転生魔法貴族の次男坊は無責任に生きるよ   作:星野純三

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第22話

 季節は廻り、おれは三年生になった。

 兄上は最上級生になり、今年は妹が学院に入学することになる。

 

 年始、兄弟三人が制服を着て馬車に乗り込み、家を出発する。

 見送りの弟が、寂しそうにおれたちに手を振っていた。

 

 二年後、彼が学院に入学するときには、兄上はもういないわけで……。

 うちの兄弟が四人揃って学院に通うことはないのである。

 

 なお妹は、今日はなんかやたらとテンションが高い。

 学院に入学できるのが、よほど嬉しいらしい。

 

「やっと、やっと! お姉さまにお会いできるのですから!」

 

 とのことで……ああ、ここでいうお姉さまというのは兄上の婚約者である殿下のことね。

 一度、殿下がわが家に婚約の挨拶に来たとき、めちゃくちゃ懐いちゃったのである。

 

「寮には下兄さまにつく悪い虫もいますが!」

 

 なお、わが妹、琥珀の姫君に対しては辛辣である。

 いやまあ、わが家のライバルである魂狂いの白眉で、彼女にとっては同性のライバルといったところだからわからないでもないが……。

 

「くれぐれも、喧嘩をふっかけたりしないでくれよ」

 

「大丈夫です、兄さまがた! わたしはすべてに勝利いたします!」

 

 ぐっと拳を握って不敵に笑うわが妹。

 勝利するんじゃないよ、喧嘩するなって言ってるの。

 

「勝利に次ぐ勝利を続け、わたしは学院で猛威を振るうのです!」

 

 だから猛威を振るうんじゃないよ。

 平和にいこうよ、平和に。

 

 そんな、微妙に不安を覚える会話をしながら、馬車は学院の前にたどり着いた。

 馬車から下りれば、周囲がざわめく。

 

 まあ、今年は兄上が生徒会長だしね。

 おれも、ちょっとはこの学院で有名だし。

 

 そもそも魔爵家以上の生徒が、いま学院にはあまり通っていなかったりするし。

 たしか今年は侯爵家からふたり、公爵家からひとり入学するんだっけな。

 

 その程度なのである。

 学院の生徒は、一学年あたり二百人くらいいるんだけどねえ。

 

「それじゃ、妹のことはよろしく頼むよ。ぼくは生徒会の用事があるから、先に本校舎に行くね」

 

「はい、兄上。お任せください」

 

「お任せください、上兄さま! 寮では大勝利したわたしが上兄さまをお待ちしております!」

 

 天に拳を突き上げる、わが妹。

 だから大勝利するんじゃないよ。

 

 

        ※

 

 

 寮の前では、寒空の下、殿下がおれたちの到着を待っていた。

 

「やあ、そろそろ来るんじゃないかと思っていたんだ」

 

「お姉さまっ!」

 

 さっそく殿下に抱きつく妹と、その妹の頭を撫でて、「きみは本当にいい子だね。誰かさんと違って」とおれの方をちらちら見る殿下。

 

「誰が年に何度も爆発騒ぎを起こす問題児コンビの片割れですか」

 

「わたしも、そこまで言ったつもりはないんだけどね」

 

「ちなみに爆発に関しては、一年目こそ何度もしましたが、去年はそうでもなかったでしょう?」

 

「下兄さま、爆発って?」

 

「おまえは気にしなくていいぞ」

 

 だからジト目で睨んでくるな、わが妹よ。

 だいたい、寮の設備のメンテ関係が爆発の半分くらいなんだから。

 

 残り半分はまあ、うん、その……実験関係だけど……。

 人類の進歩に失敗はつきものなのである。

 

 どうか寛大な心で爆発を見守って欲しい。

 そもそも研究棟が近いこの寮だと、おれ以外の爆発を見る機会も多いだろうしね。

 

「研究棟、爆発するのですか!?」

 

「あそこは割とする」

 

「ああ、するねえ」

 

 おれと殿下が、当然のようにうなずく。

 わが愛する妹は、ぎょっとした様子でおれたちを交互に見る。

 

「また冗談をおっしゃっているんですね、お姉さま!」

 

「残念ながら……」

 

 沈痛そうな顔で首を横に振る殿下を見て、この学院の流儀を知らない少女は絶望的な表情になった。

 いや、別に爆発は流儀でもなんでもないんだけど……。

 

 研究棟の敷地が高い壁で囲まれているのは、そこに機密がたくさんあるから、というだけではないのである。

 そんなんだから、誰も知らないような水漏れを起こしたりするんだよ……。

 

 なお、あの一件の後に総点検が行われ、研究棟全体が想定以上にボロボロになっていることが判明している。

 なお、おれと琥珀の姫君の研究室は研究棟の外、この寮からも少し離れた、旧校舎の一角に存在した。

 

 主に『相棒』関連の機材がいろいろとね……あと秘密とかもね……。

 あと、研究棟の改修工事が始まっちゃってね……。

 

「まあ、この寮もだいぶ爆発しなくなったから、安心してくれ」

 

「下兄さま、普通、建物は爆発しないのです」

 

 おれは、はっはっは、と胸をそらして笑った。

 

「世の中、意外とそうでもないんだぞ」

 

 だから、妹よ、そんなに胡乱なものを見るような目でおれのことを見るんじゃない。

 別におれだって、爆発させたくて爆発させているわけじゃないのだから。

 

「寮の前でなにをしていらっしゃるのですか……」

 

 背中から、呆れた様子で声をかけられた。

 振り向けば、琥珀の姫君がジト目でおれたちを睨んでいる。

 

「はっ、お姉さま、こちらの方は、もしかして……」

 

「研究棟に出入りしている問題児の片割れだよ。ああ、きみ、こちらの新入生は……」

 

 わが妹は、なぜかこそこそと殿下の後ろに隠れた。

 おいこら、大勝利するんじゃなかったのか。

 

 いや、彼女たちが喧嘩されてもおれが困るんだが……。

 こいつ、貴族のパーティとかでちゃんと社交できているんだろうな?

 

「妹君ですわね。女性同士、これからよろしくお願いいたしますわ」

 

 右手を差し出す琥珀の姫君。

 それに対して、ふしゃーっ、と全身の毛を逆立てた猫のような威圧をする妹。

 

 苦笑いしている殿下。

 いやそこは、殿下がなんとかしてくださいよ。

 

「彼女たちは、きみを巡って争っているんだよ。なんとかするのが男の甲斐性というものじゃないかね」

 

「楽しんでますか?」

 

「心からね。きみたちはいつもわたしの手を煩わせるんだから、たまにはいいだろう?」

 

「別に放っておいてくれてもいいんですが……」

 

「きみたちを放っておくと、わたしの管理人としての面子に関わるんだよ!」

 

 そういうものかなあ。

 たしかに、一度、旧校舎で不審な音がするとか深夜に不審な影が……とか噂にはなったけど。

 

 おれたちは正式に使用許可を申請していたし、深夜まで実験をしていたのもその方が正確なデータを取れるからである。

 昼はなにかと周囲の騒音や足音による揺れがね……。

 

 わりと繊細な実験をするときは、人がいない時間帯に限る。

 これは研究棟でも言われていることで、わざわざ実験のためだけに、人気のない場所を借り切ったりすることもあるのだ。

 

 そんなことを、琥珀の姫君とふたりで早口で説明した。

 わが愛しの妹は、なぜかドン引きしたような表情になっている。

 

「下兄さま……楽しそうですね」

 

「うーん、そう見えるか?」

 

「わかりました。下兄さまが幸せなら、わたしはもうそれでいいです。陰からこっそり見守ります」

 

 別に堂々と見守ってくれてもいいんだけど。

 ああでも実験の時には危ないから離れてね。

 

「それと、あなた!」

 

 わが妹は、びしっと琥珀の姫君に指を突きつける。

 

「どういたしましたか」

 

「わたしは勝利いたします!」

 

「ええと……なにを、でございましょうか?」

 

「必ずや、必ずや勝利してみせますから!」

 

 きょとんとする少女を置いて、わが妹は荷物を抱え、寮の中に駆け込んでいった。

 ああおまえ、どうせまだ部屋もわからないんだろうに。

 

 ひとりで先に行ってどうするんだ、と殿下に目で合図する。

 女子寮側をおれが案内するわけにはいかない。

 

「わたしを顎で使うのは、陛下以外にきみたちくらいだからね」

 

 殿下は肩をすくめた後、わが妹を追って寮の中に戻っていった。

 後には、おれと琥珀の姫君だけが残される。

 

「久しぶり」

 

「七日、お会いできませんでしたね」

 

「年末年始は、仕方がない」

 

「できれば、さっそくお話ししたいことがございます。いくつか思いついたことが……」

 

「おれも、話したいことがある。新年の挨拶まわりをしているときに、ちょっと気づいたことがあって……」

 

 急に、冷たい風が吹き抜けた。

 おれたちはぶるりと震え、「中で話そうか」と寮の門をくぐった。

 

 さて、学院での三年目が始まる。

 まずは……この寮で待機してもらっていた『相棒』の調子を見てみようか。

 

 




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