの使用人   作:禿げたミカン

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二話

 

 

 先生との初対面から次の日、命令に従い、補修授業部が活動しているらしい場所まで来た。

 正直めちゃくちゃ帰りたい。なんで俺が監視役みたいなことしなきゃいけないんすかね。

 

 これも全部あの我儘お嬢様のせいだ。あいつマジで俺になら何してもいいと思ってやがる。俺って実は人間なんだよね、知らないかもしれないけど。

 

 はぁ、まあ突っ立ってても始まらないし、とっとと成績良くしてもらって俺の仕事も終わらせよう。この部活が無くなればあの命令も必然的に無くなるわけだし。

 

 自分の中で結論付け、そのまま扉に向けてノックを数回。人伝に聞いた場所であったため、少し不安ではあったが、ノックから数秒の後

 

「───どうぞー!」

 

 という元気な声が聞こえてきた。少なくとも人は居る様だ。

 それに安心しながら、一声かけて中へと入る。

 

「失礼します」

 

 中に入れば、予想外に見知った顔が多かった。先生や、資料で見せてもらった阿慈谷さんが居ることから、恐らくここが補修授業部の活動場所で間違いはないだろう。

 

「あれ、アキラ? どうしてここに?」

「先日ぶりですね、先生。どうしてと言えば、主人の命令でしょうか。お嬢様より、先生と補修授業部の皆さんをお手伝いする様にと申し付けられましたので」

「そっか、ミカが……」

「はい。もちろん、部員や顧問である皆さんが宜しければですが。おっと、自己紹介がまだでしたね。私、聖園ミカ様の使用人、日月星アキラと申します。以後お見知りおきを」

 

 そう言って一礼すれば、前に居た二人。阿慈谷さんと、確か……下江コハルさん。その二人が慌てたように礼を返してくれる。

 う〜ん、ええ子やね。ウチの主人にも見習って欲しいわ。

 

「それで、みんなはどう? 私としては、折角だし手伝って貰おうかなって思うんだけど」

「私は良いと思います! アキラさんが手伝ってくれるなら心強いですし!」

「わ、私も。日月星先輩の話はよく聞くし……と、とにかく、手伝ってくれるなら有難いと思う!」

「そこまで言って頂けるとは。有難い限りです」

 

 ふむ? 意外と好印象。というか、俺の話って何? なんか噂されてんの? 

 いやまあ、トリニティだったらそんなもんか。噂好きの奴らの集まりだし。

 

「うん、分かった。ハナコとアズサは?」

 

 そう言い、先生は後ろの二人に視線を向ける。恐らく、断られるならここの二人だろうな。俺がここに入ってきた時……いや、入ってくる前からか。こちらへの警戒を解いていないアリウスからの転校生に、一時はシスターフッド、ティーパーティーの後継者を噂されていた才女。

 前者は兎も角後者は警戒、というより緊張か? 

 

 ま、それも無理はない。このタイミングでティーパーティーの一人から差し向けられた者。疑うのは当然というか、ここで何も疑いがないのは少し心配だ。もちろん美徳ではあるが、ここでやっていくには少し純粋すぎる。

 

 さて、まだ期待できる二人だが、どうかな? 

 

「……ええ、私も構いませんよ。あの日月星さんと一緒にお勉強だなんて、楽しみです」

「私も問題ない。訓練に補助が増えるのは悪いことではないから」

「そっか。じゃあそういうことだから、これから宜しく、ってことで良いのかな?」

「……そうですね、皆様宜しくお願いします」

 

 ダメでしたか、そうですか。んまあ、最初からワンチャン狙いだったから、別に良いんすけど。

 ……ふむ、そうだな、俺が居ると転校生の子や浦和さんの気も休まらないだろうし、少し抜けてあげるか。

 

「っと、失礼。教材等を置いてきてしまったので、一度取りに行ってきますね。十五分程で戻ると思いますので」

「は、はい。分かりました」

 

 一礼してから部屋を後にする。

 ま、こっちも別に仲良し小好しで頑張ろうってつもりは無いし、疑うなら疑うで構わない。

 

 あくまで命令、それが終わったら無くなる関係だ。さっさと成績良くしてもらわないと。

 

 

 ◇

 

 彼が出ていった扉を見ながら、一つため息を吐く。

 初めて会った時から思っていたが、何とも硬い態度だ。どこか距離を取っている様な、警戒している様な、そんなもの。

 

 まだ会って間も無いのだから仕方ないとも思うが、どうにも、それだけでは無いような気もする。

 

「はぁ〜、ビックリしました。まさかアキラさんが来るだなんて」

「知り合いなんだっけ?」

「はい。何度かお話させて頂いたことが。こちらの話を親身に聞いてくれますし、とっても良い方ですよ!」

「そっか、もしかして、アキラって有名だったりするの? コハルやハナコも知ってるみたいだったけど」

「日月星先輩の事をこの学校で知らない人は少ないんじゃない? 成績は三年生で一番って聞くし、なによりミカ様の側付きだし」

「相談事をよく聞いてくれるという話もありますね。私の周りの方でも、日月星さんに相談を持ちかける方はよく見かけますよ。私個人としても……ええ、それなりのお付き合いはありますし」

 

 どうやら彼は随分凄い子の様だ。確かに、昨日ここを案内してもらった時、かなり多くの生徒に話しかけられていた。あれも、そういうことなら納得できる。

 

「……えっと、アズサちゃん? そんなに扉の方を見て、どうかしたんですか?」

 

 ヒフミの声に釣られ、アズサの方を見れば、先程アキラが出ていった方の扉を凝視している。何か気になることでもあったのだろうか? 

 

「さっきの、日月星アキラだっけ」

「アキラさんがどうかしたんですか?」

「あの人、強い。この部屋の前の廊下は音が反響しやすい。他の人間が来たら、すぐに分かるくらいに。けど、ここに来た時、声をかけられるまで、そこに居るってことが分からなかった。あそこまで完璧に気配や足音を消せる人間は多くない」

「ああ、だからあの時あんなに驚いていたんですね」

「うん。少し油断してた。この学園にあそこまでステルスの上手い人間が居るとは」

 

 そう言いながら、悔しそうに唸るアズサ。

 なるほど、さっきからアズサがアキラを警戒してたのはそういう理由か。言われてみれば、確かに彼が声をかけてくるまで足音だとかは聞こえていた記憶はない。アズサの性格上、警戒してしまうのは仕方ないだろう。

 

 ……ふむ、であれば、ハナコは何故彼を警戒していたんだろうか? 彼が来る前の雰囲気と違い、彼が来てからはどこか緊張している様な雰囲気に思えた。初対面であるアズサと違い、彼女は既に面識があった様だし、昔に何かあったんだろうか。

 

 何か負の感情がある、という訳でもなく、ただ単に緊張しているだけの様だったし、試しに聞いてみても、恐らく問題は無いだろう。

 

 話している三人を見ているハナコの傍に行き、彼女にだけ聞こえる程度の声で話しかける。

 

「ハナコはアキラと知り合いなんだよね?」

「ええ、以前に少し」

「彼と何かあった? なんだか少し緊張している様だったけど」

「……そんなことはありませんよ? ただ少し、複雑なものがありまして」

「複雑?」

「彼本人には感謝していますし、負い目の様なものすら感じています。しかし、彼の立場や環境が少し……すみません、喋りすぎましたね」

「そっか、分かった。話したくなった時にまた聞かせてね」

「……ええ、その時はもちろん」

 

 今はまだ踏み込んだ話をする時じゃない、かな。彼女が困っているならそれを助けたいと思うけど、本人が話したくないんだったら、無理に話してもらうこともないだろう。

 

 本人から安心して話せる様に、私も頑張らなくては。

 

「すみません、只今戻りました」

 

 そう考えていた時、扉が開きアキラが戻ってきた。手には大量の教科書類の入った手提げを持っている。

 時計を見れば、既に十五分程が経っていた。

 

「おかえり。随分な量持ってきたね?」

「ええ。探していたら私が当時使っていた参考書等が見つかったので、少しでも助けになればと持ってこようとしたらこんな量に」

 

 笑いながらそう言い、近くの机の上にそれらを並べていく。一つ断りを入れて中身を見せてもらえば、要点が分かりやすくメモしてあり、通常のものより随分と分かりやすいものになっていた。

 

「さて、では何か分からない箇所があれば遠慮なくお教えください。私と先生、それに……浦和様もいらっしゃるので、人手が足りないということはないでしょう」

「あら、私も補修授業部の部員ですし、ここは一つ、手とり足とり優しく教えて頂きたいのですが……」

「ご冗談を。私程度が教えられることなどありませんよ」

「うふふっ、そんなことはないと思いますよ?」

「あはは……。でも、確かにそろそろ勉強を始めた方が良さそうですね。みなさん、頑張りましょう!」

 

 ヒフミがそう纏め、それぞれが勉強に取り掛かる。

 みんな真面目に取り組んでおり、ヒフミはもちろん、アズサは質問をしっかり行っており理解も早い。コハルも、積極的に聞くことは少かったが、アキラやハナコのサポートでその回数も増えてきている。

 

「どうなるか分からなかったけど、良い感じみたいだね」

「はい! アキラさんは話に聞いていた通り教えるのが上手ですし、ハナコちゃんがとってもすごくって! アズサちゃんの学習意欲もたっぷりです! コハルちゃんは実力を隠していたそうで、それでも質問などをしっかり行っていますから。これならもしかして、余裕で合格できてしまうかもしれません……!」

「そうだね。ヒフミは少し不安そうだったけど、大丈夫?」

「あ、あはは……。実は、もし一次試験で不合格者が出てしまったら合宿を行う様に、とティーパーティーから言われてまして」

「合宿?」

「はい。それに、もし三次試験まで全て落ちてしまったら……あうう」

「落ちたら……なにかあるの?」

「な、なんでもありません! それに、心配は杞憂で終わりそうですし、暗い話はこの辺りにして……。とにかく、試験は問題なさそうです!」

「それもそうだね」

 

 落ちてしまったら……どうなるのだろうか? 少し不安ではあるが、彼女の言う通り、試験自体は特に問題無さそうでもある。

 

 であれば、今は試験勉強に集中するべきだろう。不安感を出して、彼女たちの勉強意欲を削ぐ訳にはいかない。一先ずは考えないようにしよう。

 

 このまま行けば、一度目の試験で合格できそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていた時が懐かしい。

 

『第一次特別学力試験:結果

 ・阿慈谷ヒフミ :76点───合格

 ・白洲アズサ :39点───不合格

 ・下江コハル :21点───不合格

 ・浦和ハナコ : 2点───不合格』

 

「どういうことなんですかぁぁぁぁ!?!?」

 

 ヒフミの悲痛な叫びが響き渡るが、正直、私も驚いている。みんな全力で頑張っていた結果ではあるため、仕方の無いことではあるが、それでも、この点数は少し驚きだ。

 

 四人が言い合っているのを尻目に、ふとアキラの方を見ると、彼にしては珍しく頭を抱えている。

 

 彼も随分こちらに協力してくれた。この結果は彼にとっても予想外だったのだろう。

 

 そして、この一次試験の結果で、補修授業部の合宿が決定した。

 

「う……あうぅ……」

 

 あ、ヒフミが倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これ合宿にも俺着いていかなくちゃいけないのか????)

 

 

 

 

 

 

 






気まぐれで続いてしまった。

折角なので軽い設定を一話の方に置いておきます。適当なので暇な時にでも覗いてみて下さい。
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