転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第13話 野外狩猟実習編 その3

 殿下と兄上を助けた、その翌日の午前中。

 変異種のワニの魔物が出現した場所の周辺を、教官たちを中心とした熟練の部隊が探索した。

 

 結果、ぽっかりと口を開けた地下遺跡の入り口が発見される。

 やはり、とベテランの教官たちが納得した様子でうなずいた。

 

「変異種……魔物が特異な形態に変態していた。しかも、大型化して。それだけ濃密な魔素がそこに存在した可能性が高い。その原因が、この遺跡だろう」

 

 救護テントの隅で緊急対策会議が開かれ、なぜかおれもその会議に参加させられていた。

 遺跡を探索する場合、機工人形を投入することになるから、である。

 

 兄上と殿下は魔法で治療を受けた。

 兄上は現在、後方の街に送られてそちらで療養中だ。

 

 殿下も本来は休むべき傷なのだが、無理を押して包帯姿で会議に参加している。

 

「おそらく、古王朝時代の神民の遺跡だ」

 

 古代、神民と呼ばれる、現在のおれたちとは違う種族がこの地で繁栄していた。

 彼らの栄えた時代を、古王朝時代という。

 

 この地に火の魔素が強いのは、古王朝時代の大規模な実験施設があったから、という噂を耳にしたことがある。

 そんな古王朝時代の遺跡は、ちょっとしたきっかけで発見され……。

 

 ときに、思わぬ異変が発生したり、まったく未知の物質や知識を我々にもたらすことがあった。

 故に、近隣の町の安全面から考えても、国益としてもこれを放置することはあり得ない。

 

「野外狩猟実習は中止。しかる後に、我々教官と護衛の一部で遺跡を探索する。殿下、これでよろしいですか」

 

 遠征隊の隊長であるベテランの学院教官が、緊張した面持ちで殿下に向き直る。

 

「わたしに異存はないよ。いまのわたしは学院の生徒で、あなた方に従う身だ。加えて負傷している。ただ、一点。功を焦らず、どうかきみたちの身を大事に。無理はせず、危険だと思ったらすぐ引き返して遺跡の入り口をいったん封鎖する方針で頼む」

 

「もちろんです。本格的な探索は、王都の応援が来てからになるでしょう」

 

 すでに王都には、空の便で一報を届けている。

 この地と王都をわずか数時間で繋ぐ、高速の飛竜便だ。

 

 数日から、長くても十日で、探索専門の部隊が到着するはずであった。

 この地は他国との境に近いから、この発見に気づいた他国が介入してくる恐れがあり、その前に迅速な行動をする必要があった。

 

 そのためにも、遺跡内部の最低限の捜索は必要なのだ。

 

「機工人形の運用について、ひとつ報告があります」

 

 昨夜、琥珀の姫君と検討した末、おれたちはここで手札をひとつ切ることに決めていた。

 おれの発言に、皆の視線が集中する。

 

「短時間ですが、機工人形の視界を術者と共有を為す技術があります」

 

 おれは、黄色い蝶を宙に舞わせた。

 この機工人形の魂は、一個一個が琥珀の姫君の手作りなので、数は用意できない。

 

 ただ、今回はそのデメリットを差し引いても、投入する価値があると判断した。

 飛行型の機工人形はいくつかプロトタイプが研究されているが、現在のところ量産されたものはひとつもない。

 

 それに加えて視界の共有という新技術の開示に、教官たちが目を剥いた。

 

「それは、実用に足る技術なのかね」

 

「まだ実験途中のものですが、最低限の偵察は行えると思います。稼働時間が短いため、内部の完全な地図をつくることは難しいと思いますが……」

 

「概要について、詳しく聞かせてくれ」

 

 おれは、琥珀の姫君との打ち合わせの通り、蝶型機工人形のスペックをあえて低く見積もり、不完全な技術という部分を強調してこれを語る。

 なんでさっさと発表しなかった、と言われても困るからね。

 

 あと、この技術はあまりにも戦争に有用すぎる。

 いったん公開したら王家から秘匿技術指定されることが明らかなんだよね……。

 

 そうなる前に、もっと色々、試してみたいのだ。

 というのがおれと彼女との、共通の見解であった。

 

 なお、以前。

 おれがうっかり「この蝶でこっそりテストの答案を盗み見たりできるな」と言ってしまったとき、琥珀の姫君にひどく睨まれたこともつけ加えておく。

 

 別におれがカンニングしなくても、テストなんて余裕であるとしても、だ。

 そもそも、「そういったことを口に出すこと自体がよろしくないのです」と説教された。

 

 わりと潔癖性なのである。

 この技術が軍事技術に転用されることにも、いささか思うところがある様子であった。

 

 とはいえ、いつまでも秘匿し続けているわけにはいかない。

 故に今回、不完全な技術としてここにその一部を開示するに至った。

 

 なお、この蝶型機工人形の使役に関しては、セキュリティの関係上、おれと彼女のふたりだけしか術式を使用できないようにしている。

 そのため、おれたちふたりのどちらか、あるいは両方が遺跡の入り口まで赴くということは確実であった。

 

 まあ、ふたりとも行け、ってことになったんだけどね。

 バックアップも考えれば、当然そうなる。

 

 おれたちが学院でいつもふたり一緒なのはこの半年でよく知られていたし、殿下も後押ししてくれた。

 その殿下も、おれたちのお目付け役として遺跡の入り口まで同行することになった。

 

 怪我をしているんだから、テントでじっとしていればいいのに……。

 

「きみたちから目を離すとロクなことをしそうにないからね」

 

 実に不本意ではあるが、思い当たるところは少しだけ……。

 ないことも、ない。

 

 

        ※

 

 

 ジャングルの中、小高い丘の中腹に、ぽっかりと縦穴が開いていた。

 中は暗くて、どれほど深いのかもわからない。

 

「しばらく前の地震で開いた穴でしょうか? たしかに、ここから魔素が放出されていますが……詳しい分析は専門家じゃないとわからないですね」

 

 魔素の観測のため、知覚系の魔法を使い、おれはそう報告する。

 一ヶ月くらい前に、この地方で局所的な地震があった、という報告は受けていた。

 

 この世界では、地震は地下の魔素の乱れによって起こるもの、というのが一般的な認識である。

 邪神の魔素に汚染されたのが魔物なら、ここから吹き出している魔素も邪神の魔素なのかもしれないが……。

 

 そもそも、どの論文を読んでも邪神の魔素なんてものが他の魔素と区別できたって報告がないんだよね。

 魔物=邪神の魔素で汚染された生き物説は、教会が声高に主張していることだから、そのへんの研究に倫理的なブレーキがかかっているのだ。

 

 研究棟でも、そのあたりはタブー視されている。

 まあ、触らぬ神に祟りなし。

 

 別にこの世界に思想的革命を起こしたいわけでもないし、おれもそのあたりには触れないでおきたい。

 

「おい、危ないぞ。ガキはもう少し下がれ、下がれ」

 

 穴を覗き込んでいたら、ベテランの護衛の男に怒られた。

 まったくもっておっしゃる通りなので、おとなしく数歩、後ろに下がる。

 

「こう暗いと、暗視の魔法も併用した方がいいか」

 

「暗視については、わたくしがサポートいたしましょう。あなたは蝶の誘導を」

 

 今回、ふたりで一体の蝶型機工人形を操ることになった。

 その方がわずかなりとも稼働時間を延ばせるからだ。

 

 おれは少女と手を繋ぐ。

 互いの魔力を蝶型機工人形に送り込む。

 

 黄色い蝶が宙を舞って、勢いよく縦穴に飛び込んだ。

 視界の共有と暗視で、ごりごり機工人形の内蔵魔素が減少していくのを感じる。

 

 これは……あまり長くは保たないな。

 おれは蝶のコントロールに神経を集中させた。

 

「十メートルほど下に床……石畳です。周囲には落盤の跡。坑道の途中? いや通路? 道が延びています。片方に向かいます――なにも棲んでない。視界がぶれる。……駄目だ、コントロール不能――ロスト」

 

 偵察は、一分と少しで終わった。

 まだ稼働時間は残っていたはずだが、ある地点から進むと機工人形の動きが鈍り、羽ばたくことすらできずに落下、そのまま機体を失ってしまったというわけだ。

 

「内部の濃い魔素に対応できなかったのかもしれません。ヒトが侵入する場合も、魔素障害を起こす危険があります」

 

「わかった、対魔素結界を張った上で、少人数での短時間の探索を行う」

 

「あまり役に立てなくて、申し訳ありません」

 

 おれは今回の探索隊の隊長となる、おれの父親くらいの年齢に見える男性に謝罪した。

 彼も学院の教官のひとりで、元々は近衛隊にいたという優秀な人物である。

 

「充分だ。何に備えていいかわからない状態から、ひとまず初動を絞ることができた。これだけでも、大きな利益だよ。その小型の機工人形だが……」

 

「先ほども申しました通り、量産の目処は立っておりませんわ。一品、一品、魂から手作りなのです」

 

 琥珀の姫君が、口を挟む。

 隊長は、残念だとばかりに肩をすくめてみせた。

 

「ありがとう。きみたちは殿下のそばにいてくれ。他の機工人形も、現状、投入は困難と判断する」

 

 量産型の機工人形も、四体、持ってきていた。

 本来はこれらのメンテナンスがおれの仕事なのだが……いきなり仕事が無くなったな。

 

「一番隊だけでいくぞ、結界の準備はいいか?」

 

 隊長の命令に、部下三人がハキハキと返事をする。

 彼らは手近な木にくくりつけたロープを穴に垂らし、それを頼りに素早く下りていった。

 

 おれと琥珀の姫君は、穴から少し離れ、殿下のそばで先ほどの蝶の挙動について意見を交わす。

 

「想定していた通りとはいえ、偵察兵の代替としては、あまりにも脆弱すぎますわね」

 

「そのかわり、使い捨てにできる。コストを考えなければ。問題は魂の原型がな……」

 

 一般的な機工人形は、魂の原型からコピーされた魂を搭載することで量産化を成し遂げている。

 ところがこの蝶型機工人形、操縦者とリンクする関係上、一体ごとに繊細な魂のセッティングが必要なのだ。

 

 これを、現在は一体ずつ琥珀の姫君が魂の原型を手作りすることで解決している。

 今回は事態が事態だから投入させてもらったが、とうてい気軽に使い捨てていいものではないのだ。

 

 ちなみに、持参した蝶型機工人形は、普段から彼女が愛用している一体を除きすべて使ってしまった。

 もう予備はない。

 

「わたくし、これの魂の原型ばかりつくれと言われても断固拒否いたしますわよ」

 

 殿下に聞かれている前提で、そんなことを言い出す少女。

 殿下は苦笑いして、「稀代の天才をそんなことに拘束するつもりはないよ」と告げる。

 

「とはいえ、報告書に記載することにはなるから……陛下も興味を示すかもしれないね、こればっかりは、わたしでも避けようがない」

 

「そのリスクについては、この機体を公開した時点で呑み込んでおりますわ」

 

「そもそも、この機工人形は研究の終点じゃないんだろう? 何をつくろうとしているんだい?」

 

 おれと琥珀の姫君は、殿下の言葉に顔を見合わせた。

 言うべきか、ごまかすべきか。

 

 しばしの後、うなずき合う。

 

「ここだけの話でお願いしますよ」

 

「もちろんさ」

 

「おれたちの最終目標は――学習し、成長する、ヒトのような知性を持った機工人形です」

 

 




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