転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第18話

 わたしは王家の一員として生を受けた。

 陛下の七番目の孫で、今年十八歳になる。

 

 王位継承順位は十八位……。

 つまりこの国で陛下を除いて十八番目に魔力量が大きいということだ。

 

 とはいえ、今年いっぱいで学院を卒業した後は、誰かと婚約して臣籍降下の予定である。

 今年いっぱいが、わたしに許された最後の自由の時間なのだ。

 

 なのに、陛下はおっしゃった。

 わたしが特に監視するべき生徒がいるから、よく注意するようにと。

 

 魂狂いの娘と、人形狂いの息子だ。

 ふたりの噂は聞いていたし、人形狂いについてはわたしの生徒会での右腕がその者の兄だったから、その人柄もある程度は知っていた。

 

 問題は、そのふたりが入学の一年前に王宮で出会っていて、しかも非常に意気投合していたらしい、という点である。

 魂狂いと人形狂い、ふたつの魔爵家には、緊張関係があってもらわなければならない。

 

 ひとたびふたつの家が一致団結すれば、彼らはわが国の機工人形の開発を一手に担うことになるだろう。

 他国に比べ圧倒的な優位を持つ、わが国の機工人形の。

 

 それは、著しく王家のちからを削ぐことに繋がる。

 とうてい容認できることではない――。

 

 その理屈は、わたしにもよくわかる。

 なにごとも、バランスなのだ。

 

 国を統べるということは、きれいごとだけではやっていけない。

 だけどね、陛下――とわたしは、目の前のソファを見る。

 

 寮のロビーの片隅だ。

 まだ十二歳の少年と少女が、肩を寄せ合うようにして、すやすやと寝息を立てていた。

 

 ソファの前のテーブルには図面が広げられている。

 幸せな夢でも見ているのだろうか、それとも夢の中でも図面を引いているのだろうか、ふたりとも天使のような笑顔を浮かべていた。

 

 こんなふたりの仲を引き裂くようなこと、はたしてわたしにできるだろうか。

 いや、陛下からの命令は、あくまで監視だ。

 

 わたしの仕事は、定期的に報告を上げることだけだ。

 それにしたって、ふたりが入学式のときから互いに手を握って走ってきたのには驚いたけどね。

 

 その後も、自由時間の大半を、ふたりで過ごしているのだけれどね。

 ちょっと話をした限り、ふたりとも、自分たちの立場はよくわかっているようなのだ。

 

 ふたりが共にいるのはこの学院の中でだけ。

 学院を卒業したら、それぞれの家に戻り、なにごともなかったかのように家のために働くのであると。

 

 ふたりとも、迷いなくそう言いきった。

 互いにうなずきあいながら。

 

 なんの悲壮感もなく。

 ………。

 

 わからない。

 このふたりの関係が、さっぱり理解できない。

 

 ふたりでいることがこんなに楽しそうなのに、こんなに幸せそうなのに、どうしてきみたちは――。

 互いに無防備でいることができるくらいに、きみたちは。

 

 ふたりとも、望むなら学院を卒業後、研究棟に入り研究者となることもできるだろう。

 両家としても得難い人材ではあろうが、彼らの研究を少しフィードバックするだけでも、魂狂いと人形狂いの技術は長足の進歩を遂げるに違いない。

 

 それを対価として、ふたりが共にいることを選ぶ。

 それはきっと、充分に可能な未来のはずで――。

 

 賢明な彼らがそれに気づいていないはずはないのだから。

 しかし、どうやら彼らはそれを選ばない。

 

 たったの六年の、この学院にいるだけの時間で満足しようとしている。

 それが若さ故の割り切りなのか、それともまだふたりに隠しているなにかがあるのか。

 

 それが、どうしてもわからない。

 

「きみたちは、その胸の中になにを抱えているんだい?」

 

 そう問いかけてみたくなる。

 

「きみたちが本当に成し遂げようとしているのは、いったいなんなんだい?」

 

 神民の遺跡の上で、ふたりはわたしに語った。

 彼らの目標は、学習し、成長する、ヒトのような知性を持った機工人形であると。

 

 それだけなのだろうか。

 まだわたしに語っていない目標があるのではないだろうか。

 

 繰り返すが、彼らは賢明だ。

 わたしが陛下にふたりの情報を伝えていることなど、とうに理解していることだろう。

 

 そんなわたしに、話せないことがあるとしても――それは当然のことだと思う。

 それでも、少し寂しい。

 

 彼らのちからになれない自分が、悲しい。

 ああ――いつの間にか、わたしは彼らに感情移入していたのだろうか。

 

 この一年が終われば、自由が失われるわたし自身に重ねて。

 もうとり返しのつかない、学院での生活の心残りとして。

 

 わたしは王族で、王家のためにこの身を捧げている。

 王家の繁栄のために行動することは当然であると、生まれたときからそう教育されてきた。

 

 この学院の中で、いくつもの選択があって――わたしは、わたしのやるべきことをすべて為してきたつもりだった。

 上手くいったこともあれば、失敗もあった。

 

 まったくのフリーハンドではないが、わたしの前には選ぶ道がいくつかあった。

 その中で、最善を尽くしてきた。

 

 もうすぐ、その答えが出るのだ。

 そして、ここに至り選択の権利はわたしにはなくて……。

 

 足音がした。

 振り返れば、人形狂いの跡取り、つまり理崩(ことわりくず)しが敬愛する兄が立っていた。

 

「殿下、お待たせいたしました。お話があると――」

 

 少し息が荒いのは、きっと走ってきたからだろう。

 わたしが呼んだのだ。

 

 とはいえ、そこまで急がなくていいものを。

 いや……彼のそんな生真面目さをこそ、わたしは心地よく――。

 

 彼は、ソファで眠るふたりをちらりと見て、「またこんなところで……」とぶつぶつ言う。

 

「すみません、殿下。先にふたりを部屋に戻して、お話はそれからでいいですか」

 

「ああ、そうしようか。こんなことで体調を崩されても困る」

 

 わたしは笑って、彼の提案に従った。

 まったく、わたしにこうも指示してくるのは、学院の生徒でもきみくらいだぞ。

 

 まあ――きみからの指示なら、いくらでも受け入れるのだけれどね。

 わかっているのかね、そのあたりのことを。

 

 この朴念仁め。

 




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