転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第21話

 おれが学院に入学したばかりのころ。

 おれと兄上は、共に十日に一度の休みごとに実家へ帰っていた。

 

 父上と母上はなにかと学院の話を聞きたがったし、それはふたつ下の妹と四つ下の弟も同じだった。

 ただまあ、おれが魂狂いの娘と親しくしているという点については微妙な顔をしていたのだが……。

 

「おまえは彼女のことをどう思っているんだい?」

 

 食事の際。

 父上にそう問われて、おれは少し考えた末、「親友ですね」と返事をした。

 

「ですが、彼女との友情が家の垣根を越えるのは、学院の中にいるときだけです。学院の外では、わが家の次男坊としての責務に従います」

 

「それでいいのかね、おまえは」

 

「互いに納得済みです。そのうえで、父上、学院の中では好きに振る舞うことをお許し願えますか」

 

「おまえがそう望むなら、そうしなさい」

 

 そんなやりとりがあった。

 父上と母上は互いに顔を見合わせた後、兄上に対してなにか窺うような視線を投げていたけれど……。

 

 おれは何食わぬ顔で料理を食べることに集中した。

 あいつもいまごろ、似たようなやりとりを魂狂いの家でやっているのかなあと、そう考えながら。

 

 しばらくして、おれもあいつも、十日に一度の休みにも帰宅しなくなった。

 貴重な一日を無駄にするのが惜しかったのである。

 

 兄上も生徒会の仕事が忙しくなり、休みの日を潰して職務に励むようになっていたから、それに便乗したかたちである。

 ごくまれに帰宅すると、「大丈夫なのかい、無理をしていないかい」と父上と母上が心配そうに声をかけてきたが……。

 

 実際のところ、おれも兄上もそれぞれのやりたいことをやっているだけなのだった。

 弟と妹には寂しい思いをさせてしまうのが申し訳ないが……。

 

 これはいましかできないことであること。

 いまこれをやらなければ後悔すること。

 

 そう、皆を説得して、あまり学院から帰らないことを認めてもらった。

 

 

        ※

 

 

 二年生になっても、その状態は続いた。

 いや、『相棒』をつくることに熱中するあまり、いろいろなものを犠牲にするようになったから……。

 

 状態はいっそう悪化したと言える。

 あまりにもおれたちの顔色が悪いときは、殿下が笑って、おれたちの研究室に乗り込んできたりもした。

 

 顔は笑っているのに、なぜだか背筋に震えが走る、そんな笑顔だった。

 

「いまのわたしは王族である前に寮の管理人なんだ。きみたちの健康を管理するのもわたしの役目だ。つまりどういうことか、わかるかい?」

 

「それは、いま殿下が振り上げている拳と関係があることでございますか?」

 

「さすがは琥珀の姫君、理解が早いね」

 

「王族たる殿下ともあろうものが、わたくしたち無辜の臣下に拳を振り下ろすというのですか?」

 

「いいや、そんなことはしないとも」

 

 よかった、家臣に暴力を振るう王族なんていなかったんだ。

 

「ただ、わたしは思うんだが……きみたちを夢中にするこの装置、これがなくなってしまえばきみたちの健康を守れるんじゃないかね」

 

 おれとあいつは、つくりかけの装置にしがみついて恥も外聞もなく泣き叫んだ。

 殿下は呆れかえった後……。

 

「身の程を理解したなら、さっさと寮に帰って寝なさい。毎日の睡眠と三度の食事だけは、必ず取ること。さもないと、わたしがどういう行動に出るか……」

 

 そう言って、強引におれたちの首を縦に振らせるのだった。

 殿下による圧政が、苛烈な弾圧が始まったことを、おれたちは否応もなく理解させられた。

 

 その後も、殿下の新寮における横暴な恐怖政治は続いた。

 野菜を残す寮生はねちねちと栄養についての講義を聞かされ、親からの手紙に返信しなかった寮生は殿下の前で手紙を書かされる羽目となった。

 

 おれと琥珀の姫君は何度も殿下に叱られ、寮のロビーで反省文を書かされた。

 あまりの暴虐に、生徒会に訴えた寮生もいたほどだ。

 

 完全にスルーされた。

 生徒会はすでに殿下に懐柔されていたことを、彼らは知らなかったのである。

 

 というか殿下の婚約者はおれの兄上で、兄上は来年の生徒会長なんだから、当然だよね。

 明らかな癒着である。

 

 この世に神はいないのか、と冒涜的な言葉を吐いた寮生もいた。

 殿下は笑って、その言葉を聞かなかったことにした。

 

 あのひとわりと、教会のことが好きじゃないんだなあとこのときおれは理解した。

 なお反省文の中で教会の悪口を書いたところ普通に書き直させられた挙句、日本語風に言えば「かぶれる猫はかぶれ」みたいなことを言われたので、本人も自覚的なようである。

 

「いいかい、そこの研究はできるが頭は悪いお子さまたち」

 

 殿下は寮のロビーのソファにおれと琥珀の姫君を並んで座らせ、うんざりした顔で語った。

 なお、研究はできるが頭が悪い、は一般的な学院生が研究棟の人々に対して話すときの枕詞のようなものである。

 

 研究棟に通う者たちは、それを聞いても「残念だが当然」といった顔で受け止めていた。

 おれもまったく同意見であるが、彼らのように平然と「だからこの爆発も仕方がないんだ」みたいに続けるほどの度胸はない。

 

「一般的に、ヒトは規範と前例をもって、周囲と同じ枠組みに従うことで安心を得るものだ。これを伝統という。言い換えれば、伝統を無視する者はヒトたりえない、と考える者もいるということだ。わたしの言っている意味がわかるかい?」

 

「わたくしたちも、伝統を重んじておりますわ。これからも殿下のお手を煩わせることはございません」

 

「おれもです。殿下の負担にはなりません」

 

 おれたちは白々しく殿下に宣言する。

 

「そうだね。きみたちがつくった『相棒』も、わたしの仕事を手伝ってくれている。というか清掃担当の者が喜んでいたよ。あれほど器用なメイド型機工人形は初めて見た、と」

 

「そうでしょう、そうでしょう」

 

「その『相棒』が、こう言っていたんだ。『マスターがたの生活習慣は他の学生とだいぶ異なるようですが、わたしが学習するべきはマスターがたなのでしょうか、それとも他の方々なのでしょうか』ってね」

 

「生活習慣を改め、模範的な学生となるよう努力いたしますわ」

 

「右に同じです」

 

 おれたちは頭を下げて、深く反省した。

 わが子も同然の『相棒』を持ち出されては、兜を脱ぐしかない。

 

 




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